湊中央高校VS聖矢代女学院 練習試合一回戦 朝比奈VS八門
先鋒
私と八門さん
次鋒
猿渡先輩と蝶城さん
中堅
赤西先輩と能登さん
副将
青山先輩と中丸さん
大将
響ちゃんと八代ちゃん
さっき私が思った事でもあるし猿渡先輩が言ってたことでもあるけど、対戦順っていうのはかなり重要な要素がある。
でも、今回は練習試合って事もあって多少は戦いたい人とあたるようにした。
八代ちゃんと、一瞬で意気投合した赤西先輩と能登さんの組み合わせなんだけどね。
少しボタンとレバーのチェックをした後、お互い何も知らない状況で戦った方が面白いっだろうからという八代ちゃんの提案からまずは試合をした後に交流会という流れになった。
「よろしくお願いします」
「ご丁寧にすいません、よろしくお願いします」
私より年上のはずなのに八門さんは丁寧に挨拶を返してくれる、物腰も柔らかいし。この個性的な聖八代の人達の中では一番話しやすいかも。
ガロストは全盛期だった両作品のシステムをベースにしているものの、採用している目玉のシステムはジャストガードの多様性だ。
用は攻撃をタイミング良く防御すると体力が少し回復するというもので、これによって飛び道具で固める優位性をほぼフラットにしている。
それ以外は面倒なシステムは一切無く、シンプルにまとめたゆえにストロングスタイルなオーソドックスな一対一の形式だ。
逆に言えばプレイヤーの腕が、結果に如実に現れる。
私は以前に部活勧誘でも使ったタカを、八門さんは同じ作品に登場するシュンレイを選んだ。
八代ちゃんが『同じ作品じゃない、別なキャラを使いなさいよ』と不機嫌なご様子、なんというか本当に子供みたい。
「八門、部長がこう言ってるのだから選びなおしなさい」
さすがに選び直しはマナー違反っていうか何というか……。
中丸さんが厳しい事をいって八門さんを困らせている、なんだかこの部の人間関係というか上下関係がなんとなくみえてきた気がする。
八門さん、スゴく苦労してるんだろうなぁ。
「勘弁してくださいよ中丸さん、ゲームは楽しくってのはもちろんですけどどうせやるなら勝ちたいですし。……それに聖八代の一番槍、負けるわけにはいかないじゃないですか」
対面の筐体から言いしれぬ重圧を感じる。
お兄ちゃんと遊んでた時の『お前が勝ってばかりじゃ面白くないから勝つな』という重圧とは全く違うプレッシャー。
絶対に相手を倒すという意志が私の体を強ばらせる。
意識してってわけじゃないけど……。
いや、意識して大会とかそういうのに出るのは自粛していたんだと思う。
勝つという事は普通は褒められたりする事、だけど私は疎まれてしまった。
『遊び』だから。
それはわかる、だけどせっかく勝ったのだから、私の中でその勝利にきっと意味が欲しかったんだと思う。
青山先輩は私に『勝ってもいい』と言ってくれた、でも『勝つ』という事のその重みがゲームセンターの100円を投入しているからという小さい事じゃない。
自分の勝利はチームの勝利に繋がる、勝利に繋げる、だから『勝つ』その圧倒的な意識力。
私は対戦をしていても、その重みを意識した事が無かった。
強いから勝つんじゃない、今日この日から私は『明確に勝つ』という意思を持って戦う。
私のタカはいろいろな事ができる代わりに突出した要素は少ない、逆に八門さんのシュンレイは素早い動きで翻弄するタイプのキャラクター。
セオリーなら地上で私の方からプレッシャーをかけ、相手が飛んだところを冷静に対処し、ダウンを奪ったところで攻めに回る。
だけど、私の地上の牽制を八門さんは冷静に防御し対処する、システム上のジャヤストガードをしっかり決めてくるからガードの上から体力を削る事もままならない。
別のゲームなら徐々にガード上から削って焦って動いてくれたりする場面だけど、こんぼゲームにおいてはそうはいかない。
不用意に焦ってジャンプしてくるなんて事は、操作が正確な限り無いのだ。
『初戦なんですし、肩の力を抜いて派手に行きませんか』
画面越しにシュンレイの動きを通して八門さんの言葉が聞こえてくる、キャラクターの動きを見るだけで、こんなにも台の向こうの相手の考えが、思考が、伝えたい事が、心に届いてくるなんて。
『そうですね、少し試合を動かしましょう』
『そうこうなくては、いやー私ってこういう展開って苦手ではないけど好きではないんですよね』
格闘ゲームである以上、キャラクターの相性はある。
しかしタカとシュンレイにはそこまでの差はない、飛び道具で牽制しつつも明確なアドバンテージをとれない私は逆に追いつめられていた。
動かそうと思ったものの、私は次の攻めてが思いつかず、その虚をつかれて一気に八門さんのシュンレイに間合いを詰められる。
私の飛び道具を垂直ジャンプで交わしてからの、図々しいまでのダッシュでの間合い詰め。
ジャンプでない事に対してしゃがみガード。を見越しての八門さんの中段技。
対応できない。
『では、遠慮なく一気に』
足払いから、ダウンを取られ、起き上がりに読み負け、そのまま画面端へ持っていかれる。
こうなってしまうと、成す術がない。
プレッシャーがどうのじゃない、この八門さんは強い!
おそらく、青山先輩達三人よりも!?
結局、押し負けてしまい。焦った私の隙をついて一気に体力を奪われ一セット目はとられてしまった。
「素晴らしいわ八門!」
八代ちゃんは大興奮、誉められる八門さんに苦虫を潰したような表情の中丸さん。
私の仲間達は静観の構えっぽい、ちょっと何か応援が欲しいと思うのはわがままなのかな。
「こういっちゃアレだけど意外」
「まぁ、学校が学校だし強くても同レベルって考えちゃってたけど」
「信じよう楓ちゃんを、うちで一番強いんだから」
応援してほしい……?
違う、青山先輩達だってそんな余裕は無いんだ。
去年設立したっていってたけど、人数が足りなくて練習試合さえできてなくて、それがやっと叶ったんだ。
向こうだって条件はほぼ同じ、勝つって事と強いって事を良いと言ってくれたんだ。
格闘ゲームが好きだったけど嫌いになって、それでも嫌いになりきれなかった格闘ゲームを全力でやれる場所をくれたんだ。
応援してほしいんじゃない。
私が勝って次に繋ぐんだ、先輩達を応援するんだ。
レバーに触れ、ボタンを叩き、それに伴って画面の中で動くキャラクター達。
自分のやりたい事を押しつけ、やられたくない事を迫られ、それらを駆け引きとして一瞬の隙を付く。
相手が何をしたいのか、言いたいのか、それが頭の中で破裂する。
『うん……? 雰囲気が変わりましたね』
2ラウンド開始時にバックステップで距離を置く八門さん、その様子が八門さんの信条を伝えてくる。
私は飛道具を打ちつつ、飛び込まずにジリジリとその間合いを詰める。
『私も湊高校の一番槍、負けるわけにはいかないんです』
『引っ込みじあんな方かと思いましたがなかなかどうして!』
中距離での差し合いに入ると、今度は私から中下段の揺さぶりをかけるが、余裕をもってその選択を防御する八門さん。
焦ってはいけないとわかってるけど、八門さんの的確な防御に攻撃を急かされる。
『勝とうっていう意気込みは感じますけど、荒削りというか、意気込みに腕がついていってないみたいですね』
そう言われた気がした。
飛道具を垂直ジャンプで交わされ、焦って対空技を打ってしまう。そこには無防備な私が存在し、そこから狙える連続技を八門さんがミスするはずもなかった。
精神的に崩れてしまっては建て直しも間に合わず、先鋒である私は負け。湊高校は黒星でスタートした。