13. イリイチは爆弾を放った。
母親が放った雷は柱に落ちたのか、柱の一部と床石が焦げている。
その焦げ跡に落ちていた自分のクリップを見つけて、拾い上げた。黒ずんで歪になっていた。
機械も無い屋内で落雷現象を見るとか、ありえんだろ。
いつか誰かに話して聞かせるネタにしようと決めて、ポケットにしまう。
顔をあげると柱から離れた所に、イリイチが転がっているのが目に入った。呻いている。おそらく、雷から守る為に子供達を抱えたままダイブしたのだろう。
イリイチの側まで歩いて、片膝をついた。
「だいじょうぶか?」
唸りながら起き上がろうとしている肩を抑えて、そっと言った。
「あの子らに雷のケガは無かったぞ」
「ああ。ああ、良かった。……それにしても、あのクソ女、またかよ」
零れ出た内容と口調に驚いた。多分こちらが素なのだろう。
自分の顔を見て、イリイチは苦笑った。
待て。笑い事じゃないだろう。クソ女には同意するが。
というか、
「二度目?」
眉をひそめた自分に、イリイチはゆっくりと喋った。
「あいつらが子供を殺そうとしていたから、それを邪魔した時に。選りによって連中もろとも。突然だったし、直撃だった。まぁ、よく効いたよ」
死んだ男達の焦げ痕を思い出した。
致命傷は滅多裂きだったが、焦げは母親の仕業か。
静かに話したイリイチの口調は、淡々として感情を感じさせない。だから余計に、その怒りの度合いが察せられた。
自分だったらキレて<河>に戻っているレベルだ。
母親に対するブレない態度も納得だ。
「さっきの直撃は、クリップを投げて避けた。あの子達がいたから……正直、助かった」
礼を言われて、微かに首を振った。雷の直撃は食らわなくてもその余波が齎すダメージは計り知れない。
ため息が出そうだ。
立ち上がって、階段の方を眺める。母親が子供達を抱いているのが見えた。
もうここでの役割も終わりだろう。
「立てそうか?」
手をさし出す。イリイチは手を掴んで、ゆっくりと起き上がった。とても辛そうだ。
そして座ったまま子供達の方を眺めて、ポツリと爆弾を放った。
「何で、ここには魔法があるんだろう」