厄災の日
修学旅行当日、普通にいつも通る通学路を歩いていたらマジで言葉にできなかった。最初はまだ面白くないかもしれんけど、後から面白くなるから、まず、気になった人は私の話を聞いてくれ。
修学旅行先が、小学校だったんだが
第1章
現在時刻午前5時。拷問だなこりゃ。私がいつも歩く通学路は最近整備されたばかりだ。玄人と苦労が長い年月をかけて混じり合ったようなコンクリートの道を、もう歩くことはできない。その代わり、今までよりも歩きやすい道になった。その道を歩く。ふと、上を見上げると、電線にスズメの大群が多々佇んでいた。そして、反対側の電線にはカラスの大群が多々佇んでいた。お互いが威嚇し、警戒し合っていた。珍しい景色だなと思い、興その状況に興味があった私は、その一世一代の対峙を見送ることにした。
先行、カラス。
「かあ〜。かあ〜、かああ、かぁあああ!!!!!!」
後攻、スズメ。
「チュン、ちゅちゅちゅ、、ちゅうチュンチュン!!!!!チュンちゅチュン!!!!!」
両者、どちらも譲りません!
「か〜!かあああ〜!!!!!」
「ちゅうううん!チュウン!!!ちゅちゅ!!!!!」
どっちが先に手出すんだろ?
すると突然、彼らから円が広がるように、けたたましい轟音が鳴り響いた。
『運命に抗うものは運命に泣く』
え?
『その一方、心を鳴らせる者は、すべてを治める』
ん。
『時はすでに萎みつつある。その影響は計り知れないものになるであろう。』
『我は汝、汝は我。貴殿ら、選ばれた。その時は繰り返される。』
『厄災の時が近づきつつある。備えよ。備えよ』
『ある時、手をとれ。道を開拓せよ。そして、包み込むのだ。』
あたり一面が禍々しい雰囲気に包まれていた。一歩も動くことができなかった。
ただ、私は呆然として彼らが発したその声を聞き入れていた。
*
先ほどの余韻が残ったまま、私は歩いていた。カラスとスズメの令和合戦がはじまったかと思ったら、彼らの中身が何かと入れ替わったように違う言語を話し始めた。彼らのとっての標準語ではなく、私たちにとっての標準語だが、私たちが普段使用しているとは思えない言葉の覇気があった。あれは一体なんだったの?ほんっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっとに、理解できない。時は萎みつつある?厄災?開拓しろ?挙げ句の果てに包み込む?やばい、どの言葉をチョイスしても何もつながらない。不整文脈すぎる。
とりあえず、遅刻しそうなので、頭を整理してから歩くスピードを上げる。こつ、こつ、こつ、と。
これから先、何が起こると言うのだろう。皆目見当もつかない。万が一、天変地異レベルの災害が起こるという予言なのだとしたら、修学旅行に行く暇なんてないのだ。
私にも大切な人はいるし、守らなきゃいけないアキバホビーのグッズがある。特に親族に開拓されたくない私の未知の領域だって守らなきゃいけない。けれど、備えれば備えるほど、いざ起こるとかえって無意味なのだ。人生行き当たりばったりがちょうどいい。
俯きながら歩いていたせいで、もう学校の校門まで来てしまった。いやだよー。グラウンドに出ると、3クラス分のバスが仲良く停車してる。私を出迎えるように。
修学旅行当日の朝の天気はひどく快晴といったところだ。おかげで頭が痛い。学校側が用意してくれたバスの中に私は乗り込む。バスの中に対して外の世界はとても開放感に満ち溢れている。今から、ぶらり途中下車なんかできるわけねぇだろの旅に私たち高校2年A組は身を馳せる。私は毎回席を選ぶ時には、なるべく後ろに、かと言って後ろすぎない、概ね全体を見渡せるところに座ろうと心がけている。席に座る。このなんとも言えない狭さが千癪だ。そして申し訳ない程度の折りたたみ式のテーブル。あーあ腹がたつ。エコノミー症候群でも起こしたらどうしてくれるのかね、ワトソンくん。
別に私はこういう特別授業を毛嫌いしているわけではない。この授業特有のハードスケジュールが気に食わんのだ。なぜそこまでしてキュンキュンに予定を組む必要がある?もうちょっと時間にルーズでもいいのではないか?今の時代に限らず、昔から、朝早く起きれない子だっているのだし、歩幅を合わせて行動するのが常であるべきだと私は考えている。あと自由行動もっと増やせ、ばか。
出発まで時間があり、少し暇だったので、修学旅行のしおりでも読むことにした。表紙には、ちゃおに出てきそうな少年少女と、高校の公式キャラクターが清水寺や、雷門を回っている様子のイラストが描かれてあった。所謂、女オタク特有の絵柄だ。別に嫌いではないが、趣味でもない。大体こういう人たちの絵柄はよく似ているので、ジンクスを感じる。
修学旅行目標『自ら疑問に歩み寄り、未来をより良いものにし、チャンスを掴もう!〜one for all all for one~』
長いし、現実との矛と盾がデカすぎて不便だし、長いし。しおりに書き込むのめんどかったし、そのテンプレ英文を添えとけばいいと思ってるだろゼッタイ。全体で一回暗唱させられたし、こういう時に日本の悪いところって出てるよなとつくづく思う。そして、毎度、日本女児のしがらみから抜け出したいといつも思っている。
現在時刻午前7時。
もう少しで出発というところで、最後に付属の先生が乗り込む。先生が人数確認をする。生徒の肩を順番に触りながら人数を数える。1人足りないと先生は言った。そして全体に言った。
「誰か8を見なかったか?」
先生がそう言うと、バスの中の空間そのものがパキッと折れたような気がした。誰1人として何も反応しない。まるでその発言がタブーだったかのように。「まあいいか」先生はそう判断した。私は少し不安だった。不安で仕方なかった。この旅行は普通ではないのではないということを。そして、何かを感じ取った。言葉にできない何かを。言葉にできないことがあるたび、その欠けた部分を補うために、本を読んでおけば良かったと毎度思う。
そして、8が乗車していないのにもかかわらず、先生が運転手に出発の合図をした。バスは発進する。ありえないことが起きている、体ではそうは思っている。だがココロはそう思わなかった。別に、8はいじめられているわけではない。だが、この1人が欠けたことは、最重要事項ではないようにも思えた。
ふと外を見ると、年功序列の上位3%に位置している老いた先生方が見えた。こちらに手を振っているようだった。その姿は、どこか虚しく機械的であった。バスの中は思いの外騒がしかった。前方でクラスのイニシアチブを取ろうと頑張っていたり、数人でしりとりをしていたり、私の横の席では本を読んでいたり、その横の横の席では絵を描いていたり、様々だった。次第に私は具合が悪くなっていくのを感じた。自由すぎるが故の重圧。あまりにも自由すぎる、自由が集まるとこんなにも息苦しくなるものなのか?そこで私は気分転換に音楽を聞こうとした。スマホにイヤフォンのジャックを挿し、付属のそれはそれは小さなスピーカーを両耳に挿れる。Apple Musicのライブラリに保存されているお気に入りのプレイリストを流す。私好みの心地よい曲調で、気持ちの風車が激しくまわっているのを感じた。私はこの時間がとても好きで、今なら、来週の面倒なバイトのことや退屈な両親からの束縛から解放されている気分になることができた。母体の中にいるかのような感覚に陥るバスの揺れで、少し仮眠をとろうと思った。外に一列に行儀よく佇んているサクラが綺麗だった。普通の桜よりも赤みがかっていた。目に直射日光が入る。眩しい感覚に襲われた。悪い気分だ。
すると突然、このバスに急ブレーキがかかる。
その瞬間、体に大きな負荷がかかると同時に慣性が発動する。そのおかげで首を少し痛めてしまった。
「なになに、」
「痛ってぇ」
「事故?」
「やばくね笑」「なんかワクワクするな」
「誰か見に行けよ」「お前が行けよ」
車内が騒然としているのがわかった。先生が皆を落ち着かせるよう努力する。
「みんな、落ち着くんだ。怪我したやついないか?大丈夫か?いま確認とってみる」先生が運転手に何があったのか確認をするため、運転席に行った。だが、先生の横顔はだんだん青白くなっていった。
「いない」
彼はそう呟いたのだ。
「どうしたんですか?」先生に1番近かったおさげ姿の女が彼に問う。
「さっきまで、運転してた、はずの、人がいないんだ」
「運転手さんがいない」
(いっこく堂みたいだなと私は思った)
「え?」「は?何言ってんの」「おもんな」
「いやいや嘘だろ」「えなに言ってんの」「どゆこと?」「なんなのまじで」「なんでなんで?」
「さっきまでいたじゃん」「は?」「マジだマジだ」「え、いないんだけど」「こわい、こわい」
『厄災の時が近づきつつある。備えよ。備えよ。』
私は、先ほどの“声“を思い出した。今の状況のことだったのか?
皆、半狂乱になっていた。無理もないだろう。通常かかるはずのない急ブレーキがかかり、確実に数秒前までいた運転手が忽然と姿を消しているのだから。私の予感は的中したのだと思った。そして、窓側の席に座っていた生徒が言った。
「夢でも見てんじゃねえのか?俺ら」
「なんだい、それじゃあ僕らは今昏睡状態に陥っていて、共通意識の夢の中にいるとでも言いたいのかい?」
「意味わかんねぇこといってんじゃねぇよ」
「少なくとも僕は落ち着いているさ。ここで発狂するとかえって皆の不安を煽るだけだ。ここはじっとしているのがベストだよ。別に今死ぬと決まったわけじゃないんだ。無知の場の引き立てが1番面倒だからね。」
少し風変わりな口調をしている人物は、村上。ちょいと手のかかる巨漢を落ち着かせる役目はいつも8がしてくれているのだが、いないので、自ら面倒な役目を買って出てくれたみたいだった。少々、言葉遣いがきついが、悪い奴ではないと思う。
「ねぇ、あれなに?」
「デケェ」
「なんか怖いんだけど」
「あ、母校だわ。懐い。」
「ほんとだ、母校だ。」
「えー久々に来たー!」
秋の空のように、彼らは運転手のことから目の前にある巨大な無機物に話題を変えた。気になって、曇った窓を衣服で擦り、視界を広げると、そこには今まで見たこともないぐらい大きな、それはそれは大きな、要塞のような校舎がそこにあった。まるで鉄豆腐だ。刑務所のようにも見える。でも、バルコニーらしきところも多くあった。でも小学校という認識ではある。あんなのが君たちの母校?信じられなかった。それでも私は、なんとなく、その校舎に興味があった。ある種の希望にも見えた。さっきまで気持ち悪いぐらい快晴だった天気が、おとなしいほどの曇天に変わっていた。
「行きたい」
彼らの1人がそう言った。
「行くか」
先生がそう言った。
先生が運転席にあるドアの開閉ボタンを押したとき、彼の横にあるドアが開き、冷たくもない、温かくもない、曖昧な風が車内全体に広がった。まるで先生が発したその言葉が合言葉だったかのように。生徒達が“タイタニック号から降りる“ように下車していく。あたり一面には、真っ黒な彼岸花が広がっていた。彼らは構わず彼岸花を踏み、先へ進んで行く。異様な光景だった。そしてその先に佇む大きな小学校らしき建物。恐ろしいほど視界がモノクロで満ちており、0か1かの情報だけだった。終末世界のようだった。私は、恐怖心でいっぱいだった。だが同時に、大きな好奇心も私の中に存在していた。夢を見ているかのような感覚だった。そして、“私にはまだはやすぎるんじゃないか“という直感がそう伝えた。
屋上に目を凝らすと、人影がいくつか見えたような気がした。それらは私が彼らを認識した途端、スッと消えた。その場から逃げるように。見てはいけないものを見たかもしれない。そんな不安を抱えていた。今のところ、精神に異常はきたしていないので、安心した。
私は1番最後にこのバスを降りようとした。ゆっくりと。
なんだか、人生の分岐点に立たされている気分だった。
そんなに大層な人間ではないのにと思いながら。
運命を変える。運命を変える__? 運命を変えれるのか?
そう、なんとなく唱えるも、やはり確信が持てず、起きてしまったことは不可逆なんだと自分に強く言い聞かせた。
これは、過去を風化させないためのものなのか?
私の近くを風が通り過ぎた時、耳元で誰かの声がした。
ここまで聞いてくれてありがとう。まだまだ続くから、この私小説を酒の肴にでもしてくれよな。これから面白くなるぞ。




