この国、いただきますわ!
フローネ·マクギリス公爵令嬢、事故死した元王太子妃マリエルの妹。
王妃マノンの体調不良を治癒魔法で完治させたばかりか、王妃の見た目を十歳ほど若返らせ王妃を骨抜きにした。
王妃マノンは、フローネ·マクギリス公爵令嬢を王太子の弟ルイスの王子妃に抜擢した。
廃嫡されたルイス王子をフローネとマクギリス公爵は支援した。
想像を絶する王太子妃教育の重責と厳しさ、妊娠中の不安定な体調から、王太子妃になった子爵令嬢ミラは精神のバランスを崩していった。
王太子アンドレアの「ずっと気がつかなかったけれど、マリエルは凄く優秀だったんだな······」という悪意の無い呟きに発狂した子爵令嬢ミラは、王太子を衝動的に切りつけてしまった。
自分も後追い自殺を試みたが、ミラは死にきれず、王太子アンドレアは死亡した。
寝室での惨劇だった。
王太子妃ミラは精神錯乱のため幽閉された。子は産まれたが死産だった。
その結果、弟王子ルイスは廃嫡を撤回され王太子となった。
王子妃フローネは王太子妃となることが決まった日、父のマクギリス公爵へこう宣言したと伝えられている。
「私、この国をいただきますわ!」
その後王は王家の混乱を押さえるために退位し、王太子ルイスが即位した。
弱冠16歳で王妃となったフローネは、建国以来の賢妃として賢王の夫ルイスと共に名を馳せた。
***
まさか、これを翻訳して貴族雑誌に載せる日が来るなんて。
『私、この国をいただきます!』はこの記事のタイトル。
この記事のフローネって、私の妹のことなんですけどね······。
身内ネタは恥ずかしくてたまらないわ。
私は小説の主人公達のような派手な冒険は求めていない。
自分が国を取ろうなんて野心も全く無い。
妹のことはそれでも応援している。
私は自分の落ち着いた日々の暮らしの中で、冒険小説を夢中になって翻訳するのがたまらなく好きなのだ。
この国の人達へ、この国の言葉で様々な物語を届ける橋渡し役。
そして、この国の物語を、他の国、私の母国の言葉に翻訳して伝え、紹介する橋渡しの役。
これが、王妃になるのをやめ自国を捨て、ささやかな人生を歩く私にとって、この上なく素敵で、限りなく理想的なお仕事。
私の出禁が終わったら、編集長と母国に支社を作る予定でいる。
翻訳家エリス·ブラック、リエ·オコーネルの物語はまだまだこれからなのだから。
「ニャッ!」
(了)
最後までお読みくださってありがとうございます。
今回は猫様が書けて良かったです。