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時空法封呪  作者: 以龍 渚
時空法封呪 本編
13/13

本編その4「訪問者」

 トゥルーク村がなくなってから、三ヶ月の時が流れた。

 トゥルーク村の生き残りであるホノカとアイカは今、アーカスのアドベントギルドに身を寄せていた。

 この三ヶ月で、この国は大きく変化していた。……ただ、それはより良い方にではなかった。

 トゥルークからタイラントに戻ってきたディルは、時空法封呪とともに消えたリュセイアを血眼になって探していた。

 問題はそのリュセイアの捜索の方法だった。タイラントの兵たちは、最初は地道に捜索をおこなっていたのだが、見つからない日々が一月も経過すると、タイラントの兵たちは次第に横暴になっていた。

 少しでも反抗的な態度を見せた者には、リュセイアを――国の反乱者を匿っているという容疑を着せ、そのものの持つ私財を取り上げたり、住居を破壊したりと次第に目に余る行動を取り始めていた。

 そんな状況を見てみぬ出来ない者たちは、ついに反乱組織レジスタンスを結成した。

 最初にその旗をあげたのはカサドのアドベントだった。それから各アドベントギルドにその反乱の火種は広がり、ついにはタイラント対アドベントギルドという構図が出来ていた。

 それがここ三ヶ月の間の話。

 驚くべきはその間のアイカだった。剣も握った事のない少女が、リュセイアの仇をとらんがために、剣の腕を磨き、いまやアーカスのアドベントギルドで一番の使い手にまでなっているのだから。

 そんなアーカスアドベントギルドに一人の青年が訪ねてきたことにより、物語は再び動き始めようとしていた。


「すいません。ここに『カノン』という方がおられると思うのですが、お呼びしていただけますか?」

 青年はギルドの扉を開けると同時に、カノンの名前を口にした。……すると、ギルドのメンバー達がざわつき始める。

 そのざわめきが気になってか、そこにグレイドが姿を現した。

「おいおい。なんの騒ぎだ、これは?」

 ギルドメンバーの一人がグレイドに近づき、耳打ちをする。……告げる内容は、そこの青年がカノンを訪ねてきたということだ。

「!? カノンを? ……わかった、俺が話を聞こう」

 グレイドが青年に近づいていく。

「あなたは?」 青年はグレイドに尋ねる。

「俺はカノンの友人でグレイドって名だ。お前さんの名は?」

 名前を聞かれて青年は辺りを気にし始める。

「……私は、『リーフ』といいます」

 多分、偽名だろう。そんな考えがグレイドの頭の中をよぎる。だが、偽名を使う根拠がわからない以上、追求はしなかった。

「で、そのリーフさんがカノンにいったい何の用だ?」

「昔、カノンさんに、困ったことがあれば相談にのっていただける言われたので、今日訪ねてきました」

「そうか。……カノンらしいな」

「それで、カノンさんに取次ぎを願えますか?」

「悪いが、それはできない」

「どうしてですかっ!?」

「……」 グレイドは迷っていた。本当のことを話すかどうかを。

「納得のいく理由を聞かせてください! どうしても、カノンさんに伝えなくちゃいけないことなんです」

「やはり、知らないのか。――カノンは、死んだ」

「! ……まさか、この前のトゥルークの一件で?」

「いや、それとは別だ。カノンは三年前にある騒動に巻き込まれて死んだ」

「三年前? そんなわけないじゃないですか? 私がカノンさんと会ったのも三年前なんです」

「……カノンが死んだのは、本土からトゥルーク島に戻ってすぐだ。お前がいつカノンと会ったのかは知らんが、本土でカノンに会っていたのなら、お前と別れてすぐのことだろうな」

「カノンさんが、死んだ……」

「――もし、俺でも問題がなければ、用件を聞こうか?」

 ギルドの扉が開き、ホノカとアイカが帰ってきた。

「ただいま戻りました」 ホノカは帰ってきたあいさつをするが――

「あれ? お客さん? 珍しいね」 アイカはあいさつはそっちのけに、来客が気になっていた。

 ホノカとアイカは適当な椅子に座り、今回の仕事について話を始めた。

 ――が、次の瞬間、聞こえてきたリーフという青年が発したその言葉に、二人の動きが止まる。

「では、一つだけ聞かせてください。――トゥルーク島から逃げ延びたリュセイアさんが今どこにおられるかご存知ですか?」

「え!? ……今、なんて?」 アイカは自分の耳を疑った。

 アイカは突然立ち上がり、グレイドとリーフのいる席にやって来る。

「ちょっと、アイカ――」

 ホノカが止める暇がなかった。アイカはリーフの襟首をつかみ、彼に詰め寄っていく。

「るーくんが生きているって、どういうこと?」 襟首をつかんだまま、リーフを激しく揺らす。

「おい、アイカ?」  アイカの突然の行動に、グレイドは困惑していた。

「アイカ、やめなさい」

 ホノカが仲裁に入り、アイカはリーフを解放する。

「ごめんなさいね。……でも、今の話は私たちに詳しく聞かせてもらえるかしら?」

 リーフは襟を正すと、再び辺りを気にし始めた。

「すいません、ここではちょっと……」

「……どうやら訳ありのようだな? ――場所を変えよう」


 グレイドはリーフとアイカ、ホノカの三人をギルドの奥にある自分の私室に通した。

「ここなら話が漏れる心配はない」

リーフが不安そうにアイカとホノカに目を向ける。

「彼女たちは?」 そして尋ねた。

「この二人はカノンの娘でトゥルークの生き残りだ。もしお前の話がトゥルークに関わる話なら、二人には聞く権利がある」

グレイドがアイカとホノカをそう紹介する。すると。ホノカがリーフに質問を投げかけてきた。

「それより、私はなんであなたがお父さんやリュウのことを知っているのか聞きたい」

少しだけ間をおいて、リーフはすぐに答えた。

「お二人には昔に助けていただいたことがあるのです」

「……俺からもちょっといいか?」

リーフの言葉を聞いて、今度はグレイドが質問を飛ばした。

「お前さんが昔にカノンに会っていることはわかった。――じゃあ、なぜ今のトゥルークについてを知っている? 少なくともお前さんはカノンの死を知らなかった。なら、なぜ今のリュセイアについてのことを知っているんだ?」

グレイドの問いかけにリーフはすぐには答えられなかった。少しだけの沈黙。そして、意を決したかのように、重い口を開いた。

「……それは私がタイラントの者だからです」

リーフが自分がここ人間――アドベントギルドとは敵対しているタイラントの名を口にした。

タイラントと聞いて、アイカの怒りの感情をあらわにする。

 だが、グレイドは冷静だった。まるでその言葉を予想していたかのように。

アイカはリーフにつかみかかっていた。

「……なんで、あの連中の一味が、るーくんの事を口にするの? なんで、いまここにいるの?」

「……私は知らなかったんです。あの男――ディルがトゥルーク島を崩壊させていたなんて」

「知らなかったで済む問題じゃないっ!」 激昂。

 いまにもリーフを殴りかかりそうなアイカの腕をホノカが押さえつけた。

「放してよ、お姉ちゃんっ」

「落ち着きなさい、アイカ。……この人は自分がタイラントの人間だと言っただけ。あの日に関わったわけじゃない」

ホノカがアイカとリーフを引き離す。

ホノカがアイカを落ち着かせようとしているところを横目に、グレイドがリーフに問いかけた。

「……で、そんな人間がわざわざ偽名まで使ってここにきた理由はなんだ?」

「! 気づいていらっしゃったんですか?」 自分が名を偽っていたことがばれていたことにリーフは驚く。

「最初にお前さんが名乗ったときからな。……だが、あえて聞かなかった。偽名を使う理由がわからなかったからな」

「お気遣い、ありがとうございます。……本当の名を言えば、私がタイラントの人間だとすぐにわかってしまうから言えなかったんです」

「聞かせてもらえるか? お前さんの本当の名を」

「私の本当の名は『リレスク』と申します」

 そう。彼は三年前のあの日、毒トカゲの件でリュセイアと一緒にいたあの少年「リレスク」だったのだ。


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