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大魔道士タイタンあらわる

 おっさんはツカツカと……。いや、ドスドスと短い足を動かして、ハーディーに近寄ってきた。


 「貴様には特製の探査機能を与えてあるんだ! それがなんだ、こんなところでボサッと時間を無駄にしおってからに! 他のヤツらに例のものを先に捕られたら、どうするつもりだ?!」


 腰に手を当てて、偉そうに胸を張る。あれ、このおっさん、どこかで見たことがあるぞ。誰だっけ。


 「あ、あの……」


 俺は思い切って声をかけた。ハーディーに向かってまだ何かを言おうとしていた男は、ようやく俺に気がついて、こっちを向いた。


 「誰だ、お前は!」


 今度は俺のことを指差す。


 「ええっと、盗賊のクリスと言います」


 「盗賊のクリスが何の用だ!」


 何の用だと言われても。


 「いや、あの。話が全然読めなくて、ちょっと説明してほしいかな……って」


 恐る恐る申し出てみた。うるせえ、引っ込んでろと言われるのは慣れている。だが、それでも食い下がらないと、端緒はつかめない。


 「何ぃ?! うるさい、引っ込んでろ!」


 思った通り、男は大きな鼻を怒りでピクピクと震わせながら怒鳴った。怒鳴ってから一瞬、静止して「いや、ちょっと待て」と言った。急に冷静な表情になる。


 「お前、今、盗賊だと言ったな」


 「はい。そうです」


 「ということは、アハガティとパーティーを組んでいるのか?」


 「ハイ」


 まだ出会ったばかりでパーティーを組んでいるわけではないし、ハーディーという名前でアハガティではないのではないか、いやもしかしたら俺が名前を間違えているのかもしれない……といろいろと気になるところはあるのだが、とりあえず素直に返事をしてみる。


 「ふうむ」


 男は腕を組むと、大きな鼻を指先で撫で回しながら、何やら考えはじめた。


 「ところで、あなたはどなたですか? どこかでお会いしたことがあるような気がするのですが……」


 黙りこくってしまったので、改めて恐る恐る聞いてみた。別にビビってなんかいない。むしろ、もっとズケズケと聞いてみたい。だけど、カリカリしている相手には、こうやって恐る恐る聞いた方がいいのだ。そうすれば相手の優越感を刺激して、知りたい情報をペラペラしゃべってくれる。と、スティーブンさんが言っていた。


 「ああん?! 知らんのか? わしは、この大陸随一、比肩無双の大魔道士、誇り高き魔術師ギルドの総帥、タイタンじゃぞ?!」


 男……タイタンは、こめかみに青筋を立てて、キレ気味に言った。


 あ、思い出した。大魔道士タイタン。ザ・レジェンズの元メンバー。つまり、かつてのスティーブンさんの同僚。イースに行った時に、お祭りのパレードで見かけたんだ。大きな神輿に乗って、得意満面で観衆に向かって手を振っていた。ザ・レジェンズとして世界中を旅し、多くの魔法を収集した、魔法界の第一人者。今や魔術師ギルドの総帥として、イース王国に匹敵する富と権力を誇ると言われている。


 「そんなえらい人がなぜ、こんなところに一人でいらっしゃったんですか?」


 あくまでも下手の姿勢を崩さずに、続けて聞いた。


 「そりゃあ、こいつはわしが精魂込めて作り上げた魔人だからに決まっておろうが! ちゃんと仕事をしとるか、わし自身が見にこないといかんだろう!」


 タイタンは得意げに胸を張った。魔人とか仕事とか、知らないワードが出てきた。これは一つずつ、解決していかないと。


 「ええっと、魔人というのは……」


 やっと俺のペースで話が進みそうだったのに、タイタンは首を振って質問を遮った。


 「よし、わかった! クリスとやら、お前もアハガティを手伝え! というか、こいつがちゃんと仕事をしとるか、監視しろ! していなければ、ケツを叩け! わかったな?」


 そういうと、両手をサッと空に向けて伸ばした。フワッと体が宙に浮き上がる。えっ、ちょっと待って! まさかそれだけ言い残して、帰るつもりじゃないだろうな?!


 「ちょっと待ってください! 仕事って、何をすればいいんですか!」


 俺はタイタンに駆け寄ると、ローブにすがりついて聞いた。


 「万物の源を持ってこい! どこにあるかは、アハガティが知っておる!」


 タイタンは宙に浮き上がりながら言った。ローブを持っていないと、あっという間に飛び去ってしまいそうだ。


 「ちょっと待ってください!」


 「ええい、まだ何かあるのか?!」


 タイタンはローブを引っ張って、俺の手を振り払った。ああ、まずい。行かれてしまう。だが、その前にこれだけは確認しないと。


 「その、万物の源というものを持っていったら、もちろん報酬はいただけますよね?!」


 声を張り上げた俺の質問に、タイタンは空中で立ち止まった。真顔で俺を見る。


 「報酬? 金か? 女か? それともレベルを上げてほしいか? 獲物は万物の源だ。本当に持ってくることができれば、それなりのものを与えてやろうではないか」


 おおっ、マジか! ならば、まずはレベルを上げてもらおう。そうだな、仲間集めの時に申告しても、馬鹿にされない程度のレベルだ。それからやはり金かな。当面、生活に困らずに冒険に集中できるくらいの金。ええっと、それから……。


 「もういいか? ワシは忙しいんだ」


 気がつけば、タイタンは手の届かない中空まで浮き上がっていた。


 「あ、ちょっと待ってください!」


 「何だ、まだ何かあるのか」


 実に迷惑そうな顔をして、立ち止まる。


 「その、彼のしゃべっている言葉、魔法言葉で理解できないんですけど……」


 そういうと、タイタンは片方の眉を吊り上げて、明らかに呆れた顔をした。


 「何だ、魔法語もたしなんでおらんのか。それくらい自分で何とかせえ。魔法使いを探してきてパーティーに入れたらよかろうが」


 そういうとローブを翻して、一気に空へと飛び去った。キーンという耳障りな音を残して、青い夜空に消えていく。寒くないのか? そんなことを思いながら、俺は大魔道士が消えていった方向をしばらく見つめていた。


  ◇


 その夜は窪地で一夜を過ごした。俺はハーディーにいろいろと聞いてみた。


 「ハーディーは、あのタイタン……さん?の部下というわけ?」


 「あはっは、はっは」


 ハーディーはうなずきながら身振り手振りを交えて何か話しているが、さっぱりわからない。でも、うなずいているということは、ハーディーはタイタンの部下、つまり魔術師ギルド所属の魔法使いというわけだ。たぶん。全く魔法使いには見えないけど。


 「魔人ってなんなの? ハーディーは普通の人じゃないの? タイタンさんは『作り上げた』と言っていたけど」


 「あっはは、はっは」


 ハーディーは自分の胸元を指さして、何か説明している。ダメだ。質問が複雑すぎたか。ハーディーがうなずくか、首を横に振るかのいずれかで返答できる質問をしないと、わからない。


 風の噂で聞いたことがあった。魔術師ギルドでは、人体実験が行われていると。魔族に対抗するために、魔法で人体を改造したり、強化したりしているという。教会はそれを母なる女神に対する冒涜だとして、批判している。魔術師ギルドがイースを出て、近隣のキャルダモナという街に本部を移転したのは、教会の追及が面倒だったからだと言われている。


 「万物の源って、あれだろ? あの、魔力が無限に湧いてくるってアイテム。『世界の歩き方』にチラッと出てくるから、名前は聞いたことがあるよ」


 そう。タイタンが持ってこいと言った万物の源は、そういうものだ。イースから南西に向かって旅をして、川を越えてさらにその先に、空中に浮かぶ不思議な島がある。パンゲアと呼ばれている。かつて魔王が所持していたといわれる万物の源は、そこにあると『世界の歩き方』に書いてあった。


 「ああは、あはっは」


 ハーディーはうなずきながらまた説明を始めたが、やはりわからない。これはやはり、通訳が必要だ。万物の源は今の俺にはあまりにもデカい、デカすぎる獲物だった。それこそザ・レジェンド級のパーティーが取りに行く代物だ。カナリヤンズでさえ、手に入れられるか怪しい。だが、尻尾を巻いて逃げ出すという選択肢はなかった。だって、カナリヤンズを首になってガッカリしていたところに、改めて飛び込んできた一発大逆転のチャンスなのだ。このクエストを達成できれば、一足飛びにジャンプアップして、中級冒険者の仲間入りができる。しかも、目の前にハーディーというキーマンがいる。リスクは間違いなく大きいが、他の連中に譲るつもりはなかった。


 「よし、わかった!」


 俺は膝を叩くと、立ち上がった。


 「ハーディー、一緒に万物の源を探しに行こう。タイタンさんのところに持ち帰って、一攫千金と行こうぜ!」


 俺は手を差し出す。ハーディーは仮面に焚き火の明かりを鈍く反射させながら、まるで目が見えているかのようにそれを見つめた。一瞬の間の後、大きな手をゆらりと持ち上げると、ガッシリと俺の手をつかんだ。


 交渉成立だ。


 「これで俺たちは仲間だ。これからよろしくな、ハーディー」


 「あだはっ、はあは」


 相変わらず何を言っているのかわからない。とりあえず夜が明けたら、街に行って魔法使いを探してこよう。魔法言葉を通訳してくれる人が必要だ。昨日の今日だけに、用心して行かないとな。新しい冒険が始まってワクワクする気持ちと同時に、ギュッと胃袋を締め付けられるような緊張感が襲ってきた。

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