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ヴァンパイアは暁に夢む:短編集  作者: 静杜原 愁


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6/19

〈余白Ⅰ〉第一話~第五話

この回は作者による解説です。読まなくても物語は楽しめますが、作品の裏側を知りたい方はどうぞ。

 解説的なものをここに載せるかはすごく迷いました。

 迷った上で、書きたくなった。


 本来なら、説明なんてしなくても作品中で語るべきものとは思うのですが……意図的に本編には入れ込まなかった設定とか、単純な力量不足で入れられなかったこと。

 要素は散りばめたものの、気づいてくれる人が果たしてどれだけ居るのか? という思いから、今回番外編として、勝手に解説を始めてしまおうと思い至ってしまいました。


 この〈余白〉自体は、読み飛ばしていただいても差し支えない内容となっております。

 けれど、読んでいただければ、より作中世界のことを理解してもらえるのではないかと思います。


***


 この短編集の第一話から第三話で、グラムという悪魔の目的、クラリカという名前の正体についてを書きました。

 本編で彼が登場するのは、まず第一話から……“少女”に付き従う蒼い鬼火の姿で。これは、第二話でゾラと対話する「仮初めの使い魔」――彼の思念の残滓。


 そして話は進み、ゾラの回想のところでその姿が出てくる。

 ゾラを魔女にした悪魔の姿。その異常性。


 そしてここでは、彼が何を成したかったのか?

 その答えを置いています。


 彼は本編では既に故人(と言うのが当て嵌まるのかは怪しいですが)であり、その存在を記憶しているのはゾラだけなんですね。

 一応彼については“グラム=カシェル”というフルネームまで考えていましたが、本編でも短編のエピソードでも、それを提示する場面がなかった。唯一、pixivの本編設定資料のところにこっそり書いてあったりはしました。これはすごく、どうでもいいことです。


 けれど、ニカエラとミハイルも、彼の名前は知らずとも断片的にその痕跡に触れている。

 彼こそがリュセリエ家の両親を殺害した張本人でした。

 姉は他者の中の記憶の断片として、弟は自分を呑み込もうとした“何者か”の夢として。


 ミハイルについては、彼が初めてゾラに触れてしまった瞬間に、何となくその存在を感じ取ってはいました。

 それは彼女に関わる過去の誰か……嫉妬と嫌悪の対象として。


 もしグラムが夫婦を殺害しなければ?

 どうなっていただろう。


 夫婦の目的は、ミハイルに歳の近い兄弟を用意することでした。

 そして彼らが見つけたのは、一人の少女――孤児だったゾラ。

 彼らが無事、ゾラを保護することが出来ていたなら……本編で起きたことは、全て起こり得なかった一部始終となります。


 リュセリエ家は両親の健在により平穏な暮らしを得たのではないでしょうか。

 ニカエラが歪むこともなく、ミハイルがここまで執着されることもなかった。

 そもそも、彼は落ちこぼれにもならず、ヴァンパイアとして真っ当な生き方をしていて……今と全く違う姿になっていたかも知れない。


 そしてゾラが彼の“姉”という位置に存在した可能性。

 彼女もまた、魔女としてでなくヴァンパイアとして生きることになったのだということ。


 その全てがグラムの行いで否定された。

 それがこの短編集の第一話・「悪」夢のはじまり――

 本編の起点、全ての始まりとして書いたものです。


 けれどもっと、遡れば。

 グラムをこうした元凶があったということですね。

 それがクラリカであり、原初の魔女というアイデアでした。


 彼がクラリカに恋をしたことが、そもそもの始まりだった。

 彼が彼女を再現しようと思わなければ、これまでのクラリカ達も、あの夫婦も、ゾラも、誰一人と犠牲になることはなかった。


 そしてゾラは、あの部屋でクラリカに出会いました。ゾラは、彼女がグラムによる第一作目のクラリカという誤認をしてしまっていた。

 それは最後まで解かれることのない誤解であり、あの部屋の彼女が原初の魔女――オリジナルのクラリカだということは、知らずに過ぎていく。

 そもそもクラリカについての言い伝えも知らないまま、というところです。


 これは途中で浮かんだ設定で、ただの悪趣味という域を出なかったグラムに、そうするだけの理由を与えられたのではないかと自分では考えています。……納得してもらえるかは別問題として。


 さて。

 第四話では、レオナールの出自を書きました。

 これはレオナールの話でありつつ、リュセリエ家というものを見せる役割の話です。


 グラムにより殺害された夫婦が、どのような人物だったか。

 あの夜もこの第四話で示した通り、彼らは新たな家族を迎え入れようとしていただけだったというところ。

 ただ、これまでも二人のことを「愛情深い両親」と書いてきましたが、完全な善人とも言い難い。

 そういう側面をこのエピソードと、続く第五話で表現したかったというところです。


 そして第五話から後は、妹のエヴァンジェリンへ視点を移動させます。

 本編終了後に彼女がリュセリエ家を継ぐ“その後”から始まり、また彼女の過去へと戻っていく。


 当初エヴァンジェリンというキャラクターは、ただの賑やかし程度であり……それは兄のレオナールも同じだったのですが。

 彼女は本編で、観察者でありながら、最後には押し付けられた役割を静かに受け入れ、終わらせるという役割を持ちました。

 彼女だけが、ニカエラやレオナールのように傷つくことはなかった。

 けれど、彼女もまた救われない――


 次話からはそんなエヴァンジェリンの物語が展開していきます。

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