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朝比奈楓は呪われてしまった!


 小さい頃の私は昔はゲームが大好きだった。

 どんくさい私の代わりにお気に入りのキャラクターが活動的に動くのをみて楽しいと感じて。

 何をやっても上手くいかない私が勝つ事ができた唯一の遊びだった。


 私は強かった。

 負けない事が私の自信になっていた。

 皆が強いと褒めてくれた。

 私もそれが嬉しかった。


 でも、いつからだったろう。

 強いという事が私からゲームを奪っていった。

 それは思い出してみれば、振り返ってみれば、自分のせいなのです。


 私は強かった。

 いつからか私の周りから友達がいなくなった。

 皆が私の強さを褒めてくれなくなった。

 私はそれがどうしてかわからなかった。


 小学生の頃に好きな男の子がいた。

 勉強もできて、スポーツもできて、皆の人気者だった。

 人より優れているという事は、それだけで皆に好かれるのだと私は思っていた。

 そう勘違いしてしまっていた。

 ある時にクラスの皆で集まってゲームをする事になった。

 その子はゲームも上手かった。

 でも、私ほど強くなかった。


 私は勝った。

 一勝目は皆も笑っていた。

 彼も皆の中では一番強かったから、私に再戦を挑んできた。

 皆の人気者よりも私は強く、この時の私は一番その中で優れていると思ってしまった。

 何連勝目からか皆から笑顔が消えていった。

 男の子は涙目になっていた。

 私は強かった、誰よりも強すぎた(・・・・・・・・)

 以後、私は男子達に遊びに誘われる事はなくなった。

 しかし、多感な時期でもあったのでそれは当然の事のように思ってしまっていた。

 以降、その男の子と私は会話する事は無く。私の初恋もまた風化していった。


 原因に気がついたのは中学に上がってすぐだった。

 兄とゲームをしていた時に言われた『お前と遊んでいても、面白くない』という言葉。

 その言葉の意味を私は理解できずに『どうして?』と聞き返してしまった。

 兄は答えた『お前は強すぎて一回も勝てない、勝てる気さえしない』と。


 だから私は答えた『わざと負けてあげようか?』と、それは悪気も何もなく、何も考えないで言った一言だった。

 兄は怒りとも悲しみともつかない顔で私に宣言した『お前とは二度とやらない』と。

 私には兄の気持ちが理解できなかった。

 勝てないならば練習して強くなればいい、強く、もっと強く、誰にも負けないように、他者を引き離すように。


 そこまで考えてやっと気がついた。

 私は強くて、強すぎて、いつからかゲームをする相手に対して高慢な態度を取っていたのだと。

 皆が他者と繋がるために遊ぶ、その手段であるゲーム、それは楽しいと両者が思って初めて成立する。

 強いという事は悪くない、でも私はその強さを他者にも押し付けてしまっていたのだ。


 私は強かった。

 強かったからこそ私は他者を引き離し、皆は私から離れていった。

 それから私はゲームから離れ、皆に合わせるように、出来るだけ目立たないようにしていた。

 知らない誰かか、勝ってもいい(・・・・・・)と言われてる時以外は勝たないようにした、強いと思われないようにしていた。


 でも、今回は違う。

 響ちゃんは私の強さを知っているし、響ちゃんはゲームを始めたばかりだ。

 私が勝ってしまったら響ちゃんはゲームを嫌いになってしまうかもしれない。けれど私がわざと負けるのはあからさまな気がする。

 もしも、これで響ちゃんに嫌われでもしたら私はどうしたらいいのかわからなくなってしまう。


「楓ちゃんどうしたの?」


 響ちゃんが可愛い笑顔で小首をかしげた。

 猿渡さんが言ってた新しいプレイヤーを育てるっていう言葉の意味はわかるけれど、それを実績するにはどうしたら良いかわからなくなっていた。

 そんな時に席にすわれないで固まっている私の背中を、猿渡さんが強く叩いた。


「痛い! 何をするんですか!!」


「楓、響に各の違いを見せ付けてやれ!!」


 勝っても良いとお墨付きを貰った。

 私は勝っても良いのだろうか、それは響ちゃんの心を折る事になるんじゃないだろうか。

 でも、私は手加減とか器用な事はできない。

 それならばスイッチを入れろ。


「よろしくね~」


 響ちゃんの言葉をぼんやりと耳にしながら、私は主人公である滝上を選択した。

 それから数戦、私は負けるどころか何ラウンドかはパーフェクト(※1)を収めて勝利した。

 多少は手加減したつもりだけど、ちゃんと出来ていたかどうかはわからないまま、赤西先輩と交代した。

 席を立つ時、響ちゃんは私に言ってくれた。


「強いね~」


 その言葉を笑顔で。

 いつか小さい頃に見て、聞いた光景で、久しぶりに強いという事を純粋に誉められた。


「やっぱり強いのね~。でも、試合ではあなたの勝ちだけど。ゲームとして勝ったのは響ちゃんね」


 猿渡先輩が不思議な事を言う。

 意味不明だけど、それでいて私は答えがわかっている気がする。

 『うわー、また負けたー』と楽しそうに言う響ちゃんの姿は私の知っている負けた人の姿じゃなかった。


「勝敗はあるけど、ゲームは楽しんだ人が勝ち。格闘ゲームは台と台を挟んで、見も知らないと人とそれを競い合う事よ。私はそれはもう対話に近いと思ってるわ」


 猿渡先輩は穏やかな笑顔で続ける。


「真剣勝負を追い求めてる人、強さを追求する人、手加減したらかえって怒る人もいる。逆に単純にゲームを長く楽しみたい人もいるし、初心者の中には強い人は手加減してほしいと思う人もいる。格闘ゲームはプレイヤーどおしの無言の対話みたいな物よ」


「だから時には喧嘩になって灰皿飛んでくる(※2)よな」


「さすがに最近は無いわよ」


 猿渡先輩の話を聞いて私はやっと理解した。

 昔の私は強さという声をあらげるだけだったんだ、だから皆は離れていった。

 でも、今は大きな声を出してもいい場所が私には与えられて。

 大きい声を出してもフォローしてくれる先輩達がいるんだ。


「私、これからも勝ってもいいんですか?」


「嫌味かよ、ぜってーぶっ倒すからな!」


「あうー、余所見されても負けちゃう!」


「いいや、響は筋がいいからすぐに私に追いつくよ。私を憎むがいい、それがお前の糧となる!」


「はい!!」


 負け続けても笑っていて、悔しいと思っている。

 確かに今の響ちゃんに私が勝負じゃなくてゲームで勝つ事はできそうにない。


「先輩! 私、これから頑張りますから!!」


 言葉の意味は自分でもわからないけど、火がついた私の気持ちが自然に決起表明を口にしていた。 

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