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時空法封呪  作者: 以龍 渚
少年時代編
4/13

アドベント試験編その3「アドベント試験」

 結局二人はギルドでのゴタゴタで、町で遊ぶ暇はなくなってしまった。

 そして、翌日。ついに二人の試験日を迎えた。


 昨日の朝とは違い、三人の部屋の空気は張り詰めていた。

「――どうやら、やる気は充分すぎるようだな?」 カノンはリュセイアとザンの気合の入り方が昨日までとはまるで違うことを肌で感じ取る。

「たしか、おやっさんは今の俺らと同じ歳の、最年少で資格を取ってるんだったな?」

「悪いが、参考にはならんぞ? 年々試験の難易度が上がっているからな」

「ま、昼飯を食う頃には笑っていますよ。安心して待っててください、カノンさん」

「ん? そうか、お前らは午前か。そういや、何組目だ?」

「しょっぱな。九時からだよ、おやっさん」

「そうか、一組目か。初日じゃなくてよかったな?」

「? カノンさん。初日の一組目はなにか不利なことでもあるんですか?」

「ま、運が悪けりゃな。初日は試行錯誤になることも多くてな、運がよければめちゃくちゃ簡単なこともあるんだが、運が悪いと――」

「攻略困難な場合がある、と言うことですか?」

「ま、今日がたしか最終日だったから、その辺の心配ないだろう」

「だったら俺ら最終組がよかったな。ザンと一緒に、試験の最後を派手に締めくくってやれたのに」

「ま、リュウには悪いが、俺は早いとありがたい。試験が終わったら、寄り道したい場所があるからな」

「そういえば、カノンさん。港でもそう言ってましたが、寄り道ってなんなんですか?」

「――なに。ザン、お前のことでちょっとな」


 三人は再び、カサドのアドベントギルドにやってきた。

「来たな」 三人の姿を見て、カサドのギルドマスターが声をかけてきた。

「よっ、マスター。――で、結局昨日は何組が合格したんだ?」

「昨日どころか、ここ五日で合格者は一人も出ていない」

「だとよ、ザン。どうやら合格者一号は俺たちになりそうだ」

「試験難度が高いのか、これまで試験を受けた人材が悪いのか。ま、それはもうじきわかることか。な、リュセイア」

「お前らは九時からの開始か? まぁ、合格者が出ていないから、洞窟の整備は早くすむだろうな」

「リュウ、ザン。今のうちに準備を済ませておけよ」


 今、リュセイアとザンが剣を構え、洞窟の前に立っていた。――試験開始時間まで、あと一分を切っている。

「始めっ」 試験官の合図と同時に二人は洞窟へと飛び込んでいった。

 今回の試験内容はいたって簡単なものだ。制限時間である三十分以内にこの洞窟の奥に設置してあるアイテムを持ち帰ってくるだけだという。

 二人の目の前に曲がり角。入り口からここまで何の仕掛けもなかったことを考えると、ここからが本番のようだ。

 何もない通路の前で二人は足を止める。――壁に目を向けると、直径三センチほどの穴が規則正しい感覚で多数開いている。

「やれやれ。最初はありきたりで来たか。――ザン、起爆点はわかるか?」

「ちょっと待ってろ」 そういって、ザンが地面に耳をこすりつけ、低い視点で通路を見つめる。

 こうすることによって見えてくるのは、わずかに浮いた床の位置。この類のトラップはたいてい特定の床を踏むと、穴から矢が飛び出す仕組みになっている。

「おおかた、矢は矢じりがないかニセモノかのどっちかだろうが、当たったら失格になるんだろうな」

「リュセイア。起爆スイッチはほとんどが通路の中央だ。壁に張り付いて進めば踏むことはない」 ザンが立ち上がる。

「じゃあ、とっとと進むか」


 見えてきたのは、細い通路だった。その先は暗闇となっており、ここからでは先をうかがえない。

「いやな通路の形になってるな、リュセイア?」

「ああ。においはしないが、多分ガスを充満させてるな? 灯りを灯したらドカン、てか」

「まぁ、こんなダンジョンで、安全のための人工ガス臭を付加してくれてるわけはないか」

「ここは暗闇で進むのが正解ってことだな、ザン」

「時間がもったいないが、警戒しながら進もう。いいな、リュセイア?」

「了解」


 広い通路に出た。――ここには小賢しいトラップの類はない。それはひと目でわかった。

 先日、処分したキマイラの類と思われるテットが多数。ここはテットとの実践を想定したエリアのようだ。

「ようやく大暴れできそうだぜ、ザン?」

「ああ。いいかげんストレスがたまり始めていたところだ」

 本来、このエリアはテットを殲滅させる必要はなく、テットの隙をついて走り抜けるエリアになっていたのだが、二人がそれを知る由もなく――

 二人は剣を抜き、多数のキマイラに対し身構える。

「リュセイア、時間に限りがあるから、一気に片付けるぞ」

「了解。ここは本気で行くぜ? ここで本気にならなけりゃ、どこで本気を出すんだか」


 もし、二人の選択肢で間違いがあったとすればこのエリアでの選択だろう。

 時間にして五分とかかっていない。五分足らずで二人はキマイラの大群を全滅させた。

 それに関しては、満点をつけられるだろう。問題はタイムロスではなかった。

 二人はそれに気づくことなく、次の部屋に向かっていた。


 ここを全滅させたことでこれから起ころうとしている、予想外のトラブルに。


 その部屋の中央には、手のひらサイズの球体が置かれていた。

 これが、試験の目的になっているアイテムだ。――ここまでの所要時間十分弱。

「よし、あとは引き返すだけだな。――ザン、時間は?」

「残り十九分ってところか。余裕だな」

 そう、余裕である。ここまで十分はかかっているが、帰りはすでに攻略した道を引き返すだけ。十分どころか七、八分で引き返せるだろう。

 だが、それは何事もなければの話である。


 アイテムの置かれていた部屋を出て、キマイラたちのいた広い通路に出たとき、二人はその異変に気づいた。

 アイテム部屋に入るときにはなかった、壁の大穴。そして、そこから吹き込む風。

「ザン。……さっき、こんな大穴あったか?」

「いや、こんなのはなかったはずだ、リュセイア」

 二人が大穴に近づく。

「風? ここは外に続いているのか?」 リュセイアが問題の大穴を覗き込む。

 穴を覗き込むが、その穴は人間が通ることはできない大きさだった。……獣くらいは通れるだろうが。

 ザンが穴のまわりに散乱している土を見て、考え込む。

「……まずいな」 その直後、ザンがそう口にする。

「まずい? なにがだ、ザン?」

「リュセイア。何かが、洞窟の外からここに入ってきているぞ」

 土の散り方を見れば気づくだろう。この穴は何者かが侵入するときの出来た穴だということが。

 ――背後から強烈な殺気。キマイラ等とは比べ物にならないほどの。

 二人は咄嗟にその場から飛び退いた。そして、殺気の方に対して剣を身構える。

 そのテットは、三つ首の狼のような姿をしている。俗に『ケルベロス』と呼ばれているテットだ。

「ケルベロス、だと? なんでこんな場所に?」 書物の情報でしか知らないテットを前に、ザンは驚きの表情を隠せずにいる。

「ザン、気を抜くな。こいつ、隙あらば襲い掛かってくるぞ?」

 二人の視界にキマイラの死骸が目に入る。――それには食い荒らされた形跡が残っていた。

「まさか、こいつ、俺たちが倒したキマイラの血のにおいに誘われて――」

 ザンがキマイラの死骸に注意を向けた隙を突いて、ケルベロスがザンに襲いかかってくる。

 三つある顔の、向かって右の顔が大きく口を開けた。

 ――ザンは襲いかかるその牙を剣で受け止める。そのまま攻撃に移ろうとしたときだった。真ん中の顔から、大きく息を吸うような音が聞こえてきた。

「! しまった。たしかケルベロスって炎の息を――」 ザンはケルベロスが火を吹くということを思い出す。――が、この状態で火を吹かれたらひとたまりもない。

 とっさにリュセイアがケルベロスの胴体を蹴り、ケルベロスを蹴り飛ばした。ケルベロスは体勢を崩し、仕掛けようとしていた炎の息を取り消した。

「悪い、リュセイア。助かった」

「油断するな、ザン。まだなにも終わってない」

「やる気なのか、リュセイア?」

「奴が見逃してくれると思うか?」

 体勢を立て直したケルベロスは、二人と距離を取りながら、二人の隙をうかがっている。

 ザンがリュセイアの問いに答えている時間はなかった。痺れをきらしたのか、ケルベロスがリュセイアに突撃してきた。

 リュセイアは突撃するケルベロスの脇に回る。さっきのザンの攻防で正面は不利と判断したからだ。

 そしてその反対側からはザンが斬りかかりにいっていた。

 それはケルベロスの虚をついた、二人がかりのカウンターだった。

 振り下ろす二人の剣が完全に決まると思ったその時、ケルベロスの外側の二つの顔がそれぞれリュセイアとザンの方に向いていた。

「! まずい。リュセイア、離れろっ」

 炎が渦巻きながら左右それぞれに方向に放たれる。それは予想を遙かに上回る威力だった。

 ザンは攻撃を取りやめ、咄嗟に回避行動に移ったため渦巻く火炎を回避することが出来た。だが、リュセイアは――

 リュセイアが剣を落とし、左上腕部をおさえながらその場にうずくまる。

「リュセイアっ」

「くっ。左腕を、焼かれた」

 ケルベロスがダメージを受けたリュセイアに狙いをつける。

「ちぃ」 ザンが後方からケルベロスを斬りつける。

 ――金属音を響かせ、ザンの剣の刃が宙を舞う。

「なっ」 ザンの握る剣の刃が根元から折れている。

 ケルベロスは何事もなかったように、振り返ることなくリュセイアににじり寄っていく。

「これまで、か」 リュセイアは左腕を押さえながら周囲を見渡していた。

 リュセイアの視線が洞窟の入り口に向かう通路の方で止まっている。それに気づきザンもそちらに目を向ける。

(? なんだ? なんでリュセイアはあの場所を見ている)

 ザンの頭の中を様々な考えが巡っていく。そして、一つの考えが浮かび上がってくる。

「走れ、ザンっ」

 それはザンの考えがまとまるのと同時だった。リュセイアが剣を拾い、突然入り口方面に走り出した。

 ケルベロスは一瞬何が起こったのかわからなかったようだが、走り出したリュセイアの背中を見て、リュセイアを追いかけ始めた。

「てめぇは少し転んでろっ」 今度はザンがケルベロスを蹴り飛ばした。

 そして、ザンもリュセイアの後を追って走り出す。――その直後、体勢を立て直したケルベロスが追いかけはじめる。

「――リュセイア。お前の考えはだいたい想像ついた。だが、それをすれば、俺たちも無事ではすまんぞ?」

「それは覚悟の上だ。――このままやられっぱなしよりは遙かにマシだ」

 通路を曲がると、そこに暗闇の細い通路が見えてきた。


「残り時間五分、か」

 ギルドでは、カノンが時間を気にしながら二人が戻ってくるのを待っていた。

「あの二人にしては時間がかかってるな?」 ギルドのマスターがカノンに話しかけてくる。

「遊んでいるのか、てこずっているのか……。俺の予想では残り十分くらいで戻ってくると思っていたんだがな」

「なにか、予想外の事態にでもなっているのかもな?」

「ありえるな」

 カノンとマスターがそんな話をしている最中だった。――爆発音が轟いた。聞こえたのは洞窟内部からだ。

「おいっ。なんだ、マスター。いまの爆発音は?」 突然の爆発音に、カノンが声を荒げる。

「おいおい。まさか本当に何か起こっているのかよ?」

 マスターとカノンの元に、試験担当のギルドメンバーと思われる若い男がやってくる。

「どうします? 我々が様子を見に行きましょうか?」

「いや、俺が行こう。――カノン、悪いが二人の試験は中止だ」

「待て」 カノンがマスターを呼び止める。

「カノン。不服なのはわかるが、緊急事態だ」

「そうじゃない。俺も行く」

「……仕方ないな」 そういいながらマスターはカノンに何かを投げつけた。

「? 腕章?」 それは『救助班』と書かれた腕章だった。

「カノン。そいつを身につけろ」

「感謝する、マスター」 そういいながら、腕章を腕につける。

「いくぞ」 同じ腕章をギルドマスターも身につけた。

 そして、二人が洞窟の中に入っていく。


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