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アフリートを味方にする?!

 ドタバタと慌ただしく準備をして……というか、エドワードとライラが準備をして、俺たちの馬車で出発した。目的地はイースだ。イースは国名であり、首都の名前でもある。よく混同されるので首都に行く場合は大抵、「イースに行く」と言わずに「首都に行く」と言う。


 馬車は雪が残ったビシャビシャの未舗装路を、ゴトゴトと音を立てながら走っていく。足元が良くないので、あまりスピードは出せない。両側は深い針葉樹の森だ。今年の冬は雪がそこそこ降ってよかった。これなら春先から水不足に悩むことはない。


 「で、どうやってコンティニュアスを使って、魔族を撃退するんだよ」


 御者台で隣に座っているエドワードに尋ねた。荷台ではテイラーとコンティニュアスが「腹が減ったぞ」と声を合わせている。確かに昼飯を食いそびれた。エドワードに尋問されている間にランチタイムは過ぎてしまった。俺も腹が減っているが今、馬車を運転しているのでメシが作れない。


 「魔族はどうすればこれ以上、人間の居住区に入ってこないと思う?」


 その質問は、会うたびにされているように思う。巨大な城壁を築くとか、軍隊を増強するとか、こっちから攻めて出るとか、いっそのこと魔族と仲良くすればいいとか、思いつく限りいろいろなアイデアを口にした。だけど、エドワードは笑いながら、どれにも首を縦に振らない。そして、いつも最後にはこう言うのだ。


 「人間が魔族と同じくらいか、それ以上に強いということを思い知らせてやればいいんだろ?」


 何度も聞かされた答えを口にした。


 そう、なぜ魔族が人間の居住区を奪いに来るのかというと、人間を〝弱い者〟〝奪っても構わない者〟と見ているからだ。だから、人間がもっと強くなって〝襲うと厄介〟〝襲うリスクに見合わない〟と思わせればいい。


 「そうだ。本当なら魔法使いを総動員してガツンとやっつけてやればいいんだけど、彼らは非協力的だ。だから、別に強力な武器を手に入れる必要がある」


 コンティニュアスが荷台から「だから、俺はそんなことやらねえって」と声をかけてくる。エドワードはその声を無視して続ける。


 「クリスは、炎の神殿のことはもちろん知っているよね」


 「当たり前だろ。パンゲアと並ぶ人類未踏の地だからな」


 炎の神殿は、イースとロリアンドーロの中間地点から北に向かい、北限を越えたところにある。神殿という名前がついているが、遺跡に近い。『世界の歩き方』に載っている。切り立った崖の上にあり、接近することが難しい。そして、たどり着いたところにも侵入を拒む仕組みがある。


 「あそこのカーテンは、タイタンが3日3晩寝ずにいろいろなことを試したけど、開けることができなかったなぁ」


 スティーブンさんが笑いながら話していたことを思い出す。円柱が立ち並ぶ、名前の通り神殿のような建物なのでそう呼ばれているのだが、外側に透明のカーテンがあるという。それはものすごい高熱で、剣を差し込むと溶けてしまうほどらしい。ザ・レジェンズは最終的に侵入を断念して、外側からの観察にとどめて神殿を去っている。


 「炎の神殿に安置されているものが何かも、知っているよね?」


 エドワードは御者台の上で近づいてきて、いたずらっ子のように俺をのぞき込んだ。くっ、相変わらず細かい仕草があざといやつだ! キラキラした、好奇心があふれ出している視線。その瞳で見つめられただけで、ドキドキしてしまう。


 「し、知っているとも。アフリートだろ」


 動揺しているのを気づかれないように返事をしたつもりだったが、少し噛んでしまった。


 アフリートは炎の精霊だ。土のベヒーモス、風のシェイドと並ぶ4大元素の一つ、魔族がいうところの四天王の一人。ちなみに水は、女神シャナだ。人間が信奉している神様が、魔族の四天王の一人というのは、実に皮肉な感じがする。余談だけど。とにかく炎の神殿には、アフリートが安置されているといわれている。アフリートはベヒーモスと違って、人間のような形をしておらず、炎そのものなのだそうだ。炎の神殿の周囲にカーテンが敷かれているのは、アフリートが内部にいる証拠と言われている。


 「そのアフリートを取りに行く。僕の見立てが確かならば、コンティニュアスがいれば可能なはずだ」


 「はぁ?!」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。だって、ザ・レジェンズが突破できなかった魔法がかかっているんだぞ?


 「えっ、そんなこと、できるの?」


 エドワードは俺の驚き方が予想以上だったのか、少しびっくりした顔をした。そして、眼鏡の位置を直すと、コホンと一つ、わざとらしい咳払いをした。


 「できる。だって、コンティニュアスは魔力だけを吸い取れるんだろう? ならば、見えないカーテンを解除できるはずさ。あれは噂を聞く限り、要するに魔力による障壁みたいなものだろうから」


 「あ、ああ……。なるほどな」


 あまりにもシンプルな回答だった。カーテンが魔力で作られたものであるならば、コンティニュアスが吸い取ればいいわけだ。いや、ちょっと待ってくれ。


 「でも、魔力を吸っている間、俺たちも魔力が使えなくなるんだぞ? 俺は魔法使いではないから影響ないかもしれないけど、エドやテイラーはどうするんだ? ライラも」


 俺は荷台を見た。テイラーはライラとハーディーの間に挟まれている。ライラの肩にもたれかかって甘えていた。そう、ライラの。なんでライラがここにいるの? エドワードの執務室で「見張っておいてくれ」とか、自分は行かなさそうなことを言っていなかったか?

 

 「まあ、それはお互い様さ。こっちも魔法は使えないが、あっちも魔法は使えない。アフリートを回収して、僕らの味方になってもらう。言い伝え通りなら、アフリートは四天王の間ではもっとも攻撃力が高い。歩く砲台みたいって言うからね」


 エドワードは鼻を高くして、ドヤ顔をした。いや、ドヤッじゃないだろう。アフリートを味方にする? 魔族版ザ・レジェンドの一員なんだぜ?


 「アフリートに味方になってもらうって、そんなことできるのか? 魔族だぞ?」


 誰もが疑問に思うであろうことを聞くと、エドワードはニヤリと笑って「よくぞ聞いてくれた」と言った。


 「古い資料を漁っていた時に見つけたんだけど、アフリートは寄生体なんだそうだ」


 「寄生体?」


 思わず聞き返す。


 「そう。アフリートは小さな炎で、自らだけでは移動することすらできない。そこで、何か別の生き物に寄生するんだ。寄生虫っているだろう? あんな感じだよ」


 「ほうほう、なるほど」


 エドワードの説明はわかりやすかった。しかし、アフリートが寄生虫とは知らなかったな。魚にはよくいるけどな、寄生虫。


 「で、僕に寄生してもらうというわけ」


 「ふーん。って、ちょっと待て!」


 エドワードはサラッと言ってのけたが、とんでもない作戦だ。アフリートが寄生虫だということはわかった。だが、寄生されても大丈夫なのか? 魚に巣食う寄生虫は加熱すれば死ぬけど、生で食べてしまったら猛烈に腹が痛くなるんだぞ。


 「寄生されて無事という保証はあるのかよ?!」


 俺はエドワードに詰め寄った。


 「保証はある。少なくともアフリートは宿主を殺さない。だって、自分の行きたいところに運んでもらわないといけないんだもの。古い文献にもそう書いてあった」


 エドワードは平然としている。いやいや、それでもだな。魔族に寄生されるというのは、いかに奥の手とはいえ、気持ちのいいものではないぞ。呆れていると、エドワードは続けた。


 「アフリートの協力を得て、魔族にちょっと痛い目に遭ってもらう。こちらに四天王の一人がいるとわかれば、彼らもおいそれと攻め込んでは来ないはずだよ」


 確かに……。例えば、敵のパーティーにハーディーがいるようなものだ。俺なら攻め込まない。戦いを避ける。そんな感じか。


 「とりあえず、これ食べたら」


 ライラが荷台から身を乗り出して、細長い紙包を手渡してきた。開けてみると、太いホットドッグだった。すっかり冷めている。荷台からなんだか肉の匂いがすると思っていたら、これか。見ると、テイラーが夢中でかぶりついているところだった。


 「ありがとう」


 返事をした俺に、ライラは温かいコーヒーが入ったコップも手渡してくれた。いつの間にか昼食を用意してくれていたなんて、なんて気が利くんだろう。ライラはエドワードにも同じものを手渡した。俺のすぐ隣に身を乗り出してくる。分厚いマントを着ているが、フワッと石鹸のいい香りが漂ってきた。


 「私、なんでここにいるんだろう。3日後には昇級試験があるのに。ちゃんと帰れるのかな……」


 荷台に戻りながら、聞こえよがしにブツブツ言っている。たぶん、エドワードに聞かせるつもりで言っているのだ。


 「ライラは次、レベルいくつになるの?」


 ホットドッグにかじりつきながら、聞いてみた。美味い。冷えているが、ウインナーからじわっとにじみ出す脂がたまらない。


 「30よ」


 ライラは荷台に座り直すと、ジロッと俺をにらんで、とんでもない数字を口にした。


 「えっ、30? 俺、まだ6なのに?」


 「クリスが伸びなさすぎなのよ。何年目? もう4年目でしょ? 普通に冒険していたら、2桁には到達しているはずだわ」


 そう言いながら、大きく口を開けてホットドッグにかぶりつく。食べ終えたテイラーが物欲しそうな顔をしているのに気づいて、半分くらいちぎって分け与えた。そうは言っても、ろくなパーティーに入れず、ろくな冒険に出会えていないんだもの。仕方ないじゃないか。


 「僕、この前、50になったよ」


 コーヒーを飲んでいたエドワードが、サラッと聞き捨てならないことを言った。


 「何、50?! どういうこと?!」


 50といえば、ちょっとしたベテランだ。リーダーはもちろん、若手を引っ張っていく立場の人たちがレベル50くらい。わずか4年間で、そこに到達したとは。


 「つい先日、蘇生の魔法も使えるようになったんだ。まだ成功率は低いけどね」


 次々にとんでもないことを言い出す。蘇生の魔法は、司祭クラスが使うものだ。司祭はヒラの修道士の上に立つ責任者で、多くは自分の教会を持っている。そして、担当地域がある。デビュー4年目の分際で司祭クラスの魔法をマスターしただって?! 


 「嘘だろ?!」


 また一段と自分が置いて行かれたような気になって、愕然とする。思わず頭を抱えた。


 「大丈夫、クリスは今まで仲間に恵まれなかっただけさ。でも、ほら、見なよ。今回はすごいメンバーじゃないか。これなら今まで溜まりに溜まっていた分、ドバドバとレベルも上がっちゃうんじゃない? 知らないけど」


 エドワードはそう言って、無邪気にアハハと笑った。くそう、今に見てろよ。どんどんレベルを上げて、追いついてやるからな。イースに到着したら、まずはレベルを上げるんだ。今の俺なら即、20くらいは認定してもらえるはずなんだ。

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