パーティー結成だ!
テイラーは困った顔をした。
「コイツ、えっと、名前は……。難しいんだよ。なんて発音すればいいんだろう」
「あっは、がはっ、は。は、はでぃ」
テイラーの言葉に、ハーディーがかぶせる。それをうなずきながら聞いていたテイラーは「うん、わかった」と言った。
「とりあえず、名前はハーディーということで、いいらしい」
「いや、それは知ってる」
大真面目な顔をしているテイラーに、思わずツッコんでしまう。
「あと、改めてあんたに『助けてくれて、ありがとう』と言ってほしいと」
「いや、それも聞いた」
助けたつもりはなく、逆に野盗に追い剥ぎされそうになっていたところを、助けてもらったんだけどな。
「あは、はっは、はがっは」
ハーディーはまたテイラーに何か話し始めた。今度は長い。テイラーは「うん、うん」とうなずきながら聞いている。
「この人、お腹が空いて倒れていたんだって」
テイラーはハーディーを指差して言った。やはりそうか。
「あんたが危なかったので、思わず殺してしまった、申し訳ないって言ってる」
テイラーはそういうと、スッと目を細めた。
「殺したって、何を?」
ハーディーと出会ってからの経緯を、かいつまんでテイラーに説明した。立ちっぱなしもアレなので、窪地に座る。タイタンが現れて万物の源なるアイテムを取って来いと言われた部分に差し掛かると、テイラーは目を見開いて驚いた表情をした。
「万物の源って、あの万物の源? タイタンって、あのタイタン?」
一気にいろいろ質問しないでほしい。
「うん。あの万物の源だと思う。というか、それ以外の万物の源を俺は知らない」
万物の源は、そもそも何百年か前に討伐された魔王の持ち物だったらしい。魔王はそれを使って無限に魔力を作り出し、雷の雨を降らせ、火の川を作り、水を毒に変え、地面を割って世界を支配した。魔王が討伐された後、魔族たちによって封印されている。その場所はパンゲアであると、もっぱらの噂だった。
そうそう。『魔力を作り出して』と言ったけど、魔力は無限ではない。俺は魔法使いではないのでどんな感覚なのかわからないが、魔力は使えば体内からどんどん減っていく。そして、ゼロになると魔法が使えなくなる。魔力を回復するにはメシを食うとか、薬を飲むとか、寝るとかいろいろ手段はある。魔族の場合は、人間を食べるとか。一部の魔族が人間を好んで食べるのは、そのせいだ。だから、万物の源を手に入れられれば、無限に魔法を使えるようになる。もし、人間の魔法使いがこれを入手すれば、魔族に対抗できるかもしれない。
「それを総帥が探してるの?」
「うん。本人がそう言っていた」
テイラーはタイタンのことを〝総帥〟と呼んだ。俺が返事をすると「はぁ〜」と感心した声を上げて、天を仰いだ。
「どうだ、魔術師ギルドのトップから直々にいただいたクエストだぞ? 達成できればレベルアップはもちろん、こんな貧乏生活からも一気に脱出できること間違いない。テイラーに新しいブーツを買ってやることもできる。一緒にやらないか?」
ここぞとばかりに勧誘した。天を仰いで半分、口を開けて呆けていたテイラーは、ハッとして俺の方を向いた。
「……ごはん、腹一杯に食えるかな?」
真剣な顔をして、言った。
「もちろんだ。きちんとした食堂で、肉を腹一杯食えるだろうさ」
力強くうなずいた。
「おうっ、おおっ、おう」
ハーディーも合いの手を入れる。そして俺の肩をつつくと、自分の足元を指差した。見ると、何やら泥のついた塊がいくつか置いてある。よく見ると、芋だった。
「おお、ハーディー! 芋じゃないか! もしかして俺が留守の間に、掘り出してくれていたのか?」
「うおっ、おおっ!」
ハーディーは自分を指差して、胸を叩いた。ドヤ顔かどうかは仮面をつけているのでわからないが、ドヤッていることは間違いないようだ。なんて役に立つヤツなんだ! うれしくなって、小躍りしそうになった。
「よし、早速、昼飯にしよう! テイラー、今、俺たちはこうやって山で堀った芋しか食えない身分だが、このクエストを達成した暁には、ドレスを着なければ行けないような高級レストランで食事をしよう。どうだ?!」
テイラーはポカンとしていた。もしかしたら肉を腹一杯とか、高級レストランとか想像できないのかもしれない。俺は昔、スティーブンさんのお供で行ったことがあるのだが、例えが悪かったかな? と思っているうちに、テイラーの目がランランと輝き始めた。
「わ、わかった! やる! 肉を腹一杯食べる! テイラーは腹一杯、食べたい!」
何やら唾を飛ばして興奮している。ここまできて断られたらどうしようと思っていたので、ホッとした。ウキウキしてきた俺はハーディーに手を出し出す。ハイタッチだ。わかるかな?と思っていたら、ハーディーは大きくて分厚い手を上げて、パン!と俺の手と打ち鳴らした。
「よし、じゃあまずは腹ごしらえだ! 芋を煮るぞ! テイラー、ハーディーと一緒に水を汲んできてくれ!」
「お、おおう!」
テイラーは少しためらってから、右の拳を突き上げた。
ハーディーが掘ってきた芋は、俺が掘ったものと少し種類が違った。フクレイモという芋だったが、こっちの方が都合が良かった。名前の通り、こいつは加熱すると空気を含んで膨れる。その分、腹一杯になった。ハーディーとテイラーが泉に水を汲みに行っている間に、皮をむいて乱切りにし、鍋に入れてすりこぎで叩く。水を注ぎながら火にかけ、さらに叩く。叩けば叩くほど空気を含んで、大きく膨れ上がる。
「うわぁ……!」
鍋の中でモクモクと膨らんでいく芋を見つめながら、テイラーは感嘆の声を上げた。目がキラキラ輝いている。
これで終わりじゃないぞ。これだけでは味気ないからな。俺は胸ポケットから飴を取り出すと、ナイフで削ってパラパラと振りかけた。これで甘みをプラス。食感がフワフワしているので、ちょっとケーキっぽい感じの食べ物に仕上がる。
「さあ、できたぞ。みんな、食ってくれ」
アツアツを手でちぎって、テイラーとハーディーに手渡す。
「何、これ! 美味い!」
ホカホカの芋ケーキを頬張りながら、テイラーは鼻息荒く叫んだ。気に入ってくれたようだ。これで少し俺を信頼してくれればいいのだが。ハーディーも、テイラーほどがっついてはいないが、もぐもぐと食べている。俺も膨らんだ芋を頬張った。口いっぱいの幸せ。これって大事だよなぁ。
「うごっご、ごごっご」
食べながらハーディーはテイラーに話しかけた。テイラーはほっぺたをリスのように膨らませて、芋を咀嚼している。しばらくしてごくりと飲み下すと、俺の方を向いた。
「料理をしたことがないので、どんなものが食べられるとか全然知らなかったって。山で地面を掘ったら芋があると知ったので、あんたがいない間に掘りまくったそうだよ」
料理をしたことがないって……。いや、周囲に世話をしてくれる人がいる人なら、そんなこともあるか。となると、ハーディーはもしかして身分の高い人なんだろうか? この化け物みたいな出立ちで? 俺は首を捻った。
「ハーディー、時々、食えない芋もあるから、掘り出したら食べる前に、まず俺に見せるんだぞ」
ハーディーの正体を詮索するのをやめて、そう声をかけた。そうだ。たまに毒がある芋があるのだ。芋の形をしていれば、なんでも食べられるわけではない。
「うおっ」
これはわかる。『わかった』と言っているのだ。
「それにしても、ハーディーはそんな立派な剣を持っているんだから、狩りをすれば良かったのに。鹿や山豚を狩れば、腹一杯に肉が食えただろう」
疑問に思っていたことを聞いてみた。そう、山に入れば芋などの食べられる植物はもちろん、動物や鳥もいる。そういうのを捕まえて食えばいいのだ。芋よりよほど美味い。
一度、パーティーを組んで山に入ったはいいが、あまりにひもじくて、クエストを後回しにして山豚狩りを始めたことがあった。みんなで山豚を追い詰めて、崖から突き落として殺すことに成功したのだが、いざ食べる段階になって分け前の大小を巡って喧嘩になり、そこでパーティーは解散した。だって、剣を振り回して奪い合いになったんだもの。あれは酷かった。俺は喧嘩している連中の隙をついて肉をひと欠片つかむと、その場から逃げ出した。空腹になると人間は理性を失う。それを目の当たりにした瞬間だった。
「うおうお、うあうあ」
ハーディーは身振り手振りを交えながら、しばらくテイラーに向かって話していた。
「動物を殺すのは、かわいそうで、できないんだって」
テイラーの通訳に、ずっこけてしまう。こんな荒くれ者みたいなナリをしているのに、動物を殺せないって。ハーディーと山豚狩りをしようとチラッと考えていたけど、これは無理だな。
「それはそうと、あんた、すごいんだね。あんな泥だらけだった芋を、こんな甘いお菓子に変えてしまうなんて。あんたこそ、魔法使いみたいだ」
テイラーは目を輝かせて言った。お菓子ねえ。確かに今の俺たちにとって、甘味のあるものはみんな上質なお菓子だわな。
「そんなことねえよ。それより、テイラー。〝あんた〟ってのはやめてくれない?」
さっきから気になっていたことを言った。テイラーはずっと俺のことを『あんた』と呼んでいる。パーティーとしての結束を強めるためにも、互いに名前で呼ぶべきだ。俺はそう思っていた。
「ああ、うん……。わかったよ」
テイラーは曖昧にうなずいた。
「ちゃんとクリスって呼んでね」
念押しすると、なぜかうなずきながら視線を逸らす。いかんな。これは俺の冒険者としてのポリシーなんだ。仲間はお互いに名前で呼び合う。譲れないぞ。
「ほら、クリスって呼んでみ?」
テイラーの顔をのぞき込んで、畳み掛けてみた。テイラーはさらに目を逸らして「え、ええ〜っ?」と困った声を出す。
「冒険の仲間は、信頼し合うという意味でも、互いに名前で呼ぶべきだ。だからほら、俺のこと、クリスって呼んでみろよ」
テイラーの方に、にじり寄った。別にからかっているわけじゃない。真剣なんだぞ。テイラーは俺の方を向くと、怒った顔をして「はぁ〜?!」と不満げな声を漏らした。
「俺のことクリスって呼んでくれないと、美味しいもの、作ってやんないぞ」
わざと意地悪っぽく言ってみる。
「え、そんなのひどい!」
テイラーは目をむいて即答した。
「じゃあ、クリスって呼んでみろよ」
ハーディーは俺がテイラーに迫っている様子を、面白そうに見つめている。仮面をしているので表情はうかがえないし、そもそも見えているのかどうかも怪しいが、なんとなく楽しそうにしているように感じるのだ。
「え〜……。ク、クリ……ス……」
テイラーは体をよじってもじもじしながら、小さな声で俺の名前を呼んだ。
「聞こえねえ。ほら、もう一回!」
テイラーの脇腹を優しくつついた。その瞬間、指先にビリッとした痛みが走る。お、これか! これがテイラーの言っていた〝アレ〟だな!
「もう! 言えばいいんだろ! クリス! クリス!! これでいいか?!」
テイラーは顔を両手で覆って、足をバタバタさせながら俺の名前を連呼した。よし、いいぞ。これで少し距離が縮まっただろう。




