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湊中央高校VS聖矢代女学院 練習試合三回戦 赤西VS能登(後編)


 赤西先輩はブラフで戦う。

 昨日の私はその言葉の意味がわからなかっただろう。

 でも、今ならわかる。


 駆け引きがでいないと見せかけてできる。

 操作が安定していないと見せかけて、安定している。

 攻めるようで、攻めない。

 逆もしかり。

 操作技術よりも、赤西先輩はマインドゲームで試合の流れをコントロールしていた。


 油断から、頭を切り替えての三本目。

 赤西先輩の実力をわかったのだから、能登さんももう慢心はしないだろう。

 おそらく実力伯仲のこのラウンド、ブラフをしかける要素は無いにもかかわらず、赤西先輩がどんな事をするのか私は注目していた。


『最初のラウンドを捨てての心理戦は大したものね、あなたは強い。でも、それならそれだけの対応をするだけよ。そういう小細工に頼るあたり、地力に自信がないのでしょう。別にこっちあkら攻めきってしまえばいい』


『って思うんだろ?』


 そんな能登さんの心理からくる速攻に対応する赤西先輩。

 来るとわかれば対処なんて容易いのだ。

 動きを気にしない、自分のペースで動く。という事は逆に考えれば、そのペースの動きを誘導されているという事だ。

 周りからはともかく、実際に戦っている本人はそれに気がつけない。それは熱くならず、冷静であればあるほどに、その自分の違和感に気がつけないのだ。

 冷静だからこそ、動きが読まれたと警戒し、守りを固めてしまう。自ら動かなければこの局面を変えられないというのに。


『攻めてこないからこっちからいくぜ!』


 最初のラウンドのお株を奪うように、中距離からの牽制。

 体力的にはまださほど差がないというのに、能登さんがキャラクターを通して必要以上に焦っているのがみてとれる。


『焦るな、まずは防御を固めて、反撃の機会を……』


 その隙間を縫うように、防御を崩す投げ。

 起き上がりに赤西さんは強引な飛び込みを重ねる、状況を打開するには最初のラウンドのように起き上がりに対空技を重ねて赤西さんの飛び込みに対応するべき、普段の能登さんなら対処できる。

 その対応に冷静だからこそ気がつけず、リスクを負う事を躊躇ってしまう。


 奇しくも赤西先輩が最初に言った言葉の通り、赤西先輩のガン攻めの状況。

 その動きは最初のラウンドと変わらない、違うのは能登さんができていた赤西先輩への行動の対処が別人かのように対処できなくなっている事だ。


「能登ぉ!しっかりなさい!!」


 能登さんの劣勢に矢代ちゃんご声を張り上げる、可愛い。

 能登さんの体力は半分を切り、赤西さんはほぼ満タンな局面。

 プレイに諦めが入りだすこの状況で、この矢代ちゃんの声援は大きい。


『やっべ』


 赤西先輩の動きが止まる。


『勉強になったわ、あなたみたいな戦い方もあるのね。操作やコンボ精度がしっかりしていたらもう負けていたわ。でも、私は自分の意見を曲げない。重要なのはクレバーである事、そして日々の反復練習よ』


 言葉一つで、自分の意識の外からの言葉だけで、赤西先輩のブラフの呪縛から抜ける能登さん。

 攻めるという事はカウンターを取られるチャンスもあるという事で、能登さんならそれができる。


『あなたの戦い、逆も言えるわよね。私の行動を誘導しているのなら、それに対応するあなたの行動もまた私に誘導されているって』


 精神性の優位が逆転し、それに伴い優勢と劣勢が途端に逆転する。


『あなたの土俵に立てさえすれば、私の方が実力は上よ』


 ガードをキャンセルしてからの連続技、から今まで貯めていたゲージを全て吐き出しての、チャレンジモードでしか見た事が無いような、高度な技術と引き換えの最大ダメージの一連の動きをしっかりと完走しきった。

 操作の難易度と操作を完遂する冷静さが兼ね備わっていなければ、不可能な動き。


 体力は一気に逆転、精神的にも優位。

 それでも能登さんは一気に勝負を決めに行こうとはしない。

 優位だからこそ、冷静だからこそ冷静に進め、今度は赤西先輩が焦る番だ。


『ひぃぃ、来るな!?』


 そんな声が聞こえてきそうなほどに赤西先輩は能登さんと距離を離す。


『攻めてくると思えば、ここで怖くなって消極的になるとはね。魔法がとければこんなものなのかしら』


 一転攻勢、能登さんが攻める。

 かろうじて防御するものの、飛び込みをステップでくぐって体を入れかえてまた赤西先輩は距離を離す。


『ちょこまかと……』


『逃げるなって思ってるんだろ? わかったようでわかってないな。私はブラフで戦う。負けが怖くて消極的になってるんじゃなくて、誘ってるんだよ』


「今のも嘘なんですか!?」


 思わず私は声をあげる、状況さえもブラフに使う。

 ブラフを使うっていうことは、そのリスクを天秤にかけても嘘を突き通す度胸が凄い。

 能登さんの言う通り、赤西先輩はコンボがキチンと出来ないって弱点はあるけど、それを補って余りある物を持っていた。

 猿渡さんはニヤリと笑う。

 赤西先輩はコンボは苦手でも、コマンド精度は高い。


『悪いな能登、狼が来たぞ!!』


『劣勢なのは事実。だけど、それを使って誘われた……? まんまと誘われた、この状況があなたのブラフだった!?』


 あまりにも赤西さんが逃げていたから誘われた、冷静だからこそまた気がつけない。

 焦って動かなかったら、赤西さんの試合運びで絡み取られるかもしれないという心理をまた利用した。


 普段ならしなかったであろう能登さんの飛び込みに、対空技の超必殺技を重ねての決着。

 プレイヤーの実力は能登さんの方が上。

 それなのに試合を終始コントロールして勝利したのは赤西先輩だった。

 ……虎というか、蜘蛛みたいだ。


「……負けてここまで悔しい思いをしたのは久しぶりね」


「悪いね、ここまで遠征してきてすぐに負けるわけにはいかなかったからな」


 赤西先輩は白星。

 これで一勝二敗、一敗すれば団体としては負けという状況。ここで。


「赤西さんの言う通り、向こうの意図はともかく。ここは勝ちにいきますか!」


 矢代高校の台所事情を孕んだこの試合、青山先輩が席に向かった。

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