会うは別れの始まり
「やっと会えたのに・・・こんなの、あんまりだわ」
「お婆ちゃん、泣かないで」
嗚咽まじりに泣き続けるお婆ちゃんの背中を、そっと撫でる。
小刻みに震える背中が、何だかいつもより小さく感じて、鼻の奥がツンとした。
「陽菜ちゃん、お母さんを大事にしてくれて、ありがとう」
そうお礼を言われたけど、どんな顔をして良いか分からない。
悠里ちゃん、いや、悠里おばさんは、雰囲気がすっかり変わってしまった。
ついさっきまでは、些細な事で驚いたり感動したりする素直な少女だったのに。
役場を出る時、自動販売機でアイスコーヒーを買ったら、プルタブの形が違うと驚き、「ゴミが出なくて良いね」なんて感心した。前は切り離すタイプだったんだって。
記念にスマホで写真を撮ったら、
「え?これがカメラ?えっ!?もう現像出来てる!何これ?すごい!」
って、めちゃくちゃ驚いてた。現像って何?って逆に聞いちゃった。
私にとって生まれた時からある当たり前の事が、彼女には新鮮だったらしい。
15歳の姿なのに感性は昭和(?)だから、そのギャップが面白かったし、フォルダの写真を見ながらキラキラと瞳を輝かせる様子は、とても可愛らしかった。
これから仲良くやっていけそうと思ったんだけど、今は何だか・・・近づき難い。
「夏生が私達を探してる。もうすぐ連絡が来るよ」
悠里おばさんが言い終わった後、すぐにスマホの着信音が鳴った。
「・・・お父さんからだ。何で分かったの?」
「早く出てあげて。心配してるから」
悠里おばさんは私の質問に答えず、静かに微笑んだ。
促されるまま電話に出る。
「もしもし?夫婦喧嘩終わった?」
「ああ、ごめんな。陽菜、今どこ?お婆ちゃん達と一緒なんだろう?」
「うん。今は・・・メイン会場?のテントで休んでる」
「運営本部のテントか?」
「そう、それ」
「分かった。すぐ行くから待ってて」
相当慌てているらしく、何か言う前に電話を切られてしまった。
「お父さん達、こっちに来るって」
「そう。じゃあ話の続きは、夏生達が来てからにしようか」
悠里おばさんはそう言うと、またお婆ちゃんの手をとった。
「お母さん、聞いて。本来なら、私は二度とこっちには戻れないはずだった。でも、ほんの短い間だけど奇跡的に里帰りできたの。だから笑って。せっかくのお祭りだよ。楽しもう。一緒にしたい事、沢山あったんでしょう?泣いてたら勿体ないよ」
「・・・うん・・・そうね」
お婆ちゃんが泣きながら、こくこく頷く。
「お母さん、葡萄飴買って。さっきは高かったから遠慮したけど、今しかチャンスないから」
ちゃめっ気たっぷりの言葉を聞いて、ようやくお婆ちゃんは笑った。
「遠慮しなくていいよ。好きな物、何でも買ってあげる」
「やったぁ」
少女の顔で悠里おばさんが笑う。
お婆ちゃんには、最後まで娘として接するらしい。
「陽菜!姉ちゃん!」
お父さんとお母さんが息を切らせえてやって来た。
「待たせてごめん。お母さんと今後の事、ちゃんと話しあってきた。姉ちゃんも心配かけてごめん」
「さっきは見苦しいところを見せて、ご免なさい。決して一緒に暮らすのが嫌だったわけじゃないんです。ただ突然の事で驚いてしまって」
「いや、一言も相談しなかった俺が全部悪い。だから許してやって」
2人は必死に言い訳を始めた。
「うん。夏生が全部悪い。美冬さん、苦労かけてごめんなさい」
「え?あっ、はい」
答えが返ってくるとは思わなかったのか、お母さんはちょっと戸惑っていた。
「安心して下さい。私、一緒には暮らさないので」
「えっ!?」
「姉ちゃん、どういう事だよ?」
悠里おばさんは、お父さんに向き合った。
「夏生、色々考えてくれてありがとね。でも私、思い出したの。嫁ぎ先に帰るわ」
「は?嫁ぎ先?」
お父さんが、馬鹿みたいにポカンと口を開けて固まった。
「本当に神隠しだったのよ。きっかけは夏生の代わりだったけど、神様に花嫁と認められて、向こうの世界で暮らしてたの。今は神様の眷属として修行中」
(ああ、だからお父さんの事も予言できたのか)
悠里おばさんの雰囲気が変わった瞬間をみていた私は、その話をすんなりと受け入れられたのだけど、お父さんとお母さんは違ったみたい。
お互いの顔を見た後、戸惑った様子で目でおばさんを見ている。
「信じてないようだけど、事実だよ。4年に一度、祭り期間中だけ向こう側の世界と繋がるの。だから今日中に帰らなきゃ」
「・・・今日中って、もう半日もないよ」
思わず呟いたら、お婆ちゃんの背中が寂しそうに丸まった。
「そう。だから時間がないの。残された時間ギリギリまで、家族で思い出を作りたい」
近寄りがたい雰囲気にはなったけれど、悠里おばさんの願いはとても素朴で可愛かった。
「勿論だ!」
「勿論です!」
ほぼ同時に、お父さんとお母さんが言った。
「姉ちゃん、いつまで一緒に居られる?」
「ここから一番近い稲荷神社から帰るから、夜まで一緒に居られるよ」
「じゃあ、一緒に花火見れるね!」
私がそう言うと、悠里おばさんは嬉しそうに頷いた。
「せっかくなら食事会したいけど、この村レストランとかなさそうよね。テーブルを囲んで食事出来る所、あるかしら?」
「あ、それなら温泉施設がおすすめですよ。定食の種類も豊富だし、何より美味しいです。17:30から開いてます」
お母さんの質問に、佐倉先生が答えてくれた。
「ありがとうございます。じゃあ、そうするか。予約入れとく」
「それじゃあ、それまでに、お墓参りに行きましょうか」
「だったら車が必要だな。近くまで車寄せられるといいんだが・・・。ちょっと運営の人に相談してくる」
お父さんがそう言って隣のテントに行くと、お〜っ!と声が上がった。
どうやら顔見知りがいたらしい。同世代のおじさんと笑いながら肩を叩き合って盛り上がってる。
やがてお父さんは、祭りの半被を着たおじさんと一緒にこちらに戻ってきた。
「おばさん、ご無沙汰してます。薫です。お元気でしたか?」
「まあ、薫君。お久しぶり。立派になって。さっき千代さんにも会ったのよ」
「そうですか。お袋も喜んでたでしょう」
「ええ。私も会えて嬉しかったわ」
その人はお婆ちゃんに挨拶すると、こちらに日に焼けた顔を向けた。
「薫、妻の美冬と娘の陽菜だ。こちら、俺の幼馴染で石長村村長の山下さん。警備の人に連絡して、近くまで車回して良いって許可出してくれた」
(この人が村長さん!)
「初めまして。この度はお世話になり、ありがとうございます」
「こんにちは」
お母さんと一緒に頭を下げて挨拶すると、村長さんは人の良さそうな笑顔になった。
「どうも初めまして。いや〜、黒木家は美人揃いだな。夏生が羨ましい」
全然偉ぶる様子もなくて、好感が持てる。
村長さんは悠里おばさんにもクシャクシャの笑顔を向けた。
「悠里ちゃん、よかったな」
悠里おばさんは村長さんに歩み寄ると、そっとその手を取った。
「薫、夏生に連絡とってくれてありがとう。お陰で家族に会えた」
「いや、俺は何も・・・」
「ううん。薫がいなかったら、私、きっと心が折れてた。本当にありがとう」
「こんな風に改まって礼を言われると、なんか照れるな」
「さっき、清海君の神楽舞を見たよ。いい舞手だね」
「ああ、あいつ、神楽は熱心に練習してるんだ。結構上手だったろう?」
「うん。何より神様への祈りが本物だった。お陰で、色々思い出した」
「・・・うん?」
「盗伐犯は2人。今は鹿子淵の下流周辺をぐるぐる彷徨ってる」
「え?何で知ってるだ?落石のせいで、まだ盗伐現場も確認できてないぞ」
村長さんが不思議そうな顔をすると、悠里おばさん神妙な顔をした。
「中川地区の落石は、盗伐犯を逃さないようにする為だよ。あいつらが山を荒らしたせいで結界が壊れちゃったから、神様が怒ったの」
「悠里ちゃん?」
「神様の祟りは犯人だけに向くから、村は大丈夫なはず。でも盗伐された場所、そのまま放置したらダメだよ。なるだけ早く苗を植えてね」
「そのつもりだが、勝手はできん。山の持ち主と相談しないとだし、金もかかるからな」
「これからも山と神様への感謝を忘れずにいてね。祈りが神様への力になるし、回り回って村を守るから」
「・・・」
「それからもう一つ。今は苦しいかもだけど、薫達の頑張りはきっと実を結ぶから、諦めないで」
村長さんの目が驚きで大きく見開かれる。
「何で知って・・・」
「薫が村を守ろうと頑張ってるの、ずっと見てたから知ってるよ。私も大好きなこの村を守れるよう、向こうで頑張るから」
「ずっと見てた?向こうって?・・・悠里ちゃん、もしかして・・・」
何かを察した村長さんに、悠里おばさんは柔らかく微笑んだ。
「薫、また会えて嬉しかった。私の為に泣いたり喜んだりしてくれて、本当にありがとう。あなたの幸せを心から願います」
悠里おばさんから慈愛に満ちた眼差しで見つめられ、村長さんの目に涙が光る。村長さんはその涙を乱暴に拭って鼻を啜ると、ニカっと笑った。
「ありがとう、悠里ちゃん。お陰でもうひと頑張りできそうだ」
「うん、その調子。薫、忙しいんでしょう?もう行って。私達も行くから」
「ああ。悠里ちゃんも幸せにな。それじゃあ皆さん、失礼します」
「さようなら」
村長さんが小走りで元の場所に戻っていくのを見送った後、お父さんが私たちを振り返った。
「じゃあ車回してくるから、あそこで待ってて。母さん、焦らなくて良いからね」
「うん、また後で」
お父さんが車を取りに行く間、私達も移動することにしたけれど、悠里おばさんが「葡萄飴」と言ってお婆ちゃんの袖を引っ張った。15歳の少女らしい顔つきに戻ってる。
「ああ、そうだったわね。ほら、お小遣いあげるから陽菜ちゃんと一緒に買っておいで」
「え?私もいいの?」
「勿論よ。好きなの買っておいで」
「お婆ちゃんとお母さんは?」
「私はいいわ」
「私も」
お婆ちゃんとお母さんが同時に首を横に振る。
「じゃあ、行ってくる」
「お母さん達ここで待ってるから、なるべく早く帰ってくるのよ」
「うん!」
私達が席を立つと、佐倉先生と河野さんも席を立った。
「それじゃあ、私達も失礼します」
「はい、色々お世話になりました」
お互いに深々とお辞儀をした後、お母さんはお婆ちゃんと一緒にテントに残り、佐倉先生と河野さんは、何となく私達と一緒に屋台の方向に歩き出す。
「フルーツ飴って久しぶり。私、苺飴にしようかな」
ウキウキしながら呟くと、河野さんが反応した。
「今の時期の苺は外国産だから酸味が強いよ。酸っぱいのが好きなら良いけど、甘いのが良ければ葡萄かパインがおすすめ」
「えっ!?そうなんですか?」
「うん。葡萄飴2種類買って、悠里ちゃんと半分こにしたら良いんじゃない?」
その言葉を聞いて、悠里おばさんの目がキラキラ輝く。
「陽菜ちゃん、それでいい?」
「うん、いいよ」
「私達もそうしよう」
河野さんが佐倉先生を誘って、4人でフルーツ飴の屋台に並んだ。並んでる間、河野さんが悠里おばさんに話しかけた。
「悠里ちゃん、花火が終わった後、稲荷神社から帰る予定なんだよね?」
「はい」
「じゃあ、9時くらい?」
「そうですね。皆を家に帰さないといけないから、あまり遅くまでいるつもりはありません」
「お邪魔じゃなければ、私達も見送りに行ってもいい?」
思っても見なかった言葉に、悠里おばさんが呆けたように2人の顔を見た。
「こうして出会ったのも何かの縁だし、ねぇ?」
「ええ。黒木さんが無事に向こうに帰れたか、私達も気になるから」
2人の気持ちが相当嬉しかったんだろう。悠里おばさんはちょっとだけ泣いて、すぐに笑顔になった。
「ありがとう。勿論、嬉しいです!」
無事に葡萄飴を買った後、河野さんが私のスマホでツーショットを何枚も撮ってくれた。その間2人分の葡萄飴を持ったされた佐倉先生は不満そうだった。
「村の人達に食い意地が張ってると思われる!私のイメージが壊れる!」
「因みに佐倉さんのイメージって?」
「清楚で慎ましく落ち着いた大人の女性」
「相変わらず自己評価高いな。大丈夫だよ、1年だけならともかく2年以上村に住んでたんだから、周りも佐倉さんの事ちゃんとわかってるって」
「それって良い意味で?悪い意味で?」
「両方」
「もう!河野さん!」
そんな2人の掛け合いが面白くて、悠里おばさんと2人でクスクス笑った。
「私達も一緒に撮ってくれる?」
河野さんのリクエストで、2人と悠里おばさんの3ショットを撮ってあげた。
「それじゃあ、また後でね」
「家族団欒を楽しんで」
2人と別れて、お婆ちゃん達の待つテントに戻る。我慢できなくて、途中で葡萄飴を1個食べて、
「「んん〜、美味しい〜。幸せ〜」」
と2人同時に言って笑い合った。それから1個交換して食べて、また同じリアクションをして。
美味しいのに眉間にシワが寄るのは、何でだろう?
(悠里おばさんが向こうに帰ったら、お婆ちゃんは寂しがって泣くだろうから、後から皆で思い出を語れるように、いっぱい写真を撮ろう。悠里おばさんにも、私達との楽しい思い出をたくさん作って貰わなきゃ)
テントに着くまで、2人で手を繋いで歩いた。周りから見たら、仲の良い友達か、姉妹に見えただろう。
「もしも私が普通にこっちで成長してたら、小さい陽菜ちゃんを抱っこできたのにな。みんなに可愛がられたでしょう?」
「うん。私、一人っ子だからメチャクチャ可愛がられて、小さい頃は陽菜姫って呼ばれてた。世界で一番可愛いって言われて信じてたけど、幼稚園で現実を思い知ったわ。可愛いのは私だけじゃないって」
「あはははは」
お互いの事をもっと知りたくて、私たちは色んな事を話した。
悠里おばさんが特に興味を持ったのは、高校生活の事。
「陽菜ちゃん、弓道部なの?カッコいい」
「うん。先輩の袴姿に憧れて。秋の昇段試験に受かったら初段になるんだ」
「わぁ、凄いね。見たかったなぁ」
「悠里ちゃんは?何か部活やってた?」
「ううん。テニス部と剣道部しかないから入ってない。もし高校に行ってたら、バスケ部入りたかったな」
「バスケ好きなんだ?」
「うん昨日読んだバスケ漫画、すっごく面白くてやってみたくなった」
「昨日読んだの?」
「うん、暇つぶしにって桃香さんが貸してくれた。でもまだ全部読み終わってなくて・・・。続き読めないのが残念」
「このまま、こっちに残るのはダメなの?」
思わずそう口にすると、悠里おばさんは軽く首を振った。
「私がここに残ると、皆に迷惑がかかるから」
「そんな事ないよ!家族なんだから遠慮する事ないよ」
「ありがとう。でも私の帰る場所は向こう側にあるんだ」
悠里おばさんは微笑んで、繋いだ手にぎゅっと力を込めた。
「陽菜ちゃんって本当に良い子ね。こんなに可愛い姪っ子と短時間しか触れ合えないなんて悲しすぎる。やっぱり帰る前に、夏生にもう一発蹴り入れよう」
「・・・悠里ちゃん、お父さんには厳しいね。やっぱり恨んでる?」
「別に恨んでないよ。でもこっちで普通に生きる私の運命を変えたきっかけは、間違いなく夏生だからね。あいつも罪滅ぼししたいだろうから、八つ当たりしてあげるの」
一人っ子の私にはよくわからないけど、2人の間には独特な姉弟関係があるみたい。
「お母さん達が待ってるから、早く行こう」
そう言って悠里おばさんが足を早めたので、それ以上は何も言えなくなった。
***
「実は昨日お墓参りに行ったの。佐倉先生と河野さんが草むしり手伝ってくれたんだ。大変だったよ」
悠里おばさんの言葉通り、長年放って置かれたはずの黒木家のお墓は綺麗に整えられており、お婆ちゃん達はびっくりしていた。
「こんなにお世話になって、あの2人には足を向けて寝られないわね」
「本当だな。謝礼金、もう少し多めに入れておくんだった」
家から持ってきた花を供え、お線香をあげて家族揃って手を合わせる。
お婆ちゃんとお父さんは、ずっと墓参りしなかった事を謝り、私とお母さんは、初めましてとご挨拶。
初めて訪れる土地だけど、ここが私のルーツなんだなって、ちょっと不思議な気持ちになった。
「夏生、あんた長男なんだから、一年に一度は墓参りに来なさい。これまでの分と私の分までお願いね」
「・・・うん」
「約束よ。忙しいっていうのは言い訳は無し!」
「わかったよ」
悠里おばさんに小言を言われて、お父さんが不貞腐れていると、お母さんがずいっと前に出た。
「大丈夫です。私が耳を引っ張ってでも連れてきますから」
「美冬さん、よろしくお願いします」
悠里おばさんとお母さんがガッチリと握手を交わすと、お父さんは「俺ってそんなに信用ない?」と情けない顔で呟いた。
それから少し早いけど、温泉施設へと移動した。
食事まで時間があったので、施設内のお土産コーナーで時間を潰す。
柚子や椎茸、鹿肉や猪肉がこの村の特産品らしい。
お婆ちゃんは柚子胡椒と干し椎茸を、お母さんは鹿肉のレトルトカレーを握っていたから、近いうちに我が家の食卓に並ぶだろう。
「結構綺麗だね。温泉、入ってみたかったな」
悠里おばさんが温泉の方を伺いながらポツリと呟いた。
着替えもないし、ゆっくりお湯に浸かる時間は残っていないから、ただ言ってみただけかもしれないけど・・・。
声にほんの少し滲んだ寂しさに、私は気づいてしまった。
だって私も同じ気持ちだったから。
会ったばかりだけど、私はすっかり彼女の事を好きになっていた。
「あのさ、里帰りもダメなの?」
「えっ!?」
「4年に一度、向こう側と繋がるなら、1日だけこっちに帰って来れるよね?それに合わせて私達も墓参りに来るよ。その時は一緒に温泉入ろう。お土産もいっぱい持って来る」
私の提案を聞いた悠里おばさんは、大きな目をパチパチと瞬かせた。
「・・・許してもらえるか分からないけど、ダメもとで頼んでみようかな」
「うん。もし許してもらえたら、私が20歳になった時に会えるね」
「たった1人の姪っ子の大事な節目の年を見逃すわけにはいかないわ。頑張ってみる」
悠里おばさんは、そう言ってキラキラの笑顔を見せてくれた。
食事会はとても楽しかった。
正直、料理に期待はしてなかったけれど、思ったよりメニューが充実していたし、どれも美味しくて大満足。
手軽な丼物から、天ぷらや茶碗蒸しのついた数種類の定食。他にも、ここでしか味わえないジビエ料理。
ここを勧めてくれた佐倉先生に感謝しながら食事を楽しんだ。
「ねぇねぇ、美冬さんは夏生のどこが良かったの?」
その一言で両親の馴れ初め話が始まり、結婚するまでの紆余曲折が話題になった。
何度も聞かされた話だから私は耳タコだったんだけど、初めて聞いた悠里おばさんは興味津々で。
「すごい!ドラマみたい!2人とも色々乗り越えて、ようやく結ばれたんだね。結婚おめでとう」
と感極まって拍手。お陰でお母さんも機嫌が治り、お父さんもほっとした顔をした。
食後は花火を見るために、河原まで歩いた。
一刻一刻と空がだんだん暗くなり、提灯の灯りが浮かび上がる。
幻想的な風景の中、お婆ちゃんを真ん中に3人で手を繋いで、ゆっくり歩きながら色んな話をした。
見物客でごった返す中、どうにか座る場所を見つけて落ち着く。
しばらく待っていると、ようやく花火が始まった。
どおぉぉぉん!!! どおぉぉぉん!! どおぉぉぉん!
手を伸ばしたら触れそうなくらい、視界いっぱいに広がる黄金色の火花。
体の芯を貫く爆音の打ち上げ音が山々に反射して、やまびこが響き渡る。
こんなに近くで花火を見たのは生まれて初めてで。
その迫力と美しさに、初めは言葉が出なかった。
すごく感動してるのに、口から出るのは「すごい!」「綺麗!」ばかり。
「青い花火って初めて。あ、色が変わった。どういう仕組みだろう?わぁ、これは本当に花みたいで可愛い。これ好き」
語彙力の乏しい私と違い、悠里おばさんは一つ一つの花火に感想を言って楽しそうに手を伸ばしている。
その瞳は花火を映し、キラキラと輝いていた。
鮮烈な光で見る者を魅了し、手を伸ばしてもすぐに消えてしまう。
(悠里おばさんって花火みたい)
夜空を埋め尽くすフィナーレのスターマイン。
体と心を同時に震わせる轟音。
美しくも儚く煌きながら降り注ぐ火花の雨。
それを受け止めるように両手を広げる少女。
奇跡のようなこの光景を、私はきっと一生忘れないだろう。




