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乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、公式カプ(ヒロイン×王子)を全力で推しますわ!  作者: 朝月夜


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10.「学園舞踏会」 後半

 一日空いてしまい、すみません。

 本日は第十話後半の投稿となります。

 私の涙も止まり、少し落ち着いたところで、レオナール様が改めてエリナ様へと向き直りました。


「初めまして。エリナさん。僕はレオナール・ド・クレルモン。

 ……婚約者のセレスティンが、いつもお世話になっている」

 誠実な口調で頭を下げるレオナール様。


 エリナ様は一瞬目を丸くしたあと、慌ててスカートの裾をつまみ、丁寧に一礼なさいます。

「は、初めまして! エリナ・クチュールと申します。

 こちらこそ……セレスティン様には、日頃から本当にお世話になっております」


 さらに、少し思い出したように続けました。


「それと……私が風邪をひいたときは、ありがとうございました。

 セレスティン様から伺いました。風邪薬を、セレスティン様とレオナール様、それにシュル様の三人で作ってくださったと……」

「風邪薬……ああ、そうだったな。

 君が風邪をひいてから、セレスティンは本当に真剣で――」


 そうして交わされる、初対面の男女の挨拶と、ささやかな会話。

 それを横から見守る私の心境はといえば――


(完璧な美男美女! お似合いすぎるシンメトリーのカップル! 美しさ極まって、もはや聖域……そこに嫉妬が入り込む余地など、雑魚の私には一切なしの黄金律……!)

(ああ……この尊い二人を見るだけで、また涙腺が危うくなりますわ

 ……ですが、目的を忘れてはいけません。勝負はここからです!  

 ここから、もっと二人の距離を詰めねば!!)


 零れそうになる涙をぐっとこらえ、私はさっそく切り出します。


「そうですわ!

 せっかくの舞踏会ですし、親睦を深めるためにも――お二人で一曲、踊ってみてはいかがかしら?」

「「踊る?」」

 レオナール様とエリナ様が、見事に同時のリアクション。


「ええ! レオナール様でしたら、きっとエリナ様を上手にリードなさいますわ。

 エリナ様も、たとえ踊りに自信がなくても……レオナール様となら、きっと大丈夫です!」


 このときの私は、正史ゲームでの個人的名場面――

 レオナール様とエリナ様が踊る、あの感動的なシーンのことしか考えていませんでした。

 胸を打つBGMと相まった、あの素晴らしい光景を、早くこの目で見たい。

 その一心だったのです。


 しかし――


「そ、それは……ちょっと……セレスティン様のご婚約者様と踊るなんて、私には恐れ多くて……」

 思ったよりも、エリナ様は乗り気ではありませんでした。


(あら?)


 さらに追い打ちをかけるように、レオナール様まで。

「すまない。その提案は断らせて貰おう。

 彼女と踊る前に、最初の一曲は――セレスティン、君と踊ろうと決めていた」


 一拍置いて、少しだけ視線を逸らしながら、続けます。


「二番目、という言い方は失礼なのは承知だが……

 まずはセレスティン。君と踊りたい。その後にエリナと踊るなら、それで構わない」

 レオナール様に至っては、はっきりと断られました。


(あらあら?)


「ええ! レオナール様のご意見に賛成です!

 まずは、婚約者として、セレスティン様とレオナール様が踊るべきだと思います。

 私はその後でも、まったく構いません」

 そして、エリナ様までがレオナール様の意見に賛成する事態に。


(あらあらあら?)


 困りました。

 二人を踊らせたい私に対し、踊る気配のないお二人。これは完全に予想外でした。


(どうしましょう……レオナール様の意見を尊重して、まずは私と踊って……その後にエリナ様と?

 正史ゲームと違って、今回はエリナ様遅刻していませんし、時間はあるでしょう……)

(……ですが、正史ゲームでは――レオナール様が踊る相手は、最初から最後までエリナ様だけだったはず!)


 展開がいくつかズレてきているとはいえ(私のせいで)、できる限り正史ゲームの流れはなぞりたい。

 となれば、レオナール様のダンス相手は――エリナ様だけにすべきです。

 エリナ様×レオナール様ルートに進むためにも、この場面は、どうしても正史ゲーム通りにしたい。

 ですが今のところ、レオナール様の提案を上手く回避する案が浮かびません。

 私を見つめるレオナール様とエリナ様。

 悩む私。

 ――そのとき。


「あれ? レオナールとセレスティン……ここにいたの?」


 ボソッとした、少し小さな声。

 聞き覚えのある声に、私は振り返ります。


「シュル?」


 そこに立っていたのは、シュルでした。

 シュルの服装も舞踏会仕様で――

 紫黒しこくを基調とした正装に、落ち着いた気品を漂わせている。

 上衣には控えめな装飾が施され、胸元には緑の宝石を留めたブローチ。

 金の装飾が目を引くレオナール様の装いとは対照的に、華美すぎることはなく、それでいて魔法使いらしい、どこかミステリアスな印象を強く残す。

 挿絵(By みてみん)


「シュル……なぜ君がここに?」

 レオナール様が問いかけます。


 驚いているのは、私も同じでした。

(どうしてシュルがここに?

 彼がこの舞踏会に登場するなんて、正史ゲームではなかったはず……)


「うん。なんでも……

 僕が授業中に作った魔法薬が、気づかぬ内に他校でも評価されたらしくてさ。

 それで“特別な功績枠”として誘われたんだ」


 シュルは淡々と答え、少しだけ肩をすくめます。


「本当は興味なかったんだけど――

 ここなら、レオナールやセレスティンにも会えるかなって思って来てみたら、案の定だった」


(なるほど……私たちに会うため、ですのね。

 それにしても、いつの間にか作った魔法薬が評価されているなんて……本当にシュルらしいですわ)


「たしかに、君なら特別功績枠で招待されるのも当然だな」

 レオナール様も、私と同じ考えのようでした。


「あ、あのう……! シュル・トゥレット様!」


 すると突然、エリナ様がシュルの方へ向き直り――


「は、初めまして! エリナ・クチュールと申します。

 あの……風邪薬の件では、その節は本当にありがとうございました!」

「ああ……僕に関しては、シュルでいいよ。呼び捨てで」

「そ、それは……恐れ多くて……」

「それに、礼を言われる筋合いもない。

 僕はセレスティンに少しアドバイスしただけだし、

 実際に薬を作ったのはセレスティン。環境を整えたのはレオナールだ」


 だから、と付け加えて。

「お礼なら、彼らに言ってあげて」


 言葉だけ聞けば、少し素っ気なくも感じられますが――シュルは決して冷たい男ではありません。

 ただ、感情を言葉にするのが、あまり得意ではないだけなのです。

 エリナ様も、そのシュルなりの親切心に気づいたのか、ふっと柔らかく微笑んでいました。


(――そうだ! この手がありましたわ!!)


 私は、レオナール様とエリナ様を踊らせる妙案を思いつきました。


「シュル? あなたはこちらの踊りには自信あって?」

「えっ? いや、僕はこういう踊りは経験していなくて、そもそも特に踊るつもりも――」


 シュルの言葉を途中で遮り、私は畳みかけます。


「でしょう! でしたら、私が教えて差し上げますわ。せっかくですし、私と踊りましょう!」

「……え?」


 今度は私のほうから、シュルの手首をそっと掴みました。

 風邪薬を作ったあの時、彼が私の手を取った――そのお返しと言わんばかりに。

 そして、私はレオナール様とエリナ様の方へそのまま振り返ります。


「レオナール様はエリナ様に踊り方を教えて、私はシュルに教える……この方が、バランスの良い組み合わせでしょう?」

「あっ、セレスティンちょっと――」

 何かを言いかけたレオナール様から逃げるように、私はシュルを連れて、そそくさと踊り場へと向かいました。


 戸惑うエリナ様と隣で悲しそうにこちらを見るレオナール様。


(ごめんなさい。

 ですが、エリナ様×レオナール様ルートに進めるためには仕方のないことなの……!)


 胸をちくりと痛めながらも、私はシュルと向き合いました。

 上質な音楽が流れ始め、私たちは踊り場でステップを踏み始めます。

 シュルは私より少し背が高い程度。レオナール様のような高身長のイケメン相手なら、きっと私は緊張してしまいますが――シュルは目線が近く、不思議と安心感がありました。


「そう、その調子です。初心者とは思えないほど上手!」

「……なるほど。わかりやすくて助かる」


 経験がないせいか多少ぎこちなさはありますが、私がリードする形で進めれば問題ありません。


(……うん。教えるの、結構楽しいかも)


 シュルの呑み込みの早さも相まって、踊りは順調でした。

 ふと、私は視線を動かします。

 言うまでもなく――探しているのは、あの二人。


(見つけたわ!)


 レオナール様がリードし、エリナ様と踊っています。

 正史ゲームでは、エリナ様も初心者設定。今も最初こそぎこちなさが見えましたが――

 それは、ほんの一瞬でした。

 レオナール様の的確なリードによって、エリナ様はみるみるうちに上達していきます。


「おお……」


 思わず、周囲の生徒から感動の声が漏れました。

 その気持ちすっっっっっっっっっごくわかります。

 二人の踊りは、谷から山へと登るように、曲の盛り上がりとともに加速度的に洗練されていきます。

 そのクオリティは、プロに匹敵すると言っても過言ではないでしょう。

 そして、レオナール様もエリナ様も――スポーツで言うところの“ゾーン”に入っているのでしょうか。

 互いを真剣な眼差しで見つめ合い、瞬きすら忘れ、流れる汗さえも美しく輝いて見えます。

 あまりの光景に見とれて、踊りの手を止めてしまう男女のペアまで現れるほどでした。


 やがて曲が終わり、二人の踊りがぴたりと幕を下ろすと――

 ――パチパチパチパチッ!

 大きな拍手が、舞踏会場に響き渡ります。

 もちろん、私も拍手。隣のシュルも、静かに手を打っていました。


「……ああ、まさに神と神の踊り。

 いいえ、推し同士の共演……これこそ、私の見たかったものですわ」


 私はレオナール様とエリナ様から目を離さぬまま、シュルに話しかけます。


「ねえ、シュル。あの二人、本当にお似合いだと思いません? あの二人以上に相応しいカップルなんて――」


 そのときでした。


「セレスティン……これでよかったの?」

「……え?」


 シュルもレオナール様とエリナ様を見つめたまま私に話しかける。

 声は静かでしたが、そこには何かを問うような雰囲気がありました。


「レオナールをエリナさんと踊らせて……」

(何を!? そんなこと良かったに決まっています! むしろこれこそが私のお望みで――)


 そう反論しようとしたそのとき。


「セレスティン……僕は君のことが好きだ」

(……えっ!?)


 聞き間違いかしら? この状況で私が告白されるなんて――


「好きなんだ」


 聞き間違いじゃない……まさかの告白!?

 思わず心臓がドキッと跳ねた。


(ど、どどど、どうしましょう? わ、私、男の子から告白されたことなんて人生で一度も

 ……前世でも恋人なんて――

 えっ、いいのでしょうか? セレスティン×シュルカプなんて勝手に成立させて)


 私は悩みました。でも考えてみれば――


(そうよ! セレスティン×シュルが成立すれば、少なくともエリナ様×シュルルートは完全消滅。プランBは大成功。そうすれば、敵はフェランとアレクシだけ……それならば――)


 私が返事をしようとした、そのとき。


「……友達としてね」

(……えっ!?)


 その言葉を聞いた瞬間、沸騰しそうになった体が一気に冷めました。


(な、なんだ……友達としてですか。何を私舞い上がっているのやら)


 自分に対して馬鹿らしさを感じるほどでした。

 そして、シュルは続けます。


「でも同じくらいレオナールも友達として好きだ」

「だから……僕は正直、複雑な気持ちなんだ。君が応援している恋があるなら、僕は()()()()()()()()()()()()()()()()()()……それとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、迷っている……」

(レオナール様の恋?)


 私は、シュルの言いたいことが、まだよくわかっていませんでした。


「レオナールは君のことを――」


 そこまで言われて、ようやく私は彼の言いたいことに気づきました。


「ああ……婚約者という関係なら、心配しないでください。私とレオナール様は、名ばかりの婚約者です。なので、そこに恋愛関係なんてありません」


 これは自信もって言えます。

 前世の記憶を取り戻してからというもの、イケメンすぎるレオナール様に、ろくに目も合わせられず、近づけず、七歳の頃から距離を取ってきたのです。

 レオナール様は婚約者の立場として、私を守ってくれることはありますが、それはあくまで、真面目な彼なりの責任感からくる義務のようなもの。こんな女に、恋愛感情など持っているはずがありません。


「……僕はそうは思わないけど……」

「うん? なにか言いました?」


 シュルがボソッとなにか呟いた気がしましたが、私の耳にははっきりとは届きませんでした。


 そんなことよりも。

 私は再び、レオナール様とエリナ様へと視線を戻します。

 正史ゲームでは、悪役令嬢セレスティンのせいで痛々しいドレスを着せられていたエリナ様も、ここでは美しい姿のまま。

 そして私は、ずっと見たかった名場面を、この目で見ることができたのです。

 尊い二人の姿を見つめながら、私はエリナ様×レオナール様ルートへ進んだという、確かな実感を噛みしめていました。


 これにて、学園舞踏会編は終了です。

 次回は、ついに――あの男視点の物語……!

 乞うご期待!!


 年末年始は、比較的執筆に時間を取れる状況ですので、可能な限りこの物語に向き合いたいと思っております。

 ですが、朝月も情けないながら、か弱き一人の人間。

 もし、この物語が少しでも「面白い」と感じていただけましたら、

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