表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

第十五話 颯の過去と美稀の決意

「颯…まだ起きてる?」


「あー、起きてるよ。どうした眠れそうにないのか?」


「・・・・・・・・」


一緒にベッドに入って、だいぶ時間が経過していたから既に寝ているかと思ってた。

やっぱり、こんな状況だと寝れないよな…。返事はないけど、そういう事なんだろうな。


「美稀…寝れそうにないなら少しだけ話を聞いてくれるか?」


「・・・・うん・・」


とりあえず、返事が来たか…。

美稀に話す前に気合いを入れる。冷静に…きちんと話せるだろうか?違うな…きちんと話さないといけないだな。


「美稀、知っていると意味ないから一応確認な?お前の刀さ…あれ、元は俺の妹の刀だって言ったら信じるか?」


「・・・・・えっ⁉︎」


美稀が物凄い勢いで上体を起こす。

いやいや、心臓に悪いからそういうのやめて下さい…と言いたいけど、グッと呑み込む。

美稀に倣って、俺も上体を起こす事にする。


「そうか…その事については、刀は言わなかったんだな…。うまく話せるか分からないから、疑問に思ったらその都度質問してくれ。俺にはさ…妹と弟が居たんだよ。5年前ぐらいまでな…。妹が2つ、弟が3つ違いだったんだ。自分で言うのもだけど、どちらとも仲良かったよ。うちの家系…神谷家ってのは、担い手の生まれやすい家なんだよ。代々担い手同士が結婚するから、多分それが理由なんじゃないかな。それでさ…妹と弟は才能に恵まれていたんだ。二人とも小さな頃に既に具現化出来る様になってた。子供で具現化出来るっても10才とか…で天才とか言われるんだ。それが2人とも5才とかだぜ?本当に誇りだったんだ。神谷家のさ…」


美稀は黙って真剣に聞いてくれている。それを確認して話を続ける。


「特に弟がさ…本当に凄かった。弟の刀…白群色の刀…あれさ?実は三段階目なんだよ…」


「三段階…?」


「意味分からないよな。あれが3属性持っているってのは聞いたんだろ?」


美稀がコクコク頷く。


「いきなり3属性持っていた訳じゃないんだよ。弟が最初に具現化した時は蒼だったんだ。水属性だな…本当に綺麗な澄んだ蒼色の刀だった。それから暫くしてさ…蒼碧あおみどりになったんだよ。木属性が付随したんだ…流石に驚いたよ。2属性持ち…そんな事が出来たのなんて神谷家には存在しなかったし、聞いた事なかった。美稀は五行思想の対抗関係、要は刀の対抗関係の事は分かるか?」


「ううん…詳しくは知らない。刀に聞いたのは…水属性に注意しろ…他は多分大丈夫…としか言われてないから…」


美稀の返事に思わず苦笑する。


「そっか…もしかしたらとは思ったがそっか…」


あいつの意思が…きっと宿ってる。そうであって欲しいと思った。


「何?どういう事?」


「美稀の刀が怒ってるって話を聞いてさ…妹を思い出したんだ。あいつ、美稀に似てヤキモチ焼きでさ…。俺と弟にいつも構ってオーラ出してたんだ。弟もさ?俺と仲良くしたかったのに、妹が居ると絶対に懐いてこなかった。俺と弟が仲良くしてると、自分だけ仲間外れにして…って不貞腐れるんだ。そうなったら機嫌直してもらうの大変で…だから弟と話して妹の前ではあまり仲良くしないでおこうってさ…笑っちゃうよな。本当に我儘だったけど、俺も弟もそんな妹が大好きだった」


「そうなんだ…三人仲良しだったの何となく分かるよ。私一人っ子だから、そういうの憧れるな」


本当に羨ましいみたいだな。もし二人が生きていたなら美稀とどんな風にしていたのだろう。きっと仲良くしてくれていたはず…そんな無意味な『もしも』を想像して胸が締め付けられた。

ヤバイと思い、急いでその思考を頭から振り払う。


「美稀。それでさっきの五行思想に戻るんだが、対抗関係の優劣な?木は土に勝ち、土は水に勝ち、水は火に勝ち、火は金に勝ち、金は木に勝つ。つまり、木 → 土 → 水 → 火 → 金 → 木 って事なんだ。弟はさ…水属性の時は火に優勢だが、土に劣勢だった。これが木属性を併せ持つ事により、それまで劣勢だった土属性に優勢になった。弟が劣勢となる属性が唯一金属性だったんだ。でもさ、これ実は弟には嬉しかったんだよ。美稀、どうしてか分かるか?」


美稀は、暫く思案顔をしていたが、ポンと手を叩く。気づいた様だ。


「妹さんが…火だったからだ。弟さんの唯一劣勢な金属性に火属性なら優位になる。2人セットなら…適合率次第だけど、どんな属性に劣らない最強のペアになれるかもしれない」


「そうだ…適合率の詳しい話はこないだ美稀に聞いて知ったから、その当時の俺は適合率の話は考えず、単純に2人は最強だって思ったよ。そして…そんな2人を羨ましいと思ってた」


「何でって聞いてもいいのかな?」


「なあ、美稀?お前さ…おかしいと思わないか?ここまで俺、自分の武器の話を一度もしなかったよな?」


「そうだ…言われてみれば…」


「実は、俺には身体能力向上の力はあったけど、具現化の力はなかったんだよ。俺…一族の落ちこぼれだったんだ。武器がなければ…誰にも勝てないからさ…。でも、天才だった妹と弟は『にいは凄いんだ。にいの力は特別なんだ…』って俺をいつも励ましてくれていた。本当に優しい奴らだったんだよ…」


「・・・・・・・・・・」


流石に言葉が出ないよな。でも、変に同情されるより、よっぽどマシだ。


「そうして、弟と妹の成長を見つめながら…月日が少しだけ流れたんだ。ある日突然弟がさ…蒼碧の刀がもしかしたらもう一段進化するかも…とか言い出したんだよ。そしたら暫くして、本当に進化させた。それが白群色の刀って訳。この刀の凄さは聞いたか?」


「うん…遊びでも颯がそれを持っている時は絶対に刀を交えるな…って強く言われたよ。それだけしか聞いてない」


「そうか…ちゃんと忠告はしてくれたんだな。この刀の誕生こそが…不幸の始まりだったんだ」


「颯…大丈夫?顔色悪いけど…話したくないなら無理はしないで…」


そうか、今の俺は美稀にそんな心配をされるような顔をしているのか。でもあと少しだ…このまま最後まで話そう。


「心配してくれてありがとう、でも大丈夫だ。母親の話が出てきてなかっただろ?先に言うが母は今も生きてるよ。でも…担い手としては死んでいる。いや…担い手だけとは言えないのかもしれないな。実はさ、弟が初めて白群色の刀を使った相手が母親なんだ。その時は誰も知らなかったんだ。白群には武器破壊の特性があった事を…軽い手合わせのつもりだったんだ。白群の刀で、武器を破壊された者は自分が担い手であった事を忘れる。その部分だけ完全に…記憶にぽっかり穴が空くんだ。担い手としてずっと生きてきた母だったから…ほぼ全ての記憶に空白が出来るんだ。例えば、学校に行った記憶はある。でもその当時、家でやった事は全く思い出せない。人間の記憶なんてものは…曖昧だ。だが…それでも思い出せない事が少なくないと何かがおかしいと思うよな?私は記憶喪失が断続的に起きてるのかも…って気づく。最初は家族で母の記憶を何とかしようとした。でも、思い出そうとすると拒否反応が出るし、担い手の事を説明しても全く理解出来ないんだ。そこだけ、物心つく前の子供に話しているみたいにさ…。神谷の家は担い手がすぐ近くにいるだろ?そんな所で生活して…母が穏やかに生きられる訳がない。だから、母は今は家を出て暮らしてるよ」


「そんな…」


美稀の顔が、涙でぐしゃぐしゃになってる。本当に優しい子だな…この先を聞かせるのが、申し訳なくなる。

でも、話さないと…俺の過去をちゃんと知ってほしい。悲しませると分かっていて、話そうとする…これは、きっとエゴなんだろうな。

涙を指で拭って、美稀の頭を撫でる。


「弟は責任感じて塞ぎ込んでしまった。俺と妹は弟に立ち直って欲しくて、いっぱい話しかけたんだ。最初は『お前は悪くない、あれは事故だ』って月並みな事しか思いつかなかった。でも、弟は『許し』を求めてなんかいなかった。それが途中で分かったから、俺達は弟が自分で立ち直るのを待つしかなかった。何でもないその日起きたことを、ただ話しかけるしか出来なかった」


だから、美稀…嗚咽を漏らして泣くなよ…。美稀が散々な状態だからこっちがどんどん冷静になる。

そんな美稀を見てられなくなり…抱きしめる。

そして、また口を開く。


「そんな俺達をな…あざ笑う様に…最低な裏切り者がすぐ近くに居たんだよ」


吐き捨てる様に言うと…胸の中の美稀がビクッと震える。


「分かる様にちゃんと言わないとだな。その裏切り者は父親だよ。父親とかもう二度と口にしたくないから、『あの男』って今からは言うけど勘弁してくれ。あの男はあろうことか…弟を殺そうとしやがった。それを止めようとして…妹が父親に斬りかかったんだ。あの男はさ…弟と同じ水属性だった。だから、妹に勝ち目は最初からなかったんだ。妹が殺されるのを目の前で見ているしかなかったんだ。俺さ…本当は妹より先に止めに入ったんだ…でも弱かったから。何も出来ずに吹き飛ばされて…。弟はそんな光景を呆然と見ていた。そして、あの男の刀が次に弟の方に向いたんだ。俺…弟だけはせめて助けたくてさ。心の底から…力を願ったんだ。そしたらさ…妹の緋色の刀が具現化出来たんだ。それであの男に斬りかかったんだ。最初はそれなりの勝負が出来たんだ。もしかしたら勝てるかもしれない…あの時は本気でそう思っていたんだ。でも途中で…あの男の刀がさ…黒く染まったんだ。蒼だったはずなのに…その刀と交えようとした瞬間…呆然としていたはずの弟が間に入った。俺は即座に刀を止めたけど、あの男の攻撃がそのまま弟を貫いた。でも、その時点では弟にまだ息はあった。何とか助けようとして近づこうとした。そしたら…反動が来たんだよ…身体能力向上の力の反動がさ。知ってると悪いんだけど、あの力は万能なんかじゃない。力の使用時間が長ければ長い程、身体に負担がかかる。限界点を超えなければ、暫く身体が重く感じるぐらいだけど…超えたらその反動で身体が動かなくなる。それがそのタイミングで起きてしまった。そんな俺をあざ笑うかの様にさ…あの男が信じられない事をしたんだ。銃を…銃を具現化したんだよ。そんな奴がいるなんて聞いたことなかった。二つも武器を具現化、それも刀と銃なんてさ…。その銃で弟を殺したんだ。その後すぐに、あの男は俺を残して去っていった。俺は殺す価値もない…そういう判断だったんだろう。そして、今回の件には、あの男が関わっているんだ」


一息に話しきった。身体が小刻みに震えている。冷静に話せた…と思う。

さっきまで嗚咽を漏らしていた美稀は既に泣き止んでいる。

俺からそっと離れて、溢れた涙もそのままに、こちらをジッと見つめてくる。


「颯…ずっと頑張ってきたんだね。でも、大丈夫だよ。これからは私も力になれる様に頑張るから…」


そう呟いた美稀に今度は俺が抱きしめられる。


「美稀…気持ちは嬉しいけど、あの男だけは…俺一人で殺るつも…」


美稀が言葉を被せてくる…


「駄目よ、颯。あなた一人じゃ恐らく勝てないわ…。今のままだと、私はきっと足を引っ張る事しか出来ない。でも、必ずあなたにすぐに追いつくから…だから私を信じて」


美稀の腕に力が入る。美稀の優しい鼓動が聞こえてくる。

その音を聞いていると…心が穏やかになってくる。


「颯…頑張って話してくれてありがとう。ちゃんと、颯の過去を知ったからね。一緒に決着つけて…妹さん達に報告しよう。さあ、ゆっくり寝ましょう」


起こしていた上体を倒し、ベッドに横になる。

またすぐに抱きしめられて、美稀の鼓動が聞こえてくる。

俺はその音を聞きながら、穏やかな気持ちで静かに眠りに落ちていくのだった。

読者の方々、読んでいただきありがとうございます。

読みにくい文章になってしまい…


えっ⁉︎いつもの事ですか?それは大変申し訳ございません。


そろそろ…別の視点を入れてみたいと思いましたので…次は美稀視点の予定です。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ