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愛日と畏日の大夜会

怜子の二十四回目の誕生日を祝うパーティーの日取りが近づくと、屋敷の使用人達は様々な準備で毎日大忙しだった。


「誰か、すこぶるつきの美形の若様でも来ないかなあ。そしたら、この大変な準備も苦にならないんだけど」


台所で、パーティーで出される山ほどあるワイングラスを一つ一つ磨いている最中、(はな)というメイドが林檎の様なほっぺたを大仰に膨らませる。


「口より手を動かしなさいよ、花。そんな調子じゃいつまで経っても終わらないわよ」


誰よりも速く、かつ丁寧にグラスを磨いている千登勢(ちとせ)は呆れたように唇を尖らせる。


「だってさ、何だか素敵じゃない?パーティーに来たどこぞの若様が自分の事を見初めてくれたら」


うっとりと夢見る瞳の花は、まさしく恋に恋する年頃の乙女だ。


「ねえ、美夜もそう思わない?」


花は天真爛漫な笑顔で、隣の美夜にも語りかける。

髪を二つに分けて、耳元でくるくるとラヂオ巻きにしているのがその名の通り、花の(つぼみ)の様に愛らしい。


同じメイドで尋常種の花と千登勢とは年も近く、自然と気が合った。

元々は美夜が伯爵家にやって来た時に二人が使っていたメイド部屋に入れてもらった事が出会いのきっかけだが、いきなり現れた月影の自分にも嫌な顔一つせず、何かと親切にしてくれた。


自分は良い主人だけでなく、良い友にも恵まれたのだろう。


何事にも楽観的でのんびりやの花と、負けず嫌いでしっかり者の千登勢の二人は一見対照的だが、その正反対さが却ってうまくいく理由になっているらしい。


「わたし?わたしは―――」


美夜がクロスを持った手を止めて口ごもると、花はあははと弾けるような笑い声を振りまく。


「うんうん。美夜には怜子さまがいらっしゃるもんねえ」


からかうような花の言葉に、美夜の耳朶(じだ)はぽっとユスラウメのように染まった。


「もう、花ったら!私達がパーティーに出られる訳じゃないのよ。私達はね、パーティーに来られるお客様方を丁重にもてなさないといけないのよ。それがメイドの務めってものでしょう」


「そうだよねえ。千登勢も美夜も、一緒に頑張ろうねっ」


「あ……ごめんね。わたしは今回もパーティーで皆のお手伝いはできないの。奥方様のお言いつけで……」


美夜が苦笑い混じりに言うと、花は元から丸っこい目をさらに真ん丸に見開き、千登勢も猫のように切れ上がった目で心配そうに美夜を見つめる。


伯爵夫人はパーティーなど、賓客が屋敷を訪れる機会に美夜を人目に晒すのを殊更嫌っていた。


賤劣(せんれつ)な月影なぞを置いている事がお客様に知られれば、この伯爵家の品位が疑われますわ」


そんな夫人の言葉に全く心が傷まないと言えば嘘になるが、従う他無い。


「その代わり、わたしはいつもみたいに部屋で繕い物をしてるから。皆を手伝えないのは申し訳ないけど……」


「何言ってるの!美夜が気にすることないんだよ。意地悪な奥方様がいけないんだから。そうだ、パーティーで余ったご馳走、美夜のためにこっそり持ってきてあげるね」


「私にも、パーティーの手伝いができない事で何か言ってくる奴がいたらすぐ教えて。そいつに目に物見せてやるから」


「ありがとう。二人とも」


二人が自分の事のようにぷんぷん怒り、彼女達らしい気遣いまで見せてくれるのが些細ながら心嬉しい。


三人が他愛も無い話をしながらグラス磨きに精を出していると、和やかな空気を打ち破るように、使用人の男性が何やら手紙のような物を持ち慌てた様子でやって来た。


「花さん、君に電報だよ。お国のお母さんから」


「母さんから?どうしたんだろう、一体」


郷里の大勢の家族を養う為にこの屋敷に奉公している花は、しょっちゅう兄妹や両親と手紙のやり取りをしていたが、こんな風に改まって電報などが来るのは珍しかった。

不思議そうに電報用紙を受け取った花だが、紙面を目にした瞬間、普段ののほほんとした彼女が嘘の様にその顔が青ざめていく。


「どうしたの?花ちゃん」


「お母さんは何て言っているの?」


美夜達が心配になって花の顔を覗き込むと、花は無言のまま震える手つきで用紙を差し出した。

そこには無機質なインクの文字で『チチヤマイ スグカエラレタシ ハハ』と印刷されている。


「どうしよう。父さんの為にすぐ帰ってあげたいけど、今実家に戻ったらパーティーの日に間に合わなくなっちゃう」


つぶらな目に大粒の涙を溜めて、今にも泣き出しそうな花はあんまり可哀想で、どうにかしてあげたい気持ちでいっぱいになってしまう。


何か、花の為にできる事はないだろうか。

そんな時、ある考えがぱっと頭の中にひらめいた。


「じゃあ、わたしが代わりにパーティーのお手伝いをするわ。そうしたら花ちゃんはお父さんの所に帰ってあげられるでしょう」


「ほんとうに?!でも、奥方様が駄目だって……」


「大丈夫。わたしから伯爵様にお願いしてみるから」


美夜を毛嫌いする伯爵夫人に負けず劣らず、伯爵が自分の事を快く思っていないのは知っているが、花の為なら、話せば分かってくれるかもしれない。


「ありがとう、美夜、ほんとにありがとう!それなら一緒に行くよ」


花はさっきまでの狼狽ぶりから一転して雨上がりの空のように晴れやかな顔で、美夜に抱きついて頬ずりせんばかりである。


「花ちゃんはお部屋に戻って荷物をまとめておいて。きっと伯爵様も了承してくださるから、すぐ帰れるように」


「一人で平気なの?私も着いていこうか」


「心配しないで。千登勢ちゃんは、花ちゃんを手伝ってあげて。わたしは一人で平気だから」




(平気よ。伯爵様だって、血も涙もない方じゃないもの。話せば分かってくださるはず)


尊子の私室まで向かう途中、心の中で何度も自分を鼓舞したが、足はまるで他人のものを無理やり動かしているように重い。


いけない、こんな事では。


勇気を出さなければ―――


再び一歩を踏み出そうとした時、前から折り目正しい白衣を(まと)い、黒革のドクターズバッグを手にした見知った顔の男がやってくるのが見えた。


古河(ふるかわ)先生!いらっしゃってたんですね」


「おや、美夜さん」


秋元の医学校時代の同級生で、怜子の頼みで美夜の事を彼に紹介した古河医師は、代々清小路家の主治医を務める医家の生まれであった。


怜子も、古河医師の父にあたる先代の主治医には子供の頃からよくお世話になっていたらしい。

今でこそ問題無く日常生活を送れるほどに落ち着いているものの、子供の頃の怜子はしょっちゅう喘息の発作を起こし、伯爵夫妻の娘への心配は並々ではなかったそうだ。

しかし、高等学校にあがる頃には体も丈夫になったのか、自然と発作も回数を減らしていったという。


そんな話を怜子から聞かされていた事もあり、美夜も度々屋敷を訪れる彼とはいくらか面識があった。


「久しぶりだね。秋元や彼の細君、お嬢さんは息災かね」


「ええ、この前お会いしましたけど、皆変わらずお元気でした。先生は、今日はどうしてお屋敷に?」


「伯爵閣下に呼び出されたものでね。今し方、診察を済ませてきたところだ」


「まあ……伯爵様、どこかお悪いんですか?」


普段から壮健を絵に描いたように、風邪一つひく様子を見せた事の無い尊子だが、そんな彼女が医者を必要とするなんて、よほどの事があったのではないだろうか。

古河は、はははと大人の男性らしい余裕のある笑い声を上げて、美夜の肩にそっと手を置く。


「何、心配はいらない。季節の変わり目のせいか、少し頭痛がすると仰るんだよ。薬も出しておいたから、もう大丈夫だ」


彼の言葉に、美夜もほっと胸を撫で下ろす。


「これから、伯爵様にお話したい事があるんですけど、お会いしても大丈夫ですか?」


「ああ構わないよ、行っておいで」


「良かった。それでは、古河先生もお元気で」


去りゆく美夜の背中を、古河は先ほどとは打って変わって深刻そうな面持ちで振り返るが―――それに彼女が気がつく事はなかった。




重々しい彫刻が施されたチーク材の分厚いドアの前に立つと、子供のように足が(すく)んでしまう。


(でも、行かなくちゃ)


自分を落ち着かせるために深呼吸を数回してから、勇気を振り絞って目の前のドアをノックする。


「失礼いたします、伯爵様。美夜でございます」


扉の内から返事は無い。

もしかしたら、別の部屋にいらっしゃるのだろうかと思った時


「入れ」


と扉越しにも他を威圧するような堂々とした声音が響いてくる。


「失礼、いたします」


銀のドアノブに手を掛けると、触れた途端、指先から熱を奪われていくような感覚に陥る。


手を後ろで組み、ベルベットのカーテンが青葉の風に揺れる窓辺に佇んでいた尊子は、美夜が部屋に入ると鷹揚(おうよう)に振り向いた。

背を流れる黒髪には多少銀糸が混ざっているものの、真珠の耳飾りと共に、初夏の眩しい陽射しに輝く。


「何の用だ」


知命(50歳)を過ぎ、老いの境界へ近づかんとする年齢になろうと、彼女の眼力の鋭さが衰える事は無い。

伯爵夫人の前に立つのも気が引けるが、伯爵と対峙する時、美夜はそれとはまた違った恐ろしさを覚える。


「実は、伯爵様にお願いしたい事がございまして……今度の怜子さまのお誕生日をお祝いするパーティーのお手伝いを、わたしにもさせていただきたいんです」


「パーティーの手伝いだと?お前は当日、部屋にいる筈だろう。妻からそう聞いている」


怯える美夜の声を耳にすると、尊子の厳貌(げんぼう)はますます険しくなっていく。


「はい。わたしのような人間が、パーティーで身分の高いお客さま方の前に出られない事は十分承知しています。でも、メイドの花さん、彼女のお父さんがご病気ですぐ実家に帰らなくてはならないそうで。代わりのお手伝いはわたしがいたしますから、彼女にお休みをあげてくださらないかと……どうかお願いいたします」


冷や汗がたらりと背中を伝うが、エプロンをぎゅっと握りしめ、何とか最後まで言い切る事ができた。

尊子はふんと鼻を鳴らし、傍にあったカウチに身をもたせかけ、上下揃いのパンツスーツに包まれている引き締まった脚を居丈高に組み合わせる。


「お前に頼まれずとも、親が急病ならば休みくらいくれてやる。だが、そう言うのであれば、お前が責任を持ってパーティーの手伝いをするが良い。分かったな?」


「本当ですか!?ありがとうございます、伯爵様!」


「ただし」


尊子はハイヒールの靴音も高く立ち上がったかと思うと、その眼光で美夜を刺し殺さんばかりに頭上から睨み据えた。

あまりの凄まじさに、美夜は大蛇を目の前にした蛙のように一歩も動く事ができない。


「くれぐれも、怜子に恥を掻かせる真似だけはするなよ。そう肝に命じておけ」


「分かり、ました」


やっと喉から絞り出せたのは、震えきって掠れた声だった。


「今度のパーティーは怜子の妻を探す事も目的としている。その為に、良家の月影の令嬢も大勢招待した。要らぬ誤解を招く様な事があれば、困るのは怜子だぞ」


「怜子さまの、妻?」


美夜にとっては青天の霹靂にも等しい一言だった。

思わず頓狂(とんきょう)な声を上げた美夜を、尊子は再びぎろりと睨み付ける。


「何故驚く。お前には関係の無い事だろう」


怜子と同じ、深い理知を湛えた切れ長の鳳眼(ほうがん)

けれども尊子の目には、怜子が持つ慈悲深さの代わりに、娘を脅かす者は誰であろうと容赦はせぬという酷厳な敵意のみが氷柱(つらら)のように尖っていた。


「分かっております。でも……」


「娘の将来については父親の私が一番よく考えている。赤の他人のお前如きが出しゃばろうと思うな」


そうだ、ずっと前から分かり切っていた事ではないか。


清小路伯爵夫妻の一人娘で、伯爵の後継者たり得る唯一の日輪である怜子がいつまでも妻を迎えずにいる訳が無い。

いずれ伯爵家の家督を相続する怜子は、彼女に相応しい高貴な身分の美しい月影との間に、跡継ぎとなる優秀な日輪の子を成すのが血に定められた務め。


跡取りに恵まれない日輪などは子を設けるために、妻の他にも大勢の月影の妾を囲う者もいるという。


分かり切っていたのに、どうして。


喉が腫れ上がって、息を吸う事もできない。

目の前がぼやけて、木々の若葉が目に染みる。


「―――恨んでいるだろうな、私の事を」


尊子の眼差しには先程とは異なり、微かに美夜に対する哀れみのようなものがあった。


「いいえ、恨んでなんかおりません。ちっとも……」


頑是無い子供のように首を振っていても、それが美夜の率直な気持ちだった。


尊子は伯爵として、清小路家の秩序を保とうとしているだけなのだ。

それを恨むだなんて、お門違いにも程がある。


「私の事はいくら嫌ってくれても構わない。だが妻は―――初音は、恨まないでやって欲しい。若い頃は今よりずっと温順な性分だったが、今のようにさせてしまったのは夫である私の責任だ」


その何とも言えずやるせない表情が尊子の顔を掠めた時、一瞬この間の西洋料理店で顔を曇らせた怜子を目の前にしているような錯覚に陥った。


年の離れた姉妹の様によく似た父娘だからこそ、このような感覚になるのだろうか。

だが、そんな表情を見せたのも束の間で、尊子は罪人に退廷を命じる判事のように、無慈悲に言い放つ。


「もう話は済んだだろう。出ていってくれ」




一礼して部屋を出るなり、美夜はスカートの裾を翻し、二階の片隅のバルコニーへと駆け出した。


幸いな事に、いつもの場所には怜子の姿は無い。

今怜子の顔を見たらどうかしてしまいそうだった。


頭の中では先程の伯爵との会話の様子が幾度も繰り返される。


(今度のパーティーは怜子の妻を探す事も目的としている。その為に、良家の月影の令嬢も大勢招待した)


泣いては駄目だ。泣いては……


美夜は冷え冷えとする大理石の手摺に顔を伏せて、溢れ出しそうな熱い雫と胸の底から突き上げてくる慟哭を必死に押しとどめた。

それから一体どれくらい経ったのか、気がつくと暮色の夕靄(ゆうもや)が、ひそやかに美夜をおし包んでいた。

火照った頬を、ひんやりとした外気が撫でる。


そろそろ、戻らなくては。


目の縁に溜まった涙を拭っていた美夜の肩を、誰かのぬくもりを持った腕が抱きしめる。


振り返らなくても分かる。

今一番会いたくて、会いたくない人。


「こんな所にいたのね。体が冷えていてよ。さあ、戻りましょう」


「……怜子さま」


こんな風に優しくされたら、また涙が込み上げてしまう。

歯をぎゅっと食いしばり、すんでのところで堪える。


「そうですね。戻りましょう」


だが、怜子は美夜の顔から視線を逸らさない。


「泣いていたのね。目が赤くてよ。またおたあさまに何か言われたの?」


怜子の核心を突いた言葉にぎくりとしたが、胸の内の動揺を隠すように、精一杯の空笑いを浮かべる。


「夕焼けのせいでそう見えるだけでしょう、きっと。ご心配なさらないでください」


答えの代わりに、熱を失った美夜の体は怜子の腕の中にすっぽりと包み込まれていた。


「私は美夜の笑った顔が好きよ。あなたが笑うのを見ると、こちらまで勇気を貰える気がする。でも、私の前で無理して笑わなくてもいいのよ」


前に怜子が教えてくれた言葉に、『冬日(とうじつ)愛すべし 夏日(かじつ)(おそ)るべし』というものがある。

人々は夏の燃え盛る太陽を畏れるが、冬の太陽は暖かくいとおしいものであると。

そこから冬の太陽を愛日(あいじつ)、夏の太陽を畏日(いじつ)と呼び慣わすようになったのだという。


愛日とは、怜子の人柄を言い表すのに一番似つかわしい言葉ではないだろうか。

怜子の腕の中にいると、愛日の恵みの光を頭から足の先まで浴びているように心地良い。


お優しく(うるわ)しい、愛日の怜子さま。


こんな人が結婚するのであれば、心の底から祝福するのがメイドである自分の役割だと頭では理解しているのに。

胸の中にこびりついて離れない、このやり切れない感情は―――




ドレスの背中のボタンを一番上まで嵌め終えた美夜は、仕上がった主人の晴れ姿に惚れ惚れと瞳を凝らす。


「とっても素敵です、怜子さま!」


体の線にぴたりと張りつき、裾に優雅なドレープの広がりを見せるロイヤルブルーのイブニングドレスは、細身で背の高い怜子によく似合っていた。


すらりと伸びている腕を一点の汚れも無いオペラ・グローブに包み、光り輝く金剛石(ダイヤモンド)の首飾りでそれに見劣りせぬほどの肌理(きめ)の細かい肌を引き立たせた怜子の姿は、生まれついての貴族としての高貴さをこの上無く体現している。


だが、怜子は鏡の中の着飾った自分の姿もようよう見ずに明眸(めいぼう)のみを器用に動かして、彼女の髪をブラシで入念に梳かす美夜を鏡越しに見やる。


「何だか胸騒ぎがするの」


「怜子さまったら、またですか?わたしの事なら、お気になさらず」


怜子の憂慮(ゆうりょ)は、パーティー当日の朝から幾度も繰り返されたものだった。


「日輪様だなんて呼ばれていても、皆が皆聖人君子という訳ではないのよ。特に華族の中には、平民の尋常種や月影はどう扱っても良いと下に見ている日輪もいるの。そんな人達が大勢いるかもしれないパーティーの会場に美夜が出ていくのかと思うと、気を揉んでしまって」


上流社会の実情というものを普段から間近に見てきたからこそ、怜子の言葉には重みがあった。


「いいんです。わたしが自分から言い出したんですから」


「それなら良いけれど……何かあったら、すぐに私のところにいらっしゃい。よくって?」


「はい。承知いたしました」


怜子にこうして美夜の事で心を砕かせてしまうのは申し訳なかったが、それが堪らなく心強く、有り難い。

自分の身を案じてくれる怜子だけでなく、友である美夜の事を信じて郷里に帰っていった花や、気が進まないながら花の代わりに仕事をさせてくれた伯爵の恩に報いる為にも、精一杯自分の務めを果たさなければ。



夜の帳が下ろされると、余すところなく磨き上げられた大広間の床は、シャンデリアの煌々たるきらめきを一面に映し出す。


屋敷の前には舶来の自動車や、緋の毛氈(もうせん)を敷いた人力車が我先にと争うように列を作った。

中からは、上等な服装に身を包んだ紳士や、上流階級の女性としての気取りを華やかな衣装に表した貴婦人や令嬢が次々と降りてくる。


特に、この日の為に新調した首輪を着けたうら若き月影の令嬢達は、扇子の内や袂の陰に、どこかしら意味ありげな含み笑いを絶やすことが無い。


いよいよ、今宵の宴の幕が上がるのである。



大広間のパーティー会場では、この日の為に呼ばれたバンドの楽士達の軽快な演奏や人々がグラスを合わせる音、婦人達の立てる和やかな笑い声が混ざり合い、一つの背景音楽としてパーティーの賑やかな雰囲気を構成している。


使用人達はそんなパーティー会場の中を、小走りで慌ただしく動き回っていた。


それは美夜も例外でなく、トレーに隙間なく積まれた色とりどりの洋酒を客達に呼び止められるままに配り歩き、一息つく間も無い。


会場にはあちこちに白いクロスを掛けられた丸テーブルがあり、招待客が自由に摘めるようなカナッペやサンドイッチ、骨付き肉やフルーツなどのフィンガーフードが用意されている。

花は美夜の為に余ったご馳走を持ってきてくれると言っていたが、軽食とはいえそれらは花の言葉通り、自分達の様な庶民には到底手の届かないご馳走だった。


だが、殆どの人はワインやシャンパンのグラスを片手に他の招待客との歓談に興じるばかりで、几帳面に手を付ける者など居はしない。


残されるサンドイッチだけでも、美夜一人では食べきれない量だろう。


けれども、軽食もようよう取らずにそれほどまで歓談に夢中になっているのかと言われると違う。

皆一様に顔に貼り付けたような薄っぺらい笑みに、芝居の台本のように決まりきったタイミングで起こる笑声。


(怜子さまが、普段からパーティーを楽しみになさらない筈だわ)


一見華やかである上流社会も、一皮剥けば所詮このような空虚なものだと気付かされてしまう。


最初は月影の首輪をした自分が招待客の目に止まって何か言われたらどうしようと危惧していたが、驚く事に彼らは一人として美夜に気付かなかった。


月影であると気付く以前に、客達は美夜がグラスを手渡す時でさえ、こちらを振り向きもしないのだ。

こんなに人が居るのに誰とも目が合わないのが、ありがたいのを通り越し却って気味悪くさえあった。


だが、それも当然の事に違いない。


主人の前では決して物を言わず、空気のような存在であるというのが、雇い主にとって使用人の理想の働き方とされているのだから。

自分を単なる使用人としてではなく、家族も同然の親切の限りを尽くしてくれた、怜子のような主人の方がよっぽど珍しいのだ。


美夜はメイドとしての自分の存在を、改めてまざまざと見せつけられたような気がした。


そうだ。自分はメイドだ。

メイドの使命は、何も考えずに言われた仕事を忠実にこなすのみ。


そう自分に言い聞かせて淡々と業務に取り組もうとするのだが、ともするとパーティーの中心の人だかりに目が行きがちになる。


大勢の若く美しい月影の娘達に囲まれた怜子の姿はまさに今夜の主役であり、パーティーの女王だった。


もちろん月影には女性だけでなく男性もおり、実際に美夜の亡くなった母は男性の月影だったと聞かされている。


しかし秀治郎と嘉世子夫妻のように、男性の日輪と女性の月影が結婚する話はよく耳にするが、女性の日輪が男性の月影の妻を(めと)る話はほとんど聞かない。

結婚自体は可能なものの、同性同士の日輪と月影の夫婦に比べると子が出来にくいとされている。


その為、跡継ぎを望む上流階級の女性日輪の間では、同じく女性月影の妻を迎えるのが一般的である。

さればこそこの日の為に集められた娘達は、皆一様に怜子の妻、そして未来の伯爵夫人の座を得ようと、どれだけ自分を売り込めるか必死のようだった。


「怜子様の臈長(ろうた)けてお綺麗でいらっしゃること!見惚れてしまうわ」


美夜の傍にいた、怜子を熱っぽい目で見やる月影の娘達の一人が、うっとりと溜息をつく。


「お美しいだけでなく、帝國大学を主席で卒業なさった才媛(さいえん)よ。怜子さまの妻となる月影は相当にお家柄も良く、大変に容姿端麗な方でなければ」


自分が思うだけでなく、他の人の口から怜子がどれだけ素晴らしい日輪であるかを聞くと、そんな人を主人に持っている我が身がしみじみと誇らしくなる。

だがそれと同時に、自分がどれほど怜子と不釣り合いであるか思い知らされるようで、惨めな気持ちが寒さのように体に染みた。


「そういえば、野々宮(ののみや)侯爵も今夜のパーティーに来られたんですってよ」


娘の一人の思い出したような言葉に、他の娘達もすぐさま目の色を変える。


「まあ、野々宮侯爵が?私、春に侯爵家のお庭でのお花見に伺ってあの方をお見掛けしたわ。怜子様と侯爵様、どちらも甲乙付け(がた)い、大変に素晴らしい日輪様ですもの。気が揉めてしまうわ」


「確かあの方もまだ独身(おひとり)だったはずよ。どこにいらっしゃるか探しに行ってみましょうか」


言うやいなや、娘達はぞろぞろとその場を離れていった。

美夜の視界を塞ぐ様に立っていた娘達がいなくなると、怜子と彼女を取り囲む月影の令嬢達の様子がよく見える。


「ご機嫌よう、怜子様!私は高杉子爵家の娘で……」


「怜子様はどのような月影がお好みでいらっしゃいますの?」


怜子様、怜子様と我先に彼女の心を掴もうとする令嬢達は、さながら大輪の白百合の花に群がる蝶々だった。

怜子は華族の女性らしい愛想の良い笑顔を絶やさずに、そんな令嬢達にも一人一人丁寧に対応する。


それは伯爵家次期当主として、誰からも咎められる事のない自然な行動の筈だ。

だのに、切なさが砂時計の砂のように、胸の中にどんどんと落ちていく。

美夜はもうそれ以上怜子を見ていられず、顔を背けると、逃げる様にしてその場を立ち去った。



招待客達も皆機嫌が良いのか、あちらこちらで酒が催促され、美夜の手にしたトレイも白ワインのグラス一つを残すのみとなった。

早めに補充に行かなければと考えていた時、背後から淑女らしく落ち着き払った声が美夜を呼び止めた。


「白ワインを、一杯下さるかしら」


「あっ、はい。只今」


くるりと振り返ってそこに立つ人の姿を認めた途端、美夜は思わず飛び上がらんばかりに驚いてしまった。


「怜子さま!どうして此方(こちら)に?」


「美夜に会いたかったから、ではいけなくて?」


怜子は令嬢達の前での次期伯爵らしい理想的な笑顔とは打って変わり、はしゃいだいたずらっ子の様に真っ白な歯を見せる。


「お嬢さん方の相手をしていたらすっかりくたびれてしまったの。さっき、お手洗いに行く振りをして抜け出してきたのよ」


美夜は、普段の淑やかなこの人からは想像もできない怜子の奔放な一面に舌を巻くと同時に、閉め切った部屋の中を新鮮な風が吹き抜けるような清々しさを感じた。

他の誰でもない怜子が、美しさも家柄も申し分無い令嬢達より自分の方を選んでやってきてくれた。


今このパーティー会場に溢れている月影の娘達の中で、自分以上に幸福な者が果たしているだろうか。


怜子は美夜からワイングラスを受け取るとぐいと一息に飲み干し、緊張の糸が切れたようにほっと肩の力を抜く。


「美夜は平気?何か困った事は無くて?」


「はい。これといって特に困った事もなく、順調に……」


「こんな所にいらしたのね、怜子さん」


大広間のざわめきに掻き消される事なく、真一文字に美夜の耳を貫いた伯爵夫人の声には、まるで丹念に毒を塗り込んだ矢じりの様に、鬱屈とした怒りが込もっていた。


今日の為に新調させたドレスに身を包んだ伯爵夫人は大勢の賓客達の手前、どうにか気持ちを抑えているのが見て取れる。

そうで無ければ今すぐにでも華やかな夜会巻に結い上げた頭髪を逆立て、感情が爆発するままに美夜を怒鳴りつけていただろう。


だが、次の瞬間には活動写真の女優(アクトレス)のような巧みさで、メイドなど眼中にないという風に、誇り高さを宿しながらもどこかな意味ありげな微笑を娘に向ける。

怜子や夫人といい、上流階級の人々というのは皆一種の役者なのではないだろうか。


「おたあさま。私に何のご用件でいらっしゃいますか」


怜子は母にそう問いつつも、自らの体の陰に美夜を庇う事を忘れなかった。


「随分と他人行儀な物言いね。まあ、よろしいわ。怜子さん、今夜はあなたの為に月影のお嬢様が大勢お越しになっているけど、その中でも特にご紹介したい方があるのよ」


目が釘付けになるとはこの事だろう。


夫人の後ろから姿を現したその少女がしゃなりしゃなりと歩みをなす度、金糸銀糸で豪奢な刺繍が施された帯を覆うほどの艶やかな黒髪が、ぬばたまの実の風にそよぐかのように揺れる。

ひと目で上等だと分かる絢爛(けんらん)な総模様の振り袖に、目も覚めるばかりの緋の縮緬で仕立てられ、翡翠の緑が鮮やかに映える月影の首輪。

画仙(がせん)と讃えられた絵師が、例え生涯を捧げたとてこれほどのかぐわしい姿を描き出す事は成し得ぬに違いない。


まさに、美という言葉をそのまま体現したかのような少女だった。


目の前で神の偉大な奇蹟を目にしたちっぽけな人間が二の句が継げないように、あ然として立ち尽くす美夜とは正反対に、夫人は意気揚々と少女を怜子に紹介する。


「こちらは野々宮侯爵閣下のご令妹(れいまい)でいらっしゃる珠緒(たまお)お嬢様。怜子さんも姉君の閣下とは同級生なのだし、お父様にお連れいただいて何度かあちらのお宅にも伺っているのだから、お嬢様にもお会いした事がおありでしょう」


「あたくし、怜様(れいさま)の事でしたら子供の頃からよく存じ上げておりますわ。奥様」


玉虫色の紅を塗り重ねた唇から漏れいづる声音の、さても玲瓏(れいろう)たる様よ。


「まあ、そうでしたの。それなら話が早くてよろしいわ」


夫人は珠緒の良家の娘らしい身のこなしに、娘がもう一人できたかのような上機嫌ぶりである。


「こうして今日の夜会で怜様にお目にかかれまして、あたくし大変光栄ですわ」


そうして怜子に向けられる、眩いばかりの花笑み―――美夜とさほど年も違わぬ彼女のそれは、千金に値するのではあるまいか。


「ところで」と珠緒はその笑みを崩す事無く、美夜の方には見向きもしないでこう付け加えた。


「どうして、月影のメイドなぞを雇っていらっしゃいますの?清小路伯爵家ともあろう名門が」


その言葉に美夜と怜子の表情が固まったのは言うまでもないが、伯爵夫人の動揺は段違いだった。

落ち着きを取り戻すかのように数回咳払いをすると、どうにか唇の端を持ち上げるが、微笑むというよりかは頬を引きつらせただけのように見える。


「珠緒さんがお気になさる事ではありませんわ。身寄りが無く嫁にも行かれない月影を、情けで当家に置いてやっているのに過ぎませんの。全く取るに足らない娘ですわ」


「おたあさま、美夜に向かって何て言い方を……!」


だが、伯爵夫人は怜子の抗議を遮るかの様に、これまで一度も掛けた事のない猫撫で声で美夜にこう命じた。


「きっとお嬢様も喉が乾いておいでだろうから、お前、お嬢様の為に飲み物を持ってきて差し上げなさい。ね?」


そしてその後は、早々と立ち去って珠緒の前に姿を見せるな―――と夫人の笑わない目が無言の圧力を放っていた。



パーティー会場の片隅のテーブルの上にはワインやシャンパンのグラス、それらの瓶が山積みになっている。

六畳にも満たないその空間の周囲は衝立により、客達からは見えないようになっていた。

手にしたトレーの酒が無くなると、メイド達はめいめいここに補充しにやって来るのだった。


深い紅を湛えるワインをグラスに注ぎつつ、ともすると美夜は上の空になりがちだった。


頭からは、先程の少女の姿が焼き付いたように離れない。


珠緒という名が示す通り、光り輝く珠の如き美しさ。

五爵の中でも上から二番目の地位の高さを誇る侯爵家の令嬢というやんごとなき身分。

そして、二人は華族の家同士の繋がりもあり、昔から見知った仲だという。


怜子の結婚相手として野々宮珠緒が相応しいのは、何人の目にも明らかだった。


美夜は、もしかしたら自分が怜子の対の月影かもしれないと一瞬でも夢見ていた我が身を恥じた。

何と言う浅ましく、傲慢で、身の程知らずの思い上がりだろうか!

そんな厚顔無恥な思い上がりを自分がしていたと考えると、全身の血が一気に沸点に達し、手元は熱病患者のようにぶるぶる震えて定まらず、グラスの中ではワインレッドの大波が踊る。


「何だいお前、野々宮珠緒嬢を恨んでおいでかい?馬鹿馬鹿しい!お前と彼女では何もかもが違い過ぎて、恨む事さえ許されないだろうよ」


意地の悪い声が、美夜の耳元でこう囁いた。


本当にそうだ。


できる事なら衝立の陰に閉じこもって、もう一生出ていきたくなかった。


だが、今日の伯爵夫人はただでさえ虫の居所が良くないのだ。

このままここで愚図愚図している事が、どんなに彼女を苛立たせるだろうか。


(早く戻らないと、ワインもぬるくなってしまう。でも……)


身じろぎすらできないまま悶々としていた美夜だったが、風船が弾ける様な若い男女の哄笑(こうしょう)に我に帰る。


「全く、君は冗談が上手いね」


「あなたこそ、嘘がお上手でいらっしゃること。一体何人騙したのかしら?」


突然衝立の内に入ってきた青年とその連れらしい女は、めいめい仕立ての良いタキシードや、高価な宝石類を光らせている事から、富める人々である事は明らかだった。


だが、どちらも首輪はしていない。

どうやらパーティーに招待されている、怜子と同じ様な華族の日輪の子弟達らしい。


「あら?嫌ね。いつの間にか、妙なところに入り込んでしまったわ」


日輪の女の方がこう言って、あからさまに鼻に皺を寄せた。


「ここで酒を準備しているらしいな。丁度いい、喉が乾いてきたところだ。おい、君!ウイスキーのオンザロックをくれるか」


「わたくしにも、よく冷えたカクテルを」


「はい、かしこまりました」


琥珀色のウイスキーがなみなみと詰まった瓶や、氷の入ったケースなどを慌ただしく用意する美夜を意に介す事なく、彼らは一時中断となったお喋りを再開する。


「それにしても、今日のパーティーに集まった月影のお嬢さん方の別嬪(べっぴん)ぞろいな事ときたら!ああいう風に美しい()達が集まっていると、夜会が華やぐようだ」


「相変わらずの色事師でいらっしゃるのね。あなたが自分の家の尋常種の女中と大層深い仲になっているって、この頃もっぱらの評判よ」


「いやはや、耳が痛いな。だが、尋常種との関係なんて所詮遊びに過ぎないさ。生涯を共にする妻は、日輪の子を産む事のできる月影の中から選ばなければ。君も日輪ならばそう思うだろう?」


「ええ、もちろん。尋常種なんて、わたくし達日輪と違って何一つ秀でた所の無い連中ですもの……」


誠実さの欠片も無い彼らの会話を聞いているだけで、耳孔が腐っていくようだった。

彼らの濁った目には、尋常種や月影は自分の欲を満たす道具や、下に見て蔑む対象としか写っていないのがよく分かる。


パーティーの前に怜子から聞かされた、高慢な日輪の話そのものだった。

そして、上流階級の日輪の間ではこの男女のように考えている人々が大多数なのだろう。


(尋常種や月影にも血が通っていて、涙も流せば痛みだって感じるわ!)


美夜はすぐにでも声を大にして怒りをぶちまけたかったが、唇を引き結んでどうにか堪え、二人に痛いほどよく冷えた酒で満たされたグラスを差し出す。


「やあ、悪いな。……おや?」


グラスを受け取った男はとぼけるように一驚したかと思うと、異国の珍獣でも見るかのように、じろじろと美夜の体に視線を這わせた。


「君、月影じゃないか。どうして伯爵家のメイドなんてしているんだい?」


美夜はこの瞬間ほど、月影である事を世界に向かって高らかに叫んでいる自分の首輪を恨めしく思った時は無い。


「本当だわ。いい年をした月影が、嫁にも行かずに何をしているのかしら?」


「そういえば風の噂で、清小路家の怜子女史がどこからか連れてきた月影を自分のメイドにしていると耳にした事があったな。あれは真実だったのか」


「才色兼備で品行方正な日輪と評判の怜子さんがねえ……人間、意外と分からないものね」


「よくよく見たら、結構愛らしいじゃないか。なあ君、僕とどうだい?どうせもう、怜子女史のお手が付いているんだろう」


下心を押し隠そうともしない男に、肩を無遠慮に組まれて―――それまでせき止めていた怒りの感情が、まるで火山が火を噴くかのように体の中心から喉を駆け上がり、口から(ほとばし)った。


「怜子さまは……怜子さまはあなた方と違って、そのようなふしだらな事をなさる方ではありません。絶対に!」


今まで出会ったどの人よりも、尊敬し憧れている怜子を侮辱された事が、美夜にとっては一番許せなかった。

男女は豆鉄砲を食らった鳩の様に、何が起きたか分からないといった表情。


きっと華族の家を担う日輪として不自由一つせずに育てられ、これまでの人生で月影から反抗された事などは一編たりとも無いのだろう。

月影達は従順な良き妻となる為、日輪には決して逆らわないようにと幼い頃から何度も何度も教え込まれるのだから。


呪いだ、まるで。


その呪いは美夜の中にも未だにこびり付いていたらしく、一瞬自分がとんでもない失敗を犯してしまったような感覚に陥った。

だが、誰が謝ったりなどするものか。


「なんて図々しいのかしら!月影の分際でわたくし達に歯向かおうというの。日輪の子を産むくらいしか能が無い癖に」


女はこれほどの恥辱は初めてだと言うように、顔を破裂しそうなほど真っ赤に染めた。


「どうせ、体を使ってこの伯爵家に取り入ったんだろう。身分の卑しい月影の考える事だ。偉そうに言っていても、それがお前達の本性だ」


男はふんと人を小馬鹿にした様に鼻を(うごめ)かすと、美夜の肩を掴んだ手にギリギリと力を込める。


「やめて、放してください!」


美夜はその手を振りほどこうとしたが、男性、しかも体格の優れた日輪という事もあり、男の指が肌に食い込んだ様になかなか離れない。


(怜子さま―――!)


気がつくと、胸の中で必死に怜子の名前を呼んでいた。

無駄だとは分かっていたが、窮地に立たされた人間が神に救いを乞う様に、叫ばずにはいられない。


一体、どうすれば。


絶対絶命の文字が頭に浮かぶ。

もう駄目なのかと目を閉じかけた時―――美夜の肩を抱く男の手首を、誰か別の手がしっかと掴んだ。


もしかして、また怜子が来てくれたのだろうか。


美夜は驚きで目をしばたかせつつ、手の方を見やった。

その手は華奢でしなやかな怜子の物とは異なり、どちらかと言えば筋肉質で関節の硬さが目立つ。


しかし、決して無骨で荒っぽい手という訳ではない。

強靭(きょうじん)さを感じさせながらも、よく手入れされた爪を持ち、どこまでも優美さを失わない女性の手である。


「見苦しいぞ。か弱い月影の女子(おなご)を相手に、大の日輪の男子(おのこ)ともあろう者が」


叱責するというよりも、青年に対して、愚かな事をとせせら笑う余裕さえ含まれた声が響き渡る。


その手と声の持ち主は―――


艶やかな黒髪をあっさりと首元で束ねた上に被っている、星章を抱くチェッコ式の軍帽。

折り目正しく寸分のズレも無い、眩しく光り輝く金ボタンと階級章が縫い付けられた陸軍将校の制服。

本革の長靴と、腰のベルトから下げている軍人の魂とも言うべきサーベルは曇りだに映さぬほど見事に磨き上げられ、武人としての矜持(きょうじ)の深さが伺える。


屈強な男性でさえここまでの精悍(せいかん)さは持ち得ないのではないか―――さても勇ましき女性将校である。


「何だ君は!急に現れて……うっ、うぐっ!」


美夜があれほど振りほどくのに苦労していた男の手を、この人は涼しい顔でいとも簡単にひねり上げてしまう。

その隙に、美夜はするりと男の腕から抜け出す事ができた。


女性将校が叩きつけるように手を離すと男の腕も解放されたが、だらだらと顎の先から滴り落ちる脂汗や激しい苦悶の表情から、相当の痛みであった事は想像に(かた)く無い。


「貴様ら、吉田男爵の息子と小野子爵の孫娘だな?その下劣な振る舞いで華族を名乗ろうとは、片腹痛い」


「そ、そういう君はどこの誰だというんだ。いきなりこんな真似をして、失礼にも程があるだろう」


男はまだ痛むらしい手首を撫で擦りながら、よろよろと彼女に食って掛かろうとする。


子爵の孫娘と呼ばれた女は怯えた目で事の成り行きを傍観していたが、にわかにはっと息を飲むと、慌てて男に耳打ちする。


「ちょっと、お()しなさい!この方は……」


彼女の顔は、丹念に施された化粧の上からでもはっきりと分かるほど青ざめていた。

すると男はさっきまでの威勢が嘘の様に慇懃(いんぎん)な態度で、腰が折れそうな程深々と頭を下げ、女もそれに(なら)う。


「申し訳御座いません!とんだ御無礼を……どうか、どうかお許し下さい。まさか野々宮侯爵でいらっしゃるとは思わず……」


野々宮侯爵。


それではこの女性(ひと)が―――


怜子と共に月影の令嬢達の栄えある思慕の噂の的となっていた張本人で、先程の少女・珠緒の姉でもあるというのは美夜にも分かった。

言われてみると、自信ありげに微笑を浮かべる口元や、豊かに睫毛を蓄えた勝気な双眸(そうぼう)など、面差しにも珠緒と似通うところがある。


「貴様らの謝罪にどれほどの価値があるというんだ?全くお目出度い。これ以上私の気分を害したく無ければ―――今すぐ目の前から失せろ」


「し、失礼致します!」


男女が一目散に、逃げるようにパーティーの雑踏の中へと姿をくらましていくのを、美夜は信じられない気持ちで見送っていた。

侯爵はふんと鼻先で笑っていたが、束ねた髪を軽やかに揺らし、美夜の方を振り返る。


「大事無いか」


「は……はい」


危ない所を助けてもらった恩人なのだから、感謝の言葉一つくらい口にするのが礼儀だとは分かっているのに―――美夜は何故だか、この年若き侯爵に目を引き寄せられたまま言葉が出てこなかった。


華族の家督を継ぎ、侯爵や伯爵を名乗るのは日輪にしか許されていない。

そして、日輪であれば女性でも軍人になる事ができるというのは美夜も知っている。


だからこそ、目の前で腕組みをして堂々と佇むこの女性(ひと)が日輪であるのは疑うべくも無い事実だったのだが―――


同じ日輪であっても、その迫力は先程の男女とは比べ物にならない程に抜きん出ていた。

多かれ少なかれ、日輪は本能的に尋常種や月影を圧する威光(オーラ)のようなものを発しているのではないか、というのは美夜も薄々肌で感じていた。


美夜にとって、一番身近な日輪である怜子のそれは、み空の厚い雲間から顔を出して人々を慈悲のぬくもりで包む愛日のように、どこまでも穏やかでありながら振り仰がずにはいられないものだ。


だが、侯爵の他をひれ伏せさせるようなこの圧倒的な雰囲気。

大地に生きとし生けるもの何もかもを焼き尽くして、なお王者の如く燦然と大空に輝き続ける真夏の太陽―――畏日(いじつ)だ。


「私は野々宮侯爵家当主、帝國陸軍中尉の野々宮(ほむら)という者だ。君の名前は?教えてくれるか」


紅き火花を散らしながら、全てを灰に化すまで猛烈に燃え盛る焔火。

名は体を表すものだと言われているが、かくまでにこの人の印象と強く結びついた名前が他にあり得るだろうか。


こう考えた所で、美夜は自分がまだこの人に感謝の言葉も述べていない事に気がついた。

そうだ。自分はこの人に窮地を救われたのだから、自分の名前は元より、お礼一つくらい申し上げなければ失礼ではないか。


「危ない所をお助けいただき、ありがとうございました。わたしはこちらの清小路伯爵家でメイドとしてご奉公しております、百幸美夜と申します」


日輪に限った事ではなく、誰かに名を名乗る時には自然と体に力が入り、小柄な背筋がぴんと伸びるのが自分でもよく分かる。

初めて怜子に自分の名前を名乗った時もそうだった。


美夜にとっては、この命にも代えがたい程大切な名前だから。


「みよ、か。どういう字を書く?」


「はい。美しい夜と書きます」


名前のたった二文字を説明する事さえ、美夜にはこの上無い(ほまれ)だった。


「美しい夜と書いて美夜―――良い名前だ。美夜と名付けたのはご父君(ふくん)か?それともご母堂(ぼどう)か」


美夜の名前を口にする焔は、まるで甘美な飴玉を舌の上で転がして味わうかの様な言いぶりだった。


「父でも、母でもありません。この名前をつけてくれたのは……」


目を伏せる美夜をよそに、焔はじっと美夜の顔を覗き込む。

そして、指先で美夜の髪を弄びつつ、耳元で睦言の様に甘くこう囁く。


「誰が付けたにせよ、似つかわしい名前だ。この髪も、肌も、瞳も月の光を溶かし込んだのではないかと思う程に色素が薄くあえかで―――月明かりの下ひそやかに咲く月見草の様だ」


頬や首筋にかかる熱を帯びた吐息に、美夜は体を崩れ落ちないように支えるのが精一杯だった。


「こ、侯爵様?」


つい先程までその様な素振りはおくびにも出さなかったのに、いきなりこんな事をされて、驚きを隠すなと言う方が無理だ。

炎の熱気をもろに顔に浴びせられた人のように、思わず後ずさりした美夜だったが、焔は決して逃しはせぬと言わんばかりにずいと長靴の足を進め、とうとう壁際に追い詰められてしまった。


「さあ、もっとよく顔を見せておくれ」


慣れた手付きで顎を持ち上げられて、顔を背ける事さえ叶わない。


そうすると、否が応でも焔の目を見ずにはいられない。

瞬きもせずに美夜を直視するこの瞳の奥には、近づくのも恐ろしい灼熱の炎が燃え(たぎ)っている気がした。

一度魅入られたら最後、この炎に骨まで焼き尽くされるのみで、逃れられる人間などいないのではないか。


やはり、畏日そのものだ。

先程必死に振り絞った勇気も、この人に対しては何になろう。


焔は怯える美夜の頬を執拗に撫で回しながら、なおも続ける。


()()を一目見た時から確信していた。お前は、私の……」


「―――美夜!」


最初は、切羽詰まった状況が聞かせた空耳ではないかと思った。

だが、ロイヤルブルーのドレスの裾を惜しげもなく振り乱し、額に玉の様な汗を浮かべて飛び込んできたのは―――紛れも無く怜子だ。


安堵した美夜は、思わず怜子さまと呼びそうになったが、自分の言葉を怜子に遮られた瞬間の焔を見るなり、声が喉に張り付いたようにぴたりと引っ込んでしまった。


彼女の瞳の奥の烈火は、さらに勢いを増してごうごうと渦巻いた。

憤怒(ふんぬ)や、憎悪、殺意―――怜子に対するありとあらゆる負の感情を燃料にして、天を()かんばかりの火柱にまで燃え上がったこの炎ほど恐ろしいものを、美夜は十八年生きてきて見た事がない。


並の人ならば、そんな目を向けられたらまずまともではいられないのではないだろうか。


だが、怜子もそれに負けじと明眸を見張り、焔に真っ向から立ち向かう。

その姿に、美夜は愛日が持ち得る優しさだけでなく、強さも認めない訳にはいかなかった。


二人の愛日と畏日は互いに一歩も譲る事なく、睨み合いは暫時(ざんじ)続いた。


先に口を開いたのは愛日だった。


「美夜から手を離していただけるかしら。野々宮侯爵」


静かでありながらも、その声には有無を言わせぬ響きがあった。


一体焔がどんな態度に出るのか美夜は気が気ではなかったが、やがてその唇がにやりと弧を描く。


「人聞きが悪いな、清小路。私がたまたまここを通りかかった時、この娘が華族の不良日輪の連中に絡まれていたから助けたまでだ。なあ、そうだろう?」


「は……い」


困っていた所を助けられたのは本当の事なのだし、何より同意を求めるように再びその瞳に目を捉えられると、ただ言われた通り頷く事しかできなかった。


「そうか、この娘は貴様の()か。それほどまでに血相を変えるのならば、さぞかし大切なのだろうな。ほら、お返ししよう」


ようやく焔の腕から解放された美夜を、怜子は一も二も無く抱き寄せた。

例え、一度は亡くした我が子を再び黄泉の国で探し当てた親でさえ、ここまで強く抱きはしないだろう。


「良かった。美夜が無事でいてくれて」


「怜子さま……」


きちんとした分別のある方(ゆえ)、普段だったら人目も(はばか)らずに美夜を抱擁するなんて事は有り得ないのだけれど―――


「では、邪魔者はそろそろ消えるとするか。だがな、清小路。本当に大切にしている月ならば、貴様以外何人の目にも触れぬよう、その(まなこ)を一つ残らず潰したらどうだ」


妖しげな笑みと、何やら不穏な言葉を残して―――長靴の音も高らかに、侯爵は立ち去った。




二人きりになっても、怜子は美夜を抱き締めた腕をなかなか緩めようとはせなんだ。


今にも倒れはしないかと思う程冷え切っている怜子の体からは、彼女が好んで使っている香りが漂う。

朝露を宿して花開くのを待つ瑠璃色の花の如き、淑やかさを漂わせつつも、清々しく爽やかな異国のパフューム。


怜子の匂いだと思うとどうしようもなく慕わしく、美夜の好きな香りの一つになっていた。


例え一寸先も分からぬ闇の中で怜子が何も言わずに近寄ってきたとしても、嗚呼、怜子さまがいらっしたと―――すぐに分かるに違いない、それ程までに美夜にとっては朝な夕な慣れ親しんだなつかしい香りだ。

折しもその清香は、霜に覆われたまま立ち枯れようとする花の悲哀に満ちた姿を彷彿(ほうふつ)とさせた。


ようやく手を離すと、怜子の目は朝焼けの光を閉じ込めた水晶の様に潤んでいる。


「心配したのよ……!」


そして、美夜は再び怜子の清香に体中余す事無く包まれた。


「ご心配をお掛けして、申し訳ありません。折角のお誕生日だというのに……」


「何を言うの。私にとっては、美夜がいなくなってしまう方が余程恐ろしいわ。不良日輪の人達に絡まれていたなんて、怖かったでしょう。でも、野々宮侯爵に助けて頂いたのなら良かったわ」


こう言いつつも、怜子はなかなか愁眉を開こうとはしなかった。


「一つ聞いておくのだけれど―――その、何も……されなかった?あの方に」


一度は勢いを失った緩火(ぬるび)がまたもやその火の手を燃え上がらせた様に、侯爵の姿がまざまざと脳裏に蘇る。

日輪としての誇りをそのままに現した勇姿、そして彼女の瞳の奥を埋め尽くしていた、美夜を燃やし尽くさんばかりの激しい熱情の炎も―――


「いいえ、全く。わたしが困っていた所を、通りがかった侯爵様が助けてくだすったんです」


出鱈目を口から吐き出した途端、地獄の業火(インフェルノ)の様な罪悪感が全身を焼く。

だが、例え偽りの証を立てて神の罰を受ける事になろうとも、この世でただ一人、怜子にだけは知られたくなかった。


「ごめんなさいね、こんな事を聞いて。でも、あの方についてあまり良い噂を耳にしないものだから。連日連夜花街に繰り出しては、月影の綺麗所を大勢(はべ)らせているとか……数年前にお父上を亡くされて、妹さんと二人だけの暮らしになってからは特に」


焔にもその様な噂があるとは、と意外の念に打たれた美夜だが、妹という言葉ではっと思い出す。

あの人の妹といえば―――


「まあ、どうしましょう。わたし、あのお嬢様にお飲み物をお持ちするよう(おお)せつかっておりましたのに」


色々な事があり過ぎてすっかり忘れてしまっていたが、そもそもここへやって来たのも、あの美しい侯爵令妹に飲み物を持ってくるようにとの伯爵夫人の言いつけであったのだ。

こんなに遅くなってしまっては、大目玉を食らう事も免れないのではないだろうか。


だが、怜子の聡い頭は美夜の感じている怯えもすぐに見透かしてしまう。


「おたあさまの事なら、心配しなくても良くてよ。美夜が飲み物を取りに行ってすぐ、後はお若いお二人でと珠緒さんと私を残して、よその奥様方の所に世間話をしに行かれてしまったから」


「それでは、急いでお届けに上がります。お嬢様は、さっきと同じ場所に?」


「ええ。美夜が心配で、居ても立っても居られなくて飛び出してきてしまったから、私もお詫びがてら一緒に行ってあげたいんだけどね。この後おもうさまと、お帰りになるお客様方のお見送りをしなければならないの。美夜一人で行けるかしら?」


「平気です。それに、これがわたしの仕事ですもの」


本音を言えば、もう少し怜子の傍にいてまだどこか落ち着かない気持ちを鎮めたかったのだが、自分の事ばかりで彼女の手を煩わせる訳にはいかない。


「人が大勢いるから大丈夫だとは思うけど、気をつけて行くのよ」


ああ、そうそうと別れ際、怜子は小さな秘密の贈り物を内緒で手に握らせるように、そっと美夜に耳打ちした。


「パーティーの後片付けが終わったら、またバルコニーへといらっしゃい。……待っていてよ」




夜も更けてパーティーもお開きに近づくと、客達も徐々に帰る様子を見せ始める。


珠緒がまだそこにいるか気がかりだったが―――果たして彼女は、今宵の為に極彩色の大輪の花々が溢れんばかりに生けられた花瓶の前で、それらが霞んで見える程の華美な姿を誇って立っていた。


「遅かったんですのね」


その声に刺々しいところは全く無く、珠緒はいかにも不思議そうにきょとんとしている。


「申し訳ありません。お酒を切らしていて、厨房まで取りに行かねばならなかったものですから」


まさか、彼女の姉と怜子の間に一悶着あったと説明する訳にもいくまい。


「そう。怜様は?何方(どちら)にいらっしゃるんですの」


「怜子さまは、お客様のお見送りの為に玄関の方にいらっしゃいました。わたしが戻るのが遅くなったばかりに、お嬢様と怜子さまにご迷惑をお掛けしまして……」


「構いませんわ。怜様がお優しい方だというのは、あたくしもよく知っていますもの」


彼女の玉貌(ぎょくほう)には、旧知の人間が持ちうる余裕がありありと満ちていた。


笹紅の跡も匂う唇にグラスを当てる珠緒には、花の蜜を吸うあでやかな揚羽蝶の様に、人の目を惹き付けてならないものがあった。

珠緒は自分を眺めている美夜に気づくと、同じ月影の美夜でさえも恥じらわずにいられない輝かしい笑みを浮かべる。


「あなた、ちょっと此方(こちら)に来てくれませんこと?」


桜貝に似たなよやかな爪の生え揃う珠緒の繊手(せんしゅ)に招かれて、何だろうと首を傾げつつ、美夜は乞われるままに彼女と共に太い柱の陰へと移動した。

人目に付かないその場所では、パーティーの喧騒も遠く離れた空鳴りの様に聞こえてくる。


「お嬢様、一体こちらに何が……」


辻ヶ花染めの振り袖の袂がさっと揺らいだかと思うと、歌留多の札を弾く様な正確さで珠緒の手が美夜の左頬を打つ。

頭の奥でぱっと火花が散り、数秒の後に平手打ちを食らったのだと理解すると、頬に痺れる様な痛みが走る。


珠緒の柳眉の下にある目は、体の内から噴き出す怨念を一点に結晶化させた様に、ギラギラと美夜を睨み据えていた。


「良いこと?怜様の妻になるのは、このあたくしですわ。使用人の分際で、あたくしの怜様に近づこうとすれば―――ただでは済ましませんわよ」


打たれた左頬を押さえたまま、美夜が申し開き一つできないでいると、珠緒はつんと緑の黒髪と茜色の袂を舞わせ、呆然とする美夜をその場に置き去りにしてしまった。


かくして、美夜にとって様々な波乱に満ちた絢爛華麗な夜会は、ついにその幕を閉じたのであった。

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