コウハビティング!(1)
「マユさんは、冬休み中どうするんですか?」
忘年会の帰り道、冷たい夜の空気に耐えかねた私は、隣を歩くマユさんの手を握ってみた。
マユさんは、私の手ごと自分のコートの中に引き入れると、ん〜と唸って返す。
今日は仕事納めの日、つまり明日から冬休みだ。
それなのに私とマユさんは、冬休みをどう過ごすのか全く決めていなかった。
年末は仕事が盛りだくさんだったし、例のクリスマスもあったし、年末年始をどう過ごすかまでは考えてられなかったのだ。
「ユリは? 実家に帰らないの?」
「今年はぁ〜、帰らないつもりです。新幹線も混みますし」
「あぁ、静岡だっけ?」
「ですです。マユさんは、帰るんですか?」
「ん〜どうしよっかなぁ〜」
マユさんが、月を見上げながら考え始める。
たしかマユさんの実家って、都内だったはずだけど。
「電話だけにしよっかな〜」
「帰らないんですか?」
「ん〜今年はね〜」
ほほぅ〜なるほど、なるほど。
これはこれは……もしかして私たち、不毛な探り合いをしてる?
「なにか予定は、あるんですか?」
「特にないけど……っていうか、ユリはどうなの?」
「私はぁ〜マユさん次第でぇ〜す」
「ズッル。私も、ユリ次第なんだけど?」
「じゃあ、マユさんちに入り浸ってもいいですか?」
「いーよー」
「やったぁ! 年越しプチ同棲だ!」
「年越し……同棲?」
マユさんが少し驚いた表情を浮かべて、目をしばたたかせた。
いまいち私の言いたいことが、伝わっていなかったらしい。
「入り浸るっていうのは、明日から仕事始めまでって意味ですよ?」
「うえっ、そういう意味だったの?」
「ダメですか?」
「いや、全然いいけど……」
「さすがに嫌です?」
「ううん、全然嫌じゃないよ。ただ、ずっと一緒ってのは私も初めてで、ビックリしただけ……」
そこでマユさんが、いったん言葉を区切る。
どうやら、また考えているようだ。
ちなみに私も、恋人と年末年始をずっと一緒に過ごすとか、したことがない。
それも、相手の部屋に長期連泊となると初めての経験だ。
マユさんもそんな経験がないらしく、どんなだか想像しているように見えた。
しばらく黙って待っていると、マユさんがポツリと呟いた。
「今日から来ればいいんじゃない?」
「いいんですか?」
「今日も明日も一緒でしょ? ユリの着替えも、いくつか置いたままになってるし」
「んと……じゃあ、ちょっと着替え買い足していいですか?」
「オッケー。ついでに、なんか食べ物でも買って帰ろう」
そう言って、握った手をブンブンと振るマユさん。
たぶん無意識で、やっているのだろう。
そんなマユさんを見て、私も思わず頬が緩むのだ。




