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時空法封呪  作者: 以龍 渚
時空法封呪 本編
10/13

本編その1「三年後」

 カノンの死から、三年の時が流れた。

 あれから、リュセイアとザンは見事アドベント資格を取り、今はカノンのアドベントの仕事を継いでいた。

 仕事を終え、アーカスに帰ってきた二人は、グレイドに連絡を取り、今はトゥルークに戻る船の上にいた。

「――しかし、お前らだんだんとカノンの若い頃に似てきやがったな」

 グレイドがなにかを思い出したかのようにそう話を切り出してきた。

「おやっさんの若い頃?」 リュセイアが問い返す。

「そういえば聞いた事ないですね、カノンさんの若い頃の話って」 ザンもその会話に入ってくる。

 グレイドは一息ついてこう続けた。

「……なに、あいつが生きていりゃあ、きっと今のお前らを見て話していたさ」

「なぁ、ザン。今度、ヨーコさんにでも聞いてみるか?」

「でも、カノンさんが若い頃って、もしかするとまだヨーコさんと出会う前の話じゃないのかな?」

「たしか、カノンが彼女と出会ったのは、彼女が薬師くすしの試験を受けにアーカスの方に来たときだったかな。――そういえば、今日だったな? カノンの上の娘さんが薬師の資格試験を受けに行くのは」


 船がトゥルーク島の船着場に到着する。

 リュセイアとザンが船着場に足をつけた時、海の彼方にうっすらと大きな船の影が見えた。

「ん? なんだ、あの船は?」 リュセイアはその船影を目にしてそう呟く。

 その呟きにグレイドが答えた。

「ありゃ、タイラントの調査船だな。――なんか、『ディル』とかいう新しい摂政が来てからいろいろと調査しているみたいだぜ?」

「ディル?」 ザンがその名前を耳にした時、一瞬頭が疼いた。――が、その感覚はすぐに消えた。

「ま、上の連中が考えることなんて、俺たちにはわからんな」 グレイドがそうぼやく。

「だな。――じゃ、村に戻るか」

「あ、リュウ。村に戻るなら、カノンの娘さんに俺がここで待ってることを伝えてくれ。いつでも船を出せるってな」

「了解」

 リュセイアはそう答えたあと、ザンのいる方に目を向ける。……ザンは、遠くの船影を見つめたまま動かないでいた。

「おい、ザン。村に戻るぞ?」 もう一度、村に戻ると告げる。

「あ、ああ」 ザンはリュセイアの声で我に返ったような反応だった。


 村に戻ると、真っ先にカノンの家に向かった。カノンの家の玄関を開けた、その瞬間――

「るーくんっ!」 リュセイアに何かが抱きついてきた。

 『るーくん』と呼びながらリュセイアに抱きついてきたのは、成長したアイカだった。

「!」 突然に抱きついてきたアイカに驚くリュセイア。

 一方ザンはそんな光景をはたから見ていた。

「……よく俺たちが帰ってきたのがわかったね?」

「それは愚問だよ、ザンくん。るーくんのにおいだったら、この島のどこにいても感じ取れるんだから」

「はいはい。ふざけた事言ってないの」

 ホノカがやってて、リュセイアからアイカを引き剥がす。そして、言葉を続けた。

「丘から偶然、アンタたちが帰ってくるのが見えたのよ」

「丘? おやっさんの墓参りに行ってたのか?」

「まぁね。あとは、出発の挨拶かな」

 ホノカの言葉に、リュセイアが思い出したようにグレイドからの伝言を伝えた。

「あ、そうだ。グレイドさんから伝言。グレイドさん、俺たちを送ったあとそのまま港で待機してるからいつでも船が出せるってよ」

「え? ――いけない、じゃあ急いで準備しないと……」 ホノカが慌てて自分の部屋に戻っていった。

「やれやれ。お姉はいっつもこうなんだから。じゃあ、私はるーくんと――」

「あ、ねぇ? リュウとザンにお願いがあるんだけど?」 部屋の方からホノカの声だけが聞こえてくる。

 そして、そのまま二人の返答をまたずに用件を口にする。

「船着場まで付き合ってくれる? ほら、最近テットが増えたみたいだしさぁ」

「俺とザンに護衛をやれって言うわけか?」

「なにいってんのよ、お姉は? お姉だったら、一人でも大丈夫だよ。るーくんはこれから私と甘いひとときを――」

「……リュセイア、俺だけで行ってこようか?」

「いや、俺も行く。なんか、アイカの目が怖いしな……」


「――で、なんでアンタまでついてきているわけ?」

 それが、村を出て船着場に向かう道で発したホノカの一言だ。

 今、船着場に向かっているのは、ホノカ、リュセイア、ザン、そして勝手についてきたアイカだった。

「きまってるじゃない。お姉がるーくんを誘惑しないように監視」

「誰かするかっ!」

「もてもてだな、リュセイア?」

 アイカとホノカのやりとりを横目に、ザンが茶化してくる。

「頭が痛いよ……」 リュセイアは頭を抱えた。


 船着場に着くと、グレイドが船を出す準備を終え、ホノカの到着を待っていた。

「お、来たな」

「すみません、お待たせしたようで……」

 到着するなり、ホノカがグレイドに侘びを入れる。

「何、俺が勝手に待っていただけだ。気にするな」

「ま、俺たちを送ってきて、また引き返した方が手間だしな」

「リュセイア。グレイドさんの都合も考えずに船を出してもらった身で言える言葉じゃねぇだろ?」

 グレイドの目に、アイカの姿が入ってくる。

「おや? 今日本土に行くのは上の方だけじゃなかったのか?」

「あ、そいつは無視しちゃっていいから。勝手についてきたんだし……」

 ホノカはなんか突き放した言い方をするが――

「だってさ。さ、お姉の見送りはは済んだんだし、村に戻ろうよ」

 妹はもっとドライだった。

「……おいおい。姉の見送りなのにおろそかだな?」

「何言ってるの、ザンくん。るーくんを連れ出してなきゃ、こんなお姉に見送る価値なんてないじゃん」

「あ・ん・た・は・ねぇ」 ホノカを見ると、拳を震わせていた。


 ホノカが船に乗ると、グレイドが口を開く。

「じゃ、出発するか。……なんか、さっきからあの場を動かないタイラントの船も気になるしな」

 よく見ると、先ほどいた調査船はその場を動いていなかった。

 船を見ながらアイカがつぶやく。 

「本当になんなんだろう、あの船? もしかして、村にでも来るのかな?」

「ま、リュウとザンの二人がいれば心配はないだろうが……、もし何かあったら緊急連絡を飛ばしてくれ。すぐに来るからな」

「心配しすぎだって。ただの調査船だろ? 勝手にやらしときゃいいさ」

 心配するグレイドを横目に、リュセイアはそういった。

「そうだな。……俺の思い過ごしだといいんだがな」

 グレイドはホノカを乗せて本土に向かって船を出していった。

 リィセイアたちは、ホノカの乗った船が見えなくなるまでその場にいた。

「じゃあ戻ろうか、リュセイア」 ザンがそう口にした。

「そうだな。……そういえばザン。俺んち、まだ発光石って残っていたか?」

 リュセイアがザンにそう聞くと、ザンは少し黙り込んだあとリュセイアに答えた。

「たしか、帰ってきてから取りに行けばいいって言ってたから、あんまり残ってないんじゃなかったかな?」

「そんなのいいよ、るーくん。家のを少し分けてあげるからさぁ。もう村に戻ろうよ?」

 アイカはリュセイアとイチャつきたいがためか、そんなことを口にする。だがリュセイアは――

「いや、ここまできたついでだ。帰り道がてら採って帰ろう」

 ちなみに発光石がとれる洞窟は、この港と村の中間にある。

「うー。でも、霧吹きなんて持ってきてないよ?」

 アイカは霧吹きを持ってきていないから帰ろうよと言わんばかりだ。

「大丈夫だよ、アイカちゃん。まだ飲み水がここに残っている。それを使えばいい」

 ザンはそういって、腰の水筒をアイカに見せる。

 二人の腰には水筒がくくりつけてある。まだ家に戻っていないので旅支度のままなのだ。

「じゃあ、俺たちは洞窟に寄っていくが、アイカ、お前はどうする? 早く帰りたいなら――」

「るーくんのいない村に急いでかえる理由はないよ。――私も一緒に行く」

「じゃ、荷物持ちだな」 リュセイアがさらっとそう言う。

「りょーかい」 そしてアイカは笑顔でそれを了承した。

「……普通、女の子に荷物持ちをさせるか?」

 ザンがボソリとそう呟いていた。


 三人は山の麓にある洞窟へとやってくる。ここで発光石と呼ばれる鉱石を採取することができるのだ。

 うっすらと壁の光る洞窟を三人は進んでいく。

「さすがに入り口付近にはもういい石はないな」

 リュセイアは洞窟の壁を見てそう呟く。

「ある程度長持ちするのが欲しければ、奥までいかないと無理だろリュセイア?」

 そういうザンにアイカが――

「あ、でもたまに入り口付近でもいいのが採れることあるよ?」

「いっそここいらの壁一体に水かけて崩すか? そうすりゃ奥に隠れているやつが顔を出すかもよ」

「おいおい、リュセイア。そんなことしたら、洞窟が崩れるかも知れないだろ?」

「仕方ない。ザンがダメっていうから、もう少し奥にいくとするか」

「ザンくんのいじわるぅ」

 ザンはやれやれといった顔でため息をついていた。

 ――リュセイアたちが洞窟の奥に進もうとしたときだった。遠くで爆発音のような音が聞こえたのと同時に、洞窟が激しく揺れだした。

「なに? 地震?」 アイカが慌てふためく。

「まずい、早くここから――」

 洞窟内での地震は崩落の危険が高い。とっさに入り口に向かおうとしたリュセイアだったが――

「! ――待てリュセイア」 ザンが入り口に向かおうとしたリュセイアの腕を取り、動きを止めた。

「ザン、何の――」 リュセイアが『何の真似だ』と言おうとした時、それは起こった。

 入り口付近の天井が崩れ、大きな岩盤が落ちてくる。ザンが止めなけば、リュセイアは岩盤の下敷きになっていたのかもしれない。

「リュセイア。とりあえず、奥に行こう。――この辺りは連鎖的に崩れるぞ」

 二度目の爆発音。リュセイアたちに、その音はかすかにしか聞こえない。だが、その音が聞こえるのと同時に、洞窟は激しく揺れる。

「アイカっ、来いっ」 戸惑うアイカの腕を取り、走り出す。

 三人は洞窟の奥へと走り出した。


 どれくらいの時間が経ったのだろう。……洞窟の揺れはおさまり、爆発音も聞こえなくなっていた。

 うっすらと洞窟の岩壁に含まれている発光石が小さな空間を照らし出す。その空間に、アイカの姿だけがあった。

 足音が聞こえ、ザンがこの空間に姿を現した。

「ダメだ。他に出口が見つからない。――リュセイアは?」

「るーくんはまだ戻ってきてないよ」

 もう一人の足音。リュセイアの足音だ。リュセイアもこの小さな空間に戻ってくる。

「入り口の方はダメだ。岩盤が何重にもなっていて、道を塞いでいる」

 どうやらリュセイアも出口を見つけられなかったようだ。

 三人は、崩落した洞窟に閉じ込められてしまった。

「……ねぇ? 私たち、どうなっちゃうの?」

 アイカの問いに、リュセイアが冷静に答える。

「誰かが来るのを待つしかないのか。誰かが発光石を取りに来て、洞窟の崩落に気付くのを」

「あっ。さっきるーくんが言ってた、水をかけて岩を崩すって方法は?」

 それは、洞窟の入り口付近でリュセイアがふざけて言っていた言葉。

「悪いな、アイカ。水で崩れるのは、発光石の混じっている岩盤だけだ。それに、本当に洞窟を崩すなら、こんな水筒の水じゃあ全然足りない」

 リュセイアが真面目にそう返す。そして、さらに言葉を続けた。

「――幸い、比較的広い空間が出来ているから、数時間は大丈夫だろうが……」

「え? 大丈夫って、何が?」 アイカにはリュセイアが何のことを言ったのかわからなかった

 ザンがリュセイアの言葉足らずな部分を説明する。

「酸素の心配さ。完全に閉じ込められている以上、酸素には限りがある。これだけ広ければそんなすぐにはどうということはないが、問題は酸素があるうちに救助がくるかどうかだ。……俺たちは誰にもここに来るって告げていないんだ」

「だ、大丈夫だよ、ザンくん。もしかすると、さっきの地震で誰かが洞窟の様子を見に来てくれるかもしれないしさ」

「リュセイア、アイカちゃん。とりあえず、限界まで入り口の方に近づいておこう。――誰かが来たら、声を出して存在を知らせないと、最悪、洞窟に入るのをあきらめて、俺たちに気付かないまま戻っていってしまうかもしれない」


 だが、三時間近くが経過しても、状況が変わることはなかった。

 そして、三人の気力も限界に近づき、三人の間に会話はなくなっていた。

「くそっ」 リュセイアが突然に岩盤に拳を叩きつける。

 だが、誰もリュセイアを責めたり止めたりはしなかった。……それは、そうすることによって気を保とうとしているのがわかっているからだ。

 そんな、限界間近のリュセイアになにかが語りかけてきた。

「力を貸してやろうか?」

「「!?」」

 リュセイアがその声を聞いたのと同時に、ザンとアイカの二人が表情を変える。

「……まさか、お前らにも聞こえたのか? ――俺の、幻聴ではないのか?」

 その声は、ここにいる三人とは違う、異質な声。

「リュセイア、お前にも聞こえたのか? この、謎の声が」

「私にも聞こえたよ。なんか、低い感じの声で、力を貸すって言ってる。聞こえたのは、るーくんのいる方」

 アイカに言われ、リュセイアはすぐに辺りを見渡すが、ザンとアイカ以外の姿は確認できない。

「どこを見ている」 声はリュセイアのすぐそばから聞こえてくる。

 ――声が聞こえたのは、リュセイアの……背中。そして、リュセイアの背中には――

「まさか、この剣が喋っているのか?」

 リュセイアは背中にある『時空法封呪』に向かってそう口にした。


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