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湊中央高校VS聖矢代女学院 練習試合二回戦 猿渡VS蝶城


「ごめんなさい、負けちゃいました」


「ドンマイドンマイ、仇はとってあげるから」


 気にしてない様子で猿渡先輩は私の頭をポンと叩いた。

 思い返してみるといつも元気な赤西先輩といつも冷静な青山先輩の影に隠れてしまって猿渡先輩がどういう人なのかよくわからない。

 知識があって教え方が丁寧で、いつも響ちゃんの練習相手をしているイメージがあるけれど。


「しかしてその実体はってとこかな?」


「何か言いました?」


 『いや、こっちの話』という返事が聞こえてきそう。

 エスパーか何かと勘違いしてしまいそうなほどタイミングの良い言葉だったから思わずビクッっとしちゃう。

 猿渡さんの言葉は私の考えじゃなく、相手の蝶城さんの事に対して言ったのだ。

 考えてみれば蝶城さんは三年生で八代ちゃんは一年生。新規の部活というのならともかく、いやいや新規の部活だとしても部長をやるのは普通は蝶城さんだよね。


「負け惜しみになるのも嫌だから聞くけど、たぶんそっちで一番強いのがあなたでしょ」


「え……いや……部長ですよ」


 顔を伏せてあからさまにしどろもどろになる蝶城さん、俯いた時に長い黒髪が垂れてその表情を隠す。

 日本的なすごい美人だけど、聖八代の人達は皆派手ってか個性的だから地味が際立って、逆に悪目立ちしてるよね。

 方向性は違うけど派手さでは蝶城さん以外はみんな赤西先輩と同じくらい個性的だと思う。


 そんな聖八代の面々は当の八代ちゃんはともかく八門さんは『言っちゃった!?』って顔して中丸さんは……相変わらずの不機嫌な表情で能登さんはため息をついた。


「まぁ、いいけどね」


 猿渡先輩は鈴木重兵衛、飛び道具を持つ、素早い投げキャラという、説明するだけなら弱点なんて無さそうな投げキャラだ。

 もちろん弱みはあり、明確な対空技と切り返しが無い。


 飛び込んで押し込まれると厳しいキャラクター、その鈴木重兵衛に対して蝶城さんは私と同じタカだった。

 説明する必要もないオーソドックスなキャラクター。

 誰が何を使うなんていうのは関係ないし、タカは誰が使っても良いキャラだから当然といえば当然なんだけど、ちょっと蝶城さんが使うとは思わなかった。


 いざ始まってみると、どちらも動きに精細をかくというかぎこちない感じ、そりゃ全く猿渡先輩と遊んだ事がないわけじゃないから猿渡先輩の違和感はすぐにわかる。

 どうしてそれが蝶城さんまで及んでいるのかわからないけれど、勝敗としてはストレートで猿渡さんの負けで終わった。


「ありがとうございました。またやりましょう」


「……ありがとうございました」


 どういうわけかお互い不完全燃焼といった感じで戻って来た猿渡さん、だけど赤西先輩は少し難しい表情をしていた。


「ま、気持ちはわかるけど。向こうのためにはならないぜ」


「わかってるわよ、だからこそタイガーは全力で」


 あからさまに不機嫌な赤西先輩、向こうでは八代ちゃんが大はしゃぎで蝶城先輩を迎えて、入れ替わるように能登さんが席についた。


「あの、猿渡先輩……何か動きが良くなかった気がするんですけど。体調でも悪かったんですか?」


 えっ!? 響ちゃんソレを聞いちゃうの!!

 そりゃ私も何かしらが猿渡先輩と蝶城さんの間であったのかなーとは思ったけどさ。


「うーん、言うなら接待プレイ?」


「それっていつも私にしてくれてる事ですか?」


「うえ、バレてたか」


 猿渡先輩は苦笑いしてみせた、響ちゃんに楽しんでもらうためにわざと響ちゃんが勝てるように動いてたりしてくれてたんだけど、どうやら響ちゃんは察してたみたい。

 接待プレイって単語を知ってたあたり、響ちゃんも自分でイロイロと調べたんだろうなぁ。


「私が接待したというか、向こうも接待をしてたというか。多分、蝶城さんの持ちキャラはタカじゃないし、本人の実力もっと強いよ」


「何か始まる前にそんな事を言ってましたね」


「多分、さっきの八門さんよりもね。きっと部長である八代ちゃんの顔を部員が立ててるってところじゃないの? この部の中では八代ちゃんが一番強いって事になってる」


 複雑な事情な気がするけど、私は少し胸が痛くなる。

 勝つなというわけじゃないけど、本当の実力を見せるなって事は、それはゲームを本当の意味で楽しめないんじゃないのか。


「うーん、そういえば変わってますよね。一年生なのに部長をやってたり、三年生が強いって事を見せられないって」


「そりゃ、学園の理事長の娘の顔を立ててるって事じゃないの?」


「あー……」


 なるほどなぁ。

 ……えっ!?


「八代ちゃんってこの学園の理事長の娘なんですか?」


 私が驚いた声をあげると、逆に猿渡さんと響ちゃんと黙って聞いてた青山先輩もハトが豆鉄砲をくらった顔をしてる。


「え、楓ちゃん気がつかなかったの?」


「確かに説明しなかったけど、気がついて察してるものだと思ってた」


「そうでもなきゃ、こんなウチと同じ部員五人のお嬢様校にこんな設備があるわけないでしょう」


 何このアウェイ感、いや確かにここはアウェイだけどさ。

 聖八代に八代ちゃん、言われてみれば確かにってか、私も気がつけよ!

 なんだか急に恥ずかしくなって顔が熱くなる、きっと耳まで真っ赤だ。

 さっきの敗戦の悔しさもあって今にも泣いちゃいそう。


「多分そういう理由で強いところを見せられない、楓と八門さんの試合は中距離の差し合いからの一転攻勢だったし、ある程度のレベルじゃないと上手さがわからない内容だったしね」


「なんていうか、胸を貸してもらって何だけどアチラさんが交流試合をしたがったかわかった気がするわ」


「見た目だけじゃなく、精神年齢も子供なんですね!」


 なんだかただの練習試合兼交流会から、不穏な空気が立ち込めてきた気がする。

 負けちゃった身で心苦しいけど、内輪の事に気がつかずに最初に戦ったのは良かったかもしれない……。


「気を使わせたというか、さっきの、えっと……猿渡さんには悪い事をしたわね」


「そっちはどっちに転んでもいいだろ、だから私は全力でやらせてもらうぜ」


 こっちのやりとりを聞いているのかいないのか、お互いの事情を察した様子の赤西先輩と能登先輩。


「私もその方が気楽でいいわ」


 二本取られて負けられない私達湊中央、ここに来て勝負担うは空気の読めない赤西先輩。

 中堅戦が始まった。

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