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初めての戦闘

 次の日の移動中、魔族と遭遇した。谷間の細い道を歩いていると、崖の上の方で生き物が移動している気配がする。見上げてみると人型の魔族が何人か、俺たちと同じ進行方向へと歩いていた。


 「止まれ。魔族がいる」


 俺は声を潜めてハーディーとテイラーを止めると、2人を道の脇の茂みに隠れさせた。そして身をかがめて少し先まで行って、相手の様子をうかがう。木立の間から、ヤツらの姿がはっきりと見えた。


 これはマズい。悪魔だ。


 悪魔は人と似た姿をしている。多くは小綺麗な服を着ているし、人間の言葉を話す。違うのは角や翼が生えていたり、首から上が山羊や犬だったりするところだ。そして、悪魔はもれなく魔法を使う。一番、厄介なのは人間を好んで食べるという点だ。暗闇が好きで明るい日差しが嫌いという習性があって、こんな日中に活動しているのは珍しい。余程、急いで移動しなければいけない用事があるのだろう。


 相手は4人だった。先頭を歩いている、羊の角を生やしたヤツがリーダーのようだ。体が大きく、どこかを指差して指示を出している。腰には剣を差していた。立派な襟のついた豪華な上着を着て、青い半ズボンに皮のブーツ姿だ。人間気取りも甚だしい。


 あっちはまだこちらに気づいていないようだ。いつも通り、やり過ごすのが正解だろう。薮の中から「早くあっちに行け」と祈りつつ、悪魔たちの動きを注視していた。と、ふいにリーダーらしきヤツがこっちを見た。目と目が合う。ヤバっ。見つかった! 俺は薮から飛び出して、来た道を駆け戻った。ズザザザッと崖を駆け降りてくる音がする。悪魔はそれほど戦闘力は高くない。だが、魔法を使って相手を眠らせたり、麻痺させたりする。巻き込むのは本意ではなかったが、ここはハーディーに助けてもらうしかない。


 「ハーディー! 敵だ!」


 俺が叫ぶと、茂みを突き破ってハーディーが飛び出してきた。息を切らせてそばまで行って振り返ると、悪魔たちがすぐそこまで迫ってきているところだった。


 ヒエェ、ゾッとする。悪魔を見るのは初めてではないが、いつ見ても嫌悪感というか、ゾワゾワさせる外見をしている。人のようであり、獣のようでもあり。どっちつかずの中途半端さが、気持ち悪さを増幅させる。


 「おっ、なんだ。もう一人いるのか」


 先頭を走ってきた、山羊の顔をした悪魔が流暢な人間の言葉で言った。


 「気をつけろ。こいつ、ただの人間じゃあないぞ。ものすごい魔力を感じる」


 別の悪魔が言う。こいつは牛の顔だ。ハーディーのことを言っているのだろう。


 「だが、それだけに美味そうだ。これだけデカければ、当分は食うに困らないぜ」


 さっきリーダーと見立てた羊角の悪魔はニヤリと笑うと、剣を構えて前に出てきた。


 2対4。不幸中の幸いは、ここが谷間の細い道だということだ。悪魔は体が人間よりもひと回り大きいので、ここで2人並んで戦うのは難しい。取り囲まれることはないだろうし、ハーディーとうまく連携すれば、五分以上に戦える可能性があった。


 そう、物理攻撃だけなら。


 注意しなければいけないのは、ヤツらの魔法だ。2人が前衛で、2人は後衛だろう。後衛の連中がどんな魔法を使ってくるか。テイラーは魔法を打ち消す魔法を使えるだろうか? 電撃で援護してくれればいいのだが。ハーディーに「隠れていろ」と言われたのか、姿を見せない。だが、それでいい。とりあえず隠れていろ。


 ハーディーは腰紐から柄を抜いた。それを刀身があるかのように構える。


 「おお、なんだ。人間の分際で、そんなものを振り回すのか。面白い!」


 羊角の悪魔はそういうと、剣を構え直した。俺もベルトから短剣を抜く。手の平にじっとりと汗が浮かんで、滑って落としてしまいそうだ。片手で扱うタイプの短剣で、武器として使うよりも罠を探したり、野菜を切るのに使ったりしている。とてもあの悪魔たちが持っている両手持ちの剣とは、打ち合えない。突然、始まった強敵相手の戦闘に、足は恐怖で震えていた。


 まだ死にたくない。まだ何も成し遂げていないじゃないか。


 悪魔はニヤリと笑うと、一気に間合いを詰めて切りかかってきた。同時にもう一人の悪魔が、そのすぐ後ろから剣を手に襲ってくる。速い。バッとひとっ飛びしただけで、斬り合う間合いに入ってきた。


 くっ、前のヤツは頼んだぞ、ハーディー!


 「うあぁ!」


 覚悟を決めて腰を落とした瞬間、ハーディーは想像とは、だいぶ違う行動に出た。俺を地面に突き倒して突進すると、羊角が剣を振り下ろす前に体当たりして吹っ飛ばした。羊角は後ろの悪魔にぶつかって、もんどりを打って転がる。地面にひっくり返った2体の悪魔を踏み越えると、後ろで詠唱を始めていた悪魔2体に切り掛かった。ヤツらは真っ先に攻撃されるとは思っていなかったようで、完全に油断していた。


 「ヒイッ」


 悲鳴が終わらないうちに、ザシュッという耳障りな音を残して悪魔の首が2つ、吹き飛んだ。ハーディーはそのままぐるんと振り返ると、まだ起き上がっている最中の牛の悪魔の脳天に、返す刀を叩き込んだ。


 「ブギャッ!」


 吐き気を催すような悲鳴を残して、牛の頭が脳天から鼻面あたりまでかち割れる。血飛沫と骨片が、乾いた地面に飛び散った。


 「うっ、うわぁ」


 一瞬で3体の部下を失った羊角は、腰を抜かしてしまった。さっきまでの勢いはどこへやら。這いずってこの場から逃げ出そうとしている。


 「おおう、おうっ」


 ハーディーは見えない刃先を羊角に向けた。


 「ひ、ひえぇっ。わ、悪かった。た、助けてぇ〜!」


 羊角はなんとか立ち上がると、剣を投げ捨てて一目散に逃げていった。


 あっという間の出来事に、呆然としてしまった。


 えっ、なに、これ? 魔族4体をあっという間に退治してしまったぞ? それもオークや獣人ではない。厄介な悪魔を。えっ、ハーディー、めちゃくちゃ強いんじゃね? 道の真ん中に転がっている悪魔の死骸を見つめる。ざっくりと割れた脳天から、何やらきれいなピンク色の肉片がのぞいていた。脳みそだろうか。悪魔にも脳があるんだな。そんなことをぼんやりと考える。


 嘘だろ? 悪魔って一体倒すだけでも結構、大変なんだぜ? 魔法使いが魔法を封じて、初めて人間が五分に渡り合えるのに。


 「うわぁ、すげぇ。本物の戦闘だ。テイラー、初めて見たよ」


 気がつくと、テイラーが茂みから出てきていた。目を見開いて驚いている。


 「あ、ああ……。そうか。いや、今回はハーディーに助けられちゃったな。俺も一体くらい、倒そうかなと思ってたんだけどな。アハハ、ハハハ……」


 何やら乾いた笑いしか出てこない。ハーディーのあまりの手際のよさというか、戦い慣れた姿に驚き、笑うしかなかった。ハーディーは、りんごでも剥き終えたかのように、見えない剣をヒュンと振って血を振り払うと、柄を腰紐に戻した。


 「すごいねぇ。それ、見えないけど、刃がついているんだ。魔法? 魔法の道具?」


 テイラーは死体を怖がる様子もなくハーディーに近づくと、腰紐の柄をツンツンとつついた。


 「うぉおが、くっはが」


 ハーディーは柄を指差して、何やらテイラーに説明している。


 「ああ、そうなんだ」


 ちょっと待って。2人だけで話さないで、俺も仲間に入れてほしい。


 「え、なんだって?」


 俺はテイラーに聞いた。


 「この剣、キャリバンって名前がついているんだって。ハーディーが昔、仕えていた王様からもらったんだって」


 テイラーは柄に触れながら、説明した。


 「ふーん」


 いや、ちょっと待って。ふーんじゃない。今、ものすごい情報量、多かったよね? 剣の名前はとりあえず置いておこう。昔、王様に仕えていた? 王様から剣をもらった? ということは、ハーディーってどこかの国の軍人なの? しかもそのへんの一兵卒ではなく結構、身分が高い人なんじゃね?


 フンと鼻先に血の匂いがかすめる。おっと、こうしちゃいられない。あまりここに長居はできない。死体の匂いを嗅ぎつけて、いろいろな生き物が集まってくる。早く立ち去らないと……。


 「ねえ、クリス」


 テイラーが後衛の一人の死体をのぞき込んでいる。「なんだよ」と答えつつ、短剣を鞘にしまいながら、そばまで歩み寄る。


 「これは食えないの?」


 テイラーはボロボロのブーツのつま先で、悪魔の死体の腕をつついた。


 呆れた。こいつ、なんてタフなヤツだ。確かに悪魔も、死ねばただの肉だ。山豚や魚と変わりゃしない。だけどな、テイラー。普通、悪魔の肉を食うか? そいつら、人間を食ったことがあるかもしれないんだぞ。つまり、間接的に人間を食ってしまうことになるんだぞ。


 「いや、これは……。やめておいた方がいいかな」


 詳しく説明してもいいが、説明したら気持ちが悪くなりそうだった。口籠もりながら、やんわりと却下する。自分でも歯切れが悪いなと思いながら。


 「そうなんだ」


 テイラーはあっさりと引き下がった。そしてハーディーの手を取ると「じゃあ、行こうか!」と言って、先に立って歩き出した。


 ちょっと待てえ! さっさと立ち去らずに、こいつらの荷物を改めろよ! 俺は大急ぎで悪魔の死体を漁った。こういう作業を率先してやるから、盗賊という職業は嫌がられるんだろうな。とはいえ、これは大事な仕事だ。勝者が収穫を得る瞬間。例えばこれ。悪魔の履いているブーツ。仕立て直せば、テイラーの足に合うだろう。リュックの中身も簡単に改める。そもそも、こういう荷物を運搬する袋自体が貴重だ。危険なものは入っていなさそうなので、リュックごといただく。


 「おーい、待ってくれ!」


 両手いっぱいに戦利品を抱えて2人の後を追いながら、振り返る。確かに悪魔の死体が3つ、転がっている。もうピクリともしない。本当に倒してしまった。いや、俺がじゃないんだけど。それでも、俺のパーティーがあっさりと悪魔を3体も、それも、ものすごい短時間で片付けてしまった事実は揺るがない。


 えっ、ちょっと待って。今回のパーティー、めちゃくちゃ強いんじゃね? というかハーディーがいれば、俺のレベルもポンポンと面白いように上がっちゃうんじゃね? もしかして、とんでもないヤツと仲間になっちゃったんじゃね? そう思うと、急に足取りが軽くなった。軽いどころか、うれしくて踊り出してしまいそうだ。


 俺は軽やかに、ハーディーとテイラーを追いかけて走り出した。

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