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*作戦会議

 逃げるようにしてその場をあとにした隼人たちは立ち止まり荒い息を整える。

「どうするんだ?」

 チノパンを履いている男が隼人に尋ねた。それに隼人はしばらく悩んだあと、

「あいつのことを調べるぞ」

「まだやるのか?」

 パンツを骨盤あたりまで下げている男が眉間にしわを寄せる。

「当り前だ! このまま舐められたままでたまるか」

 拳をふるふると震わせて宙を睨み付けた。ここまで堂々とした逆恨みだと逆に感心してしまいそうになる。

「あんなガキに負けるはずねぇ」

 なんの対抗意識なのか定かではないが隼人は匠の態度にうろたえた自分自身にも多少の怒りがあった。年下の学生にいいようにあしらわれた事に腹が立つ。

 いい大人が年甲斐もなく学生にムキになる事の方がどうかと思わなくもないが、隼人は匠に嫉妬心を燃やしていた。主にその容姿にだと思われる。


***


 ──匠の父親の昭人が帰ってきた匠に軽く手を挙げる。

「おう匠!」

「ただいま」

 百九十センチはあろうかという大男は白髪交じりの短髪にくぼんだ目、引き結んだ口元はある意味かなり男前な顔立ちである。

 一階は居酒屋になっているため開店の前にここで食事をとる。

「おじゃましま~す」

 健は勝手知ったるの如く明るく発し、昭人もそれに笑顔で応えた。

「健くんいらっしゃい。何か食べる?」

「いただきまーす!」

 カウンターから続く厨房で問いかけた匠の母、すみれに満面の笑みを浮かべた。

 黒のレギンスに膝までのキュロット、くびれた腰と艶やかな黒髪──四十代だとは感じさせない肌のハリと何より、その顔立ちは息を呑むほどの美人だ。

 上品な物腰にすらりとした体型、その目元は確かに匠に似ている。むしろ、父親から少しでも遺伝子を受け継いでいるのかと疑問に感じる。

「父さん」

「うん?」

「鴨居 隼人っていう男性を知っている?」

 匠はカウンターに腰を落とすと、おもむろに昭人に尋ねてみた。

「ああ? 知らないなぁ」

 昭人はあごをさすりながら考えるが聞き覚えのない名前だった。

「匠は何がいいかしら」

「特には無いよ」

 母の問いかけに隣に座っている友達を一瞥する。健はすでに焼きそばを頬ばっていた。

「おう、そいつがどうした」

「後で説明する」

 母のすみれからカルボナーラを受け取ってフォークを手にする。

「実はさ~──」

 健は焼きそばを食べながらこれまでの経緯を語り始めた。



 ──そうして、説明を聞き終えた昭人は眉を寄せる。

「そういうことか」

「面白い方ね」

 すみれは上品にころころと笑った。健は二品目のピザを食べて同じく笑みで返す。

「その子、うちに連れてきてもよろしくてよ」

 柔らかな物腰で発した。繊細でか弱いイメージを持つ彼女だがよく考えてみよう。彼女はこの男と結婚し、常に夫をリードしている。

 芯はかなりの太さと強度を保っているに違いない。

「それよりも、健は常に身軽にしておくようにね」

 匠は少し思案して口を開いた。

「おう! 解った」

「そいつが襲ってくると?」

 昭人は息子の言葉に目を眇める。

「その可能性はあるでしょう」

「そうね」とすみれ。

「そいつのことは調べておこう」

「お願い」

「んじゃトレーニングしようぜ~」

 食べ終わった健は嬉しそうに立ち上がって匠にあごで示した。健は柔道の黒帯保持者だ。その彼と互角、いやそれ以上に組み合える匠は有段者ではない。

 数時間ほど地下で組み手やトレーニングをし、健はシャワーを浴びて寮に帰っていった。



 ──次の朝、健と匠は教室で談笑をしていた。

「匠~、ここの化学式わかんないんだけど」

 クラスメイトの男子が困ったようにノートを差し出してきた。

「ん?」

「サンキュ!」

 さして関心もなさそうに書き出し、男子生徒はノートを受け取る。

「式を見て理解はした方がいいよ」

「うっ」

 目を向けずに応えられ、「うぐっ!」と喉を詰まらせて頭をかいた。気さくには対応してくれるが、そこから何も見い出さない者は自己責任であると匠は名言している。

「そういえば、またIQテストだって?」

「うん」

 健が思い出したように問いかけると、匠は少しうんざりしたような表情を浮かべた。

「たまには真面目に受けてやればいいのに」

「面倒だ。第三者に公表した処で私自身にはさしたる得はない」

「大学にも行かないんだろ?」

「うん。大学に行く理由が私には無いからね」

「マッドサイエンティストとかになれば?」

 健がその言葉の意味をちゃんと理解して発したとは思えないが、匠はそんな所には関心を示さない。どちらかと言えば──

「それはそれで大変なんだよ。いかに捕まらないように続けていくのかをまず考えないと」

「そか~」

 健は納得したようだが、それを聞いていた周りの生徒たちは本気なのか冗談なのかを計りかねた。

 周防 匠という人物とは、そう易々とは付き合いきれない。容姿も頭脳も申し分ないのに敬遠されるのはそこにある。

 中学の時にその才能が世に知られる事となり、どこの学校も匠の獲得に躍起になった。この学園を選んだのは匠本人で、その理由は学園長もよく解ってはいない。

 匠はある程度、この学園では自由にさせてもらっている。彼の行動力で学園が賑やかになる事もしばしばだ。

 もちろん、彼の傍若無人ぶりに怒りをたぎらせる者もいない訳ではないが、結局は上手く丸め込まれてしまう。

 一年からの付き合いである城島 健が唯一、彼と普通に接する事が出来る貴重な人材だ。運動バカだがそこがいいのかもしれない。深く考える性格では匠に振り回されるだけだからだ。

 否、振り回されているのに気がついていない幸せ者かもしれない。とはいえ、匠の思惑に楽しく乗っかっている時点で不幸などではない。

 女子の間で二人は何か良からぬ妄想をされている。無理もないかもしれない、匠は細身で百七十二センチのスラリとした美形で方や健は百七十五センチのガッシリした体格で顔も悪くない。

 ただの天才バカと馬鹿だが、ネタとして見ればこれほど腐った思考のまとは存在しないだろう。

 敬遠されてはいるが彼は間違いなく、「愛されるべき人物」なのだと言える。

 それはさておき明日は土曜日。隼人たちと匠たちはお互いどういった動きを見せるのだろうか──?

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