11. オカルトじみた怪奇現象
湧き上がった怒りは、霧散した。
突入してきた一団の、人数はざっと二十人未満。全員が揃いの濃紺を纏い、訓練された動きに無駄がない。
あっという間に囲まれた。
突きつけられる武器は、棍に似た木の棒だ。その先は自分ではなく母親に向けられている。
……やっぱ見えてないか。
複雑な気持ちで感覚を研ぎ澄まし、鎮めていく。距離を測りつつ立ち上がり、脚を引いて、母親を守れるように構える。
何かの手信号が飛び交い、更に増えた男達が広いこの部屋を制圧すると、何人かが階段から地下へ消えていった。
そして。
母親がもぞりと動いた。
容赦なく打ち下ろされる一撃。それがあたる前に動いた。
勢いを殺さず絡め取った棍を腕の中に捕らえて手で掴み、身体で引く。構えた男が蹈鞴を踏んで囲みが崩れた寸秒、全員の棍を蹴り上げ、踏み落し、弾き飛ばす。
次々と棍が床に落ちた。
ポルターガイスト現象は便利だが、一瞬の不意を衝かなければ手当たり次第に一掃するのは難しい。
……うまくいって良かった。
男達は棍を無力化されて愕然とし、凍りついていた。
自分みたいな幽霊なんかと縁の無い人間なら、当然の反応だ。
オカルトじみた怪奇現象を、神殿で体験するとか冗談じゃない。自分だってそんな経験、御免蒙りたい。
……。
やらかしといて何言ってンだ自分。何気にヘコむ。ひぃ。
どことなく距離をおいた囲みを睥睨し、地下室からの変化を待つ。じりじりとした時間は、実際はいくらもかからなかった。
地下室から一人、戻ってきた。おもむろにハンドサインが飛ばされる。
意味は読めなかったが、部屋の空気が変わった。
地下の惨状が伝えられたのだろう。母親を取り囲む男達は棍を拾い、半数が階下へ向かう。更に伝令と思わしき男が神殿の外へ駆け出したところで、周囲から物騒な気配が消えていたのに気付いた。
武器を持っているので警戒を解くわけにはいかないが、さっきみたいに身じろぐだけで殴られることはなさそうだ。