14.「枯れ専女子」 後半
前回の投稿からだいぶ遅れてしまい、本当に申し訳ございません。
今回は第十四話の後半をお届けします。
「……セレスティン? 珍しいな。授業が終わった後に君が私に尋ねるなんて……なにか聞きたいところでもあったのか?」
我が校始まって以来の魔法の天才と称されるシュルや、成績優秀で真面目なエリナならともかく、セレスティンが授業後に質問をしてくる光景は、正直あまり見覚えがない。
お世辞にも成績は優秀とは言えない方だしな。
「……先生。先ほどの授業ですが……いつもと、少し雰囲気が違う気がしましたわ。何か、悩みでもあるのでしょうか?」
案の定、先ほど、私がぼーっとしていた件で、セレスティンは尋ねてきた。
なるほど、錬金術はからっきしだが、人の気持ちを察するのは得意なタイプなのだろう。
これが、文系脳というやつか。理系脳の私とは違うな。
「……いつもと違う? 気のせいじゃないか」
と誤魔化すように私はフッと軽く笑って続ける。
「だいたい悩みなんてものはな。生きていれば、誰しも一つや二つくらい抱えているものだろう?」
そう――
この気持ちを、生徒に相談できるわけがない。
ここは、うまく言い繕ってやり過ごせば……
「……もしかして、ミレーヌ先生。恋とか、していませんか?」
「…………」
……うっ。
想像以上に鋭いセレスティンの追及に、私は思わず、ぴたりと口を閉ざしてしまった。
すると――
「……やはり、本当だったのですね。ミレーヌ先生……」
今度はエリナが、私の顔をじっと見つめ、まるで確信を得たかのような表情を浮かべる。
……そんなに、私はわかりやすいタイプだっただろうか。
「……本当なのですか? 先生?」
さらに、今度はシュルまでが追及してくる。
意外だった。セレスティンやエリナのような女学生ならともかく、男学生のシュルまで興味を示すとは。
特に彼は、こういう話題には無関心なタイプだと思っていたのだが、人は見かけによらないものとはこのことか。
「…………」
当然、セレスティンたちの考えが当たっていたとしても、正直に答える義理はない。
単純に恥ずかしいし、もしこの話が漏れて学園中に広まったら、目も当てられない。
……と、このまま誤魔化そうとしたが。
私は念のため、教室を見渡す。
教室に残っているのは、私とセレスティン、シュル、エリナの四人だけ。
廊下も、しーんと静まり返っている。
……ならば。
「……ふー。誰にも言わないでくれるか?」
そして、ほんの少し躊躇いながらも――
「……当たりだ//」
「「「…………」」」
沈黙の時間が流れる。それが、やけに長く感じられて、余計にきつい。
(……ああ。やっぱり、言わなければよかっ――)
そう思ったその時。
「「ああ! やっぱり!!」」
突如、セレスティンとエリナが大声を出す。
「……っ!?」
一方、シュルは言葉を失ったように口を開けたまま、固まっている。
「ほら、シュル! 私の言った通りでしょう!!」
セレスティンは勝ち誇ったように胸を張り、ぐいっとシュルの方を見る。
「……まさか、本当に恋の悩みだったなんて……僕はまったく気づかなかった。
いつものやる気なさそうなミレーヌ先生のままだと思っていたのに……」
ちょっと、棘のある言い方をされたが、普段からやる気のない授業をしているのは事実なので、言い返せない。
「女ってのは、こういうの気づくのは得意なんだから!」
とエッヘンと鼻を伸ばしながら自慢げに言うセレスティン。
「……どうして君は、“他人の恋には敏感”なのに、“自分に向けられる恋には鈍感”なのだろう……」
シュルが、ぼそりと呟いた。
「……私は、セレスティン様ほどではありませんが、ミレーヌ先生が、いつもと少し様子が違うような気はしていました」
と、今度はエリナが、控えめに付け加える。
なるほど。まとめると、セレスティンは直観的に気づき、エリナは半信半疑、シュルはまったく気づかなかったということか。
「それで! それで! 相手は誰なのです? ミレーヌ先生が好きな人は?」
ワクワクした様子で、セレスティンが尋ねてくる。
「……で? 私が恋をしているとして、君たちに何か関係があるのか?」
「えっ?」
セレスティンが、ぽかんと口を開ける。
「私の恋は私だけの問題だ……君たち生徒には関係ない」
そう。この恋は、誰かに評価されるものでも、噂話の種にされるものでもない。
ましてや、生徒に面白がられて語るようなものでもない。
教師としての立場もある。
年齢差もある。
そして何より――まだ、何も始まってすらいない想いなのだから。
「……なら、私たちがサポートしましょうか? ミレーヌ先生の恋を実現するために」
「……え?」
思わぬ返答が。
「それはいいですね! セレスティン様!!」
エリナが、すっかり乗り気になる。
「その“私たち”って……もしかして“僕”も入っている?」
シュルが、恐る恐る尋ねる。
「おい、何を勝手に話を進めて――」
「まぁまぁ、いいじゃないですか! 正史では、ミレーヌ先生の恋のイベントってなかったので、新鮮ですし、それに――」
……ゲーム?
聞き慣れない言葉に引っかかりながらも、セレスティンは言葉を続ける。
「……それに、ミレーヌ先生は……なんとなく、私と同じ匂いがするのです。おそらく私と同じ推し活を見つけたら、それ以外のことなんて目を向けられないタイプ、のような気がするのです……」
「っ!?」
セレスティンの一言に言葉を失った。
昔からそうだ。
好きなこと以外には、まったくやる気が出ない。
そのおかげで、周囲の人間には、何度も引かれてきた。
私は、きっと普通の女じゃない。
この気持ちを理解してくれる人間なんて、滅多にいないだろう――そう思っていたのに。
(よりにもよって、理解者が生徒だなんて。なんという皮肉だろう)
私は、改めてセレスティン、シュル、エリナの三人を見つめる。
……この子たちは、根はいい子だ。
少なくとも、私の気持ちを打ち明けたところで、笑いものにするようなことはしないだろう。
ならば――。
「……驚かないで……聞いて……くれ……るか? 私が、気になっている人は――」
ゴクリと唾を飲み込み、覚悟を決めて口を開く。まるで、思い人に告白するかのような気分だった。
「――ポルナレフ先生だ」
「「「…………」」」
沈黙。
セレスティンも、シュルも、エリナも、言葉を失ったまま立ち尽くしている。
(……ああ。やっぱり、打ち明けるんじゃなかった。
歳の差もある。教師同士とはいえ、向こうはずっと年上だ。こんな想い、引かれて当然だろう……)
そう、後悔しかけた、その瞬間。
「すっっっっっっっっっっっごく、素敵ですわ!」
弾けるようなセレスティンの声が、教室に響いた。
「……え?」
「だって、ポルナレフ先生は落ち着いていて、渋くて、知性もあって……それに何より、ちゃんと“大人”ですもの。そういう方を好きになるのって、全然おかしくありませんわ」
セレスティンは、興奮するように早口で話す。
「……僕は、驚いたけど……ポルナレフ先生なら、納得です。
魔法理論の理解も深いし、人を見下したりもしない。……ミレーヌ先生が惹かれる理由は、理屈としては十分に説明がつく」
いかにもシュルらしい、理屈っぽい回答だ。
「待て待て……私が言うのもなんだが……普通、驚かないか!? その……歳が離れた人に恋するなんて」
思わず、そんなツッコミを入れてしまった。
「……私は……」
最後に、エリナが小さく息を吸ってから、控えめに続ける。
「お互いに大人なら……歳の差なんて、関係ないと思います。
それに、学生の私たちでは体験できない恋をしているミレーヌ先生は……素敵だと思います!」
綺麗な青い瞳から、まっすぐな言葉がこぼれ落ちる。
エリナだけじゃない。セレスティンもシュルも、同じようにこちらを見ていた。
その瞳には、一切の軽蔑や嫌悪はない。ただ、真っ直ぐな視線が私を映しているだけだった。
「……はっ。はは。君たちは本当に“変わっているな”」
私は笑いながら、そう言い返す。
「枯れ専女子のミレーヌ先生に言われたくないですわ!」
最後にセレスティンのツッコミを入れて、こうして、セレスティン、シュル、エリナの協力をもと、作戦名「ミレーヌ先生×ポルナレフ先生カプ成立」が始動することになった。
なお、作戦名の発案者は、言うまでもなくセレスティンである。
まさかの次回へと続く!?
裏設定)
ミレーヌ先生とポルナレフ先生の年齢は、以下の通りです。
ミレーヌ・デザンシャンテ 25歳
アムール・ポルナレフ 50歳




