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*朝のひととき

 午前八時──平日の朝は誰も彼もが忙しなく行き交う。それは学生である彼らも同様である。

 可愛い小鳥のさえずりのなか、草色のブレザーの裾を揺らして女子も男子も校内に吸い込まれていく。

 私立である尾世ヶ瀬(およがせ)学園は高等部のみの学舎まなびやだ。

「おい! そこのお前!」

 濃い紫のスーツを着た二十代後半ほどと思われる男が目の前を通り過ぎる一人の男子生徒を乱暴に呼び止めた。

「なんでしょう」

 その男子学生は立ち止まり、さしたる関心も見せず無表情に問いかける。平静を装っているだけなのかとも考えたが、振り向いた少年は男でも戸惑う程の容姿をしていた。

 切れ長の涼しげな瞳に鼻筋は通り、形の良い唇は艶っぽく背中までの黒髪を後ろで一つに束ねてすらりとした体型は少年を魅力的に現し、色っぽい気さえしてくる。

「この学校に城島きじま けんって奴がいるだろう。そいつ連れてこい」

 男に見とれている場合じゃないと気を取り直し、茶色に染めた短髪をかきあげて睨みを利かせる。

「それは何年生でしょうか。男性か女性かも教えていただければ有り難い」

 少年はあれだけ睨んできた男に怯える風でもなく小首をかしげた。そんな仕草ですら上品に見えて男はなんだか悔しい。

「何年かなんて知らねぇよ! 男に決まってんだろ。名前で解れよ」

 随分と度胸の据わった奴だなとさらに強く睨みつけた。しかし、

「名前で性別は解りません。山ではメスの熊に男の名前を付けるでしょう。あれは山の神が嫉妬しないためです」

「熊の話はいいんだよ! とにかく連れてこいって!」

 なんでこう、淡々と返してきやがるんだよこいつ。

 男は少年の図太さに呆れながらも「こいつ馬鹿なんじゃないだろうか」と若干の恐怖を感じていた。

「だから、何年生なのかを教えていただけないと──」

 少年は困ったように眉を寄せて男を見つめた。

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