棒と玉と押して気持ちの良いところ(中編)
弱電とは。
弱電とは弱電流工学の略称であり主に電気的な信号を伝えたり、あるいはその電気信号で何らかの機器を制御することなどを指し、信号を伝えるためのものを弱電線として扱う。
要するに、電子工作の機器総称であったりするのだ。
コードを使い通電させる、ボタン操作などその最たる例であり、知識に精通すればボードを見て通電範囲を認識する事さえできる。
青山先輩は店頭のモニターを借りて、ゲーム機の動作をチェックすると、うんうんと唸りだした。
口元には怪しい笑みを浮かべている。
パッと見ならファッション雑誌の読者モデルにもなれそうなくらい美人なのに、その面影は一切ない。
というかちょっと恐い。
「メニューまで起動するなら十分イケるかな。それじゃあ、これを買って行きましょう」
「え、大丈夫なんですか?」
ジャンク品っていうのは機動の保証はしない、その点を考えると起動するだけでもいいのだろうけど、例えばコントローラー操作ができなかったりとか、ゲームディスクが読み込まないとかいろいろ問題があるはずなのである。
でも、私の心配をよそに青山先輩は大丈夫と言い切った。
「よっしゃ、響ちゃん良かったじゃん」
「はい!」
赤西先輩の言葉に元気に応える響ちゃん。
青山先輩の事を信じてないわけじゃないけど、それでも五百円なら失敗してもいいのかもしれない。
「それじゃ、アケコン(※1)を買いにいきましょうか」
「え、まだ買うものがあるんですか?」
「格ゲーやるなら、パッド(※2)もいいけどアケコンがないとね」
「あと、当然だけどソフトもね」
まるで新興宗教とか、怪しい壺でも買わされるように、二人のなすがままに連れて行かれる響ちゃん。
こうやって改めて考えると格闘ゲームって始めるのに結構、お金がかかるんだなぁ。
私はそのあたりは全部お兄ちゃんが揃えてたから気にもしてなかった。
「でも、スティックって売ってるんですか? ああいうのって何か新作のゲームが出た時にちょっとお店に入荷するだけだと思ってたんですけど」
私の質問に青山先輩は先ほどの危険な笑顔なんて無かったように優しく微笑む。
「大丈夫、そのための秋葉原なんだから」
(※1) アーケードスティックコントローラーの略称で、人によってはスティックとも呼ぶ。劇中では楓はスティックと読んでいます。
レバーボールとレバー、そして六か八のボタン数がついた箱状のコントローラー。
ゲームセンターにあるビデオゲーム筐体の操作部分を小さくまとめたような代物です。
(※2) 所謂ゲーム機の普通のコントローラーです。格闘ゲームをやる人種は総じてパッドと呼び、パッドでの操作の方が得意な人をパッド勢と呼びます。
劇中でも楓が言ったようにアケコンが基本的に品薄である事や、次回取り上げる話題が原因でもあるのですが、新作のゲームが出てもアケコンでやらずパッドで遊んだり練習したりするために人種としてわかれてしまいました。
基本的に違いはありませんが、パッドに慣れすぎるとアケコンのレバー操作がおぼつかなくなるというデメリットがあります。
しかし、ダッシュ入力はパットの方が出しやすいという利点などもあるようです。