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アルティメットウシミツアリーナ

「完成、響ちゃんコントローラー。略してヒビコン!」


 昨日、響ちゃんが買ったコントローラーを赤西先輩がレバーとボタンと天板をした。

 部活としてゲームはほとんどやってなくて、昨日の話の続きみたいなものになってしまった。


 正直なところ、私は赤西先輩が言ったように何を使っても実力派変わらないと思っている。

 それこそアケコンでもパッドでも実力に差なんてない。

 本当に強い人は、どう(・・・・・・・・・・)したって強いんだ。(・・・・・・・・・)


 赤西さんもそれは同意見らしいのだけど、コントローラーをカスタマイズしてる時はめちゃくちゃイキイキしていた。

 ちなみに響ちゃんのコントローラーはデェズニィーのキャラクターが惜しげも無く描かれている。

 公の場に持っていったら大変な事になりそう……。


「ありがとうございます赤西先輩! よーし、じゃあこれで私も格闘ゲーム頑張ります。あの筋肉モリモリマッチョマンがいっぱいでるゲームするんですか?」


 響ちゃんの言ってるのはスバ4の事だよね。

 初めて格闘ゲームに触れるならちょうどいいよね。


「ん、違いますわ~。響ちゃんにはまずこれを触ってもらおうかしら~」


 猿渡先輩が出してきたのはカメン4アルティメットウシミツアリーナ(※1)だった。

 なんとボタンを連打しているだけで必殺技から超必殺技へと繋がる画期的なシステムを搭載しているゲーム。

 なのですが。


「あの……あの……」


 私は言葉に詰まってしまう。

 ボタンを連打すればそこまで自動でやってくれるっていう事は、コマンドの入力の重要性や、キャンセル(※2)なんかの基礎技術が身につかないと思う。


 もちろん、格闘ゲームである以上はこのゲームにだってそれらの要素はあるし、重要だ。

 だけど初心者が触るにはお手軽すぎて、技術がなかなか育たないと思う。


「どうしたの楓ちゃん」


「あの……猿渡先輩、確かにそのゲームは触りやすいとは思いますけど。最初に触れちゃうと技術がおろそかになっちゃうと思います。システムもちょっと特殊ですし」


「そ~ね~。ちょっと手軽すぎるゲームで技術を伸ばすって意味じゃ初心者にはあわないのかもね~」


「ででで、ですよね!」


 格闘ゲームが強くなるにはいろいろなやり方がもちろんある。

 だけど、どんな手段があるにしても練習するしかない。

 それを考えるなら基礎的な要素がしっかりとしたゲームの方が良いに決まっている。

 正確なコマンドを覚えるために入力がシビアなゲームを。

 キャラクターの長所と短所がとがっており、戦い方を学べるものを。

 良いゲームではあるけど、このゲームはそういう点が大味なのだ。


 ボタン連打である程度の行動が出来てしまうというのは初心者には優しいが、裏を返せば初心者から脱却し難いという事。

 適度な満足感はぬるま湯のように、ストイックな思考を奪ってしまう。


「楓ちゃん的には、底が浅いって思っちゃってるのかな~」


「え、え、……はい」


 この底が浅いっていうのは貶しているわけではなく、長所でもある。

 特別上級ってわけでなければすぐに初級から脱却できるゲームバランスであるという事。

 問題なのは、その浅さから、他のゲームをする時にフィードバックする事があまりなのだ。


「でもね、それは楓ちゃんが強いから、楓ちゃんがゲームを知っているから、そう言えるのよ。誰だって、どんな物に触れる時だって、最初はまず。楽しいって思えないと」


 猿渡先輩が笑顔でそう言って、楓ちゃんを見るように促す。

 楓ちゃんは目を爛々と輝かせていた。


「このゲームって学生がいっぱいですね。あ、何このキャラ。可愛い~」


「おう、これは別のゲームのスピンオフなんだ。アニメにもなってるから興味あるならDVD持ってるから貸してあげるよ」


「私、このオサルにします!」


 楓ちゃんは初心者が使うにはちょっとクセのあるキャラクターをチョイスした。

 私がアドバイスしてたら、まず最初には選ばせないキャラクターだ。


「新しいプレイヤーでもファンでもそう。知っている人からしたら『どうしてわからない』とか『にわか』って思っちゃうかもしれないけど、誰も最初はそうなのよ。新しい人達は受け入れるんじゃなく、育ててあげないと(・・・・・・・・・)


 そう言って猿渡さんは笑った。

 同じように響ちゃんも笑っていた。


「あはは、バッドふってる~」


 動かし方の基本は今までの部活で知っている。

 でも、それを試すっていうわけじゃなくて、ただ単純にキャラクターの動作に反応して楽しんでいる。

 赤西先輩もそれを見て笑ってる。


「ねぇねぇ、楓ちゃん対戦しようよ」


 響ちゃんの言葉に私は首を縦に振り。

 赤西先輩が席を私に譲ってくれる。

 隣に座って、そこで私の頭は真っ白になる。


 勝ってはいけない。


 呪いのような刷り込みが再び私を蝕んだ。

※1 元ネタは『ペルソナ4 ジ・アルティメット・イン・マヨナカアリーナ』ペルソナ4のゲームの後日談的な位置づけのストーリーを軸にしており、劇中でも説明した連打コンというボタン連打だけで派手な技が繋がるのが爽快感になっているゲーム。中級者以上になるとそれ意外にも普通のキャンセル操作や連続技、体力ゲージなどを気にしてKOをもぎ取る覚醒飛ばしという戦術が必要になってくる。

格闘ゲームという物をある程度理解していれば上達は早い方だと筆者的には思う。


※2 キャンセルとは特定の行動の隙を省略して必殺技を繋げる行為の事を言う。またこれらの流れをコンボという。

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