ワールド・コミット!(2)
ぐいぐいと手を引っ張られながエスカレーターを登り、広めのフロアに辿り着く。
そこから視線を泳がせてみると、いくつもの入り口が大きく口を広げて、人の流れを飲み込んでいた。
そこでようやく、この視界に映る全てがイベント会場なのだと理解する。
「人、すご……」
下手したら、有名なテーマパークよりも人がいそうだ。
マユさんは『コミット・カタログ』に載っている地図を見ながら、キョロキョロと頭を振っている。
どの入り口から入ればいいのか、探しているのだろう。
私一人だと、ここから目的のブースに行くことなんて、できないかもしれない。
「あっち」
マユさんが、再び手を引っ張り始める。
らく〜、これらく〜。
思えば私の好みのタイプは、中学くらいの時から『引っ張ってくれる人』だった気がする。
押しに弱いってのは、そういうところから来てるのかもしれない。
「マユさんの、好みのタイプってどんな人でした?」
「へ? なによ、いきなり」
「いや、どうなのかなーって。高校とか、中学の時とか」
「中学ぅ〜? まぁた、随分むかしの話を……」
マユさんが、若干のジト目を向けてくる。
それでも、歩くスピードが落ちるほど、真面目に考えてくれているようだ。
「そーだなー。かわいい子かなー」
「それは、ヴィジュがってことですか?」
「ん〜、それもゼロではないんだけど……なんていうか……反応というか、言動というか、行動というか……」
「フーン。全然わかんないです」
「聞いといてなんだ、その可愛くない反応は!」
極めて塩な返事を返したせいか、ペチペチと頬を叩かれる。
「どうせ私は、可愛くないですよー」
べーっと舌を出すと何故かマユさんが、じっと見つめてきた。
「なんですか?」
「……なんでもないし。さっ、行こっ」
なんかマユさん、頬が赤いような……。
というか、会場に近づくにつれて、暑くなってきている気がする。
外が寒かったせいもあるのだろうけど、肌で感じられるほど熱気が凄い。
ちょっと、上着を脱ぎたくなるほどだ。
入り口を抜けると、中はさらに熱気と喧騒の渦が立ち込めていた。
とてつもなく広い空間に、出店者の机が、数えきれないほど列になって並んでいる。
「わぁ……」
視界いっぱいに広がる机の列に圧倒され、思わず感嘆の声を上げてしまう。
いったい何列あるのか、一番奥がどこなのかすら分からない。
この全てが出店者のブースなのだと考えると、とてもじゃないが全てを見て回るなんてできないだろう。
みんなが足早に動いている理由は、真っ直ぐ目的のブースに向かっているからだ。
出店者と客を含め、とにかく人・人・人である。
「これ、お目当てのブース、見つけられるんですか?」
「あ〜うん。大丈夫、いたわ」
ほらあそこ……とマユさんが、アゴをくいと上げる。
その先には私も見覚えのある人が、ニコニコと笑顔を見せて接客をしていた。




