1.「そう、私は転生したのだ」
「痛っ!!?」
後頭部に強い衝撃が走った。長く艶やかな黒髪が、一瞬、天井に向かってふわりと舞い上がる。
私――セレスティン・オートは、階段から滑って転んだところだった。
最初はただ痛いだけだった。しかしその痛みを感じたまま、突然、脳裏に膨大な記憶が洪水のように押し寄せ、私の感覚をあっという間に飲み込んでいく。
見たことのない小さな箱に人が閉じ込められ、そこで演劇をしているような奇妙な光景。
見慣れない服を着たどこか愛嬌のある女子。
馬車とはまるで違う乗り物に乗る人々。
そして、知らない男女が私に向けて優しく微笑みかける姿。
……さらに、巨大な鉄の塊が、こちらへ迫ってくる瞬間。
どれもこれも、この世界ではありえない、まるで異世界の記憶。
(いったい何ですの!? この記憶は……? こんなの、私にあるはず――)
そう思った瞬間だった。
その時、私は思い出した。
今、流れ込んでくるのは――前世の記憶だということを。
見たことのない小さな箱に人が閉じ込められ、そこで演劇をしているような奇妙な光景。
――あれはゲーム機だ。
そういえば、学校にこっそりゲーム機を持ち込み、休み時間のたびに大好きな乙女ゲームをプレイしていた。
見慣れない服を着たどこか愛嬌のある女子。
――彼女は、幼馴染の、朝日光凛だ。
光凛とは、乙女ゲームから漫画、小説に至るまで、推しカプ論争でよく戦った仲だ。
馬車とはまるで違う乗り物に乗る人々。
――あれは自転車や車のことだ。
そして、知らない男女が私に向けて温かく微笑む姿。
――紛れもない前世の両親の顔だった。
……さらに、巨大な鉄の塊が、こちらへ迫ってくる瞬間。
――それは交通事故。車に引かれる直前……私が死んだ瞬間の記憶。
記憶を一つひとつなぞるうち、私は自然と答えに辿り着いた。
――そう、私は転生したのだ。
大好きな乙女ゲーム『ププライ』の、悪役令嬢セレスティン・オートとして。
「大丈夫ですか!? セレスティン嬢!!」
階段の上から駆け寄ってきたのは、金髪碧眼の少年。
そう、この人は――第二王子レオナール・ド・クレルモン様。
『ププライ』の攻略対象のひとりにして、パッケージでも主人公と並ぶメインヒーロー。そして……何より私の“推しの一人”。
「あわ……」
(はわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわあああんん!!)
(ヤバババババババババババババババババアアアアアアアアアアアイイイ!!!)
私は推しと出会えたこの歓喜を心の中で叫ぶ。
その反動で、口からまともな言葉が出ない。
「あっ、あのう……」
(ヤバい! マジで最高なんすけど!? 生……生レオナール様!? 生レオナール様が目の前にいるんすけど!?)
(やっぱ超イケメン――っ! 見た目からして、十歳にも満たない少年だけど、将来確実に有望すぎる!!)
「あ、ありがとう……ございます……」
(やべぇ! どさくさに紛れて手に触れちゃった!! どうしよう……もう一生手洗えないわ……!)
「え……本当に大丈夫ですか? どことなくぎこちないですし……やっぱり頭の怪我がひどいのでは?」
優しく心配してくれるレオナール様。
確かに頭を打った痛みは残っている。けれど、それ以上に推しが目の前にいる現実のせいで、私はまったく平常心ではいられないのだった。
推しに会えるなんて羨ましい




