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棒と玉と押して気持ちの良いところ(後編)

※1 基盤とはビデオゲーム筐体に差し込むカセットのような物であり、物によっては本当にカセットの形をしているが、とても大きい。ちょっとした重箱くらいはある。


※2 名前を文字っているが、実際には三和電子という会社名である。アーケードではこの三和のボタンが使われている事が多い。


※3 名前をもじっているが実際にはHORI電気という社名である。家庭用ゲーム機のコントローラー全般を扱っており、輝くHORIのロゴはどこかで見た事があるのではないだろうか。本当にいろいろな周辺機器を手がけ、たまに受注生産までこなす。


※4 名前がもじってあり、本来の社名はセイミツ工業。本文中にもあるように押し心地、レバーの倒し心地が硬い。面沢はここの製品を愛用している。


※5 リアルアーケードプロの略称である、本来一般的に使う略称はRAP。最近は格闘ゲームのとろ火ながらの再燃もあり、比較的見かける事ができるが一時は常に品薄であった。現行のアケコンのスタンダードとも言える。レバーが三和の場合はRAPSA、セイミツの場合はRAPSEと区別される。値段は大体一万五千円。ちなみに劇中のクャンバは実際にはクァンバという。中国産であり、一般流通はしていないが個人輸入の店ではわりと見かける。他にも海外の周辺機器メーカーにMADCatSというメーカーがあり、通称は猫スティック。現行の日本のプロゲーマーはこのマッドキャッツがスポンサーである事が多い。


※6 イカ娘は可愛い。こういった改造を施すと保証は切れてしまうのでご利用は計画的に。




「すごい、こういうお店もあるんですね」


 さすがに驚いて私は声をあげてしまった。

 目の前にはアーケドスティックや基盤(※1)果てはボタンやレバーまで売っているのだ。

 専門の問屋さんって事なのだろうけど、いわゆる大手のゲームショップにしか入った事の無い私にはちょっとショックだった。


「これってゲームセンターにある奴ですよね、皆さんがいつも使っている奴もありますけど」


「そう、これをアケコンって言うんだよ」


「どれも何か違いがあるんですか?」


「形とか重さとか、あと当然だけど機種が違う。楓ちゃんはこの辺りから選ぶといいよ」


 青山さんに説明を受けているけれど、楓ちゃんはピンとくるはずも無く、うんうんと唸りながらアケコンの箱を持っては眺めるを繰り返している。

 狭い店内には二人組の男の人もいたけれど、私達五人の様子に少し戸惑ってるようだった。


「これ、かっこいい刃って書いてある」


「それはクャンバっていう中国のアケコンだよ、凄い事に三機種で使える。レバーもボタンも四和(※2)だよ」


「何か違いがあるんですか?」


「んーと、こういうの出してるメーカーに大手三社があって、ORI電子(※3)、四和企画、チミツ(※4)ってあって。それぞれ触った感覚が違うんだ」


「そうなんですか?」


 青山先輩にまたスイッチが入っちゃったようで、生き生きとした様子で説明が始まる。

 それはもはや私の持っている知識を大きく越えていた。


「ORI電子はラップ(※5)っていう今のところスタンダードなアケコンっていうかゲーム周辺機器を作ってる最大手。レバーは四和のを使っているんだけどボタンはORI製。ORIのボタンは戻りに変なクセがあるのと押し心地が重いのよ。押し心地が重くても戻りに勢いがあって押した感じが気持ち良いのはチミツのボタン、押し心地が軽いのが四和企画かな」


「は、はい?」


「四和企画の製品は基本的な動かした感じがマイルドだから雑な操作にも対応してくれるのがいいわ。ORI製品だとこうはいかないから。逆にチミツはしかkりとした入力に適してるから少し蔵人向けかも、もともとチミツのレバーはシューティング向けのレバーで」


「きゅ、きゅう」


 楓ちゃんの頭から煙が出ているように見える。

 私も名前は聞いた事があるけど、そこまで細かな違いがあるとは思ってなかったから驚きである。

 それにしても青山さんも残念美人だったという事が、私にはちょっとショックだった。


「まぁボタンにもレバーにもいろいろとあるって事を今は覚えておいてくれればいいのよ。それにボタンもレバーも換装できるんだから」


 猿渡先輩が言葉を失っている楓ちゃんを優しく諭し、それを見た青山先輩がいけないいけないと咳払いをする。


「まぁ、多少の違いはあっても使う道具で強くなるわけじゃないから。何を使っても変わらないよ。レベルをあげてクリアできるとか初心者への救済措置なんて基本的にはない。実力だけは嘘をつけない、そういう世界だよ」


 今まで格闘ゲームをやってきた私にとって、赤西先輩のその言葉は重いものだった。

 どうしたって強くなるには練習するしかなく、強くなったらもう弱かった頃には戻れないのだ。

 道具や何かで誤魔化す事はできないし、触れた時間は嘘をつかない。


「そんな事を言って赤西さん、タイガーさんが一番こだわっているじゃないですか」


「えっ、そうなんですか?」


 楓ちゃんが猿渡先輩の言葉に食いつき、赤西さんが顔を真っ赤にしてやめろぉと猿渡先輩を止める。


「部室では無機質なド硬派な奴を使ってますけど、タイガーさんの家でのアケコンってばこんなに可愛いのよ」





挿絵(By みてみん)





 猿渡先輩が差し出した携帯には、ピンクのレバーにピンクのボタン。天板には可愛らしいキャラクター(※6)がカスタマイズされていた。

 こ、これを豪胆で、学校にスポーツ自転車で通うようなオットコマエな赤西先輩が使っているのだろうか。


「もぅ、見せないでって言ったのに~」


 へなへなと力無く座り込む赤西先輩。

 どうやら意外とこの人は乙女チックらしい、きっと私よりも。


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