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ヴァンパイアは暁に夢む:短編集  作者: 静杜原 愁


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鏡写しの孤独

繋がりを求めた瞬間、孤独は棘になる。

後に残ったのは、優しく在れなかったという後悔だった。

 また一人、この部屋に連れてこられた。

 けどその時にはもう、彼女は何も言えなくなってる。

 話し相手にもなってくれないこと。それが少し、寂しかった。

 こんなにたくさん居るのに、変だね。


 でも、誰も何も言ってくれなくても。彼女()()の名前だけは知っていた。

 私と同じ「クラリカ」って名前なんだってこと。


 みんな眠ってる。

 可愛いお洋服を着せられ、表面上は綺麗にされている……けど。

 その内側はぜんぶ、ボロボロなお人形さんみたいに。


 話せるのは私だけ。でも、この姿は誰にも見えない。

 彼にも私が見えていない――それが分かる。見えているなら、きっとなにか反応してくれるはずだもの。

 だって、彼が追い求めてるのは、私の影そのもののはずだから。

 見た瞬間にそれと気づけるはず、なんだけどな。


 十二人の()。そのどれもが同じような姿形。

 彼は私の姿を見たこともないはずなのに。私と同じに、金色の髪の女の子たち。

 ただの偶然なのかな。……そこはどうでもいいこと、だけど。


 どうして目が離せなくなっているか? 正直、分からない。

 この部屋に留まる理由もなく、どこにだって行けるはずなのに。

 それでもここでただ一人、増えていく()の残骸を見つめているだけ。

 話し相手も居ない、退屈な空間で。亡骸の数が増えていくのをただ、見ているだけ。


 私は悲しいのかな? 彼女たちが可哀想なのかな。

 だってここに来るってことは、彼の思うような姿に成れなかったということだろうから。


 ……それに。


 あの黒山羊の彼だって、何かに取り憑かれているように見えるのが、憐れなのかも知れない。


 時間なんてものは、私には既に縁遠いものになっていた。

 変わらない、何度も見てきた光景。どれくらい過ぎたか、それすら分からない。でも、どうだっていい。


 そんなある日、また扉が開いた。

 彼が十三人目を連れてきたのだと思っていた――けれど。


 扉はどこか遠慮がちに開いた。

 彼ならもっと堂々と開いたものだったから、違和感があった。

 そこに居たのは一人の女の子。金の髪に、金の瞳の女の子だった。瞳の色が分かるのは、彼女がまだ目を閉じてはいなかったから。


 その子は、目を驚きに大きく見開き、後退ろうとした。

 でも私は、この珍しい来客をここで帰してしまうことを「嫌だ」と思った。

 だってすごく、退屈していたから。

 ……退屈? 少し違う。きっと、寂しかったんだ。


(私に気づいて)


 なんて、勝手な願望だったのかも知れない。私のことはきっと、この子にも見えないだろうのに。

 むしろ見えてしまえば、幽霊だとして驚かせてしまうのかも。

 私は鏡の中へと身を引く。ここなら、彼女を驚かせずに様子を窺うことが出来るはずだから。


 女の子の脚は震えていた。きっとそのまま帰ってしまうんじゃないかって、思ってたけど。

 でも、部屋へと足を踏み入れた。


 驚いてる。怖がってる――それが分かる表情。


 そうだよね。きっと、この子は何も知らなかったんだ。

 自分と似た姿の()()()がここで眠っているなんてこと、考えもしなかっただろう。

 それでも一歩一歩、恐る恐る歩いてくる……(わたし)の方に。


 鏡の向こう。

 十三人目の()が、戸惑ったように足を止めている。

 その視線は、私を捉えているように見えた。


(……見えている?)


 そんなはずはないと思った。だって、あの彼だって私に気付けないのだから。

 私がここに在ることなど誰にも届かないはずだった。

 だから声を出さない。呼びかけることもしない。


「だれ……?」

 先に声を上げたのは、その子の方だった。


 胸の奥がひどく騒がしくなる。

 驚き? 戸惑い? それから、ほんの僅か――期待。


 彼女は鏡に映る自分自身を確認するように、一度だけ視線を落とした。

 それからもう一度、私を見る。


「あなた、だれ?」


 ああ、まさか。

 本当に……、見えている。


 私は思わず鏡に手を伸ばしていた。触れられるはずもないと知っていながら。


「……どうして、ここに?」


 自分の声が随分と久しぶりに響いた気がした。

 問いかけのはずなのに、どこか震えていたと思う。


 少女は少しだけ考えてから、首を傾げる。

「分からない。気になったから、来ただけ」


 それは、これまで誰一人として口にしなかった理由だった。

 十二人目までは既に語ることも出来ない姿で来たから、それも当然なのだけど……。

 ただの好奇心。でもそれって、きっと彼女にとって身を滅ぼすことにも繋がりかねない、危険なもの。


「貴女は……」


 その名を問おうとして言葉に詰まる。この彼女もまた、私と同じ名前だと分かるから。

 でも。


「ゾラ、って……あ」

 一瞬言い淀む。

 それから、言い直すように。

「クラリカっていうの。でも本当は――」


 その先は、言わなかった。

 胸の奥がひどく痛む。

 違う、と。そう言いたかったのか。それとも、違わないと言いたかったのか。

 分からないまま、私は微笑んでいた。


「そう……」


 この瞬間に、答えを与えるべきだったのかも。

 ここが何なのか。私が、何なのか。

 けれど私は、彼女の目を見てしまった。まだ何も知らない、澄んだ瞳を。


 ――なんて無邪気なんだろう。


 この子は何も知らない。

 私がここで何を見てきたのか。彼女たちが、どうなったのか。

 その事実が、どうしてか胸の奥で小さく疼いた。


 羨ましさ、だったのかも知れない。或いは、寂しさ。

 私は長い間、誰にも見られなかった。

 せっかく誰かと話せたのに、私は少しだけ意地悪をしてしまった。


「……じゃあ貴女は。ここに来た“十三人目”なのね」


 言葉の意味が分からないというように、ゾラは首を傾げる。


 後悔が少し遅れてやってきた。こんなこと、言うべきじゃなかった――そう思ったから。

 私は、彼女を傷つけたかったわけじゃなかった。ただどうしようもなく寂しかった。

 その裏返しが、棘を持ってしまった。

 だから、せめて……優しくしなければと思った。彼女だけが、私の孤独を埋めてくれる相手なのかも知れないのだから。


「ねえ、クラリカ。彼は、優しい?」

 私の問いに、ゾラは一つ頷きで返した。

 それなら――知らないままの方が、きっと幸せだ。私が黙っていることの方が彼女の為になるだろうと考えた、その時だった。


「っ、あ……」


 気配がした。

 それもいつもと違う、悍ましいほどに波立つ魔力のうねり。

 これは“怒り”だ。そう感じ取れるほどの荒々しい……でも、確かに彼の()()だった。

 扉の向こうから足音が近付いてくる。急ぐでもなく、ゆっくりと。


「ここに居たのか。悪い子だね」


 低く抑えた声に、ゾラの肩がびくりと跳ねる。


「ごめんなさ――」


 言葉はそこで途切れ、私は思わず目を逸らしていた。


 彼女が連れて行かれ、後悔だけが残った。

 折角話し相手になってくれそうな誰かが来てくれたのに。


 どうして手を伸ばさなかったのか?

 そうしたところで私が干渉出来ないこと、分かっていた。

 けれど、手を伸ばすことくらい――出来たはずなのに。


 あの瞬間にそうしなかったこと。

 出来たことをしなかった事実だけを、ひどく悔やんでいた。

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