表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】あなたが、ユリを望むなら。  作者: Ni:
あなたが、ユリを望むなら。3【アフターストーリー】
98/101

ワールド・コミット!(5)

 それからしばらく経った、とある金曜の夜。

 そろそろ梅が咲き始める季節だというのに東京はまだまだ寒く、夕方には雪がチラつくほどだった。


「うぅ……あったかぁ〜、しみるぅ〜」


 真新しいバスタブに貯められたお湯に身を沈め、冷えた体を温める。

 マユさんはシャワー派だから、あまりバスタブを使わない。

 ここのお風呂がやたらと綺麗なのは、そのせいだろう。

 とはいえ、流石に今日ほど寒いと湯船に浸かりたくなるものだ。


 ……と私が説得しての、お風呂である。


 マユさん的には、それでもシャワーがよかったらしい。

 ちなみに、これは私の我儘なので、この後お風呂を洗うのは私の役目。

 好きな人の家のお風呂を洗うというのは、なんだか経験したことのない感情を覚えるな。


 なんというか、奥さん……的な?


 ムフフ。


「この場合、どっちが奥さんなのかよく分からないけど……悪くないですなー」


 などと馬鹿な独り言を呟きながら、大きなバスタオルで体を拭く。

 それからルームウェアを着て、ドライヤーを片手に持ち部屋へと戻る。

 リビングではマユさんがペタンと座って、何かの本を熱心に読んでいた。

 よほど夢中になっていたのか、私が出てきたことに気づいていないようだ。

 せっかくなので足音を立てないようにして、ゆっくりと近づいてみる。

 そして何を読んでいるのか、後ろから覗き見してみた。


 ……って、これ……


「わっ、エッチな漫画読んでる!」

「ひゃっ!」


 マユさんが驚きのあまりビクッと大きく肩を上げ、手に持っていた薄い本を目の前に投げ出した。

 どうやらワールド・コミットで千弥さんから買った、私たちの百合漫画を読んでいたらしい。


「びっくりした、びっくりした、びっくりした!」


 大きく目を見開いて、胸に手を当てるマユさん。


「もぅ……心臓が爆発しそう」

「あはは〜ごめんなさいです。それ、けっこうエグいですよね……エロシーン」

「エグいっていうか……そりゃ想像なんだからしょうがないとは思うけど、現実と違いすぎるというか……」


 マユさんが投げ出した本を拾い、ペラペラと捲る。

 そして、とあるシーンで捲るのを止めて、私に見せてきた。


「こんな、道具なんか使わないっての!」

「あー、確かに使わないですね。漫画だと、よくありますけども」

「……そうなの? まったく、なんてもの描いてるの」

「凄いですよね。細部までしっかり描けてるし……なんか、感じ方とか妙に生々しいし。千弥さん、資料として持ってそうだなー」

「マジか、あいつ」


 マユさんが唇の端をヒクヒクとさせながら、そのページを凝視する。

 よほど気になるのか、私が隣に座ってもジーッと見たままだ。


「マユさん、使ったことあります?」

「あるわけない!」

「ですよねー」


 話しながら髪を拭いていると、マユさんがドライヤーへと手を伸ばした。

 そしてそのまま私の後ろにまわり、ドライヤーを当て始める。

 ちなみにこれは、いつもの流れ。

 こうして私が横に座ると、髪が傷まないように気をつけながら、いつも丁寧に乾かしてくれるのだ。

 好きな人に髪を触られるのって、大変心地がいいものである。

 しばらく目を閉じて堪能していると、マユさんがポツリと聞いてきた。


「え……ユリは、使ったことあるの?」


 恐る恐る聞いてくるのが、妙に可愛らしい。

 なんだか、イニシアティブをとれている気分になってしまう。


「あー、たまたま泊まったラブホに置いてあって、使われたことはありますよ。ただブルブル震えるだけの、シンプルなやつですけど」

「うえぇぇ、まぁじぃでぇぇ?」


 一瞬、マユさんの手が止まる。

 表情は見えないが、たぶん引いてるのだろう。


「……怖くなかったの?」

「入れないやつなので〜。マッサージ器みたいな感じでしたよ」


 しばしの無言。

 マユさんの頭の中で、思考がグルグルしてるっぽい?


「一応聞くけど……気持ちいいの?」

「それはもう、頭おかしくなりそうな……もしかして、興味あるんですか?」


 そしてまた、無言。

 分かりやすいし、そこがまた可愛い。


「買ってみます?」

「やっ、待って……そこまで踏み込むのは、ちょっと怖いかも」

「まぁ〜私はエッチなことは嫌いじゃないですし〜、でも〜こんな物なくても満足なので〜、どっちでも良きですよ〜」


 そう言って振り向き、そのままマユさんに抱きついた。

 そして甘えるように、首筋へ鼻先を擦り付ける。


「うぅ……私の彼女が可愛いすぎるんだがっ!」


 今はマユさんの方が、可愛いのだが?

 でも自覚したら可愛いさが激減してしまいそうなので、黙っておこう。


「というかね……使うことによって、この漫画の通りになるのが、嫌かも」

「あぁ〜。ただの千弥さんの妄想が、本当になっちゃいますしね〜」

「そう。あと、それを矢代が見てるってことが、絶望的にキボヂワルイ……」

「あぁ……たしかに、ゲボ出そうですね」


 とりあえず矢代先輩に対しては、「私たちは、この本の存在を知らない」ってことにしようと決めていた。

 イジられることを、防止するための作戦である。

 そんなことよりも……私は気になることがあった。


「ちなみに、マユさん」

「……なに?」

「これ読んで、エッチな気分になりました?」


 ぷぷぷ。

 マユさんが顔を真っ赤にしながら「なるわけないでしょ!」と返してくる展開を想像してしまい、思わずニヤニヤしてしまう。

 しかしマユさんは、私を後ろから強く抱きしめると……


「なるけど?」


 ……と、耳元に唇を触れさせながら、低めの声で囁いてきた。

 そんな予想外の行動に驚き、逆に私の方が耳の先まで赤くしてしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ