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パンケーキと豚肉のソテー トマトソースがけ

 キュラの家に帰ると、キッチンの窓辺に置かれた椅子には誰もいなかった。テイラーの姿が見当たらない。リビングにハーディーがいたので「テイラーは?」と聞くと、2階を指差した。ちょっとホッとする。俺がいない間に姿をくらましたなんて、御免だぜ。


 卵と牛乳を買ってきたので、小麦粉と混ぜてパンケーキを作り、豚肉をスライスして焼いてトマトソースをかけた。汁物は野菜のスープだ。腕を奮いすぎたか。帰ってきたのが遅かったから、もっと簡単にパパッと作れるものがよかったかな。でも、明日からはまた馬車の旅で、ろくなものが食えない。豪華な食事ができるのは、しばらくない。


 「手伝おうか?」


 気がつくと、テイラーがキッチンの入り口に立っていた。ローブを脱いで、白いセーターとグレーのロングスカートに着替えている。


 「おお、ありがとう。スープを見てくれ」


 見慣れない服装のテイラーを見て、ドキッとした。まぶしい……。えっ、ちょっと待って。まぶしいって何? あのフケと垢まみれだった汚い子供が、まぶしいだって? 俺は袖口で目元をこすって、隣でスープをかき混ぜているテイラーをよく見てみた。いや、確かにまぶしい。なんだ、これは。火傷で引きつれた顔をしているが、もうそんなのは見慣れてしまった。引きつれ、歪んでいるなりに、かわいい。


 ちょっと待って。テイラーはかわいいって、なんだよ!


 コンティニュアスがあんなことを言い出すから、変に意識してしまうんだ。テイラーを女にしてしまえだって? よく見ろ。テイラーはまだ子供だぞ。俺は意識的にテイラーの胸を見る。うむ、ぺったんこだ。そしてお尻を見る。スカートは緩やかに、テイラーのヒップラインを描き出している。


 なかなかええケツしとるやんけ。


 違う違う!


 目を背けて、トマトソースをかき混ぜる。


 「すごい! 今夜は肉だ!」


 気がつけば、テイラーがすぐそばに来ていた。目をキラキラさせて、俺の手元を見ている。ほぼ俺に抱きついていて、小さいながらも胸の膨らみを感じる。


 うわぁ、テイラー。勘弁してくれ!


 顔が熱い。真っ赤になっているに違いない。俺はキスはしたことあるけど、素人とはまだエッチをしたことがないんだ。もやもやとテイラーとベッドインするところを想像する。いや、ちょっと待て! 相手は14歳だぞ! そんなことより目の前の肉に集中しろ! 一番、美味しいタイミングで仲間に提供するんだ!


 「テイラー、皿だ!」


 「はいよ」


 テイラーは食器棚から、まさに俺が求めていたサイズの皿を4枚、持ってきた。


 「テイラー、スープをよそってくれ」


 「任せて」


 テキパキとスープを注いでいく。選んできたスープカップは、まさしく俺が使おうと思っていたものだった。俺とテイラー、息ぴったりじゃん。


 「おーい、メシだぞ!」


 ハーディーとコンティニュアスを呼びながら、脳内でテイラーと結婚式を挙げているところを想像していた。白亜の教会。白い鳩が飛び、ライスシャワーが舞う。俺がテイラーに指輪をはめる。にっこりと微笑むテイラー。そして、誓いのキスを……。


 「むっ、これめちゃくちゃ美味え! クリス、これ、めちゃくちゃ美味えぞ!」


 テイラーの興奮した声で、我に返った。ドキッとして冷や汗をかく。見ると、テイラーはパンケーキを口いっぱいにほお張っていた。


 「あ、ああ、そうか! そりゃ、よかったな。腕によりをかけた甲斐があったぜ」


 妙な妄想をしていたことを悟られないように、平静を装った。気がつけば、パンケーキをものすごく細かく切り分けている。俺の手元を見つめて、テイラーは不思議そうな顔をした。


 「クリス、そんなふうに小さくすると、美味しくなるのか?」


 自分の手元を見つめた。まさか、テイラーと結婚する妄想をしていて、気づかないうちに小さく切っていたとは言えない。


 「ああ、いや、そんなことはない。ただ、ちょっと口の中にデキモノができていてな。細かくしないと、食べにくくてさ。アハ、アハハ……」


 自分でも苦しい言い訳をしていると思う。目の端でコンティニュアスが「プッ」と吹き出しているのが見えた。テイラーは「ふーん」と言って、自分もパンケーキを小さく切り始めた。


 「そんなことより、テイラー。ローブはどうしたんだ?」


 話題を変えようとして、服の話を振った。ハーディーとは会話できないし、コンティニュアスに振ったら、テイラーとくっつく話を蒸し返されそうだった。今、話しかける相手は、テイラーしかいない。


 「ローブは洗った。明日からまた着ていくから、今のうちに洗っておこうと思って」


 テイラーは野菜のスープをひと口飲んで、続いて豚肉に取り掛かる。それ、口に入るのか?と聞きたくなるくらい大きく切り分けると、一気にかぶりついた。


 「ん〜〜! 美味しい!」


 目をキラキラさせて、ほっぺたを押さえている。


 「クリシュう! テイラーはこんなに美味しいもの、初めて食べたぞ! 肉はやっぱり最高だな! テイラーは幸せだ!」


 口に肉をいっぱいほお張ったまま、興奮してしゃべっている。口の端からトマトソースが垂れている。「行儀悪いぞ」と言いながら、それを指先で拭いてやる。拭いてやりながら、またカーッと顔が熱くなるのを感じた。えっ、なんで今、恥ずかしいと思っているんだろう? こんなの今まで、何度もやったよな。テイラーの口元を拭いてやるなんて。


 フフフ……と笑う声が聞こえるので目を向けると、コンティニュアスだった。たまらないという顔をして、横目で見ている。この野郎、お前のせいだぞ。お前があんなこと言うから、俺はすっかりテイラーのことを意識し始めてしまったではないか。


 「クリス、明日は何時ごろに出発する?」


 テイラーに聞かれて、俺はまた我に返った。


 「えっ、なんだって?」


 「だから、明日は何時ごろに出発するのかって、テイラーは聞いている」


 テイラーは残りの肉をもぐもぐと咀嚼しながら聞いた。明日? 出発する? ああ、そうそう。明日から冒険を再開するんだったな。


 「身支度しないといけないからな。朝早く出るのなら、テイラーは早起きしないと」


 肉を食べ終えて、俺がまだ手をつけていない肉の皿を凝視している。飢えた野犬でも、そんならんらんとした目はしていない。迫力に負けて「食うか?」と自分の皿を差し出してしまった。テイラーはあっという間に皿をかっさらうと、残っていた肉を自分の口の中に押し込んだ。


 「うおっ、はぁあ」


 ハーディーが何か俺に向かって言っている。自分の分は自分で食えと言ったじゃないかと抗議されているような気がするが、今はそんなこと、どうでもいい。


 「えっ、身支度するの? テイラーが?」


 俺は聞き返した。


 「するとも。キュラの部屋を漁ったら、冒険者用のタイツやベルトが出てきた。今度はちゃんと、そういうのを着ていく。野営地でも寒くないように、しっかりとな」


 テイラーはえっへんと胸を張った。おっぱい……。テイラーにも小さいながら、ちゃんとおっぱいがあるね。俺はうれしいよ……。


 「ちょっと待ってくれ」


 ナイフとフォークとテーブルに置くと、額を押さえた。ええと、待てよ。テイラーは身支度をする。冒険者用の装備をする。つまり、俺たちと一緒に行く。そういうこと?


 「テイラー、それは要するに、俺たちと一緒に行くっていうことか?」


 「そうだ」


 テイラーは野菜スープを飲み干して、キッパリと言い切った。


 「キュラの家から離れることになるぞ?」


 「うん」


 「毎日、お墓参りはできないぞ?」


 「わかってる」


 「寂しくないのか?」


 「寂しくないことはない」


 テイラーは椅子の上で姿勢を変えると、俺の方に体を向けた。そして、真剣な目で俺を見据えた。


 「だけど、キュラの手紙に書いてあったんだ。世界を見て来なさいって。キュラが行けなかったところに行き、見ることができなかったものを見てこいって。そうすれば、天国のキュラは喜ぶって」


 俺はキュラに感謝した。キュラ・ドーラ、あんたは本当に素晴らしい師匠だ。死んだ後まで、こうやって弟子の背中を押せるなんて。


 「クリスやハーディーと一緒なら、キュラが行けなかったところにも行けるだろう? キュラが見たことがないところにも、テイラーを連れて行ってくれるだろう?」


 テイラーは俺とハーディーに微笑みかけた。ハーディーは力強くうなずく。俺はうれしくて、泣きそうになった。


 「もちろんだ、テイラー。一緒に行こう」


 テイラーは俺に手を差し出した。それをしっかりと握り返す。


 「テイラーはクリスのパーティーのメンバーだ。ここで降りるなんて選択肢は、テイラーにはない」


 テイラーはそう言って、ニコッと笑った。

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