コウハビティング!(6)
「あ、おはようございます……」
「ん〜……あけましておめでとう。今年もよろしく〜」
「あ……あけおめです。よろしくです」
私とマユさんが迎えた、初めての元旦の朝。
ゆっくりと体を起こして、マユさんの方へと視線を移す。
大きな窓から入ってくる冬の浅い日差しが、マユさんの白い肌を照らしていた。
真冬だというのに、二人とも真っ裸だ。
「マユさん、マユさん」
マユさんはまだ眠いのか、「ん〜?」と目を閉じたまま唸って返してきた。
ちなみに私は、頭が痛い。
明らかに飲み過ぎだ。
「昨日のこと覚えてます?」
やはり、「ん〜」とだけ返してくるマユさん。
「私、東西歌バトルの最後の方から記憶ないんですが……」
そうなのだ。
年越しまでの記憶がないのだ。
この「あけましておめでとう」の挨拶も、二回目なのかもしれないのだ。
年越し朝チュンなのだ。
「ん〜、私も年越したのは覚えてないよ〜。うっすら導入部分は、覚えてるけど……」
「導入て……」
……ってことは、したのか。
今回は初の、ちゃんとした朝チュンのようだ。
「ゴチソウサマデース」
「どっちかというと、私が襲ったんだけどね」
うつ伏せになって枕を抱き寄せながら、左目だけこちらに向けて笑みを見せる。
妖艶な大人女性のエロ微笑、ゴチソウサマデース。
「シャワー浴びてきていいですか?」
「お先にどーぞー」
とりあえず眼鏡と共に、バスルームへと向かう。
部屋は暖房をつけたままだったようで、暖かい。
シャワーを浴びながらも、昨日のことを思い出そうとする。
できれば年越しした瞬間に乾杯とかしたかったんだけど、その時間はきっと致していたのだろう。
まぁ、これはこれでいいなと思ってしまう。
バスルームから出て髪を乾かしていると、マユさんがシャワーを浴びに入ってきた。
ものすごい眠そうな顔で、ふらふらと入っていく様が可愛く見えてしまう。
リビングに行くと、すでに珈琲メーカーがコポコポと音を鳴らしながら、白い蒸気を出し始めていた。
私はテーブルや床に置かれた、空き缶や空き瓶を手早く拾い、ゴミをまとめた。
マユさんが出てくるまでに綺麗にしたい、と何故か強く思ってしまったのだ。
驚かせたいのと、褒められたいという、まるで子供のような発想だと思う。
おせちはかなり減っていたので、それもひとつのお重にまとめていく。
我ながら「この短時間で、綺麗な朝の食卓をつくれたぞ」と、仁王立ちで部屋を眺めてしまう。
そんな満足気に頷く私を、マユさんが後ろから抱きしめてきた。
「真っ裸で何してんのよ、アンタは」
「あぁ、片付けるの急ぎすぎて、着るの忘れてました」
「もー、ムラムラすんじゃん」
「ムラムラて……」
今のマユさんの濡れ髪エロ微笑の方が、よっぽどムラムラしますけど?
そういえばマユさんとこういう関係になってから、相手が女性でもそういった感情を持つんだなぁと知ったものだ。
色々と初めてのことが多くて、新鮮である。
「豆乳ラテでいい?」
「はいです。それより、褒めてください」
「はいはい、部屋綺麗にしてありがとねー」
「うへへ」
「ベッドの上にある、アンタの脱がされっぱなしの下着も片付けましょうねー」
「うへぇ……」
しまった。
ベッドの上までは、意識がいってなかった。
というか、さすがに部屋着になろう。
その間にマユさんが、洗った小皿や箸なども用意をしてくれた。
二人並んで座り、豆乳ラテが入ったマグカップを握ると、黙って顔を見合わせる。
そして……
『かんぱーい』
どちらからともなく二次会がスタートしたかのように、マグカップをぶつけ合った。
それがあまりに可笑しく、お互いに涙が出るほど笑ってしまう。
「あ〜おもしろ。今年もよろしくね、ユリ」
「私こそ、今年もよろしくお願いします、マユさん」
マユさんも笑いながら指で涙を軽く拭い、そのまま唇を重ねてきた。
その不意打ちに、少し体がフワッと浮き上がるような感覚が生まれる。
一瞬で頭の中が真っ白になり、頬が朝焼けのように赤く染まる。
「同棲っぽくて、いいね〜」
嬉しそうに笑うマユさんが、愛おしい。
「いつか、するんですかね?」
「そうだね。するじゃない? ユリが嫌じゃなければ」
「嫌じゃないですよ」
甘えるように、もたれかかる。
今はまだ、付き合いたてのフワフワとした関係だ。
この関係がもう少し落ち着いてきて、もっとしっかりとした愛情に変わっていく頃には、きっとそうなるんだろう。
私とマユさんは、なんとなくお互いに、そう感じていたのだ。




