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テイラーは、何歳離れていると思う?

 フェンネルの市場は、夕食の買い出しをする人々でにぎわっていた。採れたての野菜や捌きたての肉はないが、そんなものは必要ない。今日は主に調味料を買いに来たのだ。


 俺は今、基本的に塩と香草しか持っていない。甘みはキャンディーを削ってつけている。それでも構わないのだが、やはり砂糖がほしいし、味噌や醤油もほしかった。それがあればかなり料理にバリエーションができる。同じ干し魚料理でも、目先を変えられる。テイラーもハーディーも、それからコンティニュアスも味音痴なのか、何を作っても「美味い、美味い」と言って食べてくれるのはありがたかったが、俺は味付けが毎回、同じようになってしまうのが、自分で許せなかった。


 調味料をいろいろ取りそろえている店で、味噌や醤油を買う。砂糖も買った。あと、卵も。これでもっと本格的なパンが作れるぞ。コンティニュアスはもの珍しげにあっちを見たり、こっちをのぞいたりしながら、俺についてきていた。


 「なんだ、肉や魚を買うんじゃないのか」


 調味料を買っていた俺の手元を見て言う。


 「うん。いろいろと味付けを変えたくてさ。こういうのがあれば、同じ干し魚でも違う味に仕上げられるから」


 「ふうん」


 コンティニュアスは口髭を撫でながら、感心した表情をした。それから周囲をキョロキョロと見回して、俺の肩を叩いた。


 「なあ、クリス」


 例の人懐っこい笑みを浮かべている。最近、ちょっとわかってきたのだが、この顔をしている時は、何か要求があるのだ。言うことを聞いてほしいから、爽やかに笑う。それが、コンティニュアスのコミュニケーションの取り方だった。


 「なんだよ」


 大抵、ろくでもないことを言い出すので、この笑顔をしている時は、嫌な予感がする。


 「俺、あれが食べたいなあ。昔、食べたことがあるんだ。ほら、あの油で揚げた、サクサクしてジュワッとした、あれだ」


 両手を忙しなく動かして〝あれ〟を表現しようとしている。いや、別にそんな指で四角形を表現してもらわなくても、なんだかわかる。要するに、フライだろ。揚げ物。


 「フライだろ。中身はなんだよ」


 俺は一応、聞いてみた。


 「なんだったっけなぁ……。サクッとしてジュワッとして、たまらん美味さだったんだよ。ほら、外側はサクッとしてさぁ」


 表現力の乏しいやつだな。サクッとかジュワッとかばかりで、要領を得ない。腕を組んで首をひねっているコンティニュアスを置いて、歩き始めた。「待ってくれ!」と追いかけてくる。


 「揚げ物はダメだ。手間がかかるし、油が大量に必要だし、旅の料理には向かない」


 バッサリと切り捨てた。コンティニュアスは「え、そうなんだ」と言うと、ものすごくわかりやすくガッカリと肩を落とした。まあ、食べたいのなら、街の食堂で食べるんだな。と思っていたら、どこからともなく揚げ物の匂いがする。ドーナツか何か、お菓子っぽい食べ物だ。甘い香りがする。しばらく行くと、ドーナツを揚げている屋台があった。コンティニュアスを見ると、茶色くなった油の中でじゅうじゅうと音を立てているドーナツに釘付けになっている。


 「これはどうだ。ジュワッとしてないかもしれないけど、サクッとはしているぞ」


 「えっ、いいのか? 買ってくれるのか?」


 コンティニュアスの顔がパッと明るくなる。こいつ、本当にわかりやすいやつだ。


 油物を食べる機会なんて、こんな時でなければない。テイラーとハーディーにもお土産で買って帰ってやろう。ドーナツなんて、安いものだ。自分の分も含めてドーナツを4つ買った。コンティニュアスは早速、その場でかぶりついている。


 「むっ、美味いっ!」


 テイラーもそうだが、コンティニュアスも食に対する感情表現がストレートかつ大袈裟だった。ひと口かじると目を丸くして、バクバク食べ始めた。おい、もう少し味わって食べろ。すぐになくなっちまうぞ。そう言おうとした時には、すでに全部、口の中に入れてしまっていた。アラサーくらいのイケメンが、屋台の前で子供のようにドーナツを無心に食べている。通りがかった若い女性のグループが、クスクスと笑っていた。


 「ああ、美味い。俺が思っていたものとは違ったが、美味かったなぁ」


 歩きながら、指についた油を名残惜しそうになめ取っている。やめろ、行儀が悪いぞ。市場からは少しずつ人が減っていた。みんな自宅に戻って、食事の準備に取り掛かっているのであろう。その証拠に、周囲の家々の窓には明かりが灯り、あちこちから料理の香りが漂ってきている。早く帰らないと。自然と足取りは早くなった。


 ああ、ここは豚肉を焼いているんだな。こっちはニンニクを油で炒めている。これはトマトソースを作っている香りだ。さまざまな料理を作っている香りは、この街が平和である証拠だった。ポポナの晩年は、こんな感じではなかった。魔族が街に侵入し、逃げ出せる者は逃げ出してしまい、夕暮れになっても料理をする匂いは漂わなくなった。匂いがするということは在宅しているということで、魔族の標的になってしまう。やむをえず街に残っている人々は、調理しなくても食べられる保存食を口にして、飢えをしのいでいた。


 「んで、クリスよ」


 そんなことを考えている最中に、急にコンティニュアスが声をかけてきたので、びっくりした。指先を上着の裾で拭きながら、話しかけてくる。


 「本当にテイラーをこの街に置いていくつもりなのか?」


 薄笑いを浮かべている。ハーディーとのやりとりを聞いて、興味を持ったのだろう。キュラの手紙を読んだ今、俺はテイラーに引き続き一緒に来てほしいと思っていた。どうか「ここに残る」と言わないでくれと、祈るような気持ちでいた。


 「その選択肢も、なくはないということだ」


 それでも、そう答えざるを得なかった。これはテイラーの問題なのだ。俺がどれだけ一緒に来てほしいと思っていても、テイラーが留まることを選べば、それを飲むしかない。


 「なくはないって、どういうことだ」


 コンティニュアスは大袈裟に呆れた表情をした。胸を張って、フンと鼻息を鳴らす。


 「お前はどうなんだ、クリス。テイラーについて来てほしくないのか?」


 俺の胸元に指を突きつけて、迫ってきた。さっきまでの薄笑いは消えて、眉をキリリと引き締めて真剣な顔をしている。


 「いや、そりゃあ、どちらかといえば、これからも一緒に旅がしたいよ」


 格好よく「それはテイラーの問題だから、俺は口出しできない」と言い切れなかった。テイラーをここに一人で残していくのは心配だったし、離れ離れになるのは寂しかった。すでに俺はテイラーの保護者の気分なのだ。俺の返事を聞くと、コンティニュアスはうれしそうに笑った。


 「そうだろう!」


 満面の笑みになって、声も大きくなる。


 「ならば、早くお前の女にしてしまえ! 離れられないようにするんだ! テイラーは、それだけの価値がある女だぞ!」


 周りを歩いていた人が、急に大きな声を出したコンティニュアスの方を振り返る。やめろ、恥ずかしい。それに「お前の女」ってなんだよ。テイラーはまだ子供だぞ。


 「しっ! 声が大きいぞ。それに女、女って、テイラーはまだ子供じゃないか」


 俺は声をひそめて言った。コンティニュアスは不思議そうな顔をする。


 「何を言っているんだ。テイラーはもう子供が産める体だぞ? 早くエッチしてしまえ。そうすれば離れられなくなる。めでたくカップル誕生だ」


 めまいがしそうになった。子供を産むとかエッチとか、テイラーを相手にそんなことを考えたこともなかった。


 「あのさあ、コニー。俺とテイラーは何歳、離れていると思う?」


 「知らん。だが、年の差なんて関係ない。俺はこれまでそういうカップルをたくさん見てきた。むしろ、年の差が大きい方が、2人の愛は熱く燃え上がるものだ」


 なぜかコンティニュアスは一層、真剣な顔になった。


 「テイラーはよく知らないけど、14歳くらいなんだぞ! そんな年齢の女の子に欲情していたら、俺は変態じゃないか! ロリコンだ!」


 必死になって言い返しているが、なぜか脳裏に浮かんでくるのは、テイラーの姿ばかりだった。初めて水浴びさせた時、そういえば腰つきがむっちりしていたなぁ。洗ってやった背中も、火傷していない部分の肌はピチピチしていたなぁ。温泉で見た体のライン。確かに思った以上に女性っぽかったかも。それから最近、よくそばに来て眠ってくれるんだけど、胸のふくらみが意外にあって……。


 いやいやいやいやいや


 俺は何を考えているんだ!


 「ロリコンだかなんだか知らないが、あと10年たてば、テイラーは24歳じゃないか。いい女になっている。手をつけるのが少し早くなるだけだろう。違うか?」


 コンティニュアスは真面目な顔で話している。俺は24歳になったテイラーを想像した。背が伸びて、おっぱいが大きくなって、腰のくびれももう少しダイナミックになって……。おお、いい女じゃん。火傷の跡がひどい顔も、俺の脳内ではかわいく補正されている。


 いやいやいや、違うって! 22歳が14歳とエッチしたら、犯罪だろ! 犯罪!


 たぶん、今、俺の顔は真っ赤だ。ちょっと待ってくれ。急にテイラーのことを女性をして意識してしまった。胸がドキドキする。言い返せない。黙っていると、コンティニュアスは話を続けた。


 「お嬢は魔法使いとしても、大したものだぞ? 初めて会った時、俺は姫に抱かれながら、あの子の持ち物になってもいいかなと一瞬、考えた。まあ、姫には総合点で及ばないが、お嬢はお嬢ですごい魔法使いになる素質がある。あの子は、魔力の密度がすごいんだ。密度だけなら、姫を上回っている」


 「えっ、そうなのか」


 そんなこと、初めて知った。だから、ベヒーモスが作ったダンジョンを破壊するほどの力が発揮できるのか。


 「まあ、それは余談だ」


 コンティニュアスは少し俺から離れた。そして、ニヤッと笑った。


 「そんなことより、俺は昔からオスとメスがくっついたり離れたりするのを見ているのが、めちゃくちゃ好きなんだ。なんて言うんだ? 尊いって言うのか? お前とお嬢は、そうなる予感がしてならないんだよな。だから、早くお嬢とイチャイチャしてくれよ」


 そう言って、俺の背中を平手でバンバン叩きながら、楽しそうにガハハと笑った。

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