クリスマス・バトルロイヤル!(6)
タクシーが日の出桟橋に着く頃には、すっかり日も暮れてしまっていた。
「日の出桟橋なのに日暮れ……」
「え?」
「あ、いや、なんでもないです!」
あまりの状況に脳が死んでしまい、意味不明なことを呟いてしまった。
さすがにタクシーで隣に座られては、スマホも見れない。
そのため、あれからマユさんがどうしたのか、分からないままなのだ。
「あの……私、ちょっとお手洗いに」
「うん。俺は、乗船手続きをしてくるよ」
笑顔の矢代さんに頭を下げると、私はバタバタと走ってトイレに駆け込んだ。
そして直ぐに、スマホを確認する。
マユさんから返信は……来てる!
えっと……なにこれ?
マユさんのメッセージは、いたって短い。
『ゔぇすp』
これだけだ。
うーん……打ってる途中に送ってきたんだろうけど……よっぽど、急いでた?
でも電車だろうが車だろうが、移動中にメッセージくらいは打てそうだし。
何かあったのかな……と、少し心配になる。
それにしても『ゔぇすp』ってなに?
駄目、分かるわけがない。
それに今は、私の方が問題だ。
ここから逃げ出すわけにもいかないし、この後は矢代さんと船に乗るしかない。
とりあえず食事をして、持ち帰りされなければいいんだけだ。
大丈夫!
今までだって、記憶を失くすほど呑んだり……
してるな。
でも、酔って朝ちゅんとか!
……してるな、二回も。
いや、その教訓をいかせば、今度は大丈夫!
「むぉぉぉぉっ! がんばれ、私っ!」
鏡の前で、気合いを入れ直す。
トイレから出ると、待合スペースで矢代さんが軽く手を上げてきた。
うわぁ、今更だけど……これ、完全にデートじゃん。
「もう乗船できるって。行く?」
「はい!」
笑顔で元気に返事。
最初の作戦では、お店に着いた時点でマユさんが偶然を装って現れ、矢代さんに気まずい思いをさせまくって、会社の人と女遊びをすることのリスクを思い知らせる、というものだったんだけど。
こうなったら食事は普通にして、すぐに帰るしかなさそうだ。
今後のこともあるし、それなりの対応をしておこう。
「おぉ、思ってたよりデカい船だなー」
「わぁ、すごっ!」
目の前に現れたのは、四階建てくらいある真っ白なクルーズ船。
夜の港と共に船もライトアップされていて、とても綺麗。
しきりに感動しながら金属製のタラップを渡り船内に入ると、クルーの方が上品な挨拶で迎えてくれた。
そしていきなり目の前に現れたのは、軽くカーブをした豪華な造りの登り階段だ。
「やばい、楽しくなってきたな」
「こんなの、初めてです」
「俺も俺も!」
興奮気味に答える矢代さん。
くっそー、喜び方が可愛いな。
天然か?
それにしても、初めてとか本当かな……と、思わず疑ってしまう。
デートコースとか、使い回してそうだし。
まーでも、私のために結構なお金を使ってくれてるし、感謝はしないと、かな。
「俺たちは、上の階だな」
「そうなんですね。下もあるんですか?」
「下の階はバイキング、この階はコース料理のレストラン。上の階は更にグレードの高い料理と大きな窓で景色が楽しめるレストランがあって、あとはパーティー用の個室とラウンジもあるのかな。上の階は少し高めで、そこを予約した人しか入れないフロアなんだ」
「え……そんなところを、予約したんですか?」
「せっかくなら、人が少ない静かなところで食べたいしね。屋上のデッキは、誰でも出れるけど。あ、もちろんお金はいいよ」
ははは、と笑う矢代さん。
ふつーにイケメン。
遊び相手だとしても、この待遇ならアリだと考える女の子も多そう。
「んじゃぁ、デートスタートってことで」
「はい」
私はマユさんに対し少し後ろめたい思いをしながら、矢代さんについて行った。




