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16. イリイチは凍りついた。

 残酷な描写があります。苦手な方はスルーをお願いいたします。

 二度あることは三度も四度もある。

よくもまあツンツンツンツン突っついてくれたなイリイチ。

 不機嫌な自分に、上機嫌な声がかかる。


「そんなキレんなよナナシノ」


 ふいっ、と目を逸らした。

そりゃ、お前ぇは楽しかっただろうがこっちは散々だよ。

うお。鳥肌が治まらん。


 イリイチからのツンツン攻撃をかわせる、絶妙な間をおいて階段へ向かう。

 コート越しに腕を摩っていたが、ふと、微かな違和感に立ち止まり、顔をあげた。並んで歩いていたイリイチも立ち止まって、空気に潜む何かを探るように緊張している。

自分達は階段の側まで来ていた。


 棍を持った男は一人しかおらず、他は忙しく地下と外を往復している。

 騒々しい中、あの母子は神殿の外へ連れ出されるようで、気遣わしげな老女が何くれと世話を焼いていた。

 裸足の子の傷は跡形も無く治り、今は慎重に立ち上がろうとしている。双子のもう一人は母親と手を繋ぎ、二人で心配そうに見守っていた。

 そのすぐそばに。


 幽霊がいた。


 獣に裂かれ血に塗れた男の手だ。

手だけになっても指を使って這う異様な光景は、見慣れない者には恐怖でしかない。

だが「そういうものだ」と思えば、ハンパ無い存在感も風景の一部になる。

 一度目の体験から調べ上げたそれは、<部位>と呼ばれる幽霊の一種だ。


 母親のマントに指が届く寸前。

自分は幽霊を、とりあえず蹴り飛ばした。手は不規則にバウンドし転がる。スタスタと近寄り、縫い留めるように踏んづけた。

思いっきり指が蠢いているが、それ以上は動けないようでホッとした。


 こんな事は、フツーあまりない。


先ほどの違和感は、今や確信になった。厄介ごとの気配に、ため息が出そうになった。

 一度、地下へ降りなければならない。


「イリイチ、ちょっと下に行ってみようと思うんだが。……イリイチ?」


 返事が無かったので顔を上げたら、イリイチは凍りついていた。

絶句した。


 イリイチ。お前……、今すげぇ変な顔になってる。

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