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時空法封呪  作者: 以龍 渚
少年時代編
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アドベント試験編その4「結末」

 ギルドマスターとカノンの二人が問題の暗闇エリアに駆けついた。

「なんだ、これは?」 その光景に、マスターが驚きの声を上げる。

 そこは通路の壁が崩れており、リュセイアたちが通った暗闇の細い通路はなくなっていた。

「どうやらここで何かを爆発させたようだな? ――マスター。ここにはどんな仕掛けがあった?」

「ここはガスのトラップが仕掛けてあった」 マスターがカノンに説明する。

「ガス? じゃあ、そのガスが何かで引火して、そして爆発したってことか?」

「それはないな、カノン。ここのトラップは灯りを灯したらその火が燃え広がって通路を塞ぐって仕掛けだ。こんな岩壁を吹き飛ばす威力なんてない」

 ……崩れた岩壁がわずかに動き、小石が転がる音を立てる。

「! ――マスター、ここの岩をどかすのを手伝ってくれ」 すぐさまカノンがそれに気づいた。

 カノンとマスターが、土砂をかきわけ、岩をどける。――その下には、衣服がボロボロになったザンの姿があった。

「ザンっ」 カノンが倒れたザンを抱きかかえる。

 ザンが身体中の痛みに耐えながら、その目を開けた。

「カノン、さん?」 ザンがカノンの姿を認識する。

「ああ。大丈夫か、ザン」

「おい、何があった? この状況はなんだ?」

「この状況?」 ザンはマスターに言われあたりを見渡してみる。あたりは土砂に埋もれていた。

「! リュセイアは?」 ザンがあたりの惨状を目にし、リュセイアの身を案じる。

「いや、今しがたザン――お前を発見したところだ」

「……俺がここにいたってことは――リュセイアは多分、あのあたりにいるかも……」

 ザンがある一点を指差す。カノンはザンの指差した場所の辺りの土砂をかきわける。

「カノン、少し人手が要るな? 待ってろ、すぐに戻る」

 そう言ってギルドマスターは応援を呼びに洞窟を引き返していった。

「カノンさん、手伝います」 ザンも土砂をかきわけ始める。

「……ザン。お前らはいったい何をしたんだ? 何をしたらこんな状況になる?」

「――ここを爆破させました」 ザンがそう答えた。

「爆破させた? なんでそんな真似を?」

 と、かきわけた土砂の下から人の腕が見えた。

「! リュウっ」

 カノンは埋もれていた手を引き、その持ち主の身体を引き上げる。

 ザン同様、ボロボロな姿となったリュセイアが現れる。

「リュウ、大丈夫か」

 カノンの声に反応し、リュセイアも身体の痛みに耐えながら目を開ける。

「いっつぅ。――! ザンは無事か?」

「ああ、なんとかな」

 そこに若い衆数人を連れたギルドマスターが戻ってきた。

「……マスター、これはちょっと三十分そこらでは片付きませんよ?」 若い衆の一人がこの現状を見てそう口にした。

「今日の試験は中止にするしかないな。――とりあえず、土砂と岩を片付けよう。奥の広い通路に押しのけてくれ」

 マスターが若い衆たちにそう指示を出す。

「了解」

 若い衆はそう返事をして、土砂の撤去作業に取り掛かり始めた。


 カノンがリュセイアとザンが手当てをしている脇で、ギルドの若い衆たちはてきぱきと土砂や岩石を片していく。

 通路を塞ぐ土砂の半分が片付いた時だった。大き目の岩石をどかした一人の男の動きが止まる。

 手に抱えた岩石を脇に置き、声を上げる。

「マスター、ちょっと来てもらえます?」

「? どうした?」 何事かと思いつつ、マスターが問う。

「岩の下から、テットの死骸が出てきました」

「テットの死骸だと?」 マスターがその場に駆け寄っていく。

 と、マスターが駆け寄っていくその光景を見て、腕に包帯を巻きながらリュセイアが呟いた。

「……どうやらうまくいったみたいだぞ、ザン」

「なにがうまくいっただ、リュセイア? ここまで派手に吹っ飛ぶとは思わなかったぞ?」

「お前ら、何の話をしている?」 カノンには、二人の話が見えてこない。

 その場に駆けつけ、その死骸を確認したマスターの表情が変わる。

「ケルベロス、だと!?」

 土砂の下から見つかったのは、先ほどリュセイアたちが追われていたケルベロスの死骸だ。

「! ケルベロス? なんでこんな場所に?」 マスターの声に反応し、カノンが慌ててマスターの元に駆け寄っていく。

 カノンがケルベロスの死骸に触れる。

「! そうか。お前らこいつを倒すためにここを爆破したのか?」

「おいおい、カノン。爆発させたって、どうやったらこんな爆発を起こせるんだ?」

「……爆発を起こしたのは俺たちじゃないですよ?」 マスターの問いにリュセイアが答える。

「爆発を起こしたのは、そのケルベロス自身です」 さらにザンが言葉を続ける。

「……くわしく聞かせてもらえるか?」 マスターが二人に向けてそう言った。


 リュセイアとザンは、あのキマイラたちのいた場所でケルベロスに襲われたあと、何かを思いついて走り出した。

 それはあのガストラップを利用してケルベロスを倒すという策だった。

「リュセイア、本当にあの罠を利用する気なのか?」

「ああ。いいか、ザン。暗闇の中で絶対に立ち止まるなよ? 一気に走り抜けるんだ」

「走り抜けたところで、危険なのに変わりは――」

「いや、多分大丈夫なはずだ。俺の見立てでは、あの罠は暗闇内で火を使ったらあの通路内に燃え広がるって罠なはずだ。爆発を引き起こす罠じゃない」

「お前の見立てって……無責任だな。――どうなってもしらんぞ、リュセイア?」

 二人の目の前に暗闇の通路が見えてくる。

「とにかく、ザン。ここを駆け抜けろ。この中に取り残されたら、火達磨は避けられない。本当にただじゃ済まなくなるぞ」

 二人は止まることなく暗闇通路を駆け抜ける。――そして、リュセイアとザンが通路を駆け抜けた直後、リュセイアは松明たいまつに火を灯し、通路に投げ込んだ。

 予定ではこれで炎上した通路にケルベロスが取り残される寸法だった。

 ここで、予想外の出来事が発生する。――松明が追ってきたケルベロスに命中し、ケルベロスは攻撃を受けたと思い込み、三つの口全てで炎を吐き出した。

 ケルベロスの強力な吐息がガスを散乱させつつ、吐く業火がそのガスに引火する。その結果――


「――で、こうなったと」 カノンがあきれた顔をしてそう言った。

「んな事いっても仕方ないじゃないか、おやっさん? あれ以外に倒す方法が思いつかなかったんだから」

「本当、俺たちあれでよく無事だったよ」 ザンもカノンと同じようにあきれ顔でそう呟く。

「お前だって覚悟を決めたんじゃないのかよ、ザン?」

「ああ、火傷程度はな。――生き埋めは洒落になってないぞ、リュセイア」

 若い衆の迅速な仕事によって、とりあえず通路は開通した。――キマイラゾーンを見た若い衆は再び表情を変えた。

「あれだけいたキマイラが、全滅……」

「これもケルベロスの仕業なのか?」

 マスターがキマイラゾーンにやってくる。――キマイラの死骸に目を向ける。

「……おい。これをやったのはお前たちか?」 マスターがリュセイアとザンに向かって声を上げる。

「マスター。それはないでしょう? こんな短時間にキマイラを全滅させるなんて――」 若い衆の一人がそう言うが――

 カノン、リュセイア、ザンがキマイラゾーンに入ってくる。

「その食いかけの死骸はケルベロスが食ってた」 リュセイアが死骸を見るなりそう言った。

「他は?」 マスターはすぐにそう聞き返す。

「他のキマイラは俺とリュセイアがやりました。てっきり、ここは全滅させる試験かと」 ザンが答えた。

「そうか……。よし、全員戻るぞ」 ザンの言葉を聞くと、マスターは皆に撤収の指示を出す。

 だが、リュセイアはその指示に異を唱える。

「戻るって、ちょっと待てよ? 俺たちの試験はどうなるんだよ?」

「ここまでのことをしといて、試験がどうとかよく言いやがるな」 リュセイアの言葉を、マスターは一蹴した。

「リュウ、ここは黙って従え」 カノンが、マスターに従うようリュセイアに告げる。

「おやっさんっ」

「……行くぞ、リュセイア」 ザンは黙って従うことに同意したようだ。

「――ちぃ」 ザンが従ったため、リュセイアもマスターの指示にしぶしぶ従った。

 そして、洞窟にいた全員がギルドへと戻っていった。


 マスターを含む、今回の試験関係者全員が会議室にこもって一時間以上が経過する。

 協議されているのは、リュセイアとザンの合否について。――なにぶん、初めてのケースなため、協議は難航していた。

 服を着替えたリュセイアとザンはギルドの一角の長いすに座り、その脇ではカノンがいすにも座らず結果が出るのを静かに待っている。

 今のリュセイアとザンはどんな気分で待っているのだろう?

「……なんなんだよ? もう一時間近くは経ってるぜ?」 ついにリュセイアが痺れを切らす。

「正確には一時間と七分だ、リュセイア。――けど、たしかに随分とかかってるな?」

 リュセイアとザンがそんなことを話していると、会議室の扉が開いた。

 すると、会議室の前でマスターが三人を会議室に呼ぶかのように手を招いた。

 三人は会議室の隣にある小さな応接室のような部屋に案内された。

 長いソファーに並ぶように座ると、ギルドマスターが向かいに座り、話を切り出した。

「回りくどいことは無しにして、まずは結果言おう。――お前たちは不合格だ」

 マスターの宣告に、リュセイアとザンが驚きの表情を隠せずにいた。

「いまからその理由を説明する」 そんな二人に対し、マスターは淡々と言葉を続ける。

 マスターが言うには、まず、二人の実力については申し分がないとの事だ。そのことを配慮して合格にすべきではないかという意見も出ていたらしい。

 ……やはり問題となっているのは、あのケルベロスへの対処についてだろう。

「正直、驚いている。まさか、あのケルベロスをあんな発想で撃退したってのはな」

「なら、なんで不合格なんだよっ」 リュセイアは声を荒げ、マスターに抗議する。

「やめろ、リュウ」 そんなリュセイアをカノンが抑える

 マスターはさらに言葉を続けた。

「その発想が最大の不合格原因だ。――多分、お前の思惑どおりに事が運んで、お前たちが入り口に戻ってきていたのなら、間違いなく合格だっただろうな」

「爆破での洞窟崩壊のトラブルがまずかったということですか?」 ザンは冷静さを保ちつつ、マスターに問い返す。

「あんなもん、運が悪かったとしか言いようがないだろ?」 リュセイアの言うとおり、あれは不運なアクシデントというしかない。

「そうだな、たしかに不運だったな。――だがお前は、これがアドベントの仕事中だったとしても、不運で片付けるつもりか?」

「そ、それは……」 マスターの正論に、リュセイアが言葉を詰まらせる。

「結果はどうあれ、お前たちの行動が他のアドベントに多大な迷惑をかけた、これが不合格の最大の理由だ」

 そう告げるマスターに、リュセイアは反論の言葉を出せなかった。


 三人はカサドのギルドを後にして、荷物の置いてある宿屋に戻ってきた。

「……さて、二人とも。落ち込んでいるところ悪いが、すぐにでも宿を引き払うぞ」 カノンが出発の準備を急かす。

「大丈夫だ、おやっさん。それぼどは落ち込んじゃいない。ついてなかったと言い聞かせている」

「そうか、リュウ。――ま、切り替えは早いほうがいろいろと便利だぞ」

「でも、カノンさん? まだ島に帰るには早いですよね?」 ザンがカノンに出発を急ぐ理由を尋ねる。

「――最初に言ってあっただろ? 寄りたい場所があるって」

「そういえばそんな事、言ってましたね? でも、どこに寄るんです、カノンさん?」

「――これから向かう場所は、ザン、お前の記憶にかかわる場所だ」


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