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24.「将来」

 誰も犠牲を選ばなかったセレスティン一行は――。

 ※今回は少し長めのエピソードとなっております。

「フェラン、燃えそうな木持ってきたぞ」

 焚火用の木を抱えて戻ってきたのは、レオナール様とアレクシでした。


「サンキュー、アレクシと兄さん。ひとまず、そこに置いといてくれ」

 フェランはそう言いながら、火をおこす準備を進めています。


「大丈夫? フェランに任せちゃって……。ここはシュルかアレクシに任せた方が、簡単に火を起こせるんじゃ――」

 意地悪っぽくそう言うと、フェランは余裕の表情を浮かべました。


「フンなめんなよ……智慧(ちえ)の火よ――凡夫(ぼんぷ)の煩悩を焼き払え――火天(ファイアボール)!!」」


 ――ボゥ!

 フェランが詠唱を唱えながら、火の魔法を放ちます。

 すると、木はあっという間に燃え上がり、焚火の炎が夜の森を照らし始めました。


「うわぁ、凄い! あんた、いつの間にかここまでうまく魔法ができるようになったのねぇ……」

「ヘヘ、どうだ義姉ねぇさん! こう見えても俺、最近シュルに魔法を教えてもらってんだ!」

 ドヤ顔で自慢するフェラン。


 フェランの師匠らしいシュルも、彼の魔法の出来に満足しているのか、ニコリと笑みを浮かべていました。

 正直、フェランの成長には感心しました。


(あの……不真面目なフェランが、素直に誰かの下で教えを乞うなんて……。入学式の頃の彼の態度から随分と変わったわねぇ……)


 魔法のクオリティもそうですが、それ以上に彼の精神的な成長に感心しています。

 この時の私は、入学式から三日目にあった魔力制御演習の授業の頃を思い出していました。

 私が知っている正史ゲーム上のフェランは、何でもそつなくこなすがゆえに、真面目なレオナール様とは対照的に、普段からやる気がない性格キャラでした。

 あの頃のフェランは、まだ正史ゲームのフェランのままでしたが、今では、まるで別人のように変わっています。


(……今のフェランには、正直、好感が持てます。もちろん、推し変する気はサラサラありませんが……)


 フェランが燃やした焚火のそばで、私たちは談笑することにしました。


「まったく……これからこの不気味な森で一生を過ごすことになるとは……本当に誰かのせいで俺の人生狂っちまったよ」

 フェランが嫌味っぽく言います。


 前回とは違うのは、今回は、ニヤニヤと笑いながら、軽口のテンションのいつもの彼らしい言い方でした。


「……うるさいわねぇ……マジで気にしてんのに……」

 いつも通り軽口を言い合う私たち。


「まったく、フェランの言う通りかもしれないな……俺は騎士を継ぐために、父から教育を受けてきたが……これじゃ、果たせそうにないな……」

 冗談を言わないアレクシまでそんなことを言うとは。


「それを言ったら僕もだよアレクシ。母さんから将来プロの魔法使いを期待されていたけど……まあ、正直、決まった人生を歩むことにならなくてほっとした一面もあるかな」

 シュルまで続きます。


 うっ、こうも立て続けに言われてしまうとは。


「皆さんその辺で終わらせてください。これ以上セレスティン様に意地悪するのは可哀想ですよ」

 エリナ様の忠告に、フェラン、シュル、アレクシたちは笑いました。


 すると、それらの様子を見ていたレオナール様が、珍しく笑みを浮かべていました。


「……コホン。たしかに、僕とフェラン、この国の王位を継ぐ予定だった二人がいなくなるとなれば――クレルモン家、ひいては我が国の未来は大混乱となるだろう……」

 レオナール様までそんなことを言ってしまうとは。


「そ、それは――誠に申し訳ございませんでした――っ! レオナール様――っ!!」


 流石に推しのレオナール様に対しては即座に土下座しなければなりません。

 ああ、この世に“土下座”を超える謝罪の表現がないことが悔しい。

 もしあったら、私はきっと、迷わずレオナール様にそれを捧げていたでしょう。


「い、いや……フェランたちのように僕も冗談のつもりで言ったのだが……しかし、本気で落ち込むとは思わず……」

「レオナールさん! もう、セレスティン様に意地悪しないでって言ったのに!」


 珍しくエリナ様がレオナール様を叱ります。

 その様子に、みんなで笑いました。


「……フッ、とはいえ俺は悲観していないぞ。王国に仕える騎士になることから――この世界でお前らの騎士になればいいのだからな」

「それは僕もそうだね……母さんに見せてあげることはできないけど、魔法を鍛えるならこの世界でもできる」

 アレクシとシュルは明るい表情で言いました。


「羨ましいな……お前らは、さっそくこの世界でも適応できそうで」

 フェランはそう言いながら、突如顔を俯きました。


「自慢じゃねぇけどさ……俺子供の頃から、何でもこなせるし、やりたいことは一通りできる環境があったから、アレクシやシュルみたいに、ハッキリと“俺はこの道を歩む”とか、自分の“やりたいこと”なんてなかったんだ」

「フェラン……?」


 焚火を見つめながらそう呟くフェラン。

 いつもとは違う彼の様子に兄のレオナール様まで戸惑っていました。


「……その気持ちわかります。フェランさん」

 エリナ様が静かに言います。


「私も学園を卒業した先にどのような道を歩めばいいのか……入学してからまだ一年も経っていませんが、将来のことを思うと不安になります」

 エリナ様まで、フェランのように俯きながら呟きました。


(まさか……エリナ様まで、こんなことを言うなんて……)


 正史ゲームでは、悪役令嬢セレスティンを打ち破り、ヒロインのエリナ様が攻略対象と結ばれるところで終わる。

 破滅エンドを迎えたセレスティンはともかく、その後のエリナ様と攻略対象たちがどのような将来を歩むかは正史ゲームでも描かれていません。

 そこはいわゆる「プレイヤーのご想像にお任せします」というエンドでした。

 当時の私は、もちろん――エリナ様×レオナール様エンドこそがゲームにおける紛れもない正史で、次回作以降でも二人はカップルとして再登場するに違いないと、のんきに妄想していたのですが。


(確かにこの世界ですと、この先――みんなの将来はどうなるのでしょうか……そして私の将来も)


 日常の中、常に今を生きていた私にとって、未来というものは、果てしなく想像つかないものでした。


「……そうか? 俺から見れば、お前たちの方が羨ましいけどな……まだ将来を決めていないということは、それだけ“可能性が満ちあふれている”ということじゃないのか?」

 アレクシは元気づけるように言います。


「そういえば……レオナールは、将来目指しているものとかあるの?」

 突如、シュルがレオナール様に問いかけました。


「将来か……」

 レオナール様は、そう俯きながら少し考え込む様子を見せます。


「……正直、こうしてじっくりと考えたことはなかったかもしれないな……幼少の頃は、フェランに勝つことで頭がいっぱいで、その先のことなんて考えていなかったからな……」

「そうそう。最初は俺の方が優秀だったてのに……負けてからしばらく、兄さんのことがトラウマだったよ」

 レオナール様が語る傍ら、フェランがあの頃を思い出すようにケタケタと笑いました。


「で、俺に勝った後は? 兄さん、トップに立って、次期国王の筆頭候補になってから、将来のことも考える余裕はできたんじゃねぇの?」

「……フェランに勝った後か……その後は、その後で()()()()で頭がいっぱいだったからな……」

 そう言って、レオナール様は私の方をじっと見つめていました。


「? レオナール様?」


 レオナール様はじっと見つめたまま、口をもごもごさせています。

 まるで何かを言いたそうに。

 やがて、レオナール様は意を決した表情になると、ゆっくりと口を開きました。

 そして――


「……セレスティン、僕は君のことで頭がいっぱいだった……君が僕を避けるようになったあの日から……」

「……へっ?」

「……つまり、君が……好きなんだセレスティン……」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………へっ?」


 挿絵(By みてみん)


 今、レオナール様は何とおっしゃいましたでしょうか。

 理解しようにも、急に頭が真っ白になり――考えることをやめてしまいました。


「……おい、兄さん……いきなりどうしたんだよ?」

 なぜかフェランが、絶句した表情で呟き。


「レオナール? まさか、お前に告白を先越されるとは……」

 なぜかアレクシは、悔しそうな表情で呟き。


「ついに言ったんだね、レオナール」

 なぜかフェランは、逆に安心したような表情で呟き。


「まぁ……レオナールさん//」

 なぜかエリナ様に至っては、照れたような表情になっていました。


 えっ、待って。レオナール様はなんとおっしゃいましたでしょうか。

 ……私、まだ理解できていないのですが。


「すまなかったセレスティン。君が僕に構っていてくれたあの頃、当時僕は、フェランに勝つことで頭がいっぱいで……正直、君のことを鬱陶しいと思っていた……でも今は違う。君の心が僕から離れていった後、僕は大事なことを疎かにしていたことに気づかされた……」


 レオナール様は真剣な眼差しで私を見つめ、何かを語っていますが、頭に入りません。

 いえ、聞こえてはいるのです。

 ただ、現実感というものがないのでしょうか。頭が理解することを拒んでいるような気がします。


「今さらかもしれないが……どうか許してほしいセレスティン。僕は君を愛している」

「……ちょ、ちょ、ちょちょちょちょっと待ってください! ええ、あの……!」


 ようやく理解が追いついたとき、今度は心臓がバクンバクンと鳴り出して、落ち着きがまったく止まりませんでした。


(レオナール様が……私のことが好き!? これはどういうこと?)


 理解しても理解できない。

 なんで、レオナール様が私のことを好きなの。


「こうなったら……俺もうかうかしてやれん! セレスティン、この俺――アレクシ・ルフェーヴルはあなたのことが好きだ。誰よりも守りたいと思えるほど――っ!!」

「ええええええっ!?」


 いきなりアレクシが、私に告白してきました。


「は、はぁ!? アレクシ、テメェなんで告白してんだよ! 俺は兄さんに遠慮していたってのに……」

 フェランがそう言いながら、私の方を振り向きます。


「お……俺だって……義姉ねぇさんのこと……その、気になっているしさぁ……」

「ええええええっ!?」


 まさかのフェランまで告白してきました。


(一体どうなっているの!? もう、これ以上混乱させないで!!)


 ただでさえレオナール様からの告白で、心が理解を拒む(キャパオーバー)状態だっていうのに。ここにきて、まさかの攻略対象たちから連続告白の嵐が。


(……ということは、この流れからして、同じく攻略対象のシュルも――私のことが……?)

 私はドキドキしながらシュルの方へと振り向きました。


 そしてシュルの反応は――


「いや……僕はセレスティンには“恋”はしていないよ。友達として好きだけど……」

(ああ……そうなんですね……)

 あっさりとした表情でそう答えるシュル。


(……流石に攻略対象全員が、私に惚れているわけではないのですね)


 シュルの言葉で気持ちは一瞬冷めましたが、逆に少し落ち着けたのでかえって良かったかもしれません。

 ……そう思ったのも束の間。


「それに、もし付き合えるなら……僕はセレスティンよりも、エリナさん派かな?」

「えっ!? シュルさん……」

 シュルの言葉に、エリナ様が一瞬ドキっとした表情になりました。


「おおおおおおおおおおおい! それは聞き捨てなりせんよぉおおおおおお!!」


 エリナ様にフラグ立てようとするシュルの言動に、ドキドキが収まり、急に怒りが湧いてきました。

 シュルが私に恋していないのはいいとして、だからといってエリナ様×シュルルートは勘弁であります。


「……セレスティン、そのどうなんだ……//」

 レオナール様が顔を赤くしながら、私に問いかけてきました。


「……えっ、そ、それは……//」

 その言葉で、怒りが引っ込み、胸のドキドキが再発しました。


(ええっ!? 待って! この流れからして、私――レオナール様・フェラン・アレクシの三人の誰かを選ばないといけないの!?)


 急な告白イベントに、私は狼狽えていました。


(この三人の攻略対象の中で異性おとことして誰が一番好きか……そう問われたら――考えるまでもなく、レオナール・ド・クレルモン様一択です)


 そう、私の推しの一人であるレオナール様。

 告白されて嬉しいはもちろんです。

 例えるなら、推しのアイドルが一ファンに過ぎない自分へ告白してきたかのような――そんな夢のような出来事が、現実に起きたようなインパクトでしょう。


(……でも、私はレオナール様と結ばれたいのではなくて……エリナ様と結ばれるところが見たくて)

(でもレオナール様は私のことが好きみたいで……そうすると、レオナール様の意思を尊重するならば、私が付き合うべきなのかしら?)

(でも、そうなったら私の野望であるエリナ様×レオナール様エンドが実現せず、下手したらエリナ様は他の攻略対象と結ばれてしまう。それは恋愛作品の“余り者同士がくっつくアレ”的なエンドになる可能性があって……ええ、もうどうすればいいの!)


 私の頭の中はしっちゃかめっちゃかとなっていました。

 ですが、この混乱をどう沈めればいいのか――当分、冷静まともに考えることはできそうもありません。


「僕を許して貰えないだろうか……セレスティン」

「さあ、セレスティン! 君の答えは……」

義姉ねぇさんが兄さんの婚約者なのは、わかっている……わかっているけどさぁ、それでも、自分の気持ちに嘘はつけねぇんだ」


 今なお平常でいられない私に、答えを促す三人。

 私は助けを求めるように、エリナ様とシュルへ視線でメッセージを送りました。

 しかしエリナ様は、なぜか顔を赤くしながら私たちの反応を楽しむかのような表情。

 シュルに至っては――「グッチョブ」というポーズを私に送ってきました。


(いや……あの、助けてほしいんですけど……)


 どうやら二人は、私が誰を選ぶのか期待して見ているようです。つまり、二人から助けはなさそうということ。

 レオナール様、フェラン、アレクシも私の答えを今か今かと待っています。


(……仕方ありません。ここまで来たら誤魔化すのは難しそうですね……ならば、ここは腹を決めて――答えを出さないといけません)


 私は覚悟を決めました。


「ちょっと……考えさせてください……」

 そう言って、しばらく考え込みます。


(レオナール様……フェラン……アレクシ……誰を選べばいいのか……そして、私の一番の目的である“エリナ様×レオナール様の公式カプ化作戦”……この作戦をどうすればいいのか)


 どのぐらい考え込んだでしょう。

 きっと五分も経っていないでしょうが、体感的に長い時間考えこんだ気がします。


「レオナール様……フェラン……アレクシ……」


 ひとまず決意しました。そして今からみんなに伝えましょう。


「わ、私の答えは――」

「まさか本当に達成してしまうとは……ワン」


 突如、背後から声が聞こえました。


「うわぁ、な、なに!?」


 急いで振り返ると――後方の茂みから、全身を黒い毛で覆われた、犬もしくは狼みたいな獣。そう、私たちにこの世界から脱出方法を教えたジェヴォーダンが、再び現れたのです。


「! セレスティン離れろ!」


 レオナール様は急いで私を抱きかかえました。

 そして、アレクシは誰よりも前に出て、ジェヴォーダンに相対します。まるで臨戦態勢に入るかのように。

 シュルも魔法を発動する構えを見せ、エリナ様とフェランは寄り添いながら怯えていました。

 先ほどの甘い雰囲気は一瞬で消え、この場は一気に緊張感のある空気へと変わります。


「いや……そんな警戒しなくてもいいのに……はぁ~~オイラ、すっかり嫌われたワン……悲しいワン」

「お、おい! なんでまた現れて……俺たちは誰も犠牲にしないって言っただろう!」


 フェランが怒鳴ります。だけどジェヴォーダンは、まるで意を介していませんでした。


「そのことなんだけど、君たちは時間制限を超えるまで、誰一人犠牲を選ばなかった」


 そしてジェヴォーダンは、ゆっくりと笑みを浮かべて次の言葉を言いました。


「おめでとうワン。君たちは……史上初の合格者だワン」


 次回、呪いの世界編ラストとなります。

 今回は長めでしたが、次回はここまで長くならない予定……多分。

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