23.「誰一人欠けることなく帰りてぇんだよ」
投稿が遅くなってしまい、申し訳ございません。
こちらが最新話となります。
「な、なんですって!?」
あまりの内容に、声が裏返ってしまいます。
「おい、それは冗談だろう……?」
アレクシが問いただします。
「冗談じゃないワン……“最低一人、この世界に残ってもらうこと”。それがこの世界から抜け出る唯一の方法だワン」
ジェヴォーダンは、私たちの動揺など意に介さぬ様子で、淡々と告げました。
「残るって……それは、いつまで残るのですか?」
エリナ様が不安げに問いかけます。
「もちろん永遠だワン」
「ふざけんな! そんな理不尽なこと受け入れられっかよ!!」
フェランの怒声が森に響いた。
「……なぜ、一人だけこの世界に残る必要があるんだ?」
レオナール様が問いただします。
「オイラだって詳しいことは知らないワン。でも、この世界は人間が一人でもいないと崩壊してしまう法則になっているだワン」
「……いわゆる人柱というやつか……」
シュルがそう呟きました。
人柱。
よくわからない言葉だけれど、要するに、誰か一人が犠牲にならないと、この森――呪いの世界から抜け出せないということなのでしょう。
(……ならば……)
ちょうどよかった。先ほど胸の内で誓った決意を、いまこそ形にするときです。
「ジェヴォーダンさん……なら、私が残ります!」
「「「「セレスティン!!!」」」」
「セレスティン様!?」
当然、みんなが反応しました。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ義姉さん! 何言ってんだよ」
みんなには悪いけど、ここで議論している場合じゃない。
私の気持ちが変わらないうちに、早く終わらせないと。
「お願いです、ジェヴォーダンさん! 今すぐみんなを元の世界へと帰して! 私一人が残るならみんなは帰れるのでしょう!?」
「……素晴らしい自己犠牲だワン……」
ジェヴォーダは目を細めて私を見つめました。
そして――
「でも駄目だワン!」
「えっ、なんで!?」
突きつけられた否定に、目の前が暗くなります。
「おい、さっきと言っていることと違うじゃねぇか!!」
再びフェランの怒声。だがジェヴォーダンは、まるで意を介することなく淡々と続ける。
「セレスティン……確かに、君が残るなら他のみんなは元の世界へと帰せる。
でもそれは――君だけの主張では通らないワン。残る人間を決めるのは、集団の中で“多くの意思が一致した場合にのみ”成立するだワン」
えっ、それってつまり――。
「……つまり、残る人間は――“多数決”で決まると?」
レオナール様が、私の考えを言葉にしてくださいました。
「うんその通りだワン。セレスティンのように、自ら残る意思があったとしても反対が多い場合は成立しない。逆に本人にその気がなくても、賛成が多ければその人が森に残る仕組みだワン」
「なんだよそれ! 明らかに仲間外れを作れって言っているようなもんじゃねぇか!!」
まったくフェランの言う通りです。
なんて残酷な仕組みなんでしょう。
私さえ犠牲なればそれで終わると思っていた。でも、今の話なら、私が残ることを、みんなが受け入れないといけないことになる。
それはつまり、余計にみんなに罪悪感を背負わせるということになります。
「今、セレスティンが立候補しているが、どうするワン? ここにいる残りの五人のメンバーの賛成が多かったら、それで条件成立だワン」
ジェヴォーダンが話をまとめるように、告げました。
「嫌です……私は絶対セレスティン様が残ることに反対です!」
「ああ……エリナさんの言う通りだ。セレスティンが残るくらいなら、僕が残る!」
エリナ様、レオナール様が次々と反対する。
優しい二人らしい発言だけど、この時ばかりは胸が苦しくなる。
「お、俺だって、義姉さんの犠牲は望んでいねぇ……義姉さんやめろよ……さっき俺が言ったことが気になっているなら、気にすんなよ……」
フェランが目に涙を浮かべながら私を見つめていた。
「言い訳になるが、俺も不安でいっぱいだったんだ……だから必要以上に義姉さんにきつく当たっちまった
……本当に悪かった……俺は誰一人欠けることなく帰りてぇんだよ……」
「フェラン……あなた」
涙をにじませながらの謝罪に、胸がさらに締めつけられる。
「なぁ……アレクシ、シュル……お前らだって、そう思うよな」
アレクシとシュルの方へ振り返る。すると、二人は何やらボソボソと小声で話していたことに気づきました。
「いや……フェラン、俺は……お前とは、意見が違う……」
アレクシは慎重に言葉を選ぶように言います。
「おい、それはどういう意味――」
「落ち着けフェラン。俺もシュルもセレスティンが犠牲になることは望んでいない……残るとするなら、俺だ」
「えっ、それはどういうことなの!?」
さらりと言うアレクシに、私は驚きました。
「……簡単な話だ。森に残るなら、この中で一番対応できそうなのが俺だからだ。
俺は幼い頃から父に鍛えられて、何度もサバイバル訓練を受けてきた。何の苦労もなく過ごせるさ」
明るい表情で言うアレクシ。けれど、私はただ唖然とするしかありません。
「それに、シュルだけでも現実世界に戻したい……シュルの魔法分析力なら、他に出る方法を見つけてくれるかもしれない。そのためにも、ひとまずここから出してやりたいんだ」
アレクシはなおも明るい表情で言う。この陰鬱な空気を変えようとアレクシなりに気を遣っているのでしょう。
けれど――私は到底、アレクシの言い分を受け入れることができません。
「そんなの駄目……あなたが一人っきりになることないじゃない! こんな事態に招いた私が責任取って――」
「また言っているのか、セレスティン!」
今度はアレクシと私が言い争うことに。
こんなこと望んでいなかったのに。
これは、私が呪いの本を開いたことで起きた事件。ならば、呪いの世界に残るべきなのは私のはずだ。
みんなには、あの日常――学園生活に戻ってほしい。
悲劇のヒロインぶっているかもしれません。それでも私さえ犠牲なればと終わると思っていたのに、多数決というシステムのせいで、話がどんどんこじれていきます。
そんな時でした。
「止めてください!!」
一人の怒声が響いた。
突然の大声に驚いたが、その声の主は――エリナ様だった。
こんな風に怒鳴るエリナ様を見るのは初めてだ。
私だけじゃなく、みんなも一斉にエリナ様に視線を向けた。
「止めてください……こんな言い争いなんてしたって何も解決しないじゃないですか……」
俯きながら語るエリナ様。
けれど、地面へ落ちる雫と震える声で、泣いていることはすぐにわかりました。
「エリナ様……」
「それに、誰かを犠牲にしてここから脱出したって……これからの学園生活本当に心から楽しめると言うのですか?」
「……それは……」
その言葉で胸が痛みます。
そして私だけではない、ここにいる全員が言葉を失いました。
そうよ。本当は、誰一人だって欠けてほしくない。
誰かを選ぶくらいなら、「自分が残る」と言ってしまう――そんな人たちばかりなのです。
最初から、多数決で決まるはずなどなかったのです。
「誰も選べないなら――」
沈黙を破ったのは、先ほどまで静かだったシュルでした。
「――誰も選ばなければいい」
「……えっ?」
逆説のような言い方。
けれど、私にはシュルの言葉の意味がわかりません。
「この世界には、人間が残らないといけない……でも、それは一人じゃなきゃいけないルールではない……そうだろう、ジェヴォーダン?」
「……うん、そうだワン」
そしてシュルは、私たち一人一人の顔を見回して、静かに告げました。
「残る一人が決められないなら――みんなで残ればいい。それなら、誰一人欠けることなんてないよ」
「……えっ?」
“みんなが残る”。そんな発想、思いつきもしませんでした。
「シュルそれだと、君の魔法分析は――」
「魔法の分析ならこの世界でもできる……それに僕だって、誰をひとりぼっちにさせたくない。誰かが残るくらいなら、僕は残るさ」
その言葉でハッとしました。
そうよ。
学園生活に戻るなら、誰かを残していかなければならない。
でも、この世界なら、みんなと一緒にいられる。
学園に戻れないのは悔しい。それでも、みんなと別れるくらいなら、その方がいい。
それに、みんなと一緒なら、この世界でもやっていけそうです。
「そうか、なら俺も残ろう。お前らに父仕込みのサバイバル術を教えないといけないしな」
アレクシが笑って言いました。
「私も残ります! 皆さんと一緒なら心強いです」
エリナ様も続きました。
「なんだよ……この流れじゃ、俺だけ現実世界に帰るなんて言えねぇじゃねぇか……仕方ねぇ、俺も残るか」
フェランは、やれやれといったポーズを取りながら言いました。
口では嫌そうに言っていますが、本心ではないのは明らかです。
素直に態度を出さない、いつものフェランらしくなっていきました。
「……弟を残すわけにはいかないな……僕も残ろう」
レオナール様までそう言いました。
そして、みんなが、一斉に私に視線を向けた。
もちろん私の答えは――。
「私も残るわ! だって、私にはやることが残っているから!」
みんなと一緒だから残る。
それも理由の一つ。
そうよ。こんなときだっていうのに、私は自分の野望を忘れていました。
そう――私の野望はただ一つ。
“エリナ様×レオナール様の公式カプ化作戦”。
私だけ現実世界に戻ったら、そんな大事な野望、達成できるはずないじゃない。
この尊いお二人を、誰もが認める公式カップルにすること。
たとえそれが、ププライの学園でなくても。たとえ、どんな世界であったとしても。
エリナ様とレオナール様がそこにいるのなら、私もそのすぐそばで推し活すべきです。
「そういうことです。ジェヴォーダンさん……私たちはこの世界に残ります!」
私はジェヴォーダンに宣言しました。
多数決で決まるなら、文句は言えないはずです。
「……正直、驚いたワン。君たちの選択に」
ジェヴォーダンは、どこか感慨深そうにそう言いました。
「今までここに迷い込んだ者たちは、皆、誰かを犠牲にすることを選んできたワン……この世界に入ることになった原因の人や、集団の中で前から気に入らなかった人を、この機に選んだりして……なんだかんだ言って、皆自分が大事だからワン」
「でも……途中で気が変わったら、いつでもここに来てくれワン。何せ、君たちは永遠にこの世界にいることになる……オイラはこの扉の前で、いつまでも君たちを待っているワン」
「フン! 二度と行かないから安心しろ」
フェランが捨て台詞を吐くように言い、バイバイと手を振りました。
そうして私たちは、この森で暮らすために――扉のあるその場所から離れる選択をしたのです。




