ふしぎのほら穴
それはそれは、おばけが出そうな、おどろおどろしいところを、まいちゃんは手探りで進んでいます。
ここはほら穴の中、真っ暗でなんにも見えません。地面はぐちゅぐちゅ、かべはぬるぬる、ウォーンという音がずっと響いている感じがする、そんなところをまいちゃんは腰をかがめて歩いているのです。
突然目の前を、バタバタバタッとなにかが横切りました。こうもりでしょうか。
「キャッ!」
声がほら穴じゅうに響きました。
こわい、こわい……。とってもこわい。でも、こわくても行かなくては。だって、奥にお友だちがいるのだから……。
まいちゃんが、ほら穴を見つけたのはひと月ほど前、ヒロくんと一緒に遊んでたときのこと。
「まいちゃん、見て見て。こんなとこに、ほら穴あるよ」
「うわーっ、すんごく深そう。地球の中心まで続いてそうね」
「地底人でもいるんじゃねえか」
「まっさかー」
ヒロくんが「おーい」と叫ぶと、奥の方から「ウォーイ」。
まるで、だれかが返事しているようです。
まいちゃんも叫びます。
「だれかー、いるのー」
「ドァレカー、ウィルノー」
「げんきー?」
「グェンキー?」
「おんなの子ー?」
「ウォンナノコー?」
返事みたいに聞こえるけど、たぶん、自分の声がモワーンと返ってきてるだけ。いつかハイキングに行ったとき、パパがやってくれた山びこと同じ。まいちゃんは、そう思っていました。
まいちゃんは毎日、ほら穴にやってきて中に呼びかけるようになりました。
ほら穴からの返事は、はじめは、モワーンって感じでうまく聞き取れませんでした。でも慣れてくると、普通のおしゃべりみたいに聞こえるようになってきたのです。
「わたし、三年生ーっ」
「ワタシモ、サンネンセイヨ」
「自転車、乗れるーっ?」
「ジテンシャネ、ノレルワーッ」
あれっ? ちょっと変? 返ってくるとき、言葉が少しだけ変わっているような。気のせいでしょうか。
「ねっ、今度、いっしょに遊ぼうよーっ」
「ウン、アソボウーッ」
「なにして、遊ぶーっ?」
「ウーン、カクレンボーッ」
まちがいありません。奥にだれかいます。明らかにまいちゃんの言葉に答えています。ほら穴は、どこか別の世界とつながっているのでしょう。
まいちゃんの心臓は、バクバクと音をたてていました。
まいちゃんは、「プレゼントあげるーっ」と言って、ビーズで作った、お気に入りのブレスレットをほら穴に投げ入れました。
「ウワーッ、キレイッ、アリガトウ」
お友だちがいるなら会ってみたい。こうして、まいちゃんはほら穴探検することにしたのです。
ドキドキわくわく、ドキドキわくわく……。
どんな女の子かなあ。ピンクが好きで、ハンバーグが好きで、とび箱が苦手で、それからええと……、おとなしい子だったらいいなあ。そんなことを考えながらまいちゃんは、進んでいきました。
ほら穴はどこまでも真っ暗。歩けど歩けど、いっこうに出口は見えてきません。もう何時間歩き続けたでしょう。ついにまいちゃんは、疲れて眠ってしまいました。
目を覚ますとベッドのなかでした。ママによると、ほら穴の入り口で眠ってたらしいのです。
ほら穴の奥には、だれもいなかったのでしょうか。ほら穴からのふしぎな返事、あれは夢だったのでしょうか。
答えは、学校で見つかりました。
近くの町から、女の子がひとり転校してきました。その女の子、先生の横でぺこりと頭を下げて、みんなにあいさつしました。
「わたしのこと、ゆいちゃんと呼んでください。仲良くしてください」
ゆいちゃんは、なんと、腕にビーズのブレスレットをかけていたのです。
ふしぎのほら穴は、本当に、ふしぎのほら穴だったんですね。おしまい。