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棒と玉と押して気持ちの良いところ(前編)


 秋葉原!

 昔は日本一の電気街として有名だったそうですけど、私はその頃の話は知りません。

 私の知っている秋葉原はアニメとメイドとえっちな本のお店の街です。

 ほらぁ! 裏通りに入ればたわわに実ったおっぱいを投げ出したようなフィギュアのポスターが!!

 おっきくていいなぁ……。


「オホホ。タイガーさん、これはエロいですね」


「デキいいね、でもちょっと胸強調しすぎだよね。でも、どうしようかなー。モンちゃんは買うんでしょ?」


「買っちゃいますね~」


 か、買うんだ!?

 格闘ゲーム部に入ってから一緒にゲームはしてるけどまだ三人の先輩方の事はよくわかって……。


「私は楓ちゃんくらいの大きさがいい」


「私もそれは否定はしないですけどやっぱり、いろんなモノを挟んだり、挟んで上下運動できた方がいいじゃない。そういう意味では響さんは将来性があると思うわー」


「自分がもういいモンもってるじゃん」


「それとこれは別よ」


 遠慮の無い声の大きさで赤西先輩は私の胸を指差しながら言って、猿渡先輩は響ちゃんの胸を指さしながら言う。

 休日だからちょっと人に見られてるんですけど!?

 ただでなくても美人で私服もトレンディードラマから飛び出してきたような大人しくもオシャレな青山先輩、制服の上からではよくわからなかったけどさっきのフィギュアみたいにおっきなおっぱいの猿渡先輩、ていうか胸だけじゃなくすごいスタイル良い。

 派手なジャージに眼鏡に金髪パイナップルヘアの赤西先輩はもう、そのものが目立ってる。

 そんな一団だからただでなくても注目されて恥ずかしいのに。

 ところで……さりげなく私には成長性が無いって言われてあばばばばばば……。


「ちょっと、やめてください二人共。こんな道端で」


 青山先輩がふたりをたしなめるけど、響ちゃんは『はさむって何をですか?』と純粋に聞いてる。

 わからないんだ、響ちゃん。


「「ナニをだよ!!」」


 正しいけど、正しくない説明をユニゾンしてまで言う赤西先輩と猿渡先輩。

 この二人の正体は女子高生姿をしたただのオッサンなんじゃないかな……。

 ほら、響ちゃんがキョトーンとしてる。

 っていうかわかちゃう私の方がもしかして?

 ううん、違う違う! 男兄弟がいるんだから普通、普通だよ!!


「私、秋葉原ってはじめて来ましたけど、本当にメイドさんがいっぱいいるんですね」


「響ちゃんって来た事なかったんだ」


「うん、テレビで見て凄いなーって思ってたけど。私ってアニメとか漫画とか詳しくないし」


「私もだよ」


「そういう意味では私もなんだけどね」


 私も言うほど多く来た事は無いんだけどね、私もそういうのよくわからないし。

 お兄ちゃん達の付き添いとかそういうので来て、お昼にラーメンを食べるってイメージの方が強い。

 でも青山先輩も、詳しくないってのはちょっと驚き。

 赤西先輩と猿渡先輩と同じような感じなんだとばかり、青山先輩はとがってなくていいなぁ。


「ま、今日はそういう店には行かないけどね」


 少し残念そうに赤西先輩が言う。

 今日は響ちゃんの使うゲーム機を買いに来のが目的なのだから、その辺りは先輩方もわきまえているらしい。


「はい! 私、ちょっとよくわからないんでよろしくお願いします!!」




 ・・・・・・




「高い!! 高いですよ先輩!!」


「ひ、響ちゃん落ち着いて!!」


 ゲーム機本体がおよそ二万五千円、それに対して響ちゃんの財布の中身が二万円。

 この残酷な現実を前にして、響ちゃんの精神(こころ)は崩壊した。


「知識が無いと仕方ないかな」


「ううっ、すいません先輩。せっかくのお休みに時間を作ってもらったのに……」


 ガックリと肩を落とす響ちゃんだったけど、そんな響ちゃんを励ますように猿渡先輩が響きちゃんのその肩をポンと叩く。


「新品じゃなくてもいいなら、安いのがあるから大丈夫よ。新品じゃなくてもいい?」


「はい、大丈夫です」


「ならこれでいいんじゃないか、型は古いけど五百円だぜ」


 いやいや、急にグレードダウンしすぎですよ赤西先輩!

 っていうか五百円って、思いっきりジャンク品(※1)って書いてあるじゃないですか!!


「わぁ、とっても安い!!」


 ほら何もわからない響ちゃんが素敵な笑顔になっちゃってる!

 この顔がまた沈むと思うともう見てらんない!!


「可愛い後輩のためだし、久しぶりにたのむよ勇美ちゃん」


「いいけど……これをどうにかできるかわからないよ? ちょっと聞いてはみるよ」


 青山先輩はそう言ってお店の人と少し話しを始めたかと思うと、上着を脱いで、可愛らしい木網のショルダーバックの中からおもむろに使い込まれた工具袋を取り出して腰に巻きつける。

 ……えっ?


「お久しぶりに見れそうだな」


「勇美の弱電女子力!!」


 私が聞いた事の無い女子力をさも当然のように二人の先輩は宣言した。

 やっぱりまともな先輩はいないようだった。


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