表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/56

レベル20

 翌日、朝食を済ませると、エドワードに連れられて登城した。といっても、俺たちは待合室。エドワードはコンティニュアスだけ連れてマリシャ王女に謁見しに行った。コンティニュアスは「俺だけしか行かないの?」と尻込みしていたが、ハーディーに何か言われて渋々、ついていった。


 お城に入ったのは初めてだ。物珍しくて、あちこち見てしまう。壁は淡いベージュで統一されている。もっと豪華な絨毯やシャンデリアがあるものとばかり思っていたが、頭上も足元も思った以上にシンプルだ。待合室はお客を待たせることを意識して少し豪華にしているのか、手の込んだ作りの燭台が置いてあったり、精密な彫刻が施された暖炉があった。だけど、ここまで通ってきた広間や床は、実用性重視を感じさせる簡素さだった。


 「お城って、意外にシンプルなんだな」


 大きな窓の向こう側は広い庭で、バラの花がたくさん咲いている。それを見ていたライラに声をかけた。


 「初めて?」


 チラッと振り返る。午前の陽光を浴びて、ツヤツヤのほっぺたがキラッと光った。うん、今日もライラは最高だよ。


 「入ったのは初めてだ。遠くから見たことしかない」


 隣に並んで立った。俺がチビのせいもあるが、ライラの方が背が高い。いいんだ。その分、巨乳が俺の顔に近いんだから。


 「エドワードに『ついてこい』って言われたら当然、行くつもりなんでしょ?」


 ライラは突然、そんな質問をしてきた。


 「ついてこいって、炎の神殿に?」


 「そうよ」


 少しイラッとした顔をして、また俺をチラッと横目で見た。もちろん、炎の神殿に行くつもりでいた。えっ、行かないなんて選択肢はあるの?


 「もちろんだよ。コンティニュアスは俺のパーティーのメンバーなんだ。コンティニュアスを連れて行くのなら、俺も行くよ」


 何が聞きたいのだろうか。当たり前のことではないか。コンティニュアスだけをエドワードに引き渡して、はい、サヨウナラなんてない。


 「コンティニュアスって、舌を噛みそうな名前ね」


 ライラはそういってフッと鼻で笑った。


 「テイラーは『コニー』って呼んでる。俺もそう呼びたいんだけど、俺が『コニー』って言うと嫌がるんだよ。わざと無視するし」


 「女に甘いのかしら。変な道具ね……」


 クスクス笑っている。ライラは笑うと、とてもかわいい。俺はうれしくなった。ドキドキして何か話しかけようとした途端、ライラは俺の気持ちをすかすように真顔に戻った。


 「私は反対だわ」


 俺の方を見る。浮わついた気持ちを叩き落とすような、真剣な表情だった。さっきまで笑っていたのに、急になんだよ。意味がわからなくて、反射的に聞いた。


 「えっ、なぜ?」


 ライラは胸を膨らませて、ふぅーっと大きく息を吐いた。そして、待合室のソファでハーディーと戯れているテイラーを見る。


 「冒険って、命を落とす危険があるじゃない。心配なのよ、あの子が」


 そういって、腕を組んだ。なるほど。テイラーのことが気がかりなんだな。俺と一緒だ。


 「えらく気に入ったんだな、テイラーのことが」


 ライラは気の強い性格ではあるが、姉御肌で面倒見はとてもいい。ヘイシュリグでは、よく小さな子供たちの遊び相手をしているのを見かけた。そういう時は、俺に接する時のツンケンぶりはどこへ行ったのかと思うほど、微笑みながら優しく声をかけている。たぶん、子供が好きなんだろう。どっちが本物のライラなのかなと思う。


 「うん……」


 ライラは否定しなかった。テイラーの方を見つめたまま、あごを触っている。しばらく沈黙が流れた。先に口を開いたのは、ライラだった。


 「知ってた? あの子、ローレルの出身なのよ」


 俺の方に顔を向ける。ローレルといえば、随分と南の方の街だ。数年前に魔族の侵攻を受けて陥落し、すでに人間の街ではない。真っ直ぐに北上すれば、フェンネルにたどり着く。テイラーの足取りを考えれば、十分に考えられる出身地ではあった。


 「そうなんだ。テイラーから聞いたの?」


 「いいえ。でも、孤児院で酷い目に遭って、辛くて焼いてしまったという話を聞いて、思い当たったの。そういえば、火災でたくさん死人が出た孤児院があったなって。それがローレルよ」


 ライラは周囲を見回すと、手近にあった椅子に腰掛けた。布張りで細かい刺繍が施されている。俺もそばの椅子に座った。


 「教会は嫌いって言われちゃった」


 寂しそうに笑う。信仰心の厚いライラにしてみれば、存在意義そのものを否定されたようなものだ。


 「でも、私のことは好きなんだって……」


 腰を浮かせて深く座り直すと、ほおづえをついて愛おしげにテイラーを見つめた。そんなに大事に思っているのなら、一緒に来たらどうか? そう声をかけようとした時、ドアが開いてエドワードとコンティニュアスが戻ってきた。


 「おかえり、コニー」


 「おがぁ」


 テイラーとハーディーが出迎える。俺とライラも立ち上がった。


 「ああ、いやいや。そのままでいいよ」


 エドワードは笑みを浮かべて、俺たちに座ったままでいるように促した。もう一度、座り直す。


 「結論から先に言うと、お許しが出た。あと、それから……」


 「レベルを上げたらいいのね?」


 エドワードが話している最中に閉まりかけたドアが開いて、聞き慣れない声がした。顔を上げると、20歳前後くらい、俺とそう変わらない年頃の女性が立っている。丸顔に、黒いロングヘアーを後頭部で束ねてくくっている。ぐるっと室内を見回した大きな瞳は、エドワードと同類を思わせた。そう、キラキラと輝いていて、好奇心満々なのだ。


 「ええっと、あなたがクリスね。で、あなたがライラ。ハーディーにテイラー。OK?」


 カーキ色の簡素なデザインのワンピースを着て、足元は白い靴下だった。女学生に見える。だが、近寄ってきたのでよく見ると、服には細かい刺繍がしてあって、なかなか高級そうな感じがした。そして、いい匂いがする。甘い香りだ。蜂蜜だろうか?


 「ああ、姫様。わざわざ出向いていただかなくても……」


 エドワードは驚いてその女性を制すると、俺たちに向かって厳しい表情をした。何、今なんて言った? 姫?


 「みんな、こちらはマリシャ王女だ。さあ、ごあいさつして」


 「えっ、そんなのいらないわよ? みんな気楽にしてね」


 〝姫〟はそう言ったが、反射的に片膝をついて恭しく頭を下げたのは、ライラとハーディーだった。俺も遅れて片膝をつく。


 おいおい、マジか! いきなり王女様に謁見してしまったぞ!


 「姫様、ご尊顔を拝し、光栄至極に存じます。私は……」


 「もう、そんなのはやめて頂戴! いいから、ほら、立って!」


 顔をこわばらせながらあいさつをしているライラの腰を折ると、マリシャはその腕を取って立たせた。「ほら、みんなも立って!」と言うので、立ち上がる。えっ、立っていいのか? 王族の前では最敬礼じゃないといけないのでは? なんだかお尻の辺りがモゾモゾする。テイラーが「エディ、この人、お姫様なのか?」と聞いている。


 「そうよ」


 マリシャはエドワードが返事をする前にそう言って、テイラーに優しく微笑んだ。笑うとスッと目が細くなって、小さなえくぼができた。かわいい。ライラの目の前ながら、うっとりとしてしまう。


 「さあさあ、みんなこっちに来て。冒険者手帳を持っている人は、出して。テイラーとハーディーは持ってないのよね? コニーは? 必要かしら?」


 「ああ、道具にもくれるんなら、俺もほしいなあ」


 コンティニュアスは先ほど会ってきた気安さもあるのか、ニヤニヤと笑った。マリシャは俺たちをローテーブルの周りに連れて行くと、持っていたバッグからドサドサと新品の冒険者手帳を取り出して、ソファに腰掛けた。


 えっ、マジで? まさか王女様自らレベル認定してくれるの? 本当に? 目の前で起こっていることが信じられない。自分の目を疑いながら、リュックからあたふたと冒険者手帳を取り出す。マリシャは新品の手帳を開いてサラサラと「レベル10」とサインすると、テイラーに手渡した。ハーディーには「レベル30」と記した手帳を渡す。


 おい、ちょっと待て! いくら王女とはいえ、レベルを安売りしすぎじゃないの? 呆然としたまま、手帳を差し出した。マリシャは真正面から俺の顔を見た。おお、さすがプリンセスだな……。オーラがあるわ。


 「ぷっ」


 マリシャはなぜか吹き出した。クスクスと笑いながら、手帳を開いて「レベル20」と記して、サインする。そして「クリスはサインよりも、スタンプ派?」と聞いてきた。


 「え、いや、どっちでもいいです。はい」


 そう言ったのに、マリシャはバッグから大きなハンコを取り出して、手帳にドン!と押した。閉じて俺に返してくる。


 「あの……。俺、なんか変な顔してました?」


 なぜ笑われたのかが理解できなくて、王女とこんなに気安くしゃべっていいのかと思いながらも、聞いてしまう。


 「ああ、いえいえ、ごめんなさい。あまりにも呆気に取られている感じだったから、それで思わず笑っちゃった。ごめんね」


 マリシャはまたクスクスと笑うと、丁寧に頭を下げた。ライラから受け取った手帳には「レベル30」と書いて、ハンコを押す。


 「試験、受けなくても、よくなっちゃった……」


 ライラも返された手帳を手に、ポカンと口を開けていた。


 「さて、みなさん!」


 マリシャは立ち上がると、パタパタとワンピースの裾をはたいた。立ったものか、それとも座ったままでいいのか。周囲を見回してみるが、立っているのは、部屋に戻ってきてからずっと立ちっぱなしのエドワードだけだ。ライラも立つ気配がないので、座っておく。


 「みなさんは、これからアフリート回収というクエストに参加していただきます!」


 キリリと眉毛に力を込める。あ、この子、眉毛がすごく太いぞ。それで女の子なのに、凛々しい印象を受けるんだ。


 「コンティニュアスをここまで連れてきてくれたおかげで、実現したクエストです。これが成功すれば、侵攻の勢いを増している魔族たちを一気に撃退できるかもしれません。イースの、いえ、人類の命運をかけたクエストになります!」


 マリシャはグッと拳を握った。おお、なんとなくそうじゃないかと思っていたけど、いざこうやって言葉にされてみると、自分がものすごいクエストに参加するという実感が湧いてきた。


 「増援は本当にいいの?」


 マリシャは急にエドワードに振った。エドワードは余裕の表情で「本当にいりません。これくらいの方が小回りが利きます」と返す。


 「では、改めてよろしくお願いします! リーダーは、あなたね! クリス!」


 俺のことをビシッと指差す。思わず「へえっ?!」と変な声が出てしまった。


 「えっ、俺?!」


 ちょっと待ってくれ。エドワードがリーダーなんじゃないの? この作戦の立案者だし、炎の神殿やアフリートのことも、俺よりよほど知っているじゃないか。


 「ザ・ミラキュラスのリーダーは、クリスだよ」


 背後からエドワードの声が聞こえる。マリシャはローテーブルをぐるっと回って、俺の前までやってきた。ワンピースがフワッと広がる。俺の前でひざまずくと、手を取った。


 「頼みましたよ、勇者クリストファー」


 微笑みながら、ジッと見つめてくる。おい、勝手に勇者認定しないでくれ。だけど、王女の真剣な眼差しを見ていると、とてもではないが「嫌だ」とは言えなかった。


 「わ、わかりました、王女様」


 声が震えていた。手も震えている。嘘だろ。王女様から直々にクエストをいただいてしまったよ。これ、成功したらどうなるの? てゆうか、なんでハーディーはいきなりレベル30なのに、俺は20なの? リーダーよりメンバーのレベルが上って、アンバランスじゃね?


 いろいろなことが一度に起こりすぎて、頭がパンクしそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ