月面でイヴは踊る
バンダナコミック01投稿作品となります。
――緑の爽やかな香りの下で、可愛らしい女の子に出会った。金色の瞳、首元にかかる銀髪、色白の肌、綺麗な白いワンピース。そして似合わない俯きがちな顔。
「どうしたの」
声をかけると、彼女は少し驚いたような顔をして、それから困ったような顔をして。
「友達、いなくなっちゃった」
友達が引っ越してしまったのだろうか? 俺は少しだけ考えて。
「なら、一緒に遊ぼ」
俺は彼女に手を差し出した。何をするかとか考えてなかったけれども、彼女が俯いていると自分まで気が滅入ってしまったから。
日が傾く頃まで遊んで、色んな話をして……正確にはこっちが話をするのを向こうがニコニコ笑いながら聞いてくれて。そして最後に、手を振ってまた明日と言って別れた。
彼女は何かを言いかけたけど言わなかった。それを俺は、言わなくても良い事を言わなかっただけだと考えた。
そのまま走って家に帰って、その道中黒猫がチリンと鈴を鳴らして横切って。
「母さんただいま!」
家に帰った俺は、家が真っ暗なのに気づき、もう大分暗くなったのに何で電気が消えているんだろうと思いながら電気をつけて。
そこで、真っ赤になった部屋と、倒れている父さんと母さんを見た。服に穴が開いていて、血がそこからあふれ出していた。顔は恐怖に凍り付いていた。
奥からライトの光と、白い人型――今思えば都市迷彩装備を着た地球連邦軍のドールだ――がこちらに近づくのに気づいた。
俺は声にならない声を上げて、逃げ出した。先行して走る黒猫を追いかけるように、ただひたすら逃げ続けた。
――未だに慣れない刺激臭に目が覚めてトイレに行った帰り、親分と誰かが話をしているのが聞こえて、様子を覗き見た。
「――あのガキはAFも使えるし鉄砲玉にちょうどいい。奴には精々頑張って貰って、俺たちの儲けになって貰おうじゃねぇか」
「シッ! 親分、あの小僧聞いてますよ!!」
「分かって聞かせてんのさ。どうせ俺たちから逃れられない──いや、逃れようなんて考えない。なんせ、身分の無いガキの生き方なんざ鉄砲玉が一番上等だと奴には散々見せつけて来たからな」
そうだ、俺はこの常夜都市でのガキの使い方をさんざん見て来た。脂ぎったおっさんの情婦、洗脳されて爆弾抱えてのバンザイアタック、解体されて予備臓器扱い──それらに比べれば、棺桶レベルとは言えに金属で身を守れるだけマシなのは分かり切ったことだ。
目が合った俺は親分に会釈して寝室に戻った。親分はいつもの笑っているのか怒っているのか分からない口を微かに歪ませた表情をしていた。
現代でもこの惨状はさほど変わりが無い。強いて言えば連邦軍が子どもを保護という名目で集めるようになったが、やっていることは洗脳した上でのパイロットと言う名の鉄砲玉である。
結局その関係は、親分が毒を飲まされて死んだその時まで続いた。俺が15になったばかりの頃の事だった、その頃には命のやり取りをしなければ生きた心地がしない程に立派な鉄砲玉になっていた。ヤクザから解放されてもまともに生きることは叶わず、俺は傭兵とは名ばかりの何でも屋を始めた。
〇
文字通り天蓋に覆われた空は常に真っ暗で、俺の部屋に入る明かりは太陽ぐらい眩しくけばけばしいネオンの光が微かに路地裏に潜り込んで来るだけだった。一般人でもまだ起きるには早すぎる早朝月時間5時過ぎから電子音にたたき起こされた俺は、こめかみを二度タップして副現実を起動、中空に浮く仕事の情報だけを手繰り寄せた。
仕事の内容は非常に簡単で、接客業務用ドールに粗相をした――要は認証無しにレイプしようとしたバカがドール自身に捕縛されて、それを警察が行く前にきっちり取り押さえろというものだった。取り押さえろと言われても人間以上の膂力のあるドールに抵抗出来る者は少ない――それこそドールの転売を目論む複数人のチンピラとかでもなければまず無理だ。
そして残念ながら犯人は白髪交じりの如何にも貧乏そうな中年男一人で、見た目はか弱い女性らしいドールに関節を極められながら地面に伏され、汚言暴言をまき散らしながら暴れていた。ドールにスタンガンによる鎮圧を行うことを告げると、ドールは『鎮圧補助モードに切り替わります』と人間らし過ぎる声音で返事をして、男の上半身だけを逸らすようにして引っ張り上げる。こちらに汚い唾をまき散らしながら喚く男の眉間にスタンガンを押し付け引き金を引くと、バチッと火花が弾けるような音と共に男は崩れ落ちた。あとはそのまま、『万が一にでもドールが破損するような事態が起こる』ことが無いように警察が来るまで周囲を警戒と言う名の30分程度の待ちぼうけ、警察が来れば男の肉体を引き渡してお仕事終了。「登録番号E-182番ユーリ・クルス様、ご協力誠にありがとうございます」とプログラム通り、誠心誠意の感謝の念を込めた様子でドールはこちらに頭を下げる。そんなことをする人間は──少なくとも月面の常夜都市には居ない。
とにかくこれで大体1000新円の収入、一番稼いだ時にようやく月20万新円超えたぐらいと一般的な労働者より年収は少ないし、当然毎度事件がこちらに割り振られるとは限らないが、高望みしなければ幾らでも安く済ませられるのがこの常夜の街だ。
なんせ大半の人間の命は作り物のお人形よりよっぽど安いんだから、それら有象無象が暮らすには色々工夫しなきゃならんのだ。そしてその工夫の果てに生まれた一食で1新円もしない合成食とエナジードリンクを、俺は口の中に放り込む。
〇
たたき起こされたが二度寝する気分でも無い俺は寝床に戻らず、街をぶらつくことにした。群青色のフレンチチャイナに黒デニム、キャメル色のワークブーツ……ここでは私服でも作業着の延長のものが好まれることが多い、そして俺にとっても。
朝の来ない淀んだ空気に、酸化した皮脂と腐敗した血肉、中華と中東系のスパイスと薬品と機械油の臭いが入り混じった、爽やかさとは縁遠いものが肺に満ちる。月に来たばかりの頃にはえづいていたものの、今やここでの生活の作法と共にすっかり慣れてしまった。
再びこめかみを二度タップしオルガンを起動すると視界が一瞬ブラックアウトし、色調補正の為に少し青みがかった、コンクリートの灰色の壁にネオンが満遍なく広がる街の景色が映り、四角に切り取られた天の果てには金属剥き出しの天蓋が映る。それはやがて街に溢れる山ほどの広告を読み込んで色とりどりの鮮やかな景色に汚染される――Fack shit、そういえばここしばらく広告フィルターの更新を忘れていた。フィルターの更新を済ませると広告がシャットアウトされ、オルガン上のマップや仕事の謝礼を伝えるメール含めたウェブブラウザのウィンドウがまばらに表示されるだけになる。
街を行く人々はスーツ姿が半分、残りは私服だったり作業着だったりとまばらだ。スーツ姿の人間の内これまた半分が会社務めのサラリマンで、残った半分の内の1/3がこの一帯を治めている村雨組の幹部連中、残り2/3は違法な物品を取り扱うセールスマンや詐欺師の類。その中にドールは点在していて、あたかも人間たちの一部のように振る舞っている――ドール用のAIは地球で作られるせいか、それこそルナノイドよりよっぽど人間らしい振る舞いをする。
そんな群衆の奥で、少女がこちらを見ていた。金色の瞳、首元にかかる銀髪、色白の肌、赤ん坊のように目が大きい庇護欲をそそるようにデザインされた顔立ち――少女型のドールだ、しかも衣服もナイロンでも麻でも無い高級そうなもの。しかし何等かの仕事を任される以上(ついでに言うと誘拐なんかに抵抗出来るように)少女型のドールは一部の目的以外じゃ滅多に居ないのに。目が合うと彼女はにこりと笑って、それから人混みの中へと消えていった。その顔を忘れたことは無い……忘れられる訳が無い。
血に塗れた両親。装甲を身に纏い銃口を向ける軍用ドールたち……少女の微笑み。
大通りに出ると、手動自動車に交じって、警備及び暴徒鎮圧用のシルエットコートを被った高さ5m程のAFの小隊が並んでいた。共和国との戦争が本格的に終わって民間に払い下げが増えた為か、汎用二足歩行戦車が肩とかに警備会社とかの社名をペイントして対人兵装を装備して闊歩することも珍しくなくなった。
遠くで乾いた破裂音が立て続けに響き、肥大化したカラスが飛んだ。AFたちが一斉に音の鳴った方へと走り始める。また抗争が始まったらしいが、生身で武装も戦闘技術も毛の生えた程度のチンピラでは、軍人用戦闘データを取り込んだドールと装甲に身を固め身体同様大柄な火器を持つAFには一方的に蹂躙されるだけだろう。
連邦と共和国含む反連邦、村雨組とアジア系マフィア、その他利権だとかで地球に降りられない癖に上級国民を気取るお偉方様たち――いつも誰かが何かしらで争っていて、ドール未満の価値しかない誰かの命が掌に落ちた雪の一片のようにあっさりと消えていく。
俺の前を黒猫が駆けて行った。俺の家族が皆殺しにされた日のように――あの少女と出会った日のように。
その脇を、コンテナを乗せたトラックが走って行く。俺は何故かその中身を知っている――試作型の、白銀に塗装されアトラスオオカブトのような三本角が特徴的な頭部を持つ、最初から兵器として造られたAF。それは俺に感応したかのように碧のカメラアイを光らせ起動すると、コンテナから飛び出し、軽快な動きで腕部のレールシューターで牽制しながら頭部の疑似結晶フォトンミサイルを放ち炸裂させ――。
そんな妄想に呑まれながら、無意識のうちに俺は知り合いの店の方へ向かっていたらしい。
「珍しい、ユーリがそんな早起きしてるとは」
リンファの声に正気に返り、小さなガレージの中で搭乗モードで縮こまっている修理中のAF──先の脳内に浮かんだ勇壮なそれとは似つかない丸っこい一般の機体──と、その前でメンテナンス用の機械を抱えている小柄な少女然とした見た目に似合わない正面からでも見えるほど大きな臀部に目を向け、それからゴーグル越しの彼女の顔に目を向けた。
月時間午前8時30分。かくして俺たちルナノイドの一日が始まる。
──月面でイヴは踊りだし、その舞台に俺たちが上げられることも知らないまま……。
〇
「朝から仕事ねぇ、ご苦労様なこって。私だって午後から遊ぶ為に今起きて仕事してるだけだってのに」
「全くだ、おかげで寝る気も失せちまったよ。ほれBパーツ」
「あいよ。で、どこ行く?」
「金がねぇ奴がメカオタク連れて行く場所なんて一つしかねーだろ」
「ブラックマーケットに良いもん売ってるかねぇ」
リンファはケラケラ笑いながら、俺に渡されたパーツをAFの肩に雑に突っ込んで、テストの為に外部から操作する……マニピュレーターをグー、パーと閉じて開いてを指示通りに繰り返す。一般的に流通している汎用二脚機より簡素で安っぽく見える、丸をつなげて造ったような粗雑なAFだ。多分粗悪なお手製の類だろう。
AFの強みは整備性の良さだ、大抵のパーツが差し込むだけで取り換えられる。だから現地向きのオプションパーツ――シルエットコートをその場でつけて即刻起動なんてのも出来るし、なんなら根本のフレームすら現地で溶かして砂で型取り鋳造し直したものにその辺の電線繋いだものを突っ込んだら動いたなんて話もあるぐらいだ。
──そんな便利なものが生まれたからこそ、自然を守る為という名目で人類が住める環境ではない僻地を開拓して移住するとか、その為に地球圏を統一する戦争を起こすなんて与太も現実になってしまい、挙句には宇宙にまで人が捨てられるハメになるのだが。
とにかくそんな代物だから正規品は当然ジャンクパーツだととんでもなく安い。ジャンクをかき集めて自分で修理して造るなら、武装まで全て揃えても30万新円もかからないんじゃなかろうか。ルナノイドの一般人の平均月収でちょうど買えるぐらいだ。
という訳で俺たちは運搬用4輪AFで、いつものようにブラックマーケットを訪れていた。いつものようにとは言ったが、扱われている品は行く度にほぼ全て入れ替わっている───それだけ頻繁にジャンクが出て来るような事件が起きているか、どうやっても売れないゴミと借金を抱えて死ぬ奴が居るということだが。
俺たちは品を物色し、修理が容易いものやレアな物品、あと予備の電線なんかをかき集めて来た。総額で1万新円のお買い物(ちなみに一番高いのが電線だ、シンプルにサビたり灼けたりしていない銅は高い)だが、これらを修理して売れば価値は十倍以上に膨れ上がるだろう。修理自体は簡単だが、それを学ぶ為の識字率に関して月はかなり低いからこんな暴利になる。
「10万だよ10万、いや今修理してるAFの相手にセット売り出来たらもっと高くなるかも」
「セット売りするなら警備会社とかか?エンガードはこないだの抗争で幾つか機体壊れたって言ってたけど」
「三流はサタスペ買ってすぐ壊すからなー、おかげで私らが美味しい飯頂ける訳ですが」
カーゴの狭い運転席でリンファのデカいケツに敷かれながら、俺たちは修理の算段やら売り先、そしてそれによって得られるであろう収入の使い道についてあれこれ喋っていた。
その瞬間、カーゴの装甲をぶち抜いてリンファの上半身がちぎれ跳ぶのを幻視した。その血の生暖かさまで明瞭に……おかしい、ドラッグの幻覚症状でもなんでもない、先の軍用AFの時同様あたかも実体験したかのような感覚に、俺は咄嗟にカーゴのハンドルを切って急停止させた。
文句を言うリンファのすぐ横を何かが突き抜け、コンクリートの壁面にクレーターを作った。土煙を突っ切る形で姿を現したのは、三本角を熱で赤く輝かせる、朝に夢で見た通りの白銀の軍用AFだった。
「何アレ!? 連邦軍の新型!?」
と騒ぐリンファを置いて俺はカーゴから飛び降りると、その軍用AFに駆け寄った。
夢ではこいつの主だったというだけではない、何か奥底からの繋がりを、安っぽい言い方をすれば運命を感じたのだ。
AFはジロリとカメラアイをこちらに向けて輝かせると、主人を待っていたかのように跪いて、コクピットを展開した。
迷うことなく飛び乗り……そして運命を感じた訳を理解した。
コクピットの座席で眠りについていたのは、金色の瞳、首元にかかる銀髪、色白の肌、赤ん坊のように目が大きい庇護欲をそそるようにデザインされた顔立ち――俺の家族が皆殺しにされた日に見た少女型ドールだった。
〇
「そのAFのパイロットに告ぐ、機体と中のドールをこちらに渡せ、さもなければ敵対と見做して攻撃行動に移る」
都市迷彩に塗られ、連邦軍の上っ面の規律よろしくカクカクした軍用シルエットコートを着こんだボクス越しに、軍用ドールの声が響くが、応じた所で口封じに殺すってやり口は10年前に経験済みだ。まともに応対する訳にはいかない。
……とは言えこの軍用AFが一般人のオルガンを繋いだだけで起動するとは思い難いのも事実で。
コクピットに乗り込んだ俺はこめかみをタップしてオルガンを起動、視界が補正で青白くなると同時に、前面に仮想モニターとパネルが展開する。モニターにはG-Käferとの文字が映り、それから生体認証を求める旨の表記が出る。
俺は未だに眠ったままの少女の掌を乗せた。自律モードを起動しますと機械的なアナウンスと共にAFがコクピットを仕舞い込んで立ち上がりだす。
慌てて少女型ドールの横に空間を空けて座ると同時に機体が大きく揺れ──、砲弾が撃ち込まれている外部の様子をオルガンを通じて見る。
「くそっ、自律モードって立っただけじゃねぇか、何とかしやがれっ!!」
と八つ当たり気味に仮想モニターの映る壁面をぶっ叩くと同時に、AF脚部ブースターを全力で吹かして後退を始め、中身の俺たちはつんのめる。こんな状態でも眠っているのか気絶しているのか、傍らの少女は起きる気配を見せない。
連邦軍の追撃は止まず、こいつは自動操縦モードでそれを躱しているようだが、反撃をする気配はない。
鈴がリンと音を鳴らした。傍らで黒猫が鳴いていて、次の瞬間には消えていた。
俺は咄嗟に、パネルに自分の掌を押し付けた。『オペレーターを認証しました』と機械音声が響き、オルガンに疑似操縦桿が展開される。
何故という疑問を前に、俺は操縦桿を手にして、かつてガキの頃からそうしていたようにAFを駆動させる──相手がヤクザの三下と軍隊では勝手が違うが、こちらもろくに整備もされてない中古のドサンピンAFと新型軍用AFと違うのだ。
バラバラと中空で音を立てるヘリまで軽々と跳躍し、その胴体を掴みながら引きずり落とすと、その残骸を地上に展開されたボクスどもに槍のように投げつけ穿つ。オルガンに浮かぶ疑似操縦桿からフォトンミサイルを選択し、頭部を軍勢に向ける。放たれた白熱する光学疑似結晶が、ヘリの残骸を避けて先行するボクスを穿ち、砕け散ると同時にその単分子レベルで鋭利な破片を散らして周囲一帯を引き裂き、運悪く燃料タンクに引火した幾つかの機体は爆発した。
――何故か、俺はこの機体のことを知っている。これまで乗ってきたどのAFよりも素早く、硬く、強力な力を持つこれを、長年付き合った相棒のように、手足のように扱える。
腕部に装備が無い、なら奪えば良い。瓦解したボクスの一機からマシンガンを奪うと、ブースターを吹かして横に大きく動きながら、街中で足並み揃えて窮屈にしている軍勢に向けてぶっ放す。相手もこちらに銃口を向けるが、こちらの速度に反応が追いつかず、その上幾つかの弾が直撃してもはじき返すばかりだ。
前衛を務めていたボクスが一機、駆動系に弾が入ったか崩れ落ちた。そいつにブースターを吹かして詰め寄ると、近接用パイルキャノン(デカい杭状の弾丸をぶち込む近接用大型砲)を剥ぎ取り、傍にいる別機のドテラと前面シールドの内側どてっぱらに叩き込む――Jackpot!、腹部コクピットから下を失ったボクスは胴体の捥げた虫みたいに自分の惨状に気づかないまましばらくもがいて、そして止まった。怯えたように数歩下がるボクスたちにブーストを吹かして詰め寄り、カメラ目掛けてマシンガンの弾をばら撒きながら、至近距離に近づけた機体から順にパイルキャノンを、そして相手が固まった所にフォトンミサイルを撃ち込み破壊していく。
……圧倒的だった。機動力、装甲、そして固定装備のフォトンミサイルの破壊力。一騎当千を体現するかのように、気づけば一機で軍勢を半壊させて撤退まで追いやっていた。
引いて行く軍を見送りながら後退し、リンファの待つカーゴに近づく。リンファはこっちを――正確にはG-ケーファと名乗ったこの機体を子どもみたいにキラキラした目で見上げながら、手を振っていた。
停止させると同時に傍らに押しのけていた少女が目を覚まし、金色の瞳をこちらに向けて笑みを浮かべた。
「やっと会えたね、ユーリ。私、イヴ9って言うの」
その笑みは、彼女と出会った時に、10年前に俺の家族が虐殺された日に、浮かべられていたものと全く変わらないものであった。
あの時に俺はイヴを巡る物語の舞台に上げられた。そして物語が知らずの内に最終局面へと向かいつつある中で、鮮やかなまでの再登場を果たしたのだ――。
サイバーパンクとSFとロボ、好きなものとロボに対する趣味を詰め込んだ代物です。ロボットモノの1話として世界観やロボの活躍シーンなどを描けたのは良かったかなと思う反面、1話というのを意識し過ぎてこの話で畳めてない話まで引っ張ってるのはどうなんだろう…?と思いつつ。
また本作で出てこなかった話としては、AFという機体に関しては設定的にもサイズ感的な面でも作者はフロントミッションのヴァンツァー辺りを想定してます。ただ組み換え面ではガンダムの~カスタムとかのようにあくまでも機体の上にオプションとしてシルエットコートを被せるという形になります。個人的にはヴァンツァーやACのような全部総とっかえ出来る機体の方が好きなんですが、小説媒体だと機体毎に名前が無いと読者置いてけぼりになりかねないので…。
とにかく楽しんで頂ければ幸いです。そして結果が芳しくなくても趣味として続きを書くと思いますので気に入って下さった方はどうかお待ちいただければ。