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【完結済】あなたが、ユリを望むなら。  作者: Ni:
あなたが、ユリを望むなら。3【アフターストーリー】

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バレンタイン・キッス!(2)

「何気に初めて乗るわ、これ」

「実は言うと、私もです」


 横浜エアキャビンはロープウェイとはいうものの、そんなに高くはない。

 それでも汽車道に沿うようにして『横浜ランドマークタワー』から『みなとみらい』まで、空中を移動しながら一望できるのは中々に楽しい。

 都市型ロープウェイって山とはまた違った楽しさがあるので、もっと作ってほしいと思う。

 それにしても……


「なんで隣に座るんですか。こういうのって、向かい合って座りません?」

「進行方向を見たいでしょ? 向かい合うのって、観覧車じゃないの?」

「あぁ……それは、そうかも」


 それにしても、ピッタリとくっついてくる。

 腕も絡ませてくるし……これって、もしかして……


「何ですか、マユさん。キスでもしたいんですか?」

「……なんで、そうなるのよ」

「ひっついてくるし、顔も近いですし。観覧車とか乗るとそういうのしたがる男、いるじゃないですか」

「そういうのと、一緒にしないでほしいわ」


 あっ、ムッとした。

 ちょっとヤキモチも入ってそうで、嬉しかったりする。


「ちなみに私は〜されてないですょ〜?」

「別に妬いてないし」


 妬いてる、妬いてる。

 なんて分かりやすいんだろう。

 素直すぎて可愛い。


「もぅ、冗談ですよ。はいコレ」


 笑いながら、バッグに忍ばせておいた小さな袋を取り出す。


「なにそれ」

「バレンタインです。どうぞ」


 目を丸くしながら受け取るマユさん。


「一応、手作りです。女同士だと、どっちが渡すのか分からなかったんで、とりあえず私から」

「あ……ありがと」


 驚きながらも、大事そうに受け取ってくれた。

 心なしか嬉しそうに見えなくもない。


「え……ごめん。私、用意してない……」

「いいですよ〜。女同士だとこういうイベントって、どうすればいいのか分からないですし」

「ダメだよ。いや、私がダメだ」

「なんですか、そんな顔しないでくださいよ」


 本気で凹んでいるマユさんを見て、思わず吹き出してしまう。

 本当に真面目だなぁ。

 そういうとこも、好きなんだけど。


「バレンタインとか縁がなさすぎて、すっかり忘れてた……」

「ブルームーンPの時は、どうしたんですか?」

「あいつ、チョコアレルギー」

「うわ……なんか、いかにもですね」

「そんなこと、どうでもいい……私、やらかしたぁ」


 めっちゃ、頭抱えてる。

 そこまで落ち込むかなー。


「私なんて手作りで用意したのに、持っていくの忘れたことありますよ」

「それはそれで、ユリっぽいっ」


 あはは、と大ウケするマユさん。

 つられて私も、笑ってしまう。


「ほら着きましたよ。とりあえず、赤レンガ行っときましょー!」

「おっけー。混む前に行っちゃおう」


 私とマユさんは二人で拳を振り上げ、デート開始の狼煙をあげる。

 まずは赤レンガで雑貨やインテリアショップを楽しみ、その後は、大さん橋客船ターミナルのデッキで手を繋いでお散歩。

 さらに山下公園を通って中華街まで歩き、そのまま昼食。

 その後は『みなとみらい線』でクイーンズスクエアまでもどり、ぶらぶらお店を見て、お茶をして、コスモワールドへ。

 一通り絶叫アトラクションを楽しみ、最後に残るは大観覧車のみとなった。

 時間はすでに、午後八時をまわっている。

 夜景を見るには良い時間だと思う。


「観覧車とか久しぶり〜。マユさんは、どうです?」

「久しぶりどころか、いつから乗ってないか分からないレベル……」


 なんだろう。

 観覧車を見上げるマユさんの表情が、心なしか緊張しているようにみえる。


「よし、さっさと乗っちゃおう!」


 急にマユさんが私の手を取り、引っ張り出す。

 一方の私はというと何か違和感を感じながらも、マユさんに黙ってついていくのだった。

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