アイツはロリのお嬢様
八代翔子と名乗ったチビっこはフンスフンスといった様子で鼻息あらく、私達を見上げながら自信たっぷりに笑ってる。
大きく胸をそらしてどんなもんだという様子は、ワンパクな女の子といった様子で超可愛い。
こんな子が近所にいたらお菓子とかあげちゃうよ。
「朝比奈様、お嬢様が何か?」
中丸さんが私のそんな視線を察したのか、怪訝な様子で睨んできた。
やだ、私ったらどんな顔をしてたんだろ、恥ずかしい。って、あれれ。
「皆様のお顔とお名前等は既に把握しておりますので」
私の質問を察したのか中丸さんは涼しげな様子で聞く前に私の疑問に答えてくれた。
でも、なんだろう『お名前等』の『等』の部分に一抹の怖さを感じちゃうんだけど。
「わー、楓ちゃん。やっぱりこういう学園だと部長さんもなんだかオーラが違うねー。それに可愛いし」
っと、私が思ってた事を響ちゃんがストレートに口にしちゃったよ。
誉めてはいるけど、そういう事を直接口にするのってこういう人達的にはどうなんだろう。
失礼じゃないとは思うんだけど。
変に気を使ってあわあわしちゃう私だったけど部長さんである当の八代ちゃんは満面の笑みを浮かべてるし、中丸さんも満足げな表情だ。
上流階級の基準はちょっとわからないけど、響ちゃんの言葉に気をよくしたのか、はしゃぐわけではないけど嬉しそうに八代ちゃんは続けた。
「あなたなかなか見る目があるのね、いいわ。この聖八代高校最強プレイヤーである私があなたの相手を直々にしてあげるわ」
「はわわわわ、どどどどどうしよう楓ちゃん!? 部長~~」
八代ちゃんの提案に青山先輩に泣きつく響ちゃんだったけど、冷静に考えてみると、これって悪い提案じゃない気がする。
団体戦は先鋒から大将まで五回戦い、勝ち星が多かった方が勝ちだからだ。
可愛そうだけど響ちゃんはまだこういう大会に出られるレベルじゃない。
だから、逆に必勝ならぬ必負するところに一番弱い響ちゃんがぶつかるってうのなら、負星が増える確率を少しでも減らす事に繋がるはずだ。
それは遠回りかもしれないけれど、確実にチームとしての勝利に繋がる。
「おっ、楓ちゃんてば『響ちゃんが強い人とあたれば勝ち星増やしやすくなるかも』とか考えてる?」
「うっわー、マジかよ。意外と楓はエゲツねぇんだな」
「なななな、何を言ってるんですか!? そんな事思ってないですよ」
思わず声が裏返ってしまう。
そんなわかりやすい顔してたのかな、それとも猿渡さんはエスパーか何かなんだろうか。前もこんな事があった気がする。
「まぁ、楓ちゃんの腹黒さについては置いておいて、それはそれで正しいのよね~」
「楓のどす黒い心臓はあとで追求するとして、確かにそうだな」
猿渡先輩と赤西先輩がニヤケた顔で私の思考を拝呈する、もう一度違うと言えるほど私は強気じゃないし、図太くもないからただただ困った顔になってしまう。
できればその話題は今後とも置き忘れてほしいのだけれども。
「楓さ、別に勝たなくてもいいとは言わないけど、練習試合なんだしさ。もっと肩の力抜こうぜ。こういうのは交流もかねてるんだしさ。向こうも初心者だとわかればそれなりに相手してくれるさ」
そっか、そうだよね。赤西先輩の言う通りだ。
お金がかかったゲームセンターでもないし、公式戦ってわけでもない。
勝ってはいけないっていう状況から勝ってもいいっていう状況に私を取り巻く環境が変わったとしても、常にそれを追い求める必要は無いんだ。
「で、今日は何やるんだ。いろいろやるのも楽しいけどさ」
赤西先輩が物怖じせずに話を切り出すと機材メンテをしていた方が『それなのだけど』と会話に入ってきた。
膝くらいまである長い髪を二つおさげにしたその人は赤西先輩を見て少し驚いた顔をする。
「あなた、ずいぶんと派手ね」
「よく言われるよ」
「理解しがたいわ」
「わざわざ理解なんてしなくていいよ」
淡々としてるけど少しトゲがある会話をしたと思うと、二人は無言でお互い睨む見つめ合う。
仲良くなんて言ってたのにいきなり険悪になってるよ、どうしよう。
また私があわあわしそうになったところで、ほぼ同時に二人はフッと微笑むと。
「赤西琥珀だ、よろしくな」
「能登玲奈よ、以後よろしく」
なんて言いながら堅い握手をしちゃってる。いったい何がどうなって通じ合ったのか私にはサッパリわからない。
二人の様子を見ながら猿渡先輩が『友情っていいわねー』なんて言い出すあたり、もしかしてわからない私がおかしいんだろうか。
「あ、もしかして自己紹介の流れですか。挨拶が遅れました。私は八門紗英です。よろしくお願いします」
能登さんじゃない対面の筐体をいじっていた方が敬礼まじりに挨拶をしてくれた。
その様子は今までの四人と違ってフランクな感じで一番話やすいかも。
八代ちゃん、中丸さん、能登さん、蝶城さん、八門さん。
どうやらこの五人が聖八代高校の格闘ゲーム部の面々のようだった。