26.「どうしてこうなったの?」 前半
今回より、最終章に突入いたします。
内容が長くなったため、前半・後半に分けての投稿となります。
前半では、これまでの物語の流れを軽く振り返り、
後半では、最終章へと繋がるエピソードをお届けいたします。
季節はすっかり冬。
もうすぐ一年が終わり、新年が近づく時期となりました。
どうして人は、新年が近づくにつれて、一年があっという間に過ぎ去るように感じるのでしょうか。
私――セレスティン・オートは、学園のバルコニーでこの一年を振り返っていました。
(……この一年、本当に様々な出来事がありました……)
(前世の記憶を思い出してから、私は“エリナ様×レオナール様の公式カプ化作戦”を成功させるため、壮大かつ緻密な計画を立てて、実行してきました……)
忘れもしません。
御年八歳、階段で頭をぶつけたことがきっかけで、大好きだった乙女ゲーム『ププライ』の世界に転生し、しかも悪役令嬢セレスティン・オートとして生を受けたことを。
(記憶を取り戻してから……私が最初に出会ったのは、推しの一人である第二王子、レオナール・ド・クレルモン様でした)
推しと出会えたことに、私は心の底から歓喜しました。
しかもそれだけにとどまらず、私はその婚約者という、まるで夢のような立場であったのです。
(でも、私はレオナール様と結ばれることは選ばない……なぜなら、レオナール様の運命の人は、ププライの主人公にしてもう一人の推しであるエリナ・クチュール様をおいて他にいないからです)
そう――私はメインヒロインのエリナ・クチュール様ではなく、悪役令嬢セレスティン・オート。
所詮当て馬にして、プレイヤーから最も憎しみを集めた(現に前世でプレイヤーだった私は、セレスティンに憎悪と殺〇を抱いて――)悪しき女なのです。
だからこそ私は、レオナール様と決して恋愛フラグを立てないように、そして私自身レオナール様に惚れ込み過ぎないよう、できる限り距離を取って生活してきました。
それはまるで、冷めきった夫婦生活のような、妙にリアルな距離感だったと思います。
(……ですが、この約七年間。レオナール様は何かと理由をつけて、私に関わってきたのですよね……)
正史以上に、レオナール様はセレスティンに関わっていた――その点だけは、どうしても引っかかっていました。
本来は、セレスティンの方がレオナール様を束縛するほど付き従っていたはずなのですが、こちらの世界では、むしろレオナール様の方が、束縛とまではいかないものの、事あるごとに私と共にあろうとしていたのです。
(……当時の私は、婚約者という立場ゆえの責任感から、レオナール様は私と一緒にいようとしているだけだと思っていましたが……今振り返ると……)
そして――ついに、この学園の入学式の日が訪れました。
(忘れもしません……入学式。エリナ様と出会った、あの運命の日)
私は正史通り、エリナ様×レオナール様ルートを成立させるため、プレイヤーから最も憎まれた“悪しき女”――セレスティン・オートを完璧に演じ、エリナ様に嫌がらせを仕掛けるつもりでした。
レオナール様と私の関係は、正史とは少し異なりますが、エリナ様と私の関係を正史通り敵対関係へと持ち込めば、エリナ様×レオナール様ルートは問題なく成立する――そう思っていました。そう思っていたのですが……。
(やっぱり、推しに酷いことなんて……できませんでした――っ!!)
私は自分の弱さを恨みます……。
エリナ様に意地悪できなかったどころか……あろうことか、友人関係となってしまいましたのです。
嬉しいか、嬉しくないかで問われれば――もちろん、“超”がつくほど嬉しい。
推しと友人関係になれるなど、まさに夢のような出来事でしょう。
ですが――嬉しくなっては、困るのです。
(結局、エリナ様と私の関係も、正史とは異なってしまいました……どうしてこうなったの?)
かくして、エリナ様×レオナール様一直線による最短ルートの作戦は失敗に終わりました。
レオナール様ルートは、本来であればセレスティンがエリナ様へ嫌がらせを行い、その場面を王子であるレオナール様が助けることで進行していくものです。
しかし、その当人である私がエリナ様に嫌がらせをできない以上、エリナ様×レオナール様エンドを再現することは、極めて難しいと言わざるを得ません。
ですが――私はめげませんでした。
(エリナ様×レオナール様エンドが難しいなら……他の攻略対象の男子とエリナ様のフラグをへし折っていけばいい! そうすれば、エリナ様は必然的にレオナール様と結ばれるはず!!)
そう考えた私は、エリナ様が他の攻略対象に惹かれないように、そして攻略対象の男子たちもエリナ様に惹かれないように、あえて正史とは異なる行動を取ることにしたのです。
そして、その一人目が――攻略対象にして、レオナール様の弟――フェラン・クレルモン第三王子でした。
「……その声は、義姉さんか……珍しいじゃん。この俺に話しかけるなんて……」
あれは入学式から三日目、魔力制御演習の授業のことでした。
本来であれば、授業終了後にエリナ様がフェランへ話しかけることで、フェランルートへと分岐していきます。
ですが私は、そのイベント自体を阻止するため、エリナ様の代わりに私がフェランへ声をかけました。
そう。ここはとにかく、エリナ様とフェランが会話する“きっかけ”さえ潰せば十分――本来は、それ以上のことをする必要などなかったはずなのですが。
「そうやって……本気を出さずに何でも器用にこなす俺、カッケーって思っているんでしょうけど……」
「たとえ不器用でも、どんなことにもひたむきに頑張る人の方が、ずっとかっこいいわよ!」
――気づけば私は、フェランに説教をしていました。
フェランは、生まれ持った才能に恵まれ、何事も器用にこなすことのできる優秀な男の子です。
ですが、何事にも真摯に向き合う兄・レオナール様とは対照的に、その才能ゆえにどこか冷笑するような態度を取り、本気になりきれない性格でもありました。
実際、魔力制御演習でも本気を出せばもっと上を狙えたはずなのに、本人は決して全力を出そうとはしない。
余計なお節介だったのかもしれません。彼の才能に対して、もったいなさや、わずかな羨望すらあったのかもしれません。――私はつい、らしくもなく熱くなってしまったのです。
ですが、その説教が効いたのか、それ以降フェランは真面目に授業へ取り組むようになりました。
さらには、女の子へのナンパも減っていったと聞きます。……もっとも、女子の方から声をかけられること自体は相変わらずのようですが。
(……それでも、フェランが女の子と遊ぶこと自体が減ったそうです。当時は、そこまで真面目になった彼に感動していましたが……今なら、その理由がわかる気がします……)
そして――エリナ様と他攻略対象の男子とのフラグを折るため、二人目として目をつけたのが。
騎士団の家系を持ち、学生とは思えない屈強な体格の持ち主――アレクシ・ルフェーヴルでした。
ゲームでも“脳筋筋肉枠”をほぼ一手に担い、その強靭な肉体と身体能力から、エリナ様を雌堕ち……じゃなくて魅了していくキャラでした。
(……ですがもちろん、私はアレクシルートを潰すための対策を考えていました)
入念に考察し、あらゆる可能性を計算し尽くした末に、導き出した結論とは――
(そうよ! 私も“脳筋筋肉枠”になればいいのよ!!)
アレクシが筋肉でエリナ様のピンチを解決させるというなら、私の筋肉でエリナ様のピンチを解決すればいい。
アレクシが筋肉でエリナ様を雌にさせるというなら、私の筋肉でエリナ様を雌にすればいい。
そしてまさかのまさかで、エリナ様がアレクシに惚れるようなことがあれば……そのときは、私の筋肉でしばくことすら視野に入れて。
そうして私は、前世の記憶を取り戻して以来、ひたすら肉体を鍛え続けました。
早朝、生卵を何個も割ってそのまま飲み込んだり、王宮の階段をダッシュで上り下りしたり、シェフの許可を得て、自分用の冷凍生肉をサンドバッグ代わりに叩いたり、雪山で丸太を担いだり、頭の中でロッ〇ーのBGMを流して己を奮い立たせたりもしました。
――そうして鍛え上げたこの肉体で、アレクシの代わりにエリナ様を救う。
……はずだったのですが。
なぜか、アレクシ本人まで救うことになってしまいました。
「君なら絶対に将来騎士として活躍できるだろう!
いや、騎士にならなくても、スポーツとして鍛えるのは楽しいぞ!」
それ以来、アレクシに興味を持たれてしまい、ことあるごとに彼の所属する騎士団部へ勧誘されるようになってしまいました。
入部は断り続けているものの、アレクシは今なお、懲りずにこう言って私を誘い続けています。
「その才能を活かさないともったいないぞ!!」
(……建前上は、私の身体能力を評価してのことなのでしょう。ですがどうやら――彼はそれだけに興味を持っているわけでもないようで……)
そして最後に――エリナ様と他攻略対象の男子とのフラグを折るための三人目。
優秀な魔法使いの家系持ち、魔法の成績は全学年でも断トツトップ――シュル・トゥレットです。
あれは入学式から二週間が経った頃のことでした。
エリナ様は風邪をひいてしまい、学園をお休みされていました。
そして、その日、私と共に授業へ参加することになったのは――
「久しぶりだね……セレスティン。
僕らは婚約者なのに、相変わらず最も近く……そして最も遠い関係だ……」
そうポエムっぽく話すのは、私の婚約者にして、推しの一人――レオナール・ド・クレルモン第二王子殿下です。
どんなポエムでも、推しのポエムならそれだけで全肯定一択。まったく今日も実に素敵なポエムですわ。
もっとも、隣に推しがいるからといって、浮かれている場合ではありません。
その日の目的は、エリナ様×シュルルートのフラグを折ることでした。
シュルは魔法薬開発の授業で、風邪を治す薬を完成させます。
そして、その薬はエリナ様の元へ届けられ、彼女が服用すれば、エリナ様×シュルルートへ舵が切られてしまう。
単純にエリナ様に薬を届けないように妨害すれば、フラグは折れるでしょうが、それだと、エリナ様が風邪で苦しむ時間が長引いてしまう。
推しを苦しませるなど、あってはならないこと。
ゆえに私は――エリナ様×シュルルートを回避しつつ、なおかつエリナ様を救う方法として、この私自身が風邪薬を開発し、それをエリナ様に服用していただくという作戦を立てました。
ですが――
「……セレスティン? これは?」
「……うっ。し、失敗ですわ……魔力のコントロールが足りませんでした」
現実は、そう甘くはありません。
魔法薬の調合には、高度な技術と専門知識が求められます。
それは、私よりもはるかに成績優秀なレオナール様であっても、容易ではない分野でした。
するとレオナール様は、何かを思いついたように、周囲をキョロキョロと見回しました。
そして――
「いたな。魔法のことなら、彼の力を借りようじゃないか。 ――シュル・トゥレット君!」
なんと、レオナール様はシュルに声をかけてしまいました。
本来であれば、私とレオナール様の二人で風邪薬を完成させるのが理想でした。ですがそれが難しいのもまた事実。
(……仕方ありません。 私とレオナール様とシュル、三人で協力して作ったという形にしておけば、
エリナ様がシュルだけに興味を持つことはないでしょう……)
(理想のルートではありませんが――エリナ様を救うためです。ここは、受け入れましょう!!)
そうして私は妥協し、三人で協力して風邪薬を調合することになりました。
結果として――薬は無事完成。エリナ様もその薬によって回復し、元気を取り戻されました。
……ええ、結果オーライです。
もちろん、シュルの協力なしでは完成しなかったのも事実。
その点については、素直に認めるべきでしょう。
そして、さらに朗報がありました。
シュルは――エリナ様に対して、「異性としての好意」を抱いていないというのです。
これは後日、本人から直接聞いたこと。
彼は嘘をつくような性格ではありませんから、エリナ様側に特別な感情が芽生えない限り、エリナ様×シュルルートに進む可能性は低いでしょう。
(……とはいえ、最後の最後でシュルがすべてをかっさらう“大逆転ホームラン”の可能性もゼロではありません)
(油断は禁物です。今後も、シュルがエリナ様とフラグを立てないよう、注意深く観察していかなければなりません……)
エリナ様×レオナール様ルートエンドを迎えるために――このように、いくつもの経緯があったのです。
(その他にも、学園舞踏会……アレクシとシュルの学園最強対決……ミレーヌ先生の恋をサポートしたり、夢の中で光凛と再会したり、本の世界に入ったり、その他語り出せばきりがないほど、多くのイベントがありました……)
我ながら、激動の一年だったと思います。




