スーパーソニックジェットガール
憂鬱。
メンタルのあまり強くない私は昨日の響ちゃんの対応にドン引きしたままだった。
別に響ちゃんを悪く言うつもりは無くて、響ちゃんにはむしろありがとうを言いたいくらい。
それくらい困ってしたのは確かだった。
きっと私だけだったらあのままなし崩しに入部していたと思う。
困っていた。
……のは間違いないけど、それもいいかなと思っていた私がいたのだ。
格闘ゲームは好き。
それは間違いないけど、自分の趣味で、手の届く範囲でいい。
たかがゲームなんだし、一生懸命やったらゲームがたのしめなくなってしまう。
「あれ、昨日の?」
と、思っていたらバスに知った先輩が乗ってきた。
昨日、知り合ったばかりの先輩が乗ってきた。
確か青山先輩だ。
「おはよう、同じバスなのね」
「あ……あの……おはおようございます……」
「バス通なの?」
「あ……いえ……その……あの……」
「?」
私の様子に小首をかしげる青山先輩。
上手く喋れない。
ただでなくても喋るのが苦手なのに、昨日の事が悪いと思って話せなくなってしまう。
あれだ、私は貝になりたい。
ちょうど今、そんな気持ち。
「もしかして昨日の事を気にしてるならいいっスよ。一昨年も新入部員がいなかったみたいなんで、まぁ覚悟はしてたから」
あれっ?
一昨年?
「も、も、もしかして……二年生なんですか?」
「そうよ。三年周期で赤白緑でリボンの色が変わるのよ。えっと……そう! 朝比奈さんだ! で、朝比奈さんがっしている赤のリボンは去年の三年の先輩がつけてたの。で、私は白だから二年ってわけ」
丁寧な説明でした。
色が違うくらいは知ってたけど、学年の分け方は知らなかったです。
「ぶ、部長さんっていうから三年生だと……」
「いやー、一昨年に入部者がいなかったから三年生が卒業しちゃって二年生不在でしょ。だから一年生だった私達に回ってきちゃったのよ」
人なつっこい笑顔で青山先輩は笑った。
「だから本当に気にしなくていいっスよ、まぁなんとかなるから」
「あの……その……すいません」
つい謝ってしまった。
良い人なのに、良い人だから申し訳ない。
悪くないんだろうけど、つい言葉に出てしまう。
空気が重くなってしまう。
青山先輩は気にしてないんだろうけど、なんだか私は居ずらくなってしまう。
でも、学校に向かうっていうのに途中で降りるのも変すぎるし。
そんな事したら、青山先輩が『私、変な事を言ったかしら』って気にしちゃうかもしれない。
どうしよう、あばばばばばば!
「あ、昨日の金髪の子を覚えてます?」
「は……はい! ……赤西先輩……ですよね?」
「見えて来たよ」
見えてきた?
次のバス停から乗って来るんだろうか。
でも、この席の角度からではバス停は見えないし、次から乗るとしたら見えてきたなんて言うのだろうか?
「ほら、あれ」
青山先輩はバスの外、後方を指さす。
すると通学用とは思えない自転車で派手なヘルメットを被り、上はセーラー服で下はスパッツという奇抜すぎる格好で自転車を激コギする赤西先輩が迫って来た。
迫るどころか抜いて行きました。
抜き去る時にピッとハンドサインをして見せつけます。
でもその顔ときたら明らかに辛そうです、朝からご苦労様です。
「……すっごいですね」
「まぁ、変態よね」
精一杯上手くとりつくろったけど青山先輩は言い切った。
そうとしか言えないスタイルだから納得せざるを得なかった。
何者でしょうか、アレは。
「学校じゃもう有名なのよね、というか赤西さんのおかげでうちの部活が余計に色物扱いされてるのはいなめないわ……」
それは部活紹介でも見せた哀愁ただよう姿だった。
「私の周りはバス通いないから、あれを毎朝見るのが日課みたいなもんなんだけど。見慣れてるけど見慣れないねあれわ」
ちょっと寂しそうな様子だった。
何と無く気持ちはわかった。
「ああの……電車とバスか……どっちも使ってみて……決めようって思ってて……今日はバスにしたんです……」
「そうだったんスか」
「でも……青山さんいるなら……バスにしようかな……」
「え、本当に。いやー、アレ以外の楽しみが増えるのは嬉しいわ」
「あ……あはは……」
青山先輩は嬉しそうに笑う。
私はぎこちなく笑う。
苦しそうな顔で必死になって自転車をのペダルを回しまくる赤西さんはお世辞にも綺麗とは言えない顔でした。
普通とはとても言えない有様でした。
でも、表情だけなら私と青山先輩の方が近いけど、本質は青山先輩と赤西先輩の方が近いだろう。
嬉しそうな笑顔と辛そうな笑顔、どちらも正直な楽しそうな笑顔だった。
私のは愛想笑い、笑顔でさえ自分に嘘をついているようだった。