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時空法封呪  作者: 以龍 渚
少年時代編
6/13

ザンの記憶編 その1「遺跡」

 タイラントの西にそびえる名もなき山の麓に、三人はやってきていた。

 麓は、登山客が宿を取るための宿場町のようになっていた。

「さて。日が暮れる前に山を登らんとな」 そういいながらカノンは空を見上げる。

「日が暮れる前にって、おやっさん……、いま太陽が頂上にいったばかりじゃねぇか?」

 そう、リュセイアの言うとおり、いまは時間にして正午をちょっと過ぎたあたりだった。

「もしかして、カノンさん? 俺たちの向かっている目的地までかなり距離があるんですか?」

「いや、一、二時間でいけると思うぞ?」

 ザンの問いかけに、カノンはあっけらかんとそう返した。

「は? ――じゃあなんでおやっさんは時間を気にするんだよ?」

「いやな、リュウ。問題は別にあるんだ。だから、どのくらいの時間が掛かるかわからんのだ」

「それは、カノンさんがここに来る前に言っていた、俺の記憶についての用件ってやつですか?」

「まあ、そうだな。――今からあの山に住む、ある奴に会いに行く」

「その人が俺の記憶と何か関係があるってことですか?」

「――そいつはな、『千里眼の賢者』って呼ばれていてな、なんでも見通す力があるらしい。だから、もしかすると失われた記憶を取り戻す方法とかも知っているのかもしれん」

「へぇ。おやっさん、そんな人間と知り合いなんだ」

 感心するリュセイアに対し、カノンが言葉を返す。

「知り合い? ――さて、向こうは俺の事なんか覚えているかどうか」

「? どういうことです、カノンさん?」

「昔――まだ俺がアドベントになりたての頃に世話になったことがあるだけで、訪ねるのも十数年ぶりだ」

「は?」 リュセイアが思わず声を上げた。

「だから俺は、日が暮れるまでにって言っているんだ」

「ちょっと待てぃ、おやっさん。じゃあ、何か? もしかして正確な場所なんて覚えて――」

「心配するな、なんとかなる」 カノンは根拠のない言葉を返してきた。

 こうして、半ばあてのない状況で三人は山道を登り始めるのであった。


 山道を登り歩いてしばらくした時、二手に分かれた道の前でザンが足を止めた。

「? どうした、ザン? 急に立ち止まって?」 ザンの不自然な行動に、リュセイアが声をかける。

「……ここ、前に来たことがあるような気がする」

「それは本当か、ザン?」 カノンがザンに詰め寄っていく。

「いえ、もしかして単なる既視感きしかんなだけかも知れませんが……」

 カノンに詰め寄られ、ザンは少し自信がなさそうにそう答えた。

「いや、それでもお前の記憶のなんらかの手がかりには変わりない。――で、なにが気になった?」

「――ここを右に行ったところに、遺跡みたいな建物があると思うんですが……」

「じゃあ、行ってみるか?」 カノンはザンの確証のない発言に即答した。

「でも、おやっさん。本当に単なるザンの既視感ってだけで、なにもなかったらどうするんだよ?」

「なに、山歩きは苦手じゃない。迷わないようにする方法はいくらでもあるさ。行って何もなかったら、引き返せばいいだけだ」

 そう言うとカノンは、適当な木の幹に円状のキズをつけた。これは、明らかに人の手で付けたキズだという目印。線状のキズでは、獣が付けたキズと見分けがつかなくなるからだ。


 しばらく進んでいくと、ザンの言うとおり、本当に小さな遺跡のような煉瓦れんが造りの建物が見えてきた。

「……おいおい。本当にありやがったよ」 リュセイアが信じられないとでも言わんとばかりの表情を浮かべそう口にした。

「まさか、こんな場所にこんな建物があるとはな……」 カノンもまた、リュセイアと同じような表情を浮かべている。

「でも、この建物、入り口はどこだ? 扉らしきものが見えないが?」 リュセイアは建物を見渡すが、どこにも入り口らしき場所がない。

 するとザンが煉瓦造りの建物に無言で近づいていく。――そして、ザンの手が建物の煉瓦の一部に触れる。

 煉瓦が押され、押した煉瓦が内側に入っていく。その直後、煉瓦の壁がせりあがり、建物の入り口が現れる。

「なんだ? 入り口が、現れた?」 大規模な仕掛けに、リュセイアは驚きの表情を隠せない。

 が、そんなリュセイアより複雑な表情を浮かべているのはザンだった。

「……やはり、俺はここに来たことがあるのか?」 身体が勝手に動いたことに、戸惑いを隠せずにいる。

「どうする? 入るのか、ザン?」 カノンがザンの意思を確認する。

「……入りましょう」 ザンはそう答えた。


 そこは一つの大部屋になっていた。通路も、部屋を分ける仕切りもなく、だた、鉄のような内壁とその壁に埋め込まれた照明がこの部屋を包んでいる。そして、部屋の中央には妙な機械が置かれていた。

「なんだ、ここは?」 リュセイアは思わず声を上げた。

 カノンが冷静に周囲を見渡す。

「何かの装置が保管されているだけか……。――ん?」

 カノンの視線が、機械の正面にあるディスプレイらしきものの前で止まる。

[Count Down to Doomsday 000,110,680,998]

 そのディスプレイにはその文字と数字が書かれている。そして、書かれている数字の末尾は一秒ごとに数字を減らしている。

「なんだ、この機械? なんか、文字みたいな絵が描かれているみたいだが……」

 リュセイアには、ここに書かれている文字が読めなかった。

 ここに書かれている文字は、リュセイアたちの知る文字ではなかったからだ。

 カノンが機械を見て、リュセイアに言葉を返す。

「まぁ、多分、文字だろうな。――数字が徐々に減っているところを見ると、これはこの装置の稼動限界でも表示しているんじゃないのか?」

「ザン、お前なら何かわかるか?」

 ここに来たのは、ザンの記憶の手がかりを求めて。ザンならなにかわかるかと、リュセイアが問いかけるが――

「……悪い、まったくわからない」 予想通りの答えだった。

「少し調べてみるか。――リュウとザンは壁を調べてみてくれ。俺はこの装置を調べてみる」

 カノンに言われた通り、リュセイアとザンは壁を調べ始める。

 そしてそれはすぐに見つかった。――まぁ、あまり広い空間ではないので、すぐに何かを発見できるのは当然なのかも知れない。

 問題は、そこに書かれている文字だった。

[Put one’s hand to this point.now call to OPEN]

 その文字の下には、掌サイズの四角い枠が描かれている。

「またこの文字か……」 リュセイアがため息を漏らした。

 と、リュセイアは壁に手を伸ばした。

「ここに手を当てればいいのか?」

「! おい、待てリュセイア。うかつに――」

 ザンが制止に入るが、その前にリュセイアは枠の中に掌を触れさせていた。

 リュセイアの掌に冷たい鉄の感触が伝わっていく。――が、なにも起きない。

「? なにも起きないな? ――てっきり、入り口の時みたいにこの部分が押し込めると思ったのに」

「おい、リュセイア。もし罠とかが発動したらどうする気だったんだよ?」

「ま、まぁ、いいじゃねぇかザン。なにも起きなかったんだし。――しかし、やっぱりあの文字みたいなのが読めないとダメみたいだな?」

「こっちもだ、さっぱりわからん。装置本体に刻まれている文字は見つけたんだが……」 装置をチェックしていたカノンが声を上げた。

 リュセイアとザンがカノンのそばに来る。そして、刻まれている文字を確認する。

[All Vanisher]

「多分、この装置の名前かなにかだろうと思うが、まったく読めん」 カノンがそう口にした。

「……カノンさん、出ましょうか?」 ザンがここを後にすることを提案する。

 そして、三人はこの小さな遺跡を後にした。


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