バレンタイン・キッス!(1)
※時系列にズレが生じましたので、順番を変えました
とある平日の昼下がり。
今日はマユさんと二人で有給をとって、桜木町でデート。
桜木町といえば、言わずと知れた鉄板のデートコースで、観光客も多く、いつも混んでいるイメージがある。
そのため平日の休めた日に行くというのが、私の中でのお決まりだ。
「マユさん、マユさん」
駅からワールドポーターズを結ぶロープウェイを見上げながら、少し前を歩くマユさんを呼び止める。
「乗らないわよ?」
秒でバレた。
「えぇ〜あぁいうのぅ〜、乗りたいじゃないですかぁ〜?」
「ワールドポーターズとか、超近いじゃん。こんな短い距離で、お金払って乗る意味が分かんない」
「移動手段じゃないんですぅ〜。アトラクションなんですぅ〜。シチュエーションなんですぅ〜」
「お上りさんみたいじゃん」
「せっかくのぅ〜デートじゃないですかぁ〜。マユさんとぅ〜乗りたいじゃないですかぁ〜」
「なに、その話し方」
マユさんが額に手をやり、大げさにため息をつく。
お、これは……もしかして?
「もぅ〜、乗ればいいんでしょぅ〜、乗ればぁ〜」
「なんですか、その話し方」
「ひどっ!」
私の口真似をするマユさんをバッサリと切って、その手を取り乗り場へと向かう。
さすがに平日の午前中、すごく空いてる。
マユさんはチケットの金額を見て「たっか、たっか」と連呼しているが、もうここまで来れば乗るしかないはずだ。
「流石に往復は、乗らないからね」
「う〜ん……じゃあ、コスモロック21のセット券にしませんか?」
「なんだっけ、それ」
「観覧車ですよ。大観覧車の名前」
あぁ〜、と気のない返事。
しばらく間をおいて……
「ロープウェイか観覧車の、どっちかだけにしない?」
「セットならお得だし、いいじゃないですかぁ〜」
と、半ば強引に決めてしまう。
マユさんは、押しに弱いのだ。
特に、好きな人の押しに。
ふふふん。
「ほら、さっさと乗りますよぅ〜」
「うぅ〜なんでこんなことにぃ〜」
項垂れるマユさんの手を握り、私はロープウェイの乗り場へと引っ張るのだ。




