コウハビティング!(3)
「ユリは、おせちの中で何が好き?」
タブレットでおせちの情報を集めていたマユさんが、ベッドに寝転がりながら聞いてくる。
一方の私は、お重に詰めるリストを書き出しているところだ。
「伊達巻です」
「あー。他は?」
「丹波の黒豆です」
「おー。他は?」
「栗きんとんです」
「甘いのばっかじゃん!」
マユさんが思わず起き上がって、ツッコミを入れてくる。
言われてみれば、確かにそうだ。
「だって田作りとか、なますとか、そんなに好きじゃないですし。煮物は好きですけど、そこまでして食べたいって感じじゃないですし」
「この〜子供舌め。それでよく、おせち作るとか言うな〜」
「だからそこは、好きなものを詰めるんですって。お酒のツマミでも、いいんですよ」
「えぇ、ナッツとかってこと?」
「そこまで手抜きじゃなくて……テリーヌとか、ローストビーフとか、アヒージョとか、洋風でもいいんで、好きなものを贅沢にちょっとずつ、みたいな」
そこでようやく「あーそういうこと」と、マユさんが納得する。
ようやく私の思い描いていたおせちが、伝わったらしい。
マユさんはしばらく天井を見上げ、やがて軽く首を傾げながら聞いてきた。
「伊勢國屋とか紀ノ丹で高級惣菜を買った方が、贅沢だし良いんじゃない?」
「なんてこと言うんですか。アレを私たちで、作るんですよ!」
「絶対、買った方が美味しいのに……」
「そんな“手作りを所望する面倒くさい彼氏”みたいに言わないでくださいよ。二人で作ることに意味があるんですって」
「あー、はいはい。じゃぁ、はいこれ」
マユさんが頭を掻きながら、端末を渡してくる。
「なんですか?」
受け取って覗き込んでみると、美味しそうな洋風おせちが表示されていた。
「銀座ローエンハイマーの洋風おせち。それ参考にして再現してみる?」
「いいですね、美味しそう!」
大袈裟に喜ぶ私をみて、マユさんもつられて笑みをこぼす。
こうしているだけで、楽しいのだ。
その後は二人でメニューを決めて、レシピを調べ、必要な食材を買い出しに行った。
それから料理を作り始め、完全に終わったのは二日後の大晦日だった。




